キログラムの再定義

長さや重さの単位系はそれぞれの国や文化、時代によって変化するものでした。その理由は、基準を人体に求めたから。古代メソポタミアで生まれた長さの単位キュビットは、肘から中指の先までの間の長さとして定義されていました。日本で使われる尺は中国の殷の時代から使われ、その当時は親指の先から中指の先までの長さでしたが、時代と共に長くなって行きました。
単位が揃わないと商業的にも工業的にも学術的にも困ったことが起こります。また、同じ単位でも職業によって全く長さが違うなんてこともありました。例えば、国際的なプロジェクトにおいて各国がバラバラの単位を使っていたら、さ行は遅々として進まないでしょう。ただし、こどもアサヒ : 朝日小学生新聞 科学コラム・おや子で科学 にも紹介されるように、国際宇宙ステーションではアメリカが頑なにヤード・ポンド法を誇示しているのですが・・・。

単位の統一

時の為政者は何度も単位の統一を図りましたが、単位の基準となるものがなかったため一定しませんでした。
世界的な単位の統一がされない中、フランスにて1790年に地球の北極点から赤道までの子午線弧長、つまり地球の円周の4分の一の1000万分の1を1メートルと定義されました。そしてこの1メートルを元に1000立方センチメートル=1リットルの水の重さを1キログラムと定義されました。
この世界的な単位の統一がメートル法です。当初、1メートルは地球の円周を基準としていましたが、地球は厳密に球ではないし、測定方法により基準が変わることをため、1879年に白金90%、イリジウム10%の合金から1メートル原器が作製され、それが1メートルの基準となりました。同様の合金から1キログラム原器が1889年にキログラムの定義とされました。
しかし、物質である以上長さや重さは一定ではありません。そこで、メートルは1983年に基準が見直され、現在は1秒の299 792 458分の1の時間(約3億分の1秒)に光が真空中を伝わる距離を1メートルとして再定義されました。現在では多くの単位系が物理現象によって定義されえています。例えば時間は自転や公転から定義されていましたが、現在はセシウム原子時計から定義されています。原器を元にした場合、その元を厳重に保管し、また世界各国で単位を用いるには原器のコピーを作る必要があります。例えば、正確な天秤を作るためには原器を元にしなければなりません。原器のコピーのコピーを作って、コピー同士を校正しなければなりません。また、原器は厳重に細んされなければなりません。一方で、物理現象を基準にすれば、この宇宙にいる限りどこでも同じ基準が使えます。物理現象を元にしたほうが、どこでも同じ単位系を使用できるメートル法の理念とも合致します。
多くの単位系が物理現象から最定義されていく中、1889年以来キログラムだけでは未だに1キログラム原器が基準としされてきました。何故なら、物理現象から定義するよりも1キログラム原器を用いた方が誤差が少なかったからです。つまり、重さの基準となる物理現象を十分な精度で測定できなかったのです。

重さを定義する

キログラム原器は真空状態で保存されますが、完全なる真空は不可能なため表面に物質が付着し経年により重さが徐々に増していきます。原器を洗浄すると、物質が洗い流されその結果原器が軽くなります。2007年は国際キログラム原器が50µg軽くなりました。
重さを物理現象で定義するにはどうしたらよいのでしょう?それは キログラムの再定義をめぐる最近の に詳しく書かれています。実際の測定方法はリンク先を読んでいただくとして原理を簡単に解説しましょう。
重さを物理現象から定義する方法は大きく分けて2つあります。アボガドロ数を用いる方法と、プランク定数から換算する方法です。
アボガドロ数とは、12gの炭素原子の数に等しい数で、凡そ6000垓(垓は京の一万倍)です。つまり、1カラット=0.2グラムのダイヤモンドの中には100垓個の炭素原子があります。このアボガドロ数を正確に数え上げれば原始の重さから1キログラムを定義できます。
プランク定数とは量子力学から求められる物理定数です。光子の持つエネルギーEは、周波数νとプランク定数hから、E=νhと求めることができます。また、アインシュタインは質量mとエネルギーEは等価であることを示し、有名なE=mc^2(cは光速度)という式で表現できます。この2式から、m=hν/c^2なる式が求められます。つまり、プランク定数から重さを定義できるのです。
さて、アボガドロ数プランク定数には相関関係があります。アボガドロ数からプランク定数を、プランク定数からアボガドロ数を求めることができます。つまり、アボガドロ数から定義した重さとプランク定数から重さが一致すれば、あたらしいキログラムの原器として使えるのです。

今年の2月に 揺らぐキログラムの定義。異なる実験結果を平均すればいい ? | スラッシュドット・ジャパン サイエンス なる記事がありました。この時はアボガドロ数から求めた重さと、プランク定数から求めた重さが十分に一致しなかったのでしょう。さて、キログラムの定義は今回の国際会議で見直されるのでしょうか?