第2回 旧スクウェアゲーム音楽を語る 「音楽でも転機となったファイナルファンタジー4」

前回はロマサガのイトケンでしたが、今回はスクウェアとしても初のSFCソフトであるFF4。作曲はノビヨことゲーム音楽界の巨匠である植松伸夫さんで。

はじめに

ゲームソフトは1991年7月19日発売で9240円。同年10月19日にイージータイプが発売されています。イージータイプは低年齢向けに作り直されており、アイテムや魔法の変更・削除、セリフ直しなどがなされております。磁力の洞窟の難易度を下げるための「こぶたのしない」などが有名でしょうか。ちなみに、海外では2と3が発売されていないのでFF2として発売されました。イージータイプと同じ内容と言われますが、実際は違う仕様になっています。
その後、PSやWSCGBAに移植。GBAは折角の高音質が台無しなのが残念です。2007年12月にDSで3Dデフォルメキャラでボイス入りのリメイク版が発売されました。鹿賀丈史ゴルベーザは良かったですが、お目当ての「いいですとも!」はボイスなしでちょっと悲しくなりました。

サントラはパッケージ裏を見ると1991年6月14日発売とあるんですが、ゲームの発売日前なので実際はゲームと同じ時期に発売されたのではないかなと思います。出版は旧スクウェアお馴染みのNTT出版。販売元はアメリカーナ・レコード。カセットテープ版も発売されました。

ゲームとしては、アクティブタイムバトルが採用され戦闘にリアルタイム性が生まれた反面、「アクティブ」にするとコマンド入力中も敵が攻撃するため難易度が高い。また、FCからSFCへハードが進化したことからグラフィカルな演出が増え、FFシリーズが映画的になっていく基点となったタイトルでもある。これは音楽も同じで、SFC発売から一年にも満たない当時としては高温質な音である。FF4の音が高品質なのは、「アクトレイザー」の音楽を聞いて驚愕したスタッフが開発終盤にも拘らず音を一から作り直したからだとか。そのためか、サウンドエンジニアをはじめとしてスタッフは相当大変だった様子が、サントラのライナーノーツからうかがい知れます。ちなみに、ライナーノーツは「ハワイで作業をしてました」という妄想から始まり現状は一年間休みありませんでしたという植松さんの嘆きが書かれているのですが、その後本当にスクウェアはハワイにスタジオを作ることになるとは。まぁ、3DCGのスタジオなので残念ながら植松さんの妄想は実現しないのですけど(笑)。

無音で生きる楽曲

FF4は後のFFシリーズが映画的な方向に進む転機となったタイトルである。グラフィックも音質もFCに比べると格段に進化している。音楽の使い方も大変映画的だなと思わされる。その一つが「無音」である。FF4は「無音」を効果的に使うことでゲーム内のストーリーの盛り上がりと音楽をシンクロさせている。「無音」を使った演出により、楽曲が生きてくる。音を殺すことで、音が生きる。その例をオープニングで解説してみる。
ゲームをスタートすると「赤い翼(Red Wings)*1」が流れ始める。飛空艇は軍艦だからかマーチが良く合う。オープニングからプレイヤを鼓舞する曲だ。「赤い翼」がバックに流れながら、赤い翼の団長である主人公セシルは自身の任務の残虐性を思い返し国王の命令に不審を抱きつつ、バロン王国へ帰還する。場内では厳かな「バロン王国(Kingdom of Baron)」が流れ、出迎えの近衛兵ベイガンと共に王に謁見。ここで一旦曲が途切れ「無音」となる。ベイガンが淡々と王に報告している最中に、セシルは王の命令に疑問を呈する。すると、王は激怒、セシルは赤い翼の団長の任を解かれ、幻獣討伐を命じられる。事実上の左遷である。左遷を言い渡されると同時に「疑惑のテーマ(Suspicion)」が流れる始めるのだが、直前に「無音」状態があるが故に主人公セシルの王に対する絶望が生きてくる演出である。この「無音」の演出はその他、序盤では幻獣討伐後のリディア戦後や、セシルがパラディンになる時、フースーヤゴルベーザがゼムスを倒した後など様々な場面でみられる。「無音」があるからこそ曲が生きる演出だ。
また、曲を転換も上手くシーンによって同じ楽曲であっても印象がずいぶん異なる。オープニングの「赤い翼」はラストダンジョン突入時にも流れるのだが、プレイヤを奮起させるイントロはオープニング時とはまた違った印象を受けるだろう。
さて、オープニングの続きにに戻ると、セシルは明日に備え自身の部屋へ戻る。その途中恋人であるローザに出会い、ローザは後で部屋に来るという。自身の部屋に戻り床に入るセシル。床に入ると時計の音だけが部屋に響き渡る。そこへ訪れるローザ。そして流れる「愛のテーマ(Theme of LOVE)」。しかし、血で汚れたセシルはローザを受け入れることができず、ローザは「いくじなし」と残して去っていく。「愛のテーマ」はことあるごとに流れ綺麗な曲なのですが、この場面では暗黒騎士であるセシルの自分への嫌悪、劣等感が浮き立つように感じられる。「愛のテーマ」はFF4を代表する曲で、小学校の音楽の教科書に載ったり、DS版ではメインテーマのモチーフとされた。FFはこの頃か坂口氏が「愛」をテーマにしていたらしい。「愛のフライパン」というアイテムも登場しますしね。このように、植松さんは女性の曲が得意で「少女リディア(Rydia)」や「トロイア国(Troia Beauty)」などハーブを使った楽曲も綺麗ですね。
引き続きオープニング。夜が開け、カインと共に幻獣討伐へと向かう。城のグラフィックを背景に二人の運命が語られ、共に流れるは「オープニング(Prologue…)」と題されたファイナルファンタジーのテーマである。この演出は、何度見てもしびれる。FFシリーズでは物語が動き始めた際にファイナルファンタジーのテーマが流れるが、毎回使いどころがばっちりで盛り上げるのが本当に上手いなと感じる。

