書いたな、俺の目の前でマンガのサブスクリプションの話を!

漫画村はマンガビジネスが上手くいきすぎているからこそ出てきた犯罪者なんだぞ|竹村響 Hibiki Takemura|note

マンガのサブスクリプションについて言及があったので、出版関係者ではないがずっと電子書籍を追ってきた消費者としてコメントしたい。

パックンさんが指摘する「マンガのサブスク」とは、音楽や動画配信のように人気作品がいつでも好きなときに読める、消費者にとって理想的なサービスであろう。

現在も、出版社や電子書籍配信サービスによる読み放題サブスクは存在するものの、このような理想的な形態とは言いがたい。

その理由は、note の執筆者であり元竹書房の竹村響さんが指摘するような市場規模の問題であったり、あるいは単行本の売り上げが大きかったりと、出版社の売り上げに起因する。人気作品の単行本が売れる現状では、消費者の理想とする「マンガのサブスク」を提供する理由が出版社にはない。

無料マンガアプリの縦と横 - 最終防衛ライン3

さらに、現在のウェブは基本無料で読めるサービスが主流だ。ウェブ連載なら一定期間は無料で読めて、単行本が刊行されると読めなくなる。あるいは、一日に既存のマンガ作品を決まった数読むことができ、それ以上読みたい場合は課金するなど。形態は様々だが、基本無料サービスがあり、ほぼ読み放題の中で有償の「マンガのサブスク」が流行するようにも思えない。

そもそも、元をたどれば漫画誌もある種のサブスクなのである。

サブスクとは定期購読

「サブスク」は英語の「subscription(サブスクリプション)」の略称である。最近で絵は音楽や動画配信などの定額制サービスに使用される。本来のニュアンスとしては「会費」が近く、雑誌なら「定期購読」がそれにあたるだろう。
YouTube のチャンネル登録も英語では subscription である。

字義から捉えるなら「マンガのサブスク」とは漫画誌を定期購読することにあたる。

主要な漫画雑誌は「漫画村」が登場する2016年1月以前から電子版の配信を行っている。しかも紙の漫画誌と同日に配信される。つまり、「マンガのサブスクリ」は「漫画村」以前から行われている。

講談社は早くから力を入れており、2013年5月から「週刊モーニング」を、2015年1月には「週刊少年マガジン」の電子版を配信している。集英社は2014年4月から「週刊少年ジャンプ」を「ジャンプ+」で開始した。

小学館は全体的に電子化の対応が遅く、「週刊少年サンデー」は2016年7月からだ。

これらは、パックンさんが指摘する「マンガのサブスク」ではないだろう。読み放題なのは、契約期間中のバックナンバーに限る。読み放題としての真価を発揮させるには契約を継続しバックナンバーを積み上げていく必要がある。それでも紙の雑誌を保管するよりはずっといい。


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出版社によるサブスク

出版社は漫画誌の電子版以外にも、読み放題サブスクを提供している。

代表的なのが KADOKAWA の「ブックウォーカー」の提供する読み放題のサービスと、講談社の「コミックDAYS」だ。

マンガ・雑誌 読み放題|単行本約20,000冊、マンガ誌約80誌以上が月額836円(税込)から読み放題!電子書籍ならBOOK☆WALKER
ブックウォーカー」の読み放題では単行本の他に漫画誌も対象だ。芳文社の「まんがタイム」や少年画報社の「ヤングキング」など KADOKAWA 以外の出版社も含まれている。
ブックウォーカー」にはラノベが読み放題のプランもあって、KADOKAWA らしい。

コミックDAYS
「コミックDAYS」は、講談社の21もの漫画誌を読むことができる。また無料作品も提供されている。ただし、雑誌のバックナンバーは3号前までと限られ、「別冊少年マガジン」は含まれていない。

出版社ではなく「コミックシーモア」や「Kindle Unlimited」に「DMM」 など電子書籍配信サービスによる読み放題もある。ただし、現在連載中の人気作品を読めるサービスではない。

変わり種として、ワニマガジン社コアマガジン、文苑堂の成人向け漫画誌を購読できる「Komiflo 」がある。

理想のマンガのサブスクは登場するか

消費者にとって理想的な「マンガのサブスク」は、音楽や動画配信に近い形のものであろう。つまりは、「鬼滅の刃」や「進撃の巨人」など人気作品の全話が読み放題なサービスだ。もちろん、出版社に縛られない。

個人的な感触として、いつかは実現しうるだろうが「今」はその時ではない。

漫画村はマンガビジネスが上手くいきすぎているからこそ出てきた犯罪者なんだぞ|竹村響 Hibiki Takemura|note において指摘されるように、市場規模から考えると、出版社がそのようなサブスクを行う旨味がない。

