MGSV TPPの感想と小島監督への思いを語る

METAL GEAR SOLID V (MGSV) THE PHANTOM PAIN (TPP)をクリアしたので、ゲームの感想とコナミをやめてしまった小島監督への思いをかたってみたい。

MGSからプレイしており、以降の作品はGBのゴーストバベルやGCのツインスネーク以外はスピンオフ作品も含めてプレイしています。AC!Dが好きだったのですが、続編は望めそうにないです。若干のネタバレになりますが、AC!D 2のストーリーはTPPと近いところがあります。小島作品としては、Z.O.Eの1のみで、それ以外は興味がないです。

MGS PEACE WAKER (PW)までは、発売日に購入してプレイするほど好きでしたが、MGSV GROUND ZEROES (GZ)以降は少し距離を置いています。その理由の一つは、自分の中でMGSサーガは4で終了しているから。ただし、PWに関してはMGSV TPPをクリアしてからだと、少しストーリーの理解が深まったかなと。

TPPは多くの矛盾を抱えているが「スネーク」から「ビックボス」への変容は描けている

メタルギアシリーズを時系列に並べると、MGS3、MGS PW、MGSV GZ、MGSV TPP、MG、MG2、MGS、MGS2MGS4ととなっている。METAL GEAR SOLID PORTABLE OPSMPO)は本来、MGS3以後の正当なサーガであったが、現在は外伝とされている。GBのゴーストバベルはMGS直後の話だがパラレルワールド扱い。AC!DとAC!D2はゴーストバベルと同じ世界を共有しており、時代設定としてはMGS4以降となる。また、METAL GEAR RISING: REVENGEANCE (MGR)は当初はMGS2と4の間の雷電を描く予定であったが、MGS4以後の物語となった経緯がある。

MGS3以降は、MGS2でぶち上げた愛国者達と、メタルギアシリーズの因縁であるビックボスのためのストーリーになっており、ナンバリングが進むにつれて、辻褄を合わせるために過去に無理が生じている。特に、MGS3愛国者達とビックボスの正体を明らかにしたのに、彼らが明るすぎて冷徹な愛国者達や、鬼神のようなビックボスへと変容する姿が全く想像できない。MGSVであるGZとTPPで一様の結末は着いており、ビックボスについては納得できるが、その周辺のキャラクターや設定は無理が過ぎるなと感じた。特に全てをスカルフェイスに集約させている点は余程まとめるのが大変だったのだろうと。
こじつけが酷くなる一因として、小島監督がキャラクターに寄った作品作りをせずに、舞台装置のためにキャラクターを容易に変容させるからだろう。これは特にMGSシリーズのトリックスターであり、影の主役であるオセロットに顕著だ。もちろん、彼自身がそのように演じている、という説明は作中でなされているけども、それも物語のこじつけのために導入した設定にしか思えない。。その一方で、スネークからビックボスへの変容をきちんと描けないのは滑稽にすら思える。

TPPの「ボス」は影武者であり、メタルギアソリッド・スネークが倒したのはその影武者の方で、FOX HOUNDの指揮官は本物であったことが明らかになる。この仕組みの構造はMGSらしいなと思った。
TPPにおける「ボス」は他の何物でも無いプレイヤー自身である。優秀ではあるものの「ビックボス」であると暗示をかけられるだけで「ビックボス」のように振る舞えるだろうか。この点は過去作品を踏襲した設定である。MGS2における雷電の受けたVR訓練やオセロットの自己催眠のような人格制御、AC!D2もスネークだと思い込まされた誰かが主人公であった。また、誰が「スネーク」なのかを考えて行き着き先は「プレイヤー自身」である。つまり、プレイヤーが操作している以上、雷電でもスネークだと思い込まされた誰かであっても「スネーク」になり得るのだ。その「スネーク」が「ビックボス」へと変容するのがTPPという作品である。
TPPにおいてプレイヤーの数だけ「ビックボス」が存在する。「ビックボス」の数だけパラレルワールドがある。そのパラレルワールドこそがFOBだ。他プレイヤーのFOBへアクセスするのにワームホールを使うのもパラレルワールドだからだろう。ブレイブリーデフォルトでも、プレイヤーの数だけゲームの世界がパラレルに存在することが描かれたが、TPPにおけるFOBはより直接的である。

