権力者が毒殺を防ぐために銀食器を使ったのは本当か

貴族が銀食器を好んで使う理由として、毒殺を防ぐためと書かれた本やウェブサイトを見かけますが本当なのでしょうか?
少し調べてみると欧米ではメジャーな雑学ではないようです。どうやら中国か韓国の王朝にその由来がありそうでした。
韓国でステンレス製の箸や器が好まれる理由として、上流階級が銀食器を使ったからとも書かれているのですが、これも本当なのでしょうか?
韓国の上流階級が銀食器を好んで使ったとが、その理由が毒殺を防ぐためという、確からしいソースが見当たりません。

疑問に思って調べてみたら、銀とヒ素の関係、世界史における銀の流通、ヨーロッパにおける食器の歴史に、中国の宮廷料理、韓国における塩不足に、銅やステンレスを含む金属の歴史などなどなど、とんでもない沼にはまってしまいました。

ちなみに、今回調べた内容はほぼウェブからの情報なので、不確かな点も多いです。確証を得るには、様々文献を調べ、専門家の意見を頂きたいところですが、そこまでやると本か何かを出版できるのでは?という気が・・・・・・。

ヨーロッパではメジャーな雑学ではない

Wikipedia の「銀食器」や「カトラリー」の英語版を読んでも、権力者が毒殺を防ぐために銀食器を使ったとは書かれていません。多分、適当な出典がないのでしょう。
日本語版の「銀食器」には、毒殺避けのために銀食器が使われたとありますが、出典は薬学*1や化学*2に関する文献で、ヨーロッパの歴史や食器に関する文献でありません。恐らく、銀の性質を説明するコラムかなにかに、銀食器を使ったとでも書かれているのでしょう。

英語版には、ヨーロッパの上流階級において、豊かな有力者は銀食器を用い、そうでない場合はスズの合金で銀色のしろめを用いていたとはありますが、毒殺避けの記述はありません。銀が好まれたのは、その輝きもさることながら、酸化しにくいからでしょう。もしくは、魔除け的な意味合いもありそうです。

ヨーロッパにおいて、食事の際にナイフやフォークなどのカトラリーを用いるのがマナーとなったのも、16世紀以降だと考えられます。スプーンは古くから使われていましたが、フォークがヨーロッパの貴族で使われ始めたのが16世紀以降だと考えられているからです。カトラリーによるマナーが成立したのは、その後の17世紀や18世紀頃でしょう。

英語で銀食器が使われる理由を検索しても、「毒殺避け」はあまりヒットしません。Quora にある Is it true that the Chinese Emperor used silver chopsticks so that he could detect poison in his food, and what poison is that? - Quora という質問のように、中国の皇帝が毒殺を避けるために銀食器を使った雑学は知られているようです。

あるいは、The Right Chemistry: Arsenic, 'king of poisons' and 'poison of kings' | Montreal Gazette では Korean kingdom of Bakeje (百済)が銀の箸を使ったなどと書かれています。

どうやら、毒殺を避けるために銀を使う由来は、中国や韓国(朝鮮半島)にあるようです。

ヒ素は銀を黒くしない

なぜ、銀食器を使えば毒を避けられるのでしょうか。多くの本やウェブサイトでは「ヒ素が銀を黒くする」からと説明されますが、実はヒ素は銀を黒くしません。

ヒ素毒に不純物として含まれる「硫黄」が銀を黒くしているのです。つまり、銀が硫黄と結びつき硫化銀になるため、黒ずんでしまうのです。なぜ、ヒ素毒には硫黄が含まれるのでしょうか?

ヒ素は古くから毒物として用いられていきました。純粋なヒ素でも中毒になりますが、毒として用いられるのはヒ素酸化物が多いようです。その中でも、三酸化二ヒ素は毒性が高く、硫砒鉄鉱から簡単に得られます。江戸時代頃には殺鼠剤として使われたいたようです。硫砒鉄鉱はその名の通り、硫黄分を含みます。つまり、この硫黄分が銀を黒くするのです。現代の三酸化二ヒ素は純度が高く硫黄を含まないため、銀を黒くしません。

また、銀は硫黄で黒くなるため、卵の黄身でも黒くなります。

青酸カリは銀の黒ずみをとるが・・・・・・

銀と反応する毒物として青酸カリがあります。シアン化物である青酸カリはめっきに使われますが、硫化銀と反応として、水に溶ける化合物に変化します。つまり、青酸カリで銀の黒ずみを取り除けます。

