孤独のグルメの実写化はなぜ成功したのか


似たような趣旨をTwitterに何度かツイートしているのだけど、ブログとしてまとめておきます。
漫画やドラマなどの周辺事情を詳しく知っている人に書いて欲しいのだけど、書いてくれる人がいないなら自分で書くしかない。もっと詳しい人がツッコミを入れてくれるのを待つのもありかなと。

残念な実写化たち

様々な漫画が実写化されていますが、非常に高い確率で残念な作品に仕上がってしまいます。「鋼の錬金術師」の実写版が公開されていますが、CMを見ても面白そうに思えないのはある意味潔いのか。「るろうに剣心」などは評判が良かったですが、作者の和月伸宏さんが児童ポルノの単純所持で書類送検されてしまったので、続編は厳しそうですね・・・・・・。

先に結論を書くと「孤独のグルメ」のドラマ化が成功したのは、作画が写実性の高い谷口ジローさんであったこと。また、久住昌之さんの原作も、特に漫画である必要が無い点。世にも奇妙な物語の「夜汽車の男」などを見れば一目瞭然でしょうか。
それに加え、昨今のテレビにおいてグルメ番組の視聴率がテッパンだから。視聴率が取れるのもあるし、制作サイドがノウハウを蓄積しているのもある。ドラマにあったお店を探すネットワークに、撮影協力を取り付けるコネクション。そして、その料理をおいしく撮影するしずる感の追求に、タレントがおいしく食べる撮影技術が先鋭化しているのもあるでしょう。日本が「おいしく食べること」に特化しているが故に、海外でも評価されているんじゃないかなと。

良き漫画原作と、制作ノウハウを蓄積したスタッフがいてこその成功なのだろうと思います。
世にも奇妙な物語データベース YONIKIMO.COM

谷口さんも久住さんも面白が分からなかった「孤独のグルメ

孤独のグルメ」は原作が久住昌之さん、作画が谷口ジローさんで1994年から1996年に「月刊PANJA」で連載され、その後に続編が「週刊SPA!」で不定期に掲載されていました。
ネットで火が付いたのは、2006年に書かれた 孤独のグルメ:a Black Leaf (BLACK徒然草) が一つのきっかけだと思います*1

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インタビューのよると「孤独のグルメ」は「月刊PANJA」の持ち込み企画で、作画に谷口さんを選んだのも編集者だそうです。谷口さんも久住さんも最初は面白さが分からなかったものの、連載を続けていくと理解できるようになったそうです。

孤独のグルメ」の面白さの根幹は「ご飯をおいしそうに食べる」ことでしょう。
久住さんが原作を手がけた他の作品では「ご飯を如何においしく食べるか」に主眼がおかれています。そして、谷口さんによる緻密な作画が、ゴローや食事の存在感を際立たせています。料理の緻密さもさることながら、店の雰囲気やお店にいる人のキャラクターの書き込み具合は、読んだ人が実際にお店に足を運んだかのように感じさせます。その料理をその店で食べたくなる魅力があります。味は分からないけど、食べたくなってしまうのは、豪快に食べるゴローのキャラクターも寄与しているでしょう。料理を注文しすぎ。

「おいしそうに食べること」と「食べる空間に現実感があること」が面白さの秘訣で、それが久住さんと谷口さんの強みなのでしょう。
久住さんと谷口さんの良いところをきちんと認識しつつ、原作の二人が分からなかったものが見えていた編集者の慧眼さがすごいなと感心します。
「孤独のグルメ」の作者は、"怪物"だった! | 読書 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
久住 昌之 - 谷口ジローさんが11日、亡くなった。... | Facebook

主演の松重さんもよく分からないままシーズン6

2012年から松重豊さん主演で「孤独のグルメ」がドラマ化され、現在はシーズン6まで制作されています。恐らく、まだまだシリーズは続くでしょう。

フジテレビに企画が持ち込まれたものの、結局テレビ東京でドラマ化された経緯があるそうです。漫画も扶桑社から出版されているので、先ずフジテレビに頼んだのでしょう。結果的にテレビ東京で良かったのでしょう。ドラマ版のプロデューサーである吉見健士さんも共同テレビジョンなのでフジサンケイグループですし。