TPPのボスが影武者であることが明らかになって後、本物に裏切られたと感じたカズがソリッド・スネークへ肩入れすることを語り、それに対してオセロットはイーライであるリキッドをサポートする将来を語るが、やや説明しすぎに思える。また、第三の少年がMGSのサイコ・マンティスであることも示唆されるが、MGSにおけるサイコ・マンティスのキャラクターとかけ離れすぎているなと。キャラクターの崩壊は、スネーク以外のキャラクターが、ザ・ボスも含めて、「スネーク」や「ビックボス」のために存在しているためだろう。
TPPは、メタルギアにおけるビックボスの誕生はスカルフェイスによるものであると語った。愛国者達のシステムもスカルフェイスの関与がある。シリーズ間における、多く不都合な齟齬をスカルフェイスへ集約させている。寄生虫も発想としては面白いのだが、メタリックアーキアや第三の少年にしても、スカルフェイス同様に万能過ぎる。

個人的には「スネーク」から「ビックボス」への変容を描こうとした点は評価したい。しかしながら、上記のようにその変容を描くために舞台設定や周辺キャラクターにさらなる無理を生じさせている。第三章が存在していたと噂されるが、果たしてその三章を無理なく描けたかは大いに疑問である。

ストーリーは暗い

ストーリーは暗い。それもあって中々手が出せないでいた。OPをがっつりプレイすると1時間くらいかかるのも長すぎて辛い。OPはストーリーの根幹に関わる部分ではあるのだけども、ゲームとしてはきちんとしたチュートリアルになってないし。
ストーリーの大部分はカセットテープで補完されるが、それならばスマホアプリで聞けるようにすべきだった。カセットテープによるストーリーの補完はPWからの要素で、MGS3までの無線に相当している。PWは携帯ゲーム機であるPSPでリリースされており、PSPWalkmanに見立ててカセットテープのみを聞くことができるのだけど、これを据え置き機でやるのは仕組みとして破綻していると思う。現代に置き換えるならスマホに相当するだろう。

ビックボスへ至る物語のため仕方がないのだが、ただただ暗く陰鬱とする。それを緩和するためのお色気担当のクワイエットなのだけど、豊胸したみたいな胸の造形は正直勘弁して欲しいし、お色気要素は正直引いてしまった。
MGS3までは「ギャグ」が作品に張り詰める緊張感やストレス、暗い雰囲気を緩和していた。これはPWも同じなのだが、MGSVでは全くそれがない。特にGZはただただ暗い。TPPにおける癒やし要素はクワイエットのお色気なのだろう。MGS3でもお色気はあるのだが、EVAとのそれはギャグ要素が強い。MGS4ではBB部隊としてより直接的にお色気要素を取り入れた。ボス戦ではアサシン クリードのような謎空間で、最終的にBBが果てるのだけど、自分としてはお色気というか、やはりギャグに感じた。
クワイエットは、スネークとキャッキャうふふな描写は痛々しくて辛かった。もちろん、クワイエットをはじめ本作の要である寄生虫の存在が、これまでのシリーズのボス達のようにギャグそのものなんだけども。

ボリュームは十分だがボス戦に不満

装備の開発は残っているものの、達成率は100%までやった。ゲームとしては十分に楽しませてもらったけども、MGSシリーズの名を冠したオープンワールドとしては不満が残る。

ゲームとしては据え置き機でリリースされたMGSよりは、PSP用であるMPOやPWに近いからだろう。ミッション毎に区切られており、また育成要素としてマザーベースがある。全体としては、PWとMGS4を組み合わせたように感じられる。
これまでのシリーズは周回プレイで遊んだが、本作は一旦クリアしたミッションを繰り返して遊ぶほどではない。 タスクにより同じミッションを何度か遊ぶように仕向けているが、それもやり終えると何度も繰り返すほどではない。ボリュームが多いので、何度も繰り返して遊ぶ必要もないのだが。最終的には、開発などに必要なゲーム内通貨であるGMPをひたすら稼ぐためにひたすらミッションをこなすだけになってしまう。

できるアクションも増え、GZでは無くなったノックも復活した。何より、義手のギミックが中々楽しい。お気に入りはZ.O.E.をモチーフにしたジェフティの義手。遠隔から敵兵を引き寄せられるのはちょっとチートじみている。使える武器は多種多様でカスタマイズもできるが、少々多すぎるかなとも。ライフルの系統が増えるのは仕方がないけども、微妙な違いしか無いものをわざわざ開発するのが面倒だ。

バディは便利すぎ。クワイエットは言うに及ばず。犬はレーダー敵に使え便利ではあるが、やたらスネークにまとわりつくため狙撃やCQCの際に邪魔になる。そのため邪険に扱っていたのだが、フルトン回収できるようになって、非常に役に立つようになった。

