例の東京オリンピックのロゴをダサいと感じた理由を考えてみた

佐野研二郎騒動

2020年に開催される東京オリンピックに関連して、ザハデザインによる新国立競技場の騒動が終了したから静かになったかと思ったら、今度はロゴに端を発し、それをデザインした佐野研二郎に関する騒動が続いています。

サントリーのトートバッグに関しては、パクリであると考えて間違いなさそうですが、オリンピックのロゴがベルギーの美術館のロゴに似ているのは偶々なのでしょう。
この問題の発端は、パクリ以前にオリンピックのロゴを気に入らない人が、それなりの数いたでしょう。私も、このロゴはオリンピックのロゴとしては「無し」だと感じています。端的に書くと「ダサい」と思います。ダサいと思っていたら、よく似たロゴが見つかり、そこから火が付き、佐野氏の他のデザインにも飛び火し、トートバッグで確定的なパクリが見つかった、という流れでしょう。

騒動を鎮静化させる方法として、パクリ疑惑渦中のデザイナーは、何をすれば潔白を示せるのか?(みわよしこ) - 個人 - Yahoo!ニュース では、デザインプロセスを明確にすべきと主張されていますが、選考委がロゴ決定した理由もあわせて説明する必要があるでしょう。
ただし、ロゴをダサいと感じていて取り下げさせた人には「説明」が有効ですが、パクリであることを見つけ絶対的に優位なポジションからマウンティングしたい人や、単にお祭り騒動が好きな人には全く効果がありません。

個人的に、問題の発端となった東京オリンピックのロゴは気に入りませんが、自分がなぜダサいと感じるのかを言語化できずにモヤモヤしていました。それと同時に、このデザインが2020年の東京オリンピックのロゴとしてふさわしい意味づけがあるならば知りたくもありました。

フラットデザインは世界標準か

オリンピックエンブレム騒動 「世界標準」デザインの敗北 - ヲタ論争論ブログ では2020年の東京オリンピックのロゴはフラットデザインであると主張しています。しかし、あのロゴは所謂フラットデザインではないと思います。

フラットデザインとは何かを説明するのは難しいです。というか、私は定義を説明できません。ただし、少なくともITにおけるUIやUXの潮流であることは知っています。

2012年にリリースされたWindows 8がフラットデザインの走りでしょう。その後、AndroidiOSも実在する「もの」を参考にした「スキューモフィズム」から、シンプルで機能性を求めた「フラット」へと変わっていきました。
ITにおいてフラット化が進んだ理由は、ディスプレイサイズなどの環境が機器によって異なることが一つの要因でしょう。リサイズ可能なデザインの方が、種々のディスプレイサイズに臨機応変に対応できます。だからこそ、Windowsが先んじてフラット化を目指したと考えられます。
スキューモフィズムはアイコンのディティールが凝っているため、それを崩さないようにサイズが固定化されることがあります。この場合、ディスプレイのサイズによっては、適した大きさで表示できない場合があります。一方で、フラットであらばフレキシブルに対応できます。

ディスプレイの環境が異なったのはiOS端末も同様で、2012年に発売されたiPhone 5においてディスプレイの縦横比が4対3から、ワイドな16対9に変更されました。iPadシリーズは4対3を保っており、同じiOSにおいて異なる縦横比が存在することになりました。その一年後の2013年にフラットデザインとなったiOS7がリリースされましたが、その理由の一つとして異なるサイズ比のディスプレイに対応するためでもあったのでしょう。

個人的な話をすると、iOSのフラットデザインにはグラデーションなどが残っている点がフラット化として中途半端で好きではありません。かつてのスキューモフィズム的なゴージャス感が残っている、とも言えますが、そこが好きになれない所かなと。
一方で、Windows 8のメトロデザインは好きです。タブレット的に使う場合は、Windows 10よりもWindows 8の方がデザインとしても機能としても使いやすいと思います。

フラットデザインとはITの文脈にあるデザインです。また、ポップな色合いを用いるのが一般的でしょう。少しくすんだ感じの原色に近い色が用いられます。色覚異常である自分としては、あまりに淡い色は見づらいので、識別しづらい配色になっていることがあります。デザインの流れとしても、配色としても東京オリンピックのロゴはフラットデザインでは無いと感じます。

ロゴはシンプル

ロゴはシンプルになる傾向にあります。例えば、Peugeot - ライオンの紋章とその歴史 で紹介されるようにプジョーのロゴは時代が進むにつれシンプルになっています。
ロゴがシンプルになる理由としては、リサイズすることが多く、様々なシーンで使いやすいから。リサイズはフラットデザインと似た理由ですが、ロゴがシンプルなのはITにおけるフラットデザイン以前からの流れです。

