肉と引用とネタバレ

キン肉マンの「ネタバレ」について、作者の一人出る嶋田氏が苦言を呈したのに端を発し、週刊プレイボーイが法的措置をちらつかせる(かのような)声明をだし、物議を醸しています。月曜日も、実感として感想ツイートが減ったように思います。
本稿では、Twitterで漫画のコマを引用する場合の是非を実例をあげつつ、週刊プレイボーイ編集部の声明について考えていきます。先ずは、著作権法上の「引用」について述べます。

著作権法上の「引用」

一般的な「引用」と著作権法上の「引用」は意味が異なります。一般的な「引用」は他人の言説などを自分の表現の中で用いることですが、著作権法上の「引用」は、一定の条件を満たした上で権利者の著作物を無断で利用できる権利を意味します。今回は、著作権法上の「引用」が問題となるので、先ずはそれから説明します。著作権法上の「引用」については、同法第32条に明記されています。

32条

  1. 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
  2. は本稿とは関係ないので省略

第48条に、引用する際は出典を明記すること、基本的には著作者名を明らかにすることが明記されています。第32条のやっかいなところは引用は可能だけども、「公正な慣行に合致するもの」かつ「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」の両方が必須な点。この条件は、条文には明記されていませんが、文化庁には以下のように記されています

ア 既に公表されている著作物であること
イ 「公正な慣行」に合致すること
ウ 報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
エ 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
オ カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
カ 引用を行う「必然性」があること
キ 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

漫画の引用

漫画の引用に関する考え方として、漫画批評をやっている金田淳子さんによる マンガの引用と著作権について書いてみる|金田淳子|note を紹介します。金田淳子さんは法律の専門家ではありませんが、自身の批評と交えて考えを述べておられるので、分かりやすいかと思います。

「引用」においては、「公正な慣行」がやっかいで、漫画においては判例などが少ないため専門家でも意見の分かれる所ではありますが、
「脱ゴーマニズム宣言事件」の判例からすると、絵が必要ならば引用は可能であるとすると考えて問題ないでしょう。

Twitterで画像利用

イラストをまとめサイトなどに無断転載された事例では、まとめサイト側に賠償が命じられる判決があります。賠償が命じられたまとめさいとは 該当のツイートを、TwitterAPI 等を利用せずにスクリーンショットで掲載していたため、妥当な判決でしょう。

一方で、最近話題になったのが、RTでのトリミングが著作人格権侵害となった事例。無断転載された画像をツイートしたユーザーが著作権侵害である点は当然でしょう。ただ、裁判所がRTした人も著作人格権侵害したとして、メールアドレスの開示を認めたのはやや解せません。
無断転載されたツイートをRTした際に画像がトリミングされるため、それが著作人格権侵害にあたるのは理解はできます。これに関しては Twitter の仕様に問題があると考えます。ユーザーにトリミング域を調整できる選択肢を与えるべきです。侵害した主体がRTしたユーザーにあるのも、その通りだとは思うのですが、その責任は Twitter の仕様にもあるわけで、RTしたユーザーのメールアドレスの開示を認めるのはやり過ぎに思えます。

もちろん、RTは転載行為のため、RTした内容に問題があればRTしたユーザーにも責任があるでしょう。RTでも名誉毀損になるとの判決も出ています。
ただし、RTする際に投稿された内容が、無断転載されたものかまでをユーザーが判断する必要がある、あるいはトリミングされた結果、著作者名が消えてしまったことまで確認する必要があるのかは、やや疑問に思います。

本題の肉

今回の件に関しては、Web連載をずっと追って来たファンにしてみればハシゴを外された感じではないでしょうか。

「次峰レオパルドン行きます!」のコマを投稿するのは、引用の範疇にはあたらないでしょう。嶋田氏も当初はこの転載を問題視していたように思いますし、多くのファンもその点に異論は無いと考えていたんじゃないでしょうか。

Web連載を生き抜いたキン肉マンは旧キャラを出して盛り上がるのを続けていました。その感想を述べる際に、旧作のコマなどが掲載されることもありました。これに関しては微妙ではありますが、話数などを明示して感想を述べれば「引用」に当たる可能性はあるかもしれません。厳密には著作者名の「ゆでたまご」も明記するべきではありますし、140文字で引用の主従などの条件を満たさない可能性もありますが、議論の残るところです。