【孤独のグルメ第5弾開始!】深夜を襲う「夜食テロ」を生み出し続けるドラマ制作スタッフのこだわりとは - リクナビNEXTジャーナル
吉見さんは、バラエティの制作を中心に行っていたそうです。「孤独のグルメ」を映像化する上で、当初はドキュメンタリーのようにするつもりだったのだとか。「仕事の流儀」とか「情熱大陸」のような雰囲気は合いそうではありますが、「おいしく食べること」に焦点を当てるには、不向きでしょう。

お店の選定はスタッフが足でかせいでいるそうですが、地道に探せる背景として、元々バラエティなどをてがけていた吉見さんの人脈やネットワークがあればこそなんじゃないかなと感じます。
完成したドラマを見れば分かりますが「おいしそうに食べること」に全身全霊で取り組んでいるなと。そして、お店の雰囲気や店員にお客まで、それらをドラマとして再現するのも、漫画版の面白さを踏襲しています。
そして見終わったら、その料理を食べたり、お店に行ってみたくなる。これがまた受ける理由でしょう。

松重豊、「孤独のグルメ」ひと口目のシーンにNGなし - シネマトゥデイ
原作の二人が面白さが分からなかったように、松重さんもやっぱり面白さが分からなかったようですが、そりゃ「おっさんが一人で飯食ってる」だけで何が面白いんだってなりますよね。

松重さんも「おいしく食べること」を念頭において、撮影に臨んでいるそうです。
いつも気になっているのは、松重さんが食べる前にどこまで台本が決まっているのか、どのように撮影しているのか。つまり、モノローグとしての尺をどのように調整しているのかが不思議です。演者も撮影者もプロだから、台本を頭に入れて合わせてくるのでしょうが、すごいなぁと思いながら見ています。

アニメ版が11月29日に配信!

『孤独のグルメ』アニメ第1話の配信日が決定! 2017年11月29日(水)からの放送に先駆けて、PVがお披露目! | アニメイトタイムズ

孤独のグルメ」は漫画原作ではありますが、アニメよりも実写の方が制作しやすいよなと思っています。
その理由の一つは、谷口ジローさんの作画が非常に写実的である点。料理がおいしく見えるのはもちろん、おいそうに食べるゴローに、店の雰囲気。さらに、そこにいる客。すべてが、現実に存在しているかのようです。これをアニメで再現するとなると非常に手間がかかります。
逆に、実在の店舗を使ってドラマ化した方が楽でしょう。実際、制作費は高くないと聞きます。

きちんと統計をとったわけではありませんが、日本はグルメなど料理を紹介する番組が多いです。テレビを付けると、タレントがやたらとご飯を食べています。これは、制作側がおいしそうに食べるのを撮影するのに慣れているともいえます。また、料理そのものをおいしく撮影する技術も無駄に高度になっています。
つまり、料理をおいしく撮影するだけでなく、タレントがおいしそうにご飯を食べるのを撮影する技術が高いとも言えます。ドラマ版のプロデューサーである吉見さんは元々バラエティを担当していたそうで、料理やタレントなどの見せ方のノウハウを蓄積していたでしょう。またお店を探すコツや交渉のテクニックやコネクションもありそうです。そもそも、日本は「ご飯をおいしく食べること」に特化しているのでしょう。それ故に、番組自体も受けるし、さらにその技術に磨きがかかる。

写実的で料理をおいしそうに食べる漫画原作があり、そこに料理をおいしそうに食べる技術に特化した番組制作陣がドラマ化したのが、漫画原作の実写化として成功した理由の一つでしょう。

さてさて、非常に手間がかかるであろうアニメ版の「孤独のグルメ」が11月29日に配信されるそうです。期待していいんですよね!?

*1:多分これが一番古くて影響力があったと思います