そもそも、現在は単行本の方の利益が大きい。マンガの売り上げが2020年、過去最高になったことはもっと取り上げるべきニュースだ(篠田博之) - 個人 - Yahoo!ニュース によると、かつては漫画誌の売り上げ大きかったが、2005年には単行本がそれを上回っている。そして、2019年には電子版が紙の売り上げを抜いた。つまり、人気作品の単行本は売れるのだ。

理想的な「マンガのサブスク」とはいうものの、音楽や動画のサブスクも消費者にとって理想的な状況ではない。音楽はレーベルやアーティスによってはサブスク配信を行っていない。契約によっては配信が停止されることもある。
動画も同様で、いつまでも同じ作品が見られるわけでは無い。Amazon Prime などが顕著だが、全ての動画が見放題でなく、定額で見放題な動画は限定的だ。そして、期間限定の動画もある。Netflix にしても配信される動画に限っては見放題だが、配信が停止される場合もある。これは、動画配信会社と提供会社の利益の問題だ。サブスクに提供する旨みがないならコンテンルホルダーは提供しないだろう。

コンテンツが強力なら自社でサブスクリプションを展開した方が利益になる場合もあろう。コンテンツの配信を制御できる他、顧客情報などを自社で管理できる。その例が、ディズニーによる Disney+ だろう。

講談社の「コミックDAYS」が「別冊少年マガジン」を含めていない理由の一つは「進撃の巨人」を連載していたからではなかろうか。つまり、人気作品をサブスクに含めるかはコンテンツホルダー次第なのである。

基本無料でマンガを読める

無料マンガアプリの縦と横 - 最終防衛ライン3

そもそも、現在は基本無料でマンガを読めるサービスが既に存在している。各社が行っているので、読み放題のサービスより人気が高いだろう。

無料でマンガを読める先駆け的サービスが2011年に登場した「Jコミ」であり、現在は「マンガ図書館Z」となっている。漫画家が権利を持っているが、出版されず絶版なったマンガを配信しており、その広告やサブスクによる収入で維持されている。

基本無料でマンガを読めるサービスはウェブでのマンガ連載を出発点としたものが多い。スマートフォン用のアプリを提供しているサービスもあるが、ウェブのみのサイトもある。

日本のウェブコミック配信サイト一覧 - Wikipedia

その中でも「ガンガンONLINE」は2008年からオリジナル連載を行っている。古参ではあるが、そのせいかアプリの出来はよくない。

ウェブでのマンガ連載は昔から細々と行われていたが、2012年以降に増加している。小学館の「裏サンデー」は2012年、集英社の「ジャンプ+」は2013年からと「漫画村」の登場以前である。ただ、かつてのウェブ連載は漫画連載の本流ではなかった。単行本が刊行される作品も多くはなかった。しかし、現在は「ジャンプ+」の「スパイファミリー」など話題作も数多い。

基本無料の漫画配信サービスは出版社に縛られない例もある。「ニコニコ静画」や「pixivコミック」はオリジナルの連載作品と共に、両サービスは「ジャンプ+」や「サンデーうぇぶり」など他サービスで連載されている作品も掲載している。

今後、ウェブ連載が話題になり人気なれば、無料で多くの作品を一つのサービスで閲覧できるようになっていくだろう。

自分が欲しいマンガのサブスク

出版社が、音楽や動画配信のようなサブスクリプションを行わないのは、様々な理由が考えられる。市場規模はその主たるものだろう。そもそも、人気作品の単行本が売れる現状で読み放題サービスを提供する旨味はない。

また、既にサブスクリプションによる読み放題のサービスを提供している出版社や電子書籍配信サイトもある。さらに、現状は基本無料サイトの方が人気が高い。「マンガも音楽や動画配信のようなサブスクを実施すべき」というのは、現状を知らなすぎる発言であろう。

もちろん、読者としては出版社に依存しない読み放題サブスクが望ましい。

個人的に実施して欲しい「マンガのサブスク」は二つある。一つは、手塚治虫など作品数の多い作者ごとの読み放題。もう一つが、ワンピースのような巻数の多い作品の読み放題。サブスク中だけ読めて、退会が簡単だと尚よい。「Renta!」のようなレンタルサービスはあるものの、レンタル期間が短く、一話あるいは一巻ごとに指定するため、まとめて読むには不向きである。

2019年に電子版の単行本が紙の売り上げを超えたこともあり、今後はますます電子化されていくであろう。ただし、現在の電子版は決して使い勝手のいいものではない。読み放題も含めて消費者がより利用しやすいサービスになって欲しい。