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若者の○○離れ 傾向と対策

若者の○○離れの4つの傾向

「若者の○○離れ」と言われて久しいですが、その多くは 『若者の○○離れ』という「天狗の仕業」*1 で、分析にすらなっていないものばかりです。
碌でもない「若者の○○離れ」の傾向と対策は以下の4つに分類できます。

1. 過去と比較しない
2. 若者の人口減少を考慮しない
3. 他の年齢層の減少を無視する
4. 印象で語る

それぞれについて、具体例を示しながら説明していきます。
4つの傾向と対策を述べたら、若者の○○離れがいつ頃から使われるようになったのかを分析します。

1. 過去と比較しない

若年層の比率や絶対数が他の年齢層と比較して少なかったので「若者の○○離れ」と結論づける場合。
30代以上もかつては20代だったのだから、20代での割合が低いのは若者が離れたからだ、という考察は正しいでしょうか。調査した内容が年齢上昇に伴い増える項目の可能性があるため、過去と比較しなければ若者が離れたとは言えません。
例えば、持ち家率や結婚率、そして離婚数などは年齢が上なほど増えるはずです。本当に若者が離れているのか見極めるには過去のデータと比較しなければなりません。

最近だと 若者のクレジットカード離れが顕著に?20代男性のカード所有率は73.8%と、一般平均の86.8%を大きく下回る結果に(JCBの統計結果)! がまさに「1. 過去と比較しない」例です。過去と比較せずに、他の年齢層と比較しただけで若者のクレジットカード離れと述べています。クレジットカードの読みものというブログタイトルなのだから、クレジットカードのことくらいまともな内容を書いていただきたいものです。

JCBが行った過去の調査結果と比較して、本当に若者のクレジットカード離れなのかを考察します。2005年度から2014年度の20代の男性と女性、および全年齢のクレジットカード保有率を抜粋します。2011年度は調査をしたようなのですが、データが見つけられませんでした。もし見つけた方がいましたらお知らせしてくれると助かります。

年度 男性 女性 全年齢の平均
2005年度版 77.0 77.0 85.9
2006年度版 68.5 78.1 83.8
2007年度版 72.5 78.3 84.9
2008年度版 68.8 78.5 85.1
2009年度版 71.5 74.1 82.8
2010年度版 80.9 81.9 90.4
2011年度*2 88.1*3
2012年度版 74.1 77.2 87.4
2013年度版 72.2 77.2 86.6
2014年度版 73.8 79.3 86.8

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傾向として見て取れるのは、20代男性よりも女性の方が保有率が高いこと。年度毎だと、女性は77%前後で横ばいですが、男性の割合はかなりのばらつきがあります。2005年は77.0%だったのが、翌年には68.5%と10%近く減少。その後2009年まで70%前後だったのが、2010年では80.9%と10%以上も増加しています。2011年の調査結果はありませんが、2012年には74.1%に減少し、その後は横ばいです。
たった一年で10%も増減するのはおかしな話です。平均を見ても2010年が突出して高い結果となっています。20代男性と全年齢の平均の変動は一致しているような、一致してないような。どちらにせよ、この調査結果から、若者のクレジット離れと結論付けるのは難しいと考えます。

また、全年度で20代の保有率は一般平均よりも下回っています。これは、若者のクレジットカード離れはミスリーディング。突っ込みどころが3点程 にも書かれているように、若者ほどクレジットカードの審査に通らないからでしょう。

2. 若者の人口減少を考慮しない

過去とは比較しているものの、絶対数が減少しているから若者の○○離れと結論づけている場合。
日本は高齢化社会です。出生率も減少傾向にあります。若年層の人口は年々減り続けています。それを考慮せず、絶対数のみで比較するのは愚の骨頂です。年度別での若者の絶対数や全人口における割合を考慮しなければなりません。

