「○○警察警察」が「自粛警察」について語ります

Twitterなどを見ていると「ネットスラングである自粛警察がテレビなどのメディアで当たり前に使われている」なる言説を見かけるのですが、ものすごくもにょります。
「○○警察」という、○○に詳しいことを意味するネットスラングがあります。「自粛警察」もネット発祥なのでしょうが、意味合いそのものは相互監視や私刑を想起させるため、「秘密警察」や「私設警察」に近い言葉だと考えます。「自粛警察」はネットスラングである「○○警察」が下地にあるでしょうが、「自粛警察」は自粛に詳しい人を意味しません。

ネットスラングの「○○警察」は、恐らく「東方警察」から誕生した言葉です。「東方警察」は「秘密警察」や「私設警察」に近いニュアンスがありました。つまり「自粛警察」は、本来の意味に戻ってきたとも言えます。「○○警察」は「弓道警察」から派生したスラングで、○○に詳しい人による野暮なツッコミという、ややネガティブな意味を含有しています。徐々にそのネガティブな要素が減少し、○○に詳しい人、詳しいことへと変遷していきました。

というわけで、弓道警察の意味合いに近い「○○警察警察」の私が、つまり細かいことにめんどくせぇ奴が「○○警察」の変遷について語ります。

東方警察 2013年

東方警察に関しては 東方警察とは (トウホウケイサツとは) [単語記事] - ニコニコ大百科 に詳しいです(*2番目以降を読むこと)。

2013年に行われたとある東方オンリーイベントにおいて、とあるサークルが新刊として艦これの同人誌を出したのが物議を醸し、そこから東方と艦これの対立がネット上で煽られました。「東方警察」はその最中に生み出された言葉です。「東方警察」はスパイやぬけ忍の監視、あるいはそこから派生した相互監視のニュアンスがあるため「秘密警察」や「政治警察」などに着想を得た言葉でしょう。
東方警察」は早々にネタ化され、pixiv では東方のキャラクターに警察の格好をさせたタグとして使われたり、Twitter でも大喜利が展開されたりしました。

弓道警察 2014年

弓道警察の誕生は、2014年にアニメ版艦これのキービジュアルが発表された際に、弓の構え方について弓道経験者が強い反発を覚えたことに端を発します。
警察の言葉が選ばれたのは、可否を判断し断罪を下すことに起因するのでしょうが、恐らく先の「東方警察」も無関係ではないでしょう。

弓道警察」から「○○警察」が派生し、○○に詳しい人からの野暮なツッコミ、あるいは設定などの矛盾点を付き作品そのものを貶める行為を指す言葉として、Twitterを中心に広がっていきます。

弓道警察」以前から、弓道経験者が弓の構え方に強く言及することはありました。また、弓道に限らず、作品における詳しい人から見るとおかしな描写や、設定の矛盾点を指摘する行為はありました。フィクションにおけるハッカーの描写はよくネタにされます。設定の矛盾点を指摘しこき下ろす芸風はSFでよくみられます。
野暮なツッコミや、作品への非難は昔からありましたが、それを的確に表す言葉がなかったのが「○○警察」が広まった理由の一つでしょう。

ヒアリ警察とフォント警察 2017年

「○○警察」は、○○に詳しい人を野暮であるとするネガティブな意味合いが含まれています。それが、徐々に○○に詳しい人、詳しいことへと変化していき、ネガティブな要素がウォッシュアウトされていきました。
「○○警察」が野暮であることが認知され、あるいは○○警察自体が炎上リスクであることなどから、指摘方法自体が変わっていった側面はあるでしょう。

ヒアリ警察」のように「○○警察」自体が、イメージアップにつながった事例があります。2017年に日本で外来種であるヒアリが問題となりました。強い毒性と繁殖力をもつため、港や空港などでの水際での対策が連日報じられました。そのような最中に写真からヒアリかどうかを判別してくれる「ヒアリ警察」なるTwitterアカウントが登場します。アリに対する専門知識もさることながら、大喜利にも反応してくれるため話題となりました。

同年には、写真やキャプチャー画像などから、そこに使われている文字を判別し近いフォントを見つけてくれる「Adobe Capture CC」が「フォント警察」と評されています。「フォント警察」は人を指しませんし、ネガティブな意味合いもありません。写真からフォントを判別するあたり「ヒアリ警察」との共通点が見て取れます。

自粛警察 2020年

COVID-19 の感染拡大に伴い、政府から外出自粛の要請がなされました。自粛と自ら進んで言動を慎むことなので、他者がそれを要請した際に、それは自粛なのか?という疑問がありますが、忖度の国らしいと思います。

「自粛の要請」がなされる中で、自粛していない人を私的に責め立てたり、制裁を行ったりする行為が見られるようになりました。ネット上では早くからこのような行為を「自粛警察」と表現していました。
恐らく「○○警察」の下地があったからでしょうが、ここには既に○○に詳しい人という意味合いはありません。むしろ「東方警察」の方がニュアンスは近く、つまり「秘密警察」や「私設警察」に近い言葉として機能しています。そのような背景もあって、世間一般にも伝わりやすいことからテレビや新聞などでも「自粛警察」が使われているのでしょう。
ネットスラングではあるのですが、世間的に使われるのに違和感のない程度の言葉だと、私は思います。