生成 AI の支援で作成されたブラックジャックはブラックジャックっぽいけども

生成 AI の支援で描かれたブラックジャックを読んだんだけど・・・・・・。

TEZUKA2023

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生成 AI によるブラックジャックの新作プロジェクト「TEZUKA2023」は、2023年の6月12日に発表されました。
ブラックジャック好きとしては興味のあるプロジェクトでしたが、先行プロジェクトである「TEZUKA2020」で作成された「ぱいどん」のこともあり、あまり期待していませんでした。というか11月20日の発表まで忘れていました。

「ぱいどん」は手塚治虫っぽいキャラクターで、話の展開も手塚治虫が現代を知っていたら描きそうな内容ではあります。ただ、ストーリーはどこかで読んだような話で、やはり手塚治虫ではないなぁという印象。生成 AI が支援したのはプロットやキャラクターデザインで、ネームやコマ割りの実際のマンガ制作は人間が行っているのもあるでしょう。

ぱいどん - Wikipedia

11月20日に報道関係者向けに生成 AI によるブラックジャックが発表され、NHK などでもニュースになりました。同じ週の木曜日である22日発売の週刊少年チャンピオンに掲載されました。
近くのコンビニにはそもそも少年チャンピオンが置いていないので Amazon から購入しようと思案していたら26日の日曜日に立ち寄ったコンビニで見かけて購入。

少年チャンピオンを購入したのは、かつて単行本には収録されていなかった「落下物」が掲載されている2003年の40号のはずなので実に20年振りです。
ちなみに、ブラックジャック未収録作品を解説|手塚治虫全巻チャンネル【某】 によると、「落下物」は文庫全集10巻に収録されているようです。

ブラックジャックっぽいのだけど

体のほとんどを人工物に置き換えられたマリアの人工心臓に血腫ができるため、それをブラックジャックが手術するという内容。
マリアとピノコの対比により、人間のアイデンティティーを探求するのは手塚治虫っぽいです。生成 AI のプロジェクトでもあるので、意識して選ばれたプロットなのでしょう。
人工心臓ブラックジャックの恩師である本間丈太郎が解決できなかった本間血腫とも関わり、キリコも登場するのでてんこ盛りな短編となっています。

マリアのあり方を説明する図は手塚治虫っぽいなと感じました。ただ、その親である川村博士のキャラクターが今ひとつ立っていない。スターシステムで既存の手塚治虫のキャラクターを流用した方がブラックジャックっぽいとも感じます。ただ、本作は本間丈太郎にキリコも登場するので、スターシステムを採用すると既存キャラクターが渋滞します。また、プロジェクトとして生成 AI により手塚治虫っぽいキャラクターを作り出す目的もあったでしょうから、スターシステムを採用しなかったのでしょう。

手塚治虫っぽいコマ割りもありつつ、違和感のあるコマもありましたが、これは「ぱいどん」と同じく、ネーム以降は生成 AI が関わっていないのも関与してそうです。

生成 AI とそうでない部分

チャンピオンや NHK の解説によると、生成 AI の作成したプロットを脚本家が取捨選択したり、生成 AI と対話したりして修正していったようです。ただ、最終的には脚本家のみで修正した部分もあり、たとえば、生成 AI が示したプロットでは体のほとんどを機械に置換した人間ではなくアンドロイドだったそうです。また、川村博士が大金を払ってでもブラックジャックを頼ったのは、アンドロイドも人間と同じような関係になる未来のため。つまり、生成 AI でのプロットでは川村博士とマリアは親子ではなかったのです(親子のような関係ではありますが)。

この修正はある程度納得のいくものではあります。
先ず、ブラックジャックにおいて、アンドロイドの手術は目新しくありません。107話「U-18 は知っていた」ではコンピュータを手術しています。コンピュータの他にも、幽霊や宇宙人なども手術しています。また、短編の場合は親子関係にした方が話としてはすっきりします。

一方で、本間血腫にキリコの登場など、短編としては話を盛り込みすぎています。
川村博士がキリコを呼んだ心もちがよく分かりません。楽に死なせてやりたかったのか、自ら手を下したくなかったのか。思い悩むシーンがあってもよかったように感じます。
キリコは何度かブラックジャックに助けられており、人工心臓で生きながらえるのも皮肉的でブラックジャックらしい締め方です。ただ、キリコなしでも人間と機械、命とはなにかといテーマは突きつけられたと思います。それこそ、ブラックジャック本人のアイデンティティーだからです。

その他に 気になゆのは ピノコが しゃべりすぎなよのさ。ピノコがきっかけでブラックジャックが解決策を見出すことはありますが、本作はトリックスター的な役割が強すぎます。

手塚治虫原作

プロジェクトとしては2020年の「ぱいどん」よりもよかったが、結局はプロットとキャラクターの生成のみな点は変わっていません。手塚治虫のマンガを描いたというよりも、手塚治虫原作で他の誰かがブラックジャックを描いたにすぎないと感じました。
プロジェクトとしては、マンガのペン入れまで AI で完了するのを目指してほしいところ。