ドラクエはなぜコマンドが多いのか

ドラクエって面倒か?

フィールドを歩くのも面倒くさいとまで書かれると、散歩好きで「♪知らない街を歩いてみたい」と思っており、故にオープンワールド系で歩きまわるのも楽しい自分は「え?まじで!?」と疑問と非共感な脊髄反射をしてしまったのが、よくよく思い返してみるとドラクエ位の規模のフィールドだとオープンワールド特有の探索する楽しさは無いよなと。

ドクラエは結構面倒くさい。特にFC版では町の人に話しかけるために、わざわざコマンドメニューを呼び出し「はなす」を選択しなければならない。しらべる際もメニューを開き「しらべる」を選択し実行する必要がある。ドラクエ1にいたっては、メニューを開き、「はなす」を選択してから「きた ひがし にし みなみ」と方向を定める必要がある。誰もいない方向を選択すると「そのほうこうにはだれもいない」と返ってくる。さらに、扉を開けるには「とびら」コマンドを選択しなければならないし、宝箱からアイテムを入手する際は「とる」を実行し無くてはならない。

SFCで発売されたドラクエも5からは便利ボタン押すとコマンドメニューを経由せずに「はなす」や「しらべる」が実行できるようになった。リメイク版の1・2や3にも導入され、以降のシリーズでも実装されている。

ドラクエ1はなぜコマンドが多いのか

ドラクエ1のコマンドはアドベンチャーゲームの文法に則ったものである。ドラクエ1は元々パソコン用RPGであったウィザードリィウルティマを元にしつつ、堀井雄二が家庭用のRPGとして開発したゲームである。家庭用RPGの操作系をアドベンチャーゲームのコマンドを参考にしてデザインしたのであろう。これは、犯人はヤスで知られる堀井雄二によるポートピア連続殺人事件を見ればよく分かる。ポートピア連続殺人事件には「ヤス」というコマンドがあり、それが「犯人はヤス」につながる所がゲームとしての肝なのだが、「犯人はヤス」が独り歩きしすぎてため、その点はあまり知られていないように思う。
アドベンチャーゲームではコマンドを実行することで物語を進める。以前は、コマンドもキーボードで直接入力していた。アドベンチャーゲームにおけるコマンドはゲームの世界に干渉する行為である。これはドラクエ1のコマンドも変わらない。ドラクエで人のいない方向に向かって話しかけると「そのほうこうにはだれもいない」と返ってくるのは、「プレイヤーである貴方は『はなす』コマンドを実行されました。コマンド入力は受け付けましたが、残念ながら話す相手がいないため実行することができませんでした」という意味だ。同じく、骸骨に話しかけると「へんじがない、ただのしかばねのようだ」と表示されるのも、「貴方は『はなす』コマンドを実行されましたが、残念ながら対象が一般的な死体であったため、応答がありませんでした。しかし、ただのしかばねでない場合もあるのでその限りではありません」という意味だ。桝田省治さんは、「へんじがない ただのしかばねのようだ」に詰め込まれた「珠玉のメッセージ」 とこの言葉により多くの意味を見出している。
「はなす」場合と「しらべる」場合で結果が変わってくるようなギミックは、ドラクエ5から実装された便利ボタンではできない工夫うである。つまり、ドラクエ1では「はなす」、「しらべる」、「とる」、「とびら」といった様々なコマンドを実行することで世界と関わっていたわけだ。コマンドがあることで、フィールドとしては決して広くないドラクエ1の世界が奥深いものになるのだ。

フィールドを歩く楽しさ

私は、ゲームのフィールドを歩くのが好きだ。ゲームでなくても、散歩が好きだ。歩いたことのない道を自分の足で踏みしめるのが好きである。散歩の楽しさとは何かと問われると、散策することで新しい何かを発見することだ。これはゲームでも変わらない。未だ見ぬ町、前人未到のダンジョン、珍しいアイテムを見つける楽しさがある。もちろん、強いモンスターとの遭遇も。これこそが冒険の醍醐味ではなかろうか。