ただし、上流階級において銀食器は光沢を保つために常に磨かれていたはずです。そのため、青酸カリによって銀の黒ずみが無くなる機会はないように思われます。
シアン化カリウム - Wikipedia

清王朝では毒見役が銀の箸を使った

清王朝では毒見役が銀の箸を使っていたようです。

宮廷で御宴が行われる場合,「尚覚禄」と呼ばれる官吏が,皇帝が箸をつける前に,全ての料理を銀製のお箸で安全無毒かどうか試す.

引用元:立命館学術成果リポジトリ

皇帝に供されている料理は、何人もの厳重な検査を経ているが、さらに「賞膳」といって太監にその一部を試食させ、毒物の有無を試みさせた。銀の箸や象牙の箸の使用も毒物を発見するためであった。

引用元:東京家政大学機関リポジトリ より

気になるのは、象牙の箸も使っていたとの記述。毒を見つけるためなら、手段を選ばないように感じます。
食事に盛られる毒はヒ素に限りません。青酸カリに、トリカブトなどのアルカロイド、毒きのこやフグ毒に、ヘビの毒などなど、色々な毒があります。銀は、硫黄を不純物として含むヒ素毒の黒ずむので毒を検知できますが、純粋なヒ素では変化しません。シアン化物に反応する可能性もありますが、それ以外の毒の前には無力です。
銀は毒を検知するひとつの指標にはなりえますが、万能ではありません。先に述べたように、銀は卵黄でも黒くなる可能性があります。

https://kknews.cc/history/3j263v3.html によると、毒見薬には毒の知識が求められたようです。死ぬ可能性があるため、必死にもなるでしょう。恐らく、硫黄により銀が黒くなること、そのため卵黄でもそれが起こることを知っていたのではないでしょうか。
清王朝西太后が毒見のために用いた銀は純度の高い鉱山のものが用いられたようです。しかも、使い捨てとも書かれており、権力と財力のなせる業です。

この一連の毒見のプロセスは、権力による毒殺への抑止力として働いてたようにも思われます。毒見という儀礼。銀の他に象牙が使われたのも、その理由のひとつでしょう。銀は毒を検知する可能性はありますが、それ以上に銀の威光や価値に意味のある儀礼。絶大な権力を有するからこそできる儀礼ですが、裏を返せばそれだけ敵が多かったということでもあります。

薬屋のひとりごと」も、このような背景を下地にしているのでしょう。この「薬屋のひとりごと」は漫画版が、月刊ビッグガンガン月刊サンデーGXと二誌でそれぞれ連載されている、変な作品です。ガンガン版の一巻を買って、サンデー版の二巻を買うなどの事故が発生します。
小説版の出版も、主婦の友社による「Ray Books」レーベルから「ヒーロー文庫」に移っているの、紆余曲折のある小説ですね。

清王朝が毒見のために銀食器を使っていたのは、間違いなさそうですが、清以前の王朝でも同様なことがなされていたのかは分かりませんでした。

中国における銀の流通

金、銀、銅は古代から世界中で貨幣として使われてきました。ただし、どれが広く流通するかは領土内に存在する鉱山によります。中国では日常的には銅貨が使われ、高額となる納税や貿易では紙幣や銀が使われていました。
交易で広く銀が使われたのは、銅よりも価値があるとされ総重量が減るからでしょう。世界的にも、銀は交易で広く流通していました。ドルの名前やドル記号$も銀に由来しています。

中国では古代から日常的に銅貨が使われていることもあり、権力者は銅不足に悩まされていました。銅山の確保が権力を盤石にするといっても過言ではありません。
宋の頃に紙幣が使われ始めます。特に南宋では銅貨の流通が減ったため、紙幣の発行が増加しました。銀は主に交易用に用いられていたようです。
元では国土が広くイスラムや西洋とも交流が盛んだったため、銀が広く流通しました。その結果、中国の銀がイスラム世界からヨーロッパへと渡ります。結果的にユーラシア大陸の各地で銀の過不足が発生しました。
明でも銀が普及していたようですが、その多くは日本からの輸入でした。石見銀山の銀が日本から輸出されたようです。明の後期から清にかけては、新世界から銀がもたらされます。16世紀以降は、スペインにより中南米産の銀が世界中に流通しました。恐らく、ヨーロッパの上流階級が銀の食器を使うようになったは、これ以降でしょう。
この点からしても、清が毒見のために銀の箸を使っていたのは間違いないでしょう。逆に、それ以前に銀が使われていたかは怪しいように思われます。

