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チリのサケ養殖について調べてみた

ハフィントンポストの 日本のスーパーで売られているチリ産の鮭を地元の人が食べない理由 | 菊池木乃実 では、サケの餌、殺虫剤、抗生物質による汚染の点からチリで養殖されたサケを地元民は食べないと書かれています。
これに対して、水産商社を名乗る人が チリでサーモンは大人気の高級魚!サーモン記事のここがデマだ! - サーモンガレッジ! において、サケが養殖しやすい魚であることから反論しています。両者は微妙にかみ合っていないように感じられます。
ハフィントンポストは伝聞や地元民を使って自分の意見を書いている点が信用に値しないなと。一方で、水産商社の方も地元の養殖業者の声という点で信用度はどっちもどっちかなと。

パタゴニアの人がサーモンを食べない理由は、環境汚染云々よりも地域的なものや価格的なものじゃないかなと。アルゼンチンとの国境近いパタゴニアとサケの養殖が行われているチリの西海岸では食文化も魚介類の価格も異なるでしょう。

チリにおけるサケ養殖の問題点

チリにおけるサケ養殖の問題点は http://www.parc-jp.org/kenkyuu/2008/chile-salmon2006.pdf が色々な地元住民の声を拾い上げて、良くまとまっています。調査研究│PARC NPO法人アジア太平洋資料センター による2006年の報告書で、大きく5つの問題点が指摘されています。飼料転換率の問題点、海洋汚染、殺虫剤・抗生物質の使用が不可欠、劣悪な労働環境、行政能力の不足の5つです。

チリで大量死が続発、サケ養殖が一因か | ナショナルジオグラフィック日本版サイト にあるように、2016年現在でもチリ付近の海洋汚染は依然として問題となっています。
2015年の在チリ日本大使館の報告書である http://www.cl.emb-japan.go.jp/doc/1508_eco.pdf によると、米国のコストコ寄生虫を理由にチリ産のサケの取り扱いを停止しています。海洋汚染や寄生虫などの問題は解決されていないようです。

本稿では、ざっくり飼料転換率、海洋汚染、殺虫剤・抗生物質の3つを記しておきます。

飼料転換率の問題点

水産庁/(1)養殖業の経営 にも取り上げられるように、ノルウェーにおけるタイセイヨウサケの養殖は増肉係数(飼料転換率)は1.2と極めて高いです。先のNPOのまとめでも、チリでの増肉係数は1.4と低い値を示しています。

増肉係数が極めて高いのは、飼料の改質が行われた結果でもあります。この手の係数を考慮する場合、比較したい対象を見定める必要があります。例えば、鮮魚と乾燥させた魚粉とでは、後者の方が増肉係数は低くなります。養殖の効率を比較する場合、鮮魚でない飼料を扱えた方がコストを抑える面で有利です。
結果として、増肉係数が低い方が価格を抑えられます。
ただし、増肉係数が低いから必ずしも資源を効率的に用いているとは言えません。資源が効率的に利用されているかは、加工される前の飼料の重量から算出すべきでしょう。つまり、加工後の飼料から求められるのは、見かけの増肉係数と考えることもできます。これは養殖や畜産でも問題になる点です。肉牛を育てるためには多くの飼料が必要になります。得られる食糧の総量を比較した場合、肉牛を育てない方が多くの人間を養えるでしょう。もちろん、この比較は経済面の効果を無視しています。

実際は、経済的な効果も検討されるべきです。NPO法人の報告書では、漁業との関係が検討されています。また、食用とならなかったサケはサケ用以外の飼料に転用されています。
飼料による共食いは、狂牛病でも問題視されたことですが、畜産や養殖につきまとう問題です。飼料の循環を考えるに、食品連鎖として、どこまで自然なのかを線引きするのも簡単ではありません。この点は、サケの養殖のみでクローズアップされる問題でもないででしょう。

海洋汚染

チリで大量死が続発、サケ養殖が一因か | ナショナルジオグラフィック日本版サイト でも述べられるように、赤潮が発生するメカニズムは複雑なため、サケの養殖だけに原因を求めることはできません。赤潮:文部科学省 にあるようにノルウェーやカナダでも赤潮は発生しています。一方で、魚種別に見る水産資源の現状と問題/サケ|持続可能な漁業の推進|WWFジャパン によると、チリではサケの養殖により周辺の海域やパタゴニア湖の環境汚染が問題視されています。

海洋汚染の他にも、養殖のサケが天然に放流されることも問題になっていますノルウェーでは、問題解決に向けて取り組みが行われています。

殺虫剤・抗生物質の使用

養殖である以上、殺虫剤や抗生物質を使う必要があります。一方で、その使用方法や量は制限されるべきです。

チリのサケ養殖は、北半球にしか存在しない病気や寄生虫とは無縁のはずでした。しかしながら、チリの業者はこれらの病気や寄生虫に悩まされています。例えば、海シラミは南半球のチリにはいないはずです。しかし、北半球のサケ以上に海シラミに寄生されているのが現状です。
この点において、ハフィントンポストの以下の認識は誤りでしょう。

このタイプの寄生虫は、ノルウェー、アラスカなどにはいないので、殺虫剤を使う必要はないとのことです。

海洋汚染などは依然として問題のよう

報告書によると、海洋汚染に関しては、種々の要因が重なった結果だと考察されています。養殖場の水深が浅く、流れも少なく、水温が高く、魚の密度が高く、餌が残ることなどがあげられています。
ハフィントンポストの記事と水産商社マンのブログから読み取れるのは、サケの密度が高すぎる点だと感じられます。サケの密度が高ければ、病気にもなりやすく、水質が汚染されやすくなるのも道理かなと。

ハフィントンポストでは、養殖のみが付近の漁業に影響を与えたと指摘していますが、先の報告書では大型漁業の影響も懸念されています。
また、チリにおけるサケ養殖は、ノルウェー、日本、アメリカなどの資本が投入されています。 特にサーモンをブランドとして確立したノルウェーの資本が多く投入されているはずなのですが、ノルウェーでの経験が生かされていないように感じられました。

煽りすぎも良くないし、贔屓の引き倒しも良くない

ハフィントンポストの記事は煽りすぎ、水産商社の方はチリと他の国でのサケ養殖の違いをもっと誠実に書くべきかなと感じました。
つまりは、チリ政府の行政能力に問題があるのかなと。