増田でトラックバックを打っても良かったのだが、本の表紙をたくさん紹介するならはてなブログの方適している。ちなみに Amazon のリンクがたくさんあるが、アフィリエイトを登録していない私には一銭も入ってこない。
はじめに
とても細かいことなのだが、以下の部分が気になった。
ハヤカワは伊藤計劃の『ハーモニー』『虐殺器官』の文庫化の際に、伊藤計劃作品のアニメ映画でキャラデザを務めたredjuiceを起用した。ちなみに表紙に、ではない。本をすっぽり覆うタイプのオビにイラストを反映させたのだ。実質的には「アニメ絵の表紙になった」とみなされても仕方がないし、事実そのように勘違いしている人も散見される。
「虐殺器官」と「ハーモニー」の文庫化はアニメ化が決定される前である。時系列的に考えて、文庫化の際にアニメでキャラクター原案を務めた redjuice を起用したとの表現はおかしい。また、redjuice 原案のキャラクターによる表紙は新装版として刊行されている。redjuice による表紙は、本を覆うタイプの帯ではなく、カバーそのものである。つまり、アニメ化により「アニメ絵の表紙になった」のが正しい。以下に詳しく明記しておく。
「虐殺器官」と「ハーモニー」の表紙のバリエーションは少なくとも3つ以上
「虐殺器官」は2007年6月にハヤカワSFシリーズ版が、2010年2月に文庫版が刊行されている。「ハーモニー」がハヤカワSFシリーズで刊行されたのは2008年12月で、文庫版は2010年12月である。つまり、両者の文庫化は伊藤計劃が亡くなった2009年3月以降になされている。
ハヤカワSFシリーズ版の「ハーモニー」の表紙はシライシユウコによる、文庫版は真っ白である。これは文庫版の「虐殺器官」が真っ黒なのと対比するためであろう。
伊藤計劃:「虐殺器官」「ハーモニー」が劇場版アニメ化 - MANTANWEB(まんたんウェブ) によると、両者のアニメ化が発表されたのは2014年3月である。その後、2014年8月に表紙をアニメ版のキャラクターを元にした新装版が刊行されている。以下に示すように、2010年の文庫版と2014年の新装版とではISBNが異なる。
- 虐殺器官
- ISBN 9784152088314(ハヤカワSFシリーズ)
- ISBN 9784150309848(文庫版)
- ISBN 9784150311650(新装版)
- ハーモニー
- ISBN 9784152089922
- ISBN 9784150310196(文庫版)
- ISBN 9784150311667(新装版)
また、Amazonにて商品イメージを確認すると、表紙に「2015年 劇場アニメ化。」とコピーが書かれた帯を確認できる。よって、表紙を覆うタイプの帯によってイラストを反映したわけではなく、イラストのカバーになったとするのが正しい。
ただし、表紙は3種類のみではないようだ。販促としてダブルカバー、つまり本を覆うタイプ帯が何種類か確認できた。少なくとも、ハーモニーは新装版とは異なるビジュアルが1つあり、虐殺器官では3つもあるようだ。
【到着しました】
— MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店2F (@mjumeda2F) 2015年9月12日
ハヤカワ文庫 伊藤計劃「ハーモニー、虐殺器官」河出文庫 伊藤計劃、円城塔「屍者の帝国」
カバーが全て映画仕様になりました!なんだよこれ…良すぎるだろ!映画行くしかないんだよ! pic.twitter.com/OnlrKxEjAb
【2階文庫】映画『虐殺器官』、来年2/3公開! うわーん嬉しいずっと待ってたよ!! そして新しいビジュアルカバーの原作『虐殺器官』〔新版〕(ハヤカワ文庫)が入荷しました。前のもこっちもどっちもかっこいい……! ということでJ23の棚で並べて置いております。是非お好きな方を。MI pic.twitter.com/O4tkriYo0a
— 紀伊國屋書店 新宿本店 (@KinoShinjuku) 2016年11月13日
新装版が刊行される前に、旧版の文庫にダブルカバーを被せていた可能性も考えられる。増田の説明も完全に間違いではないのだろう。しかし、文庫化の際にアニメ版の表紙にしたのは時系列として間違っている。また、アニメ版の表紙は新装版であり旧版の表紙とは異なるため帯として表紙にイラストを反映したのではない。つまり、アニメ化に伴い「アニメ絵の表紙になった」とするのが正しい。
ハヤカワが百合とアニメ絵を推してるんでしょ?
「ハーモニー」は伊藤計劃自身も「百合を描く」と明言しているし、実際に二人の少女の物語であるから、作品のイメージを伝える表紙に少女を描くのは自然のことに思える。
「なんでSF小説とかアンソロの表紙って漫画・アニメ絵の女の子ばっかなの?」の答えとしては、早川書房、百合はじめます。ハヤカワ文庫の百合SFフェア|Hayakawa Books & Magazines(β) やら SF×百合ブーム、キマシタワー! 謎マリアージュの魅力、仕掛け人編集者が語る|好書好日 などハヤカワがが百合SFを展開したからだろう。そして、百合SFの発端は「ハーモニー」とシライシユウコによる表紙にあることは間違いない。
翻って「なんでSF小説とかアンソロの表紙って漫画・アニメ絵の女の子ばっかなの?」に関しては、貴方が見ている界隈にそういうのが多いだけでは?という話に過ぎない。
仏教スペースオペラとして知られる「天駆せよ法勝寺」が掲載されている2018年の 「年刊日本SF傑作選」である「プロジェクト:シャーロック」は全然そんなことはない。
AIが人間より強くなった今だからこそ読んで欲しい将棋SFである「盤上の夜」はアンソロジーではないけども、アニメ絵ではない。
プロジェクト:シャーロック (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)
- 発売日: 2018/06/29
- メディア: 文庫
- 作者:宮内 悠介
- 発売日: 2014/04/12
- メディア: 文庫
共に、創元SF文庫であるが、創元SF文庫がアニメ絵でないかと問われれば、そうでもない。「マーダーボット・ダイアリー」は「なんでSF小説とかアンソロの表紙って漫画・アニメ絵の女の子ばっかなの?」であろう。