韓国はなぜステンレス製の箸を使うのか

西太后が自身の食事の際にも銀の箸を使っていたかは不明ですが、現在の中国では日本同様に竹製や木製の箸が使われています。しかし、韓国ではステンレス製の箸が好んで使われます。スプーンや器もステンレス製です。箸は中国の文化圏で使われ、ベトナムなどでも使われていますがステンレス製が好まれるのは韓国だけです。

器に関しては、韓国は中国や日本と同様に陶器が有名な国であり、輸出もしていました。しかし、なぜ陶器よりもステンレス製の器が人気なのでしょうか?
その理由として「上流階級が銀製の箸や食器を使ったから」とされる記事が散見されます。そして上流階級が銀製の箸を好んだ理由が、またしても「毒を発見するため」です。
これまでの調査から、朝鮮半島の王朝が毒見のために銀の箸を使った可能性は薄いと考えられます。また、同様に上流階級が銀の食器を使っていた可能性もなさそうです。

箸とスプーンの関係

箸の歴史は古く、殷の頃にも見つかっていますが、当初は食事用ではなく調理器具だったと考えられています。漢の頃には、熱い汁物を食べる際に箸が使われていたようですが、箸で具材を挟んで食べるようになったのは明の頃からと考えられています。
日本には5世紀頃に仏教共に百済から箸が伝来したとされ、平安時代頃には広く使われていたようです。割り箸が登場したのは江戸時代で、その頃には現代と同じように、具材を掴んだり、そばをたぐるのに使われていたのでしょう。

朝鮮半島には、日本以前に伝わっていました。古代においては青銅製の箸や匙が使われていたようです。中国でも南北朝までは青銅製が使われていましたが、次第に使われなくなりました。

朝鮮半島では青銅製の箸が好んで使われ、時代が下ると真鍮製の箸も使われるようになります。

https://namu.wiki/w/%EC%A0%93%EA%B0%80%EB%9D%BD において、朝鮮半島において箸が普及したのはいつ頃かが議論されています。その中にチゲなどの汁物はスプーンで食べるのが自然で、箸が庶民に普及したのは18世紀頃ではないかとの意見がありました。

特に面白いなと思った指摘は、スプーンは韓国語で「숟가락」で語源は「술 (酒)」と「가락(細長い棒状の者)」と韓国固有の言葉だが、「箸」は中国語由来であるという点。
韓国料理ではスプーンと箸がセットなので、スプーンが古くから使われてきたのは間違いないように思われます。

森林の荒廃

中国でも韓国同様にスプーンが使われます。それ故に、南北朝までは箸もスプーンと同じ素材の青銅製が好んで使われたのでしょう。しかし、中国の銅は重金属を多く含んだため使われなくなり、韓国はそうではなかったため引き続き青銅製の箸が使われたと 箸 - Wikipedia にはありますが、これは要検証。
朝鮮民主主義人民共和国の鉱業 - Wikipedia によると、朝鮮半島の北部は鉱物資源が豊かであるものの、李氏朝鮮の4代国王である世宗は鉱山の開発には積極的ではなかったそうです。この点から、朝鮮半島の上流階級が食事の際に銀製の食器を使ったとするのは疑問です。

森の話 朝鮮半島 などでは、李氏朝鮮時代から森林が荒廃したともあります。水田を広げるためだったとされますが、結果として様々な弊害があったようです。

そのひとつが塩不足です。朝鮮半島においては海水から塩を得るのが手っ取り早いでしょう。海水から塩を得る方法として、海水を煮詰める方法と、天日干しにする天日製塩法とがあります。前者は薪などの燃料が必要ですが、後者は必要ありません。しかし、天日製塩法では広い塩田が必要です。また、降雨量の多い地域にも向きません。両方の点で、天日製塩法は日本と朝鮮半島では不向きです。日本にも塩田があり、天日を利用して海水を蒸発させますが、最終的には煮詰めています。