まさに神曲 「ゴルベーザと四天王のバトル(The Dreadful Fight)」

FF4において漫画的、というかジャンプ的演出だなと思わせるのは「ゴルベーザ」の存在である。序盤から黒幕として登場し、カインを操ったりローザをさらったりと要所で悪役っぷりを発揮しプレイヤの心に残る敵役である。まさに宿敵。しかし、最後には主人公に協力するというジャンプシステムである。
ゴルベーザの初登場はファブール城で、カインが裏切った後である。このカインとの再会、裏切り、そしてバトルの際も「無音」→「疑惑のテーマ(Suspicion)」という演出だが、不穏な空気を醸し出している。セシルとの戦いに勝利し、とどめさそうとするカイン。ローザに制止され、躊躇するカイン。そこで登場する黒幕ゴルベーザ。流れるは「黒い甲冑ゴルベーザ(Golbeza Clad in the Dark)」。重苦しくまさに宿敵にふさわしい音楽だ。初登場時からして、敵ながらかっこいい。
その後もコルベーザが登場する度に流れるが、また現われたか!と思うと同時に倒すべき強敵と認識させられる。特に、カルコブリーナ戦後に流れると「まさか!」と主人公たちとシンクロするだろう。また、「黒い甲冑ゴルベーザ」は編曲が多い。「ゾットの塔(Tower of Zot)」はのテンポの速い編曲であるが、こちらもゴルベーザを倒さなければ!と思わせる曲だ。そして、良く聞かないと分からないが実は「一方その頃(Somewhere in the World…)」も編曲となっている。こちらは、なにやら暗躍を感じさせる怪しい仕上がりだ。同じテーマを編曲によって異なる印象を与えつつ、軸としては一本筋が通り宿敵でると印象付ける演出で、この手法は後のFFシリーズでも良く見られる。特にFF8や10ではメインテーマの編曲が多く耳に残る。宿敵にテーマ曲を持たせるという手法も以降のシリーズでも見られ、特に「ビックブリッヂの死闘」が有名だろうか。これは、スターウォーズの、ダースベイダーが登場する際に流れる帝国マーチに相当するだろう。

ゴルベーザと言えば、「ゴルベーザと四天王のバトル(The Dreadful Fight)」も熱く重く、苦しい戦いになりそうだが絶対に負けられないと感じさせるバトル曲である。特定のボスには特定のバトル曲という演出は、敵のテーマ曲同様、宿敵、強敵、そして倒さなければならないとプレイヤを奮い立たせる。短い曲であるが、曲調は目まぐるしく変わり、曲の入りもさることながら中盤の徐々に盛り上がっていく感じも好きだ。ゴルベーザの部下である四天王やカルコブリーナの名前はダンテの神曲の地獄編に登場する鬼であるマレブランケの名前から来ており、「ゴルベーザと四天王のバトル(The Dreadful Fight)」はまさに「神曲」と言うのに相応しいであろう。私もFFのバトル曲でかなり好きな部類である。
ちなみに、カルコブリーナは「踊る人形カルコブリーナ(Dancing Calcobrena)」という曲と共に登場するが、なんとも妖艶で、これ以外にも、特定の踊り子やエロ本などのイベント時にも流れる。

暗い楽曲の中の明るいチョコボ

FF4はストーリーや音質の関係からか全体として暗い楽曲が多い。フィールド音楽である「ファイナルファンタジーIV メインテーマ(Main Theme of Final Fantasy IV)」からして暗い。良い曲で歌入りのアレンジバージョンも好きですが、それについてはいつか語ります。そんな中で一際明るいのがチョコボの曲群だろう。チョコボの曲はFF2から、デブチョコボはFF3と同じ曲であるがSFCなのでバージョンアップしている。また、FF4からは空を飛べる新種である黒チョコボが登場する。黒チョコボの曲は「サンバ・デ・チョコボSamba de Chocobo!)」。速い曲調は黒チョコボががんばって空を飛んでいるさまを表しているようだ。初っ端から笛の音が鳴り、サンバのリズムで体が勝手に動きそうになる。実はプリンプリンセス戦でも流れる。エンカウント後の「わたしたちと いっしょに おどりましょっ!」というセリフは曲とマッチしているのだが、キャラクターはバーサクで狂戦士化しているので、プレイヤはそれどころではない。「サンバ・デ・チョコボ」は、FF5以降の「○○○・デ・チョコボ」というチョコボアレンジ曲の最初である。FFだけでも、チョコボアレンジ曲でアルバムCDができる量存在する。

またしても、語ることがつきません。できれば、全曲語りたいところですが流石に長すぎますね。さて、チョコボのアレンジもそうですが、音楽の映画的使い方や、テーマ曲をアレンジする手法はFF4以降に多く見られるようになった。FFは4で漫画的、映画的ストーリー展開を獲得し、以降のシリーズの方向性を決定付ける転機となったが、これは音楽にも言えるのかもしれない。FF4の曲を聴くと、ゲーム画面あってのゲーム音楽だなと思うと同時に、ゲーム音楽あってのゲームの盛り上がりが、感動があるのだなと気づかされます。

さて、気になる次回は聖剣伝説2で行く予定です。

*1:DS版では赤き翼