2015年の干支は未年ですが、統計局のデータによると年男、年女である 未年生まれの人口は1007万人 です。最も多いのは1967年生まれの48歳で188万人、次いで1943生まれの72歳が164万人。3番目に多いのが1979年生まれの36歳で160万人。158万人と僅差で1955年生まれの60歳が続きます。5番目はぐっと減り1991年の24歳が124万人、2003年生まれの12歳は111万人で、90万人いる1931年生まれの84歳よりもわずかに20万人多い程度です。
年代別の比率を考えずに絶対数のみで比較し、若者の○○離れと結論づけるのは実に愚かなことです。

「2. 若者の人口減少を考慮しない」例として、(cache) なぜ若い人たちは海外に行かなくなったのか 危機意識を募らせる国と旅行会社 (幻冬舎plus) を挙げます。

渋谷和宏さんが「若い人たちは海外に行かなくなった」と微妙な説を披露した件で でも解説されてますが、若者の海外旅行者数が減っているのは、若者の人口減少が原因です。割合で考慮した場合は 若者の海外旅行離れって本当? トリップアドバイザーのインフォグラフィックスで世界の旅が見える にまとめられていますが、海外旅行へ行った若者の割合は18%でほぼ横ばいです。つまり、若者の海外旅行離れとは言えません。

3. 他の年齢層の減少を無視する

過去のデータは参照しているけれども、他の年齢層と比較しないで若者の○○離れと結論づける場合。
全体が減少傾向にあれば、若者の割合が減るのもあたり前。それなのに、他の年齢層と比較せず若者の○○離れと分析するのはおかしな話です。
「3. 他の年齢層の減少を無視する」に分類されるのは、車離れ、アルコール離れ、音楽離れでしょうか。どれも、若者に限らず市場自体が減少傾向にあります。

例えば、喫煙率は減少傾向にあります。全体が減少しているのに、若者にだけスポットを当てるのは視野狭窄です。流石に、若者のたばこ離れを見出しとしているのは 【煙草】「若者のタバコ離れ」  5月のたばこ販売8.9%減 2ヶ月連続のマイナス : watch@2ちゃんねる のように見出しをロンダリングした2ちゃんねるのスレや、知恵袋での釣りくらいしか見つかりませんでしたが。

4. 印象で語る

「3. 他の年齢層の減少を無視する」はしばしば「4. 印象で語る」も併発します。「4. 印象で語る」はデータすら示さないので論外です。例えば 酒類市場の縮小止まらず、若者のアルコール離れなどで - Business Media 誠 では、若者に関するデータが全く示されていません。

アルコール離れに関しては、飲酒 喫煙 統計 | 健康Salad での調査にあるように、20代に限らず30代、40代の飲酒習慣が減少傾向にあり、若者に限った話ではありません。
他の年齢層の減少傾向を無視し、印象論で「若者の○○離れ」とする例がもっとも多い気がきます。

若者の○○離れはいつ頃から頻繁に叫ばれるようになったのか

若者の○○離れはいつ頃から使われるようになったのでしょうか。

「○○離れ」といえば「活字離れ」が思い起こされます。年齢層は限定されませんが「活字離れ」と言えば、子ども、学生、つまり若者を指すことが多かったのではないでしょうか。ただその実際は 活字離れ - Wikipedia にまとめられていますが、データを見ると活字離れ、特に若者の活字離れも「4. 印象で語る」場合が多々あります。
最近だと本当の意味で「活字」を読んでる人の割合は減っているのは間違いないでしょうが。

「活字離れ」は暗に若者を指すため、わざわざ「若者の」を文頭に付ける必要がなかった側面もあります。また、2002年8月の月刊基礎知識において、〈ブーム〉の反対語=〈××離れ〉〈脱××〉〈失われた××〉の用語集 なる特集が組まれています。種々の「○○離れ」が挙げられていますが、ここでも「若者の○○離れ」とわざわざ若者に焦点を当てた記事は多くありません。もちろん、暗に若者が離れたことを示唆している記事もありますが、現在のように「若者の○○離れ」なる用例があふれてはいません。

