ケータイが「上流」になる日

ネット配信で音楽CDの生産額は減少したのか?

これからの音楽配信は携帯電話が席巻するのかしら?」にて同趣旨の記事を書きましたが、まとまっていなかったので再編集。

音楽CDとネット配信の生産額と売上

以下に、社団法人 日本レコード協会|各種統計より作成した2006年の音楽CDとネット配信の生産額と売上をまとめた。

数量 金額*1
音楽CD シングルCD 6700万枚 508億円
アルバムCD 2億2000万枚 2900億円
合計 2億8700万枚 3408億円
ネット配信 モバイル 3億3600万件 484億円
インターネット 2400万件 50億円
合計 3億6000万件 534億円

*1 音楽CDは生産額、ネット配信は売上

ここで、ネット配信におけるモバイルとは携帯電話の着歌と着メロのことである。
ちなみに、ちなみに、1997年のシングルCDの生産枚数は1億6000万枚で生産額が1040億円。アルバムCDは2億9000万枚で生産額が4600億円。アルバムCD自体の生産枚数は減ってませんが、単価が下がっているためか生産額は半減しています。

一つのデータの見方

  • シングルCDの生産額508億円<ネット配信の売上534億円
    • シングルCDの生産額508億円>モバイル経由のネット配信の売上484億円
    • ネット配信の9割はモバイル経由で、それは着メロ・着うたである
  • シングルCDの生産枚数6700万枚<モバイル経由のダウンロード3億3600万件
    • 携帯電話が7000万台と仮定すると、一台あたり年に4〜5曲ダウンロードしたことに
    • モバイル経由の方が楽だからか?
    • レンタルCDについても考慮する必要がある
  • 音楽CDの生産額3408億円>ネット配信の売上534億円
    • アルバムCDを加えると、音楽CDの方が市場は大きい
    • ネット配信の内インターネット経由は50億円程度。mp3プレイヤ等で聞いている人と思われる市場は音楽CD市場に遠く及ばない。
  • 1997年のシングルCDの生産額1040億円≒2006年のシングルCDの生産額+ネット配信の売上=1042億円
    • 着メロ・着歌をシングル曲と考えると、シングル曲の市場自体は変わっていない?

そもそも、生産額と売上を一律に比べて良いのか?レコード会社の利潤と言う観点で見れば、生産額<売上ではないのか?

シングルCDの生産額減少は携帯電話の影響が大きい

結局の所、音楽CD市場は3400億円で、ネット配信は534億円。全くもって勝負になっていないにもかかわらず、ネット配信が音楽CDの生産額を抜いたというのは恣意的過ぎる。また、シングル曲のみで考えても、1997年のシングルCDの生産額がおよそ1000億円で、2006年のシングルCDとネット配信を合わせた額とほぼ等しい。音楽業界は全然衰退などしていなかったのだ。
結局の所、「ネット配信でCDの生産額が減少した? ちょっと違うんじゃない?」と同じことを書いてるんですが。
ただし、やはり気になるのは「音楽CDが売れないそうですが」でも述べたように、音楽CDの購買層に占める携帯電話の支出の関係の方が気になります。音楽CDを買う層は若年層というか学生であると考えられ、学生にとって音楽CDを買うのは、流行の曲について話したり、カラオケ行くための準備だったりと、ある種の交友費です。携帯電話の登場以前と以後では、学生の交友費おけるシングルCDの割合は減るでしょう。
過去10年間のシングルCD生産実績を見れば、2000年〜2002年に生産額が激減しています。一方、携帯電話界は1999年に携帯電話からのインターネット接続サービスが開始され、 2000年に写メール端末が発売されました。この頃から大学生→高校生→中学生と携帯電話が普及したと考えると、学生の交友費における携帯電話に占める割合が増えたためシングルCDの生産額が下がったとも言えるのではないでしょうか。
さらにそれに加えて、着うたはCDシングルの後継 その1その2その3でも考察されるように、若者の間で着うたがシングルCDに取って代わったのも原因と言えるでしょう。事実、着うたが始まったのは2002年〜2004年からであり、これもシングルCDが下がった時期と若干ながら一致する。
そして、シングルCDのミリオンが無い時代にもかかわらず、宇多田「着うた」発売前に200万件とダブりミリオンだそうです。これを見ても、如何にシングルCDを買っていた層が着うたなどに流れたのかが分かりますね。携帯電話のお手軽さもあるんでしょうが。

携帯電話とシングルCDの関係

シングルCD

生産額
携帯電話

契約数
ネット配信

売上
ミリオン

シングル数
1997年 1040億円 2874万台 - 16
1998年 955億円 3900万台 - 14
1999年 1009億円 4848万台 - 11
2000年 974億円 5819万台 - 14
2001年 803億円 6732万台 - 4
2002年 605億円 7377万台 - 1
2003年 544億円 8016万台 - 1
2004年 519億円 8546万台 - 0
2005年 486億円 9018万台 342億円 0
2006年 508億円 9493万台 534億円 1
シングルCDの生産額は過去10年間のシングルCD生産実績より
携帯電話の契約台数は携帯電話・PHS契約数ページより。
ミリオンシングル数は1980年