味方は多いのに敵の魅力が低い。これまでのシリーズのように魅力的なボスがいないのだ。ボス戦らしいボス戦も少なく、クワイエット戦とサヘラントロプス戦くらいしかない。イーライもボス戦ではあるがプレイ次第では一発で終わってしまう。スカルズがTPPにおけるボス戦にあたるのだが、これまでのシリーズのように一対一ではないし、戦わずに逃げることもできる。頭数が多く個性もないのでMGS4におけるカエル兵みたいに感じられる。ボスの魅力の無さはストーリーにも関わってくるが、燃える男も第三の少年にしても、きちんとした結着がつかないのもすっきりしない。スカルフェイス頼みになのに、リキッドやザ・ボスのように戦うこともないのがゲームを中途半端にしているのだろう。

できることや、マザーベースの管理などやることは多いのだが、肝心の世界がせせこましい。これはつまりMGSV TPPはオープンワールドなのかという点に行き着く。

オープンワールド

MGSV TPPはオープンワールドであることを謳っている。確かに、拠点へは色々な場所から潜入したり、種々の方法で攻略したりすることが可能である。昼と夜とでは拠点の様相は様変わりし、天気も変化する。これまでのMGSシリーズとは大きく異なり、本作の楽しみの一つである。しかし、やはりMGS TPPはオープンワールドである必然性が薄いし、オープンワールドと呼ぶには閉じられているし、道中でクエストが発生したりなどの偶然性はほぼない。「静かなる暗殺者」などのように、特定の地点に到達するとスタートするクエストやサイドオプスをもうちょっと用意すべきかと。オープンワールド的な要素として、申し訳程度に植物採取や動物保護なども可能であるが、植物採取は派遣ミッションなどをこなした方が効率が良いし、動物保護もゲージの設置場所次第で、散策中に捕まえられない動物が多すぎる。
一番ひどいと感じたのは、子どもでも越えられそうな段差に引っかかること。至る所にあるためストレスがたまる。崖などを越えられないようにするための処理なんだろうが、きちんと調整したのかと疑いたくなるくらいイライラする。

マップはただ広いだけである。アフガニスタンは岩しか無く、アンゴラはだだの湿地であり、移動する楽しさが全くない。苦痛ですらある。もっと楽なファストトラベルがあった方が良かった。
各拠点で段ボールの送り状を入手すれば拠点間を移動できるが、任意の場所から各拠点へ移動できるわけではない。少なくとも、特定の拠点や特定のランディングゾーンへは敵に見つかっていない状況なら任意の場所から移動できてもよかった。なぜ、ボス自身のフルトン回収ができないのか。

拠点のマップもざっくりしている。GZのような凝ったマップデザインの拠点はほとんどない。ノヴァ・ブラガ空港跡やアフガニスタン中央ベースキャンプなどがやや凝っているもののGZほどではない。少なくとも、MGS4におけるプラハのような都市部があればよかったのになと。OKB 0に関してはまっすぐ奥へ進んで行く当たり、これまでのMGSっぽく、第一章の最後に相応しいマップだなと感じた。アフガニスタンは岩場で囲まれているため、ミッションによってはこれまでの一本道なMGSシリーズっぽい。「蜜蜂はどこで眠る」などもこれまでのシリーズを彷彿とさせるマップ構成になっている。

オープンワールドという割には、ミッションの領域が制限されているため、自由にどこからでも始められるわけではない。一つの拠点のみで完遂するミッションも少なくない。ただし、カズを助けに行く「ダイヤモンドの犬」、油田施設を破壊する「漆黒の下」 などはエリアも広いため楽しめた。個人的に好きなミッションである。

MGSV TPPはオープンワールドとしての必然性がなく、ただ広いだけで代わり映えのしない練られていないマップを駆けずり回る羽目になる。シームレスなグロズニィーグラードのようなマップが欲しかった。メタルギアとしてのオープンワールドの答えがMGSV TPPだとしたら、とても残念だなと感じる。

メタルギアサーガと小島監督

小島監督コナミを去ってしまったため、彼がメタルギアを作ることはしばらくはないだろう。コナミからはサバイブがアナウンスされているけども。

小島監督はヒデラジにて007のように続いて欲しいと語っていた。その割には、当初正史扱いだったMPOを後から外伝としたり、MGRのプロデュースも一回頓挫し、プラチナゲームスからようやくリリースすることができた。個人的にはメタルギアを神話ではなくサーガにしたいのならば小島監督メタルギアから引くべきだと思っている。これ以上本編をこねくり回すことも無理だろう。MGRは当初謳われた剣激の爽快感という点ではイマイチであるが、バカバカしいストーリーは結構メタルギアっぽいと思っているので、プラチナゲームスがメタルギアサーガを引き継げば面白いことになるんじゃないかなと期待している。