それでは「若者の○○離れ」と、特に若者にスポットを当てるようになったのはいつ頃なのでしょうか。

若者の理科離れ

1993年(平成5年)の 平成5年版科学技術白書[第1部 第1章 第1節 1] では「若者の科学技術離れ」についてまとめられています。
確かに、1981年と1991年とを比較すると20代のみが科学技術への興味を持つ人の割合が減少しています。また、理工学部の入学志願者の割合や、その卒業生が製造業へ就職する割合も年々減っています。
理工系への入学志願者の割合が低下したのは、人文系や国際、経営学などの学部が多様化し始めた頃だと思われ、単純に選択肢が増えただけの可能性があります。また、製造業への就職率低下は、業態変化などもあり大卒の人が就職するにはミスマッチになり人気が低下したとも考えられます。
科学技術白書の分析に疑問はありますが、80年代から90年代にかけて科学技術に興味を持つ20代の割合が減ったのは事実でしょう。

その後「科学技術離れ」は「理科離れ」として広まっていきます。1996年2月28日に朝日新聞出版より 理科離れの真相 が発売されています。時期的に、先の科学技術白書などを受けて書かれた本でしょう。また、1998年9月17日には、1998年秋季第59回応用物理学会学術講演会 においてシンポジウム "若者の理科離れ調査(物理教育小委員会活動報告)"が開催されています。

90年代後半より「若者の理科離れ」を受けて「若者の○○離れ」というジャーゴンが徐々に広まっていったようです。例えば、1999年11月10にFNS系列で放送されたと思われる 米と酒 ~夏田冬蔵の世界~ は「若者の日本酒離れ」を追ったドキュメンタリーです。
また、保険屋さんのひとりごと (若者の保険離れ) は2000年7月13日付けの記事となっています。

2007年 若者の○○離れブーム到来

2000年代前半より、じわじわと浸透した「若者の○○離れ」ですが、この時点では現在ほど頻繁に目にしたり耳にしたりするほどは広まってはいません。
メディアで目にするようになったのは、2000年代後半からでしょうか。2005年9月5日には琉球新報若者の政治離れ・あきらめてはいけない が叫ばれています。若者の政治離れは、これより以前からも言われたいたような気がしますが。

現在のように、ビジネスやマーケティングの分析として「若者の○○離れ」がもてはやされるようになったのは2007年からです。以下に示すように、2007年から「若者の○○離れ」を見出しとする記事が顕著に増えています。

Googleトレンドで調べてみると、2007年から2008年にかけて「若者の○○離れ」が頻繁に使われるようになったと考えられます。かれこれ、7,8年前で、その頃から「若者○○離れ」を叫びながら一向に解消されないのは、まるで成長していない。


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まるで成長していない

2000年代以前から「○○離れ」なる言葉は使われていました。しばし暗に「若者」が離れていることを指しましたが、わざわざ「若者の」と付けられることはありませんでした。2007年頃からマーケティングにおいて、しばし「若者の○○離れ」がもてはやされるようになり現在に至ります。8年前からと考えると、まるで成長していないってことですね。
その理由としては、「若者の○○離れ」を論じる分析が以下の4つの傾向にあるため。

1. 過去と比較しない
2. 若者の人口減少を考慮しない
3. 他の年齢層の減少を無視する
4. 印象で語る

データをきちんと分析できなければ、有効な対策を打てるはずがありません。
過去と比較しないのは、そもそも若者に人気があるのか、若者に購買力があるのかを考慮していません。単に年齢と相関関係のあるデータに過ぎない場合もあります。
若者の人口減少を考慮しないのは、購買者数の減少を直視していません。
他の年齢層の減少を無視するのは、業界全体の斜陽に目を向けるべきです。もちろん、若者に人気がでなければ将来もないのは確かですが。
印象論は論外ですね。

皆さんも「若者の○○離れ」に踊らされないように気をつけましょう。

*1:空気を読まない中杜カズサ

*2:調査はしたようだが結果が見つけられず

*3:2012から2014年度の報告書より