議論が残るところであるはずなのに、週刊プレイボーイの編集部が以下のようにぶちかましてきました。

悪質な著作権侵害、ネタバレ行為(文章によるものを含みます)に対しては、発信者情報開示請求をはじめ、刑事告訴、損害賠償請求などの法的手段を講じることもありますので、ご注意ください。

「ネタバレ行為」と非常に曖昧な言葉を使って、法的手段を講じる可能性を訴えるのは、企業の声明として考えられません。さらに、少年ジャンプ+の編集長が雑なツイートをして事態をややこしくしています。

https://twitter.com/HosonoShuhei/status/1303892105190756354

先のRTの例をもちだせば Twitter でマンガのコマを掲載すれば先ず間違いなくトリミングされるため、それをもって著作人格権侵害と攻めるのも可能かもしれません。

ネタバレとは

「ネタバレ」とはなんなのか。「ネタバレ」とは非常に曖昧で。Twitterで何度も俎上になりますが、言葉の意味は曖昧なままです。
そもそも個人によって許容できる「ネタバレ」の幅も異なります。私自身は「ネタバレ」をされても気にはしませんが、嫌う人も多いので公開されて直ぐの映画や、発売直後のゲームの内容はあまりツイートしません。漫画は、コミックスが発売されたら解禁みたいな空気があります。映画だと、地上波公開されたら大体的にOKみたいな了解がある気がします。
映画版ドラゴンクエストである「ユア・ストーリー」は見に行く気はありませんでしたが、「ネタバレ」で見に行く気になりました。そもそも、作品を紹介する際に完全なる「ネタバレ」を避けるのは困難です。余程の信頼関係のある人から紹介されない限り「ネタバレ」なしで作品を体験しようとは思わないはずです。ただ、作品紹介での「ネタバレ」は往々にして「あらすじ」と表現した方が適切です。

今回の件で言えば、「次峰レオパルドン行きます!」はネタバレでしょう。ただ、ミステリーの犯人を述べるほどの悪いこととは思えませんし、法的手段を講じるほどの悪質なネタバレにはないように思います。
「漫画のネタバレ感想で訴訟される」は誤解 Webニュース記者が見た『キン肉マン』騒動 (1/2) - ねとらぼ なる記事も上がっており、内容には概ね賛同しますが、所詮はねとらぼの見解に過ぎまん。本件を納めるには集英社の見解が必要でしょう。

「ネタバレ」とは異なる「バレ」として、「早バレ」というのがあります。発売日以前に雑誌などを手に入れて、その内容を公開する行為を指します。「早バレ」に関しては、「ワンピース」ネタバレサイトの運営者を逮捕 広告収入3億円以上か - ITmedia NEWS のように逮捕者も出ています。内容をバラすだけならまだしも、広告収入を得ているのが非常に悪質です。
「あらすじ」を文章のみで書くのも翻案権に関わるので著作権侵害になり得ます。ただし、Twitter の140文字でどこまで「あらすじ」を語れるかは微妙なところですが。

週刊プレイボーイ編集部の見解をすごく好意的に解釈すれば、このような悪質な「バレ」に対して、法的措置を構図得ると述べているのかもしれません。しかし、その見解はまったく読者やファンの方向を向いていません。嶋田氏とファンとの問題だったはずで、悪徳業者との問題ではなかったはずです。読者に向けた声明の中で、法的措置をちらつかせる以上は、読者に向けた内容としか解釈できず、法的措置される対象は読者であると受け取るのが自然でしょう。すくなくとも、編集部として述べるべき文章ではありません。

最後に

Twitterでの漫画のコマの利用が著作権法上の「引用」にあたるかはケースバイケースでしょう。例えば、漫画コマでリプライし合うのは「引用」には当たらないでしょうが、多くのケースでは著作権者に見つかっていないでしょうし、見つかっても訴えるほどではないと見逃されているのでしょう。日本の著作権法フェアユースの規程はありませんが、この緩さがある意味でフェアユース的に機能しています。

Twitterで感想を述べる際のコマ利用も、引用の要件を厳密に満たしているとは限りませんが、この辺は実際の判例がないので意見の分かれる所です。興味本位では、嶋田氏が法的措置をとり判例を残して欲しいですね。
現在の情況は、嶋田氏や週刊プレイボーイが述べる「ネタバレ」の範囲が曖昧なため、感想ツイートが萎縮されてしまった状態です。あるいは、沈黙は抗議の意味もあるように感じます。
本件を納める納めないに拘わらず、集英社の広報なり、法務なりが何かしら見解を述べる必要があると考えます。