コナミ小島監督を追い出した形である。ゲーマーとして見るとコナミは酷い会社である。現にコナミは多くのIPを死蔵させている。にもかかわらず小島監督の以内メタルギアのみ残してどうするのかという。
コナミは権利を抑えるくせにIPを上手く扱えない会社だなとつくづく思う。なんだよ、ときメモファンドって。
マリオにしてもドラクエにしても軸となるナンバリングは宮本さんや堀井さんなど中心となるディレクターが仕切っているが、スピンオフ作品も多い。コナミはどうにもそれが上手くいかない。コナミはプロダクション制を取っていたが、そのプロダクションの拘りが強すぎるのかなとも思える。
結局、プロダクションは解体され小島監督に限らず、多くの有名ディレクターやデザイナーが退職していった。しかも、円満多色という形ではない。小島監督も追い出された身であるが、彼はかつてコナミ執行役員で副社長でもあった。小島監督を被害者としてみるのには自分としては抵抗がある。コナミの社内プロダクションがなくなりIPを維持できなくなったのは、小島監督にも責任があるだろう。
小島監督は自身の手がける作品のディレクションには拘るが、MPOが正史ではなくなったり、MGRが頓挫しそうになったりと、プロデュースは上手くない。小島プロダクションによるキャッスルバニアは商業的には成功したけども、IGAこと五十嵐さんは退職してクラウドファンディングで資金を募りゲームを作ろうとしている。サイレントヒルズは制作中止になってしまった。Z. O. E. の続編が出ないのも、彼のプロデュースの問題だろう。 小島監督はしばしキャメロン監督と自身を重ねるが、ノーランの方に近いかなと思う。

小島監督は拘りが強すぎ完璧主義者である。彼自身もゲームだからこそリリースできるのだと語っていた。映画監督に憧れていたし、小説なども書いたことがあるそうだが、完璧を目指すため発表することができなかったそうだ。しかし、ゲーム場合は最終的に完成させるにはプレイヤーにプレイしてもらわなければならない。だからゲームの場合はリリースできるのだとヒデラジで語っていた。MGSVについても開発期間が非常に長い。リリースすれば回収できるであろうが、彼に全てを任せてしまうといつリリースできるか分からなくなる。博打みたいなものだ。

小島監督はコジマプロダクションを設立したが、拘りすぎて何もできないんじゃないかなと僕は思っている。余程体力のある会社や投資家出ない限り、コジマプロダクションに仕事を頼む派博打に過ぎるなと思う。

おすすめかと追われると微妙

ゲームとしてはやはり良くできている。できること、やれることも多くボリュームも十分だ。しかしながら、オープンワールドとして見た場合には不満が残る。多様な攻略法があるものの大雑把であるとも言える。
ストーリーはスネークがボックボスへ至る過程は描いていると思う。しかし、その周辺が愛国者達になっていく過程は納得できない部分が多いし、オセロットやカズなどのビックボス周辺のキャラクターは、スネークがビックボスになるために「配置」されているようでキャラクターの造形に違和感がある。何よりスカルフェイスが万能過ぎるのだ。その割に、他に魅力的な敵キャラクターがいるわけでもない。
やったことがない人に薦められるかというと、正直微妙である。他のゲームをやった方が良いと思う。

小島監督にしてもコナミを追い出された点は同情的に見られているものの、彼自身は取締役だった時期がある。彼自身がディレクションしたMGSシリーズは結果を出しているが、プロデュース作品は紆余曲折があってリリースされたり、頓挫してしまったりしている。MGSをもっと広く展開する方法もあったはずだ。これらの点を考慮すると、コナミの現在の状況は小島監督にも責任の一端があるだろう。
小島監督は完璧主義者である。しかし、一人の人間が目をかけることができる範囲には限界がある。人に任せることができないためプロデュースは上手くないのだろう。さらに完璧に仕上げるには時間がかかる。新生コジマプロダクションも、作品はいつ出てくるやら。

私自身はメタルギアをサーガとして続けていくならば、小島監督は手を引くべきだと思っていた。とは言うものの、コナミに自社IPをきちんとハンドリングできる能力があるようにも思えず、正直微妙だなと思っている。