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フランス語で「ウサギ小屋」である"cage a lapins"は都市型集合住宅を意味するか

"cage a lapins"というフランス語は、「都市型の集合住宅」といった意味 なるTumblerが流れてきたので、フランスと日本の集合住宅の関係性を元に類推してみました。

このTumblerは、「日本の家屋は狭い」という誤解 からのreblogで、さらに大元は『日本は世界で第何位?』(岡崎大五著・新潮新書)という書籍です。

日本の住宅はウサギ小屋と表現される

「日本の住宅は欧米でウサギ小屋のように狭いと評されている」
この初出は、1979年にEC(欧州共同体)の委員会がまとめた対日経済戦略報告書の内部資料の中にあった表現からで、日本でも報道され、「ウサギ小屋」は自嘲気味な流行語となりました。
「ウサギ小屋」の例え に色々な出典が引用されており、一部の資料でには報告書の原語はフランス語で"cages à lapns"と書かれていたとあります。

「『ウサギ小屋』は誤訳だった!」というようなことが書いてある本) によると、『『エコノミック・アニマル』は褒め言葉だった ー 誤解と誤訳の近現代史』(多賀敏行著・新潮新書) ではECの報告書はフランス語で記述さら英語に翻訳されたあります。この本によると、フランス語でウサギ小屋を意味する「cage a lapins」は、都市集合豪住宅を意味する俗語であるから、侮辱するニュアンスは無かったと説明しています。

しかしながら、ウサギ小屋(うさぎごや) - 語源由来辞典 でも説明されるように、"cage a lapins"に優劣が無くても日本の住宅が「狭い」と表現されたのは間違いありません。
それでは、日本の家は欧米と比べると狭いのでしょうか。

日本の家は狭いのか、広いのか

日本の家が主要国と比較して狭いのかは以下の二つの記事が参考になるかと思います。

日本の家屋の狭さは、欧州とあまり違わないようです。アメリカが平均的に広すぎるってことでしょう。
大都市で比較すると日本はかなり狭い部類に入ります。その代り、欧米の大都市と比較すると家賃の相場は安いです。
それでは、ウサギ小屋は単に狭いと言う意味なのでしょうか。

"cage a lapins"は都市型集合住宅を意味するか

「ウサギ小屋」出典は、Talk:Housing in Japan - Wikipedia, the free encyclopedia などによると、1979年のSir Roy DenmanによるECの報告書とあります。
Obituary: Sir Roy Denman | World news | The Guardian によると、Roy Denman はリバプール生まれのイギリス人のようです。イギリス人なのにフランス語で報告書を書いたのか、それとも元の資料がフランス語だったをDenmanが英語で報告したのかは原文が見つけられなかったので、よく分かりません。

原文は見つけられませんでしたが、以下の引用符で囲まれた部分が報告書の一文となります。

Japan as "a country of workaholics who live in what Westerners would regard as little more than rabbit hutches, who have only recently emerged from a feudal soviety"

訳してみると、「日本は、西洋から見るとウサギ小屋と思える家に労働中毒者が住み、ようやく封建社会から抜け出した国である」という感じでしょうか。かなり辛辣な文章です。

原文がフランス語だったとすると、"rabbit hutches"はフランス語の"cage a lapins"と表現されていたはずです。「『ウサギ小屋』は誤訳だった!」というようなことが書いてある本) によると、"cage a lapins"はフランス語で集合型住宅を表す俗語だとあります。本当でしょうか。

cage - traduction - Dictionnaire Français-Anglais WordReference.com など辞書を引いたりGoogleで検索した限りでは、"cage a lapins"が集合型住宅を意味する根拠が見つけられませんでした。少なくとも一般的に使われる成句ではなさそうです。

調べていくと、The Grands Ensembles によると"cage a lapins"が建築物を意味する言葉として使われたのは、1959年であることが分かりました。

The polemic began in 1959 with the publication in L’Habitation no. 72 of studies by four experts decrying the evil of the grands ensembles. It continued with a series of articles on the same theme in general-interest magazines, likening the structures to “rabbit cages” and lamenting “the madness of the grands ensembles.”

長いので、likening the structures to “rabbit cages” and lamenting “the madness of the grands ensembles.” の部分のみを訳すと、建築物を「ウサギ小屋」に結びつけ「グラン・アンサンブルの熱狂」を嘆いた、となります。文脈上"evil"なども使われており、「ウサギ小屋」="cage a lapins"はネガティブな意味として使われています。ニュアンスとしては、画一的な変化の無い集合住宅という意味でしょう。

この文章中では、グラン・アンサンブルを「ウサギ小屋」と評して非難しています。それではグラン・アンサンブルとはどのような建築なのでしょうか。

日本の公団住宅はフランスを参考にしている

グラン・アンサンブル(Grand ensemble — Wikipédia)とは、1950年代からフランスの郊外に計画され建造された集合住宅を指します。
ル・コルビュジエ - Wikipedia なども、都市計画に関わり集合住宅を建築しています。

日本の公団住宅は、UR都市機構|技術研究所|集合住宅歴史館 に書かれるように、ル・コルビュジエの元で学んだ前川國男が設計に関わっています。つまり、日本の公団住宅、つまり集合住宅はグラン・アンサンブルの影響を受けています。

以上のことから、日本の住宅事情を紹介する文章に置いて、なぜ"cage a lapins"が使われたのかが見えてきます。
報告書をまとめたのがフランス人だったのか、そしてその人が日本の集合住宅がフランスの影響を受けていたのかを知っていたのかも分かりませんが、日本の集合住宅がフランスのグラン・アンサンブルに似ているから、"cage a lapins"と報告したのでしょう。

まとめ "cage a lapins"はネガティブな意味である

"cage a lapins"の初出は1959年で、ECの報告書は1979年に書かれました。20年間で"cage a lapins"の意味がどのように変遷していったのかは分かりませんが、集合住宅と表現せずにわざわざ"cage a lapins"と書いたのは、含む所があったからでしょう。
元々"cage a lapins"は、画一的な建築を非難する文脈で使われています。フランスの画一的な建築物と似た、そしてそれよりも狭く、より均質な日本の集合住宅を見た人間が、わざわざ日本の住宅を"cage a lapins"と表現したのは、ポジティブでもニュートラルな意味では無く、やはりネガティブな意味を含んでいると考えるべきでしょう。

ところで、ウサギ小屋は非難するのに、仕事中毒とか、ようやく封建社会から抜け出したって点は非難しなかったのですね、と思いました。