2011年にスターバックスのロゴからStarbucks coffeeの文字が消され、マーメイドのみとなりました。マーメイドのみでもスターバックスであるとのブランドイメージが定着したからでしょう。文字がある場合、ロゴを小さく表示する場合に、文字がつぶれますが、無い場合はその点を気にする必要がありません。

「スターバックスのロゴ変更」を皮肉った未来のスタバロゴとは(画像) - 涙目で仕事しないSE

民族と国家

ロゴはシンプルな方が良いですが、シンプルだからフラットデザインだとは言えません。よって、オリンピックエンブレム騒動 「世界標準」デザインの敗北 - ヲタ論争論ブログ における東京オリンピックのロゴはフラットデザインであり、フラットデザインが世界的潮流だから選ばれたのだ、との主張には違和感を覚えます。
そもそも、5年後の2020年までにフラットデザインの潮流が続いているかが不明です。5年前を振り返ってみれば、「スキューモフィズム」だったわけです。5年後には、フラットデザインが古くさくなっている可能性だってあります。

ただ、オリンピックエンブレム騒動 「世界標準」デザインの敗北 - ヲタ論争論ブログ において「民族」と「国家」を対比させているのは、なるほどなと思わされました。
例として、東京オリンピック招致のために、桜をあしらったリースのロゴと今回の東京オリンピックのロゴが比較されています。
招致用のロゴは「民族=フォーク」をモチーフにしています。一方で、東京オリンピックのロゴは日の丸である「国家=ナショナル」が組み込まれています。
オリンピックのロゴとしては、民族よりも国家の方が適していると考えられます。なぜならば、民族=国、ではないからです。スペイン在住のグラフィックデザイナーが考えた、東京オリンピックのロゴも素敵だった などは評判は良いですが、扇子のモチーフは民族色が強すぎるという点では相応しくないとも言えます。

最近のオリンピックのロゴを見返してみても、民族的なデザインはありません*1。また国家よりも開催都市のイメージを想起させるデザインが多いように思われます。

なぜ「T」なのか

さて、ようやく本題。
2020年の東京オリンピックのロゴの利点と、自分がなぜ相応しくないと感じた理由がわからなかったのですが、多摩美統合デザイン学科の学生として思うこと を読んで合点がいきました。

このロゴのメインとなるのはTの黒い縦線です。この黒い縦線は力強く、落ち着いた印象を与え、スマートです。全体的なデザインとしても鋭利であることが、シックでスマートさを強調しています。これまでのオリンピックのロゴとも趣が異なっています。
しかし、このデザインは落ち着きすぎです。悪く言えば、華やかさが無く、お祭り感がありません。オリンピックという祭典のロゴとして考えると、地味です。配色としては、先の招致用の桜のリースや、扇子の方が鮮やかで躍動感もあります。

東京2020大会エンブレムTOKYO 2020 を読んでも選考委がこのロゴに決定した理由は分かりませんが、Tをあしらったロゴは「東京」を全面に押し出したかったのではなかろうかと。先にも述べましたが、近年のオリンピックのロゴとして、トリノやリオは開催地をイメージしています。北京は京の漢字を、平昌はハングルを元にしており、国家と開催都市の両方のイメージを持たせていると考えられます。

1964年に開催された先の東京オリンピックは、「東京」よりも「日本」のオリンピックでした。1940年に中止になったのと、戦後復興の象徴でもあるが故に「日本」のオリンピックは悲願でもありました。先の東京オリンピックのロゴは国家の象徴である日の丸をモチーフにしたロゴになっています。

2020年の東京オリンピックは「日本」ではなく、文字通り「東京」で開催することに意義があるのでしょう。これは、石原慎太郎都知事時代において、何度もオリンピック招致をしたこと、コンセプトとしてコンパクトで東京内での開催を目的としていることらかも明白です。それ故に「東京」を表現するロゴが必要であったと。そう考えると、個人的にはTのロゴである理由が納得できるかなと。そう考えると、本来「東京」の象徴であるはずのロゴに「国家」の象徴である日の丸を配している点がデザインとしてチグハグになっているかなとも。ただ、この日の丸がないと全体のバランスは異なるものの、例のベルギーの博物館とほぼ同じになってしまうのですが・・・。

ちなみに、【五輪ロゴ盗作】佐野研二郎、釈明会見で墓穴を掘るwwwww : モナニュース の557で紹介されるロゴの形にならない理屈としては、黒い縦線がメインとなるからでしょう。間に日の丸を挟んでしまうとシックさなどに欠けます。スマートさを出すには黒い縦線で一本筋が通す必要があるかと思います。佐野研二郎氏も筋を通すべき点が多々ありますけども。

*1:バンクバーはイヌイットが用いたイヌクシュクがモチーフのため、本来民族的ですが、現在イヌクシュクはカナダの象徴なので、国家的であると解釈できます