表紙の掲載は無断転載の可能性が高い

きっかけとなったTweetは消えてますが、「著作権や肖像権を侵害してる同人誌を公の場に晒さないで欲しい」という意味で「無断転載」を使ったのかなと感じました。「無断転載」と書くと著作権など法律方面に話が向きますが、本来はマナーや道義的な指摘をしたかったのでしょう。
語彙をきちんと把握してないために、話が変な方向に向かってしまった事例かなと思います。

されはさておき、誰でも入場可能なコミックマーケットで頒布することは公の場ではないのかとか、マナーなどをあたかもルールのように叫ぶのはいかがなものかとか、そもそも非オリジナルで他者の著作権や肖像権などを侵害している可能性のある同人誌の著作権はどこまで認められるのか、などなど考慮するにも面倒なことが多く、「ブーメラン」と指摘されるのも、仕方が無いのかなとも。

面倒なことは割愛して、本エントリーでは書籍の表紙や書影の紹介が無断転載に当たるのかどうかを考察します。

表紙の著作権

書籍の表紙をアップロードしても問題ないのか否かは 画像引用はどこまで認められているのか? : ARTIFACT ―人工事実― でも考察されています。この記事にあるように、書籍の表紙にも色々な種類があります。

著作権の有無で分類すると、イラストや写真が用いられた表紙には著作権があるでしょう。文字のみの場合は、著作権上では保護されません。デザインに関しては著作権で保護されるされないと考えられますが、あまりにも似すぎている場合には、不法行為不正競争防止法などで争うことも可能です。この辺は、表紙の紹介とは関係が無いですね。
写真の場合、人物が写っていると肖像権やパブリシティー権を考慮する必要があるでしょう。

著作権がある場合でも、引用であれば無断で利用することができます。それではイラストや写真を用いた著作権のある表紙を紹介するのは引用に当たるのでしょうか。

表紙の紹介は引用の範疇か

著作権法32条では、正当な目的で、公正な慣行に合致し、出所を明示すれば引用することができます。公正な慣行とは、一般に以下の要件を満たす必要があるとされています。

[1]引用する資料等は既に公表されているものであること、
[2]「公正な慣行」に合致すること、
[3]報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること、
[4]引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること、
[5]カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること、
[6]引用を行う必然性があること、
[7]出所の明示が必要なこと

それでは、書籍の表紙を紹介するのは引用にあたるでしょうか。
大学図書館における著作権問題Q&A (第7版) (2009.03.27) の p. 49, 50 では、書籍を紹介する際に表紙を掲載する必然性がないため、引用にはあたらないと解釈されています。実際、書籍を紹介する際は、題名と著者名と出版社が分かれば十分です。表紙の紹介は視覚的には意味がありますが、検索する際には必須の情報ではありません。
よって、書籍の紹介のために表紙を掲載するのは引用には当たらない可能性が高いです。

著作権法47条の2 美術の著作物等の譲渡等の申出に伴う複製等

2010年に著作権法47条の2が改正されました。本来はインターネットにおける絵画や写真の取引を想定した改正ですが、弁護士ドットコム -[知的財産]本や雑誌の表紙の著作権。ネット掲載はできるか? に書かれるように雑誌の表紙にも適用できると解釈できます。

個人の場合は、ネットオークションなどで書籍を取引する場合に、表紙に著作権があっても写真を無断で掲載できると考えられます。ただし「政令で定める措置を講じて行うものに限る」とされ、デジタルの場合は32,400画素、複製防止措置がされている場合は9万画素までとされています(印刷物であれば、50平方センチメートルまで)。よって、デジカメやスマホで撮影した写真をそのまま掲載する場合には47条の2に合致しません。ちなみに、Amazonのサムネイルは小さいものでも 166×261 = 43,326画素なので、これよりも小さくないとダメです。
弁護士ドットコム -[知的財産]本や雑誌の表紙の著作権。ネット掲載はできるか? に述べられるように、サイズが大きい場合は著作権者から黙認されていると言えます。

この改正は図書館報での取り扱いにも適用できそうです。先ほど紹介した、大学図書館における著作権問題Q&A (第7版)は2009年にまとめられた版ですが、2012年版である 大学図書館における著作権問題Q&A(第8版) においては、著作権法47条の2を元に図書館報に書籍の表紙を掲載しても良いとの見解になっています。

また、著作物の利用について | 偕成社 のように図書館での紹介する場合には著作権者への承諾が必要ない旨を掲載している出版社もあります。ただし、ディズニー関連に関しては別途手続きが必要であることが付記されています。偕成社著作権を管理しているわけではないからでしょう。

表紙の掲載は無断転載

書籍を紹介する際に表紙を掲載するのは、引用で解釈すると必然性がないため、引用には当たらない可能性が高いです。また、先に紹介した著作権法47条の2は譲渡や貸与に関する条文なので、個人のブログなどで紹介のため表紙を掲載する場合には当てはまりません。
つまり、厳密に考えると表紙の掲載は無断転載となる可能性が高いです。

ただし、書籍を紹介する際に表紙を掲載するのは、必ずしも著作権者にとって不利益になるものではありません。そのため、多くは黙認されているのだろうと推測できます。たとえば、 図書館と著作権 | 著作権Q&A | 公益社団法人著作権情報センター CRIC のA. 11では出版ニュース社代表の清田義昭氏による本の紹介であれば表紙の写真を利用しても良いのではないかという主旨の発言が紹介されています。

マンガのコマは引用できるか

2009年に書かれた記事ですが お部屋1982/「書評で本の表紙を出すことができない」問題 | ポット出版 なる話もあります。実際、引用の範疇ではないので承諾が必要なのでしょう。
雑誌などに書かれたマンガの批評や解説においてコマを掲載する場合は著作権者の承諾を得るのが慣例のようです。つまり、批評目的であっても画像の引用は難しいのが現状です。多くのブログでマンガのコマが使われています。その多くは引用に当たらない無断転載です。一方で、マンガのコマ運びなどを解説した記事もあります。マンガのコマを掲載する必要があります。引用の範疇になりそうですが、画像の引用に関しては判例が少ないため、引用と認められるかは判断が難しいところです。

困ったときにAmazon

というわけで、戦利品の表紙アップは無断転載 - Togetterまとめ という主張自体は間違いではありません。ただし、その表紙が二次創作の場合にはすごくややこしいことになりますが。

ブログで表紙を紹介した場合は。Amazonなどを使っておけば良さそうです。Amazon著作権者に承諾を得ているかどうか不明ですが。Kindleの場合は、承諾を得ていると考えて問題ないでしょう。

著作権を中心に考えてきましたが、人物の写真を用いた表紙の場合は肖像権やパブリシティー権を考慮する必要があります。インターネットにおけるパブリシティー権といえば、ジャニーズ事務所が厳しいことで有名です。テレビ局の番組紹介であっても、ホームページにはジャニーズ事務所所属のタレントはシルエットで表示されています。これは、Amazonもおなじで Amazon.co.jp: ジャニーズ で検索して分かるように、人物の写った表紙やCDのジャケットの画像は一切ありません。Amazonが自主的に行ったのか、ジャニーズ事務所が対応を求めたのかは分かりません。
Amazonも対応する点を考えると、ブログで書籍の表紙を紹介した場合はAmazonなどを用いれば良いのでしょう。電子書籍版があるなら、そちらの方がより問題が無いでしょう。