ドラクエもフィールドを歩く楽しみがある。山岳に囲まれ歩いて行けない場所は、いずれ船などを入手すれば到達できるのだろうとワクワクする。丘の向こうとはそういうことだ。ドラクエ1に至ってはラダトームの目と鼻の先に竜王の城が見えるが、行けるようになるのはゲームも終わりの頃である。
シリーズを重ねるごとにフィールドは広くなっていったが、その分一度訪れた町同士を行き来することも増えてきた。現実ならまだしも、ゲーム内で同じ道を何度も通ると飽きてくる。ドラクエはそれを解決するために、3以降はルーラの仕様を一度訪れたことのある町に移動できるようにした。1ではラダトーム、2では最後に復活の呪文を聞いた場所に移動していた。
ゲーム機で扱えるメディア容量の増加に伴い、ドラクエシリーズのフィールドさらに広がる。PSで発売されたドラクエ7のフィールドはかなり広い。普通にプレイすると100時間くらい掛かるとも言われる。その要因の一つは石版探しであろう。2の紋章探しや、ヒントがあまりない3のオーブ探しも面倒であるが、7ほどフィールドが広いわけではない。また7は3Dのため、石版がオブジェクトに隠れてしまい回転しないと見つからないといった事例が稀によくある。
地図などを頼りに宝物を探すのは楽しいが、それがメインとなり石版を探さないとゲームが進まなくなるのは面倒に感じてしまう。FF9のここ掘れチョコボDQ9の地図によるダンジョンなどはミニゲームだから楽しいのだ。目標物を見つけるために冒険するのも面白いが、自由に散策し思いもかけない何かを見つけるのも楽しい。石版探しには後者がない。ワイルドアームズ3のサーチシステムも同様に自由に散策の楽しさがない。
ワイルドアームズ3のフィールドも、ドラクエ7のようなデフォルメされた3Dのフィールドであるが、他のRPGと異なり町やダンジョンの場所を聞き出し、その場所においてサーチしないと、町やダンジョンのオブジェクトが出現しない。アイテムも同様の手法で見つけることができる。ワイルドアームズ3のサーチシステムは、世界を探索することをゲームへ落とし込んだのだろうが、私としては面倒くさかった。聞いた場所の近くでサーチを行なっても、サーチ範囲内に入っていないとオブジェクトが出現しない事が多く、結局付近を連打する羽目になったり、聞いてもよく分からない場所の場合は行ける範囲で徹底的にサーチすることになったりしたからだ。
ドラクエ7の石版探しもワイルドアームズ3のサーチシステムも、目的を探さないと先に進めなくなってしまう。自発的に探しているというよりも、ゲームを進めるから仕方なく探していることになりがちだ。その点、スカイリムは歩きまわるのが楽しい。

マーカー表示は諸刃の剣

スカイリムは16平方マイルとされる世界を自由に歩き回れる。好きに散策していると、気になる建物や洞窟があったので寄ってみたらクエストが発生する。これこそが、何か新しいものを発見する楽しさだ。もちろん、ダンジョンなどのクエスト以外にも剣の刺さった白骨化死体を発見したり、人が住んでいたであろうあばら屋を見つけたりと、想像を掻き立てる物が多い。
オープンワールドはフィールドが広すぎるため、クエストの目標物にマーカーを表示させることが多い。地図でマーカーの場所を確認することもができ、目的地が分かりやすい。さながらGPSのようである。ゲーム上の表現としては、イベントに関わるNPCやアイテムの色を変えて目立たせたりすることもできるが、リアルに作りこまれたゲームでは不自然だろう。

ただしこのマーカー表示も度が過ぎるとゲームを単調なものにしてしまう。アサシンクリード1も地図上に種々の情報がアイコンで表示されるのだが、暗殺対象もGPSよろしくバッチリ表示させる。本来は鷹の目という、敵や見方、暗殺対象を色で見分けることができる能力を使って対象を探すのだが、GPSを使うとその必要が殆ど無い。つまり、GPSが答えそのものを掲載されていることになる。この点は2になり解消され、GPSでは対象がいる付近のエリアが表示されるようになっている。

ドラクエ7の石版をマーカーを用いて地図などに表示した場合も、答えそのものを表示しているため探す楽しみがなくなってしまうだろう。リメイク版に導入された石版レーダーのように、石版のある町やダンジョンで反応するような仕組みの方が探す楽しみが無くならなくて良い。

面倒事を省ける自由を!

最後に。
オープンワールドは好きであるがやっぱり同じ所を何度も行き来するのはやっぱりつまらない。現在、Borderlands2をやっているのだが、クエストによっては行ったり来たりすることが多いので移動が結構面倒くさい。移動する際は一旦セーブして、ロードし直した方が早い場合もある。その点、スカイリムはファストトラベルがあるので良い。オープンワールドにはデフォルトで入れて欲しい機能である。面倒くさいことを省ける選択肢があった方がプレイヤとしては嬉しいのである。
ドラクエもルーラの効果が変わったり、便利ボタンが追加されたり、ふくろでアイテムが持てるようになったりとプレイヤが楽になる機能が追加されている。昔のゲームが面白かったのは面倒事を忘れた思い出補正のこともあるので、注意したいところである。