朝鮮半島では森林の荒廃により薪が不足していたため、塩も不足していたようです。また、朝鮮半島で製塩が下火になった背景として、中国から塩が大量に流入していたことも上げられます。中国なら、天日製塩法により安価に塩を精製できるからです。

韓国のキムチに唐辛子が入っているのは、塩不足が背景にあったと考えられています。元々は塩漬けだったようですが、唐辛子にとって変わられました。唐辛子を用いれば味付けの塩も減らせます。
唐辛子は、秀吉の朝鮮出兵の頃に朝鮮半島へ伝わったとされます。唐辛子の原産は中南米で、大航海時代にヨーロッパから日本に伝わり、それが朝鮮半島や中国に伝わったと考えられています。「唐辛子」の「唐」は中国ではなく、「海外」という意味でしょう。

さて、ここからは私の推測ですが、森林が荒廃していたとすると、塩不足の他に陶器の製造や鋳金もままならなかったでしょう。実際、陶器は高級品が中心で大量生産はされていなかったようです。
世宗が鉱山の開発に消極的だったのは、中国などから鉱物を要求されるのを回避するためにとの説がありますが、燃料不足のため精製や加工がままならなかった可能性も考えられます。
朝鮮半島は冬の寒さが厳しく、薪は煮炊きとともに暖房に必須です。煮炊き用の釜戸と床暖房が合わさったオンドルが発展したのも冬の寒さのためでしょう。

戦後に普及したステンレス製

朝鮮半島では、森林荒廃による薪不足で、金属加工がままならなかったと考えると、青銅製や真鍮製のの箸や匙は高級品だったのでしょう。つまり、「朝鮮半島では上流階級が金属製の食器を使っていた」のはあり得そうです。ただ、銀製とは考えにくいです。

韓国でいつからステンレス製の食器が使われ始めたのかを調べていたら、韓国人がステンレス製の箸を使う理由とは?庶民の夢・毒殺防止。 | ゆかしき世界 に気になる記述がありました。韓国人である呉善花さんによる「ワサビの日本人と唐辛子の韓国人」からの引用で、韓国でステンレス製の食器が広まったのは1970年代以降とあるのです。
幸いにも、Kindle Unlimited で直ぐに読めました。以下に該当部分を引用します。

現在の韓国でステンレス製の食器が一般の間に使われるようになったのは、二十数年前からのことである。
それ以前、庶民は白色の磁器を、上流階層では銅製の食器を使用するのが普通だった。銅製の食器は磨くとキラキラと金のように輝いて、庶民にとっては憧れの的であった。
戦後、生活が豊かになるにしたがって、銅製の食器は庶民の手にも入るようになったが、銅器というのはすぐに錆びてしまうから、磨くのに手間がかかるのが玉にきずだった。
そこで、ステンレス製の食器が市場に出るようになると、磨かなくても常時キラキラ輝いているということで、アッという間に韓国全土に普及していったのである。

本書は、呉善花さんのコラムを再録したもので、引用部分は1994年に発表されています。つまり、「二十数年前」とは大体1970年頃と考えられます。また、ここでの「戦後」は日本語で書かれているため第二次世界大戦後(1945年)の可能性もありますが、朝鮮戦争後(1953年)と考えた方がいいのかもしれません。
戦後に庶民を銅製の食器を使うようになったが、それがステンレス製に置き換わったと考えるのは自然に思えます。恐らく、スプーンや箸がステンレス製になったのもその頃でしょう。
年代的にもステンレスが大量生産されるようになった時期と一致します。

ステンレスは1910年代に工業的に実用化され始め、1940年代までに様々な改良がなされて行きながら利用が拡大していきます。耐食性の高さから航空機や鉄道の車両、建造物などに利用され始めます。
1950年代以降は欧米では大量に生産できるようになります。日本では、1965年以降に生産量が急増しています。恐らく、韓国のステンレスも日本で製造されたものでしょう。
アルミニウムの箸もあるようですが、アルミニウムの生産量が増えるのはステンレスよりも少し後なため、最初に普及したのはステンレス製でしょう。また、アルミニウムは傷が付きやすく耐食性を高めるためにアルマイトにすると、キラキラした金属光沢が失われる点も、ステンレスに劣ります。

