第6回 旧スクウェアゲーム音楽を語る 「サラウンドな魔界塔士サガ」

はじめに

ゲームソフトは1989年12月15日発売で3,334円(税込み)。携帯ゲーム機初のRPGであり、スクウェア初のミリオン作品(110万本)である。2002年3月20日にWSC版がリメイクされ、現在では携帯アプリ等で遊べる。個人的には、GBのサガシリーズをまとめて一本のソフトとして売っていただきたい所存である。田尻智がGBでもアクション以外のゲームを作ることが出来ると気づかせ、ポケモン作成に向かわせたゲームでもある。余談だが、ポケモンは通信ケーブルを使い交換、対戦が出来るGBの利点を最大限に活かした屈指のRPGだと個人的に思っている。
ゲームシステムはFF2の延長線上にあるレベルの概念のないRPGであり、サガシリーズの基点となった。にんげん、エスパー、モンスターを操作キャラクターとして選択できる。モンスターは肉を食べて成長するという点が特徴的。また、アイテムは回数制限があり武器ですら使い捨てである。ストーリーはクリスタルが登場するなどややFFの影響が残ってはいるものの、神との戦い、様々な世界観などは、まさにサガシリーズの原点である。
ディレクターが後のサガシリーズを牽引する河津秋敏で、グラフィック担当ががSFC期のスクウェアを支えた時田貴司、シナリオなどは聖剣シリーズの石井浩一アクティブタイムバトルの生みの親である伊藤裕之と今から考えるとありえないくらい豪華メンバーで作られている。音楽はもちろん、ノビヨこと植松伸夫。FCとは異なる仕様で作曲には戸惑ったようだが、イヤホン対応によるステレオサウンド機能を活かしたBGMとなっている。全15曲と少ないが濃厚で聴き応えのある曲ばかり。タイトル画面で同時に「左+B+スタート」を3秒押してから離すことでサウンドセレクトが可能な裏技がある。当時は暇さえあればサウンドセレクトをしていたような気がします。サウンドセレクトしなくても、サガの曲が聞きたいという僕の要望を応えるかのごとく、サントラはGBのサガシリーズをまとめたサガ全曲集として1991年12月21日に発売元NTT出版、販売元アメリカーナ・レコードで発売された。実家には小さなレコード店しかなかったので、わざわざ取り寄せて買いました。生まれて初めて自分で買ったCDなのでお思い出深い。長らく絶盤だったが復刊ドットコムに数多くの要望が寄せられ2004年に再販されました。
今回は全15曲と少ないので、全曲紹介と行きましょう。

「伝説は始まる」

サガのカセットをGBの背面に入れ起動すると毎度お馴染みのNintendoのチローン!という効果音の後に静かに流れ始めるのは「プロローグ」。イヤホンで聞くと、最初は小さく左から、次に同じフレーズを右から輪唱されGBのサラウンドを使用した演出に痺れます。静かながら、物語のはじまりを思わせる力強い音楽です。また、左右にブワ〜ンと行き来するSEが聴く者の気持ちを緩やかに落ち着かせます。GBのサガシリーズのタイトル音楽ですが、2と3はそれぞれの作曲者によりアレンジされ曲名も異なる。個人的には2の「伝説は始まる」という名前が曲の雰囲気を表していて良いなと思います。
主人公を決めると流れるのは「メインテーマ」。1階の大陸世界や、5階の海洋世界でのフィールド音楽です。フィールド音楽にふさわしく軽快です。23階まで昇り、落とし穴に落ちた後に流れ始めると、今一度がんばろうと思える曲です。街に入ると「街のテーマ」が流れます。様々な世界における街で流れますが、温かみを感じる曲です。砂漠の中のオアシスのような、モンスターはびこる荒野の中にある癒しの空間にピッタリです。
フィールド音楽である「メインテーマ」に対して、裏のテーマ曲にあたるのが、塔の中で流れる「禁断の塔」でしょうか。軽快ではあるものの、塔の中のように暗く先の見えない不安を暗示しているような曲です。1階から昇り、3階の天国や4階の地獄に立ち寄り、5階へついた際に「メインテーマ」がながれると何故だかホッとします。
「Hurry up!」は10階の空中世界のフィールド音楽など。個人的には、16階の都市世界における地下鉄で流れるのが印象的です。10階で聞くと、グライダーで空を翔け、雲が流れるさまにピッタリだなと思う一方、16階の地下鉄で聞くと題名どおりに急がなければ!と思わせます。サガは曲数こそ少ないものの、同じ曲でもガラッと印象が変わったり、「メインテーマ」のように一本筋の通った曲があったりと背景曲の重要性を認識させる曲ばかりで本当に濃厚です。

バトル曲は「戦闘」。恐らく最も多く聞く曲ではないでしょうか。FFを手がけてきただけあって曲の入りは抜群。敵との対峙を思わせます。一旦曲調が落ち着きますが、嵐の前の静けさ、そしてどのように攻撃していくか作戦を立てる様を感じさせます。曲が動き出すとまさに戦いを思わせる激しさ。静と動が繰り返し、攻撃をして、受けるという寄せては返すかのようにめまぐるしい曲です。短い中にも一つの物語を感じさせる辺りは流石が植松さんかなと。
四天王などボス音楽は「激闘」。イントロが好きで、重圧を感じさせ圧倒されます。その後「戦闘」と同じく静かになりますが、こちらは主人公たちがボスの威圧に打ちひしがれていかのようです。しかし、終盤へかけての盛り上がりが一気に逆転への勢いを感じさせます。四天王などのボスは倒した後の演出もよく、吸い込まれていくかのように消えていく様は激闘への余韻を与えます。
勝利のファンファーレは、モンスターは倒した敵の肉を食べる事で成長するというサガシリーズのシステムそのものを名に冠された「Eat the meat」。GBのサガシリーズ通して使われています。

悲しいときには「涙を拭いて」

名曲とされる「涙を拭いて」も植松さんを代表する曲であろう。空中世界である10階にて、レジスタンスであるジャンヌがミレイユの身代わりになった際に流れます。植松さんは暗い、あるいは悲しい曲が本当に上手い。「涙を拭いて」のすばらしさは、先ず曲名が詩的で素敵です。導入部は悲しみを湛えたようなフレーズで、それが二度繰りかれますが、二度目はその悲しみを乗り越えようと、そして中盤から終盤にかけては悲しみから立ち上がるようです。曲名どおり、悲しいだけではなく勇気を奮い立たせるような曲です。その後、サガ2で伊藤賢治によりアレンジされ、ロマサガ1,2でも使用されています。
一方同じ哀しみの曲で全滅時に流れる「レクイエム」はただただ落ちていくだけの曲。19階のシェルターにてかくばくだんを手に入れる際にも流れるのですが、かなり精神的に来るイベントで、トラウマになりそうです。全滅したとき以上に精神的ダメージを受けます。曲の始めから絶望しか感じれず、救いが全くない。まるで悲鳴を聞いているかのようなイントロが終わると、絶望に打ちひしがれたようなメロディーが後を引きます。かくばくだんを手に入れても使ってよいものかと苦悩します。
そもそも、19階のシェルター内のBGMが本来は洞窟などで流れる「魔窟」というのも精神的に来ます。ダンジョンで流れる際はただただ暗く、じめじめした先の見えない不安感を煽るようです。一方、19階のシェルター内で流れると、こどものしたいと合間って、絶望の淵に追い込まれます。そして、奈落に突き落とす「レクイエム」の二段構え。この「魔窟」の使い方もサガのそして、植松さんの魔力なのでしょうか。

「魔界塔士」

多くの哀しみを乗り越えて主人公たちは真の塔へと挑戦します。真の塔で流れるのはゲームタイトルでもある「魔界塔士」。曲の頭はどこへ進んでよいのか分からず混乱しているかのようです。上昇を感じさせる曲調はまるでどこまでも続いているかのように感じられる塔をただひたすら登り続けるようです。そして、徐々に曲調は明るくなり頂上への希望が見えそうになるも、再度不安へと苛まれる。
「魔界塔士」が何度もリピートされ、長い長い本当の塔を登りきると流れるのは「最上階」。何もない真っ白な空間に流れるこの曲は同じフレーズを繰り返す事でプレイヤを不安に陥れます。そして、プレイヤの行き着く先にはシルクハットの男こと、塔を作り出したかみがいる。かみが淡々と語りだす塔の真実。淡々とした中に狂気が滲み出て、狂わせるような曲の雰囲気がマッチしています。真実を聞いた主人公たちは怒りにあふれ、そのままラストバトルへと突入する。ラストバトルは「激闘」。曲の入りは、主人公たちの怒りと共に、かみという絶対的な存在に対する畏怖を感じさせる。ハイペース名曲ですが、かみをチェーンソーで倒す人は特に感慨深い曲ではないかもしれません。しかし、チェーンソーを封印して挑むと中々の歯ごたえがあります。中盤の静けさもかみの攻撃である、くいあらためよ、ひかりあれを髣髴とさせる。サウンドが左右に振られプレイヤに揺さぶりをかけループしていく。曲名に相応しく「激闘」を堪能するためにも、チェーンソー無しで挑んでみてください。ふっかつによる全回復が鬼畜です。まぁ、かみをたおしたエフェクトが真っ二つになるので、かみならぬ「紙」をチェーンソーで倒すのがある意味正しいのかもしれませんが。

エピローグ

かみを倒すと「プロローグ」が再度流れます。主人公たちの新たなる旅立ちへの決意を思わせます。自分たちの世界に戻る事を決意した主人公たちと共にエンディング曲である「エピローグ」が流れます。「メインテーマ」→「涙を拭いて」→「プロローグ」のメドレーとなっています。まさに良い所取りですね。「プロローグ」へと立ち返る辺りが、実は2の製作を示唆していたのかなと思います。
サガは曲数が少ないながらも、同じ曲でも異なる場面で全く別の印象を感じたり、決まったテーマ曲が流れるたびにテーマ曲に沿った気分を想起させたりと、まさに背景曲の手本となるような曲ばかりです。

気になる次回は多分順番的にロマサガ2です。半熟英雄は作曲すぎやまこういち、サウンド・デザインが光田康典と豪華すぎるのでしばしお待ちを。