長い長いまとめ

銀はヒ素と反応し黒くなるため、毒の判別に使われたとよく言われるが、銀を黒くするのは、ヒ素ではなくヒ素毒に含まれる硫黄分。硫化銀が銀の黒ずみのもと。硫砒鉄鉱などから、三酸化二ヒ素などのヒ素毒を精製する際に、硫黄を取り除けなかったから。硫黄を含む卵黄でも銀は黒くなり得る。三酸化二ヒ素は16世紀頃には殺鼠剤として、庶民にも使われていた。
シアン化物である青酸カリは、銀の黒ずみである硫化銀を取り除く。つまり、銀は青酸カリの判別にも使えるが、有力者の銀は磨かれて金ぴかだっただろうから、青酸カリと反応する可能性は低いだろう。

毒殺を防ぐために銀の箸や食器を使っていたのは、清王朝。ただし、銀は硫黄分を含むヒ素毒にしか反応しない。銀は毒見における、ひとつの指針にすぎない。また、料理に毒を入れさせないための儀式的な意味合いも強かったと考えられる。
ヨーロッパの上流階級も銀食器を使ったが、毒見のためではない。ヨーロッパにおいて、スプーンは昔から使われていたが、フォークが使われだしたのは16世紀頃。ナイフとフォークのマナーが成立したのはそれ以降だと考えられる。

中国では、もっぱら銅銭や鉄銭が用いられ、銀は主に交易で用いられた。世界的にも、銀は古くから交易での取引で用いられた。銅より価値があり、金よりは稀少でなかったからだろう。
スペインが中南米を支配したことで、中南米産の銀が世界中に出回った。清王朝も銀を輸入している。ヨーロッパの上流階級で銀食器が使われ出したのも、同じ時期と思われる。

韓国でステンレス製の箸や食器が好んで使われるのは、上流階級が銀を使っていたのに憧れてという説がある。銀を好んで使ったのは毒見のためともあるが、朝鮮半島の王朝が銀を毒見のために使ったかは不明。可能性としては低いと考えられる。
朝鮮半島は鉱物資源が豊かであるものの、李氏朝鮮は鉱山開発に消極的であった。理由は不明だが、同時期に森林の荒廃が進んでいたようで、そのため塩が不足していた。海水から塩を得るには、煮詰めるための薪が不可欠なため。大規模な塩田が作れず、雨も多いことから、天日製塩法での製塩は困難。天日で塩の濃度を高めることはできるが、塩の結晶を得るには煮詰める必要があった。
塩不足のために、唐辛子が好んで使われたとされる。唐辛子の辛さにより少ない塩でも味付けが可能。キムチのような保存食にも利用できる。
韓国では古くから青銅や真鍮製の箸やスプーンが使われていた。森林の荒廃により、鋳金もままならなかったと考えられるため、金属製の食器は上流階級のみが使っていたと推測される。
韓国で金属製の食器が人気なのは、上流階級が使っていたから、との説は恐らく正しい。ただし、銀ではなく銅製である。
事実、朝鮮戦争後に豊かになると韓国では庶民も銅製の食器を使うようになる。しかし、銅製は手入れが面倒であった。1950年から1960年代に欧米ではステンレスが大量に生産されていた。東アジアでは1965年頃から日本の生産量が急増した。その結果、1970年代頃に韓国の食器は手入れが面倒な銅製からステンレス製に置き換わっていった。

最後に短めに

毒見のために銀製の箸を使っていたのは清王朝。ヨーロッパの貴族が銀製のカトラリーを好んで使ったのは、毒見のためではない。
そもそも、ヒ素で銀は黒くならない。ヒ素毒に含まれた硫黄が銀を黒くする。
韓国でステンレス製の食器が使われるのは、朝鮮半島の王侯貴族が金属製の食器を使っていたことへの憧れ。ただし、主に使っていたのは銅であり銀ではない。ステンレス製が広まったのは日本でステンレスが生産されるようになった1970年代以降と考えられる。

恐らく、清王朝、特に西太后が毒殺を防ぐために銀の箸や器を使ったことのインパクトが強すぎて、それが他の事柄と結びついてしまったのでしょう。西洋で銀製のカトラリーが使われた理由に毒見説を上げるのも、日本語ではみかけますが、英語では一般的ではないようです。

*1:図解入門業界研究最新調剤薬局の動向とカラクリがよーくわかる本

*2:図解入門最新金属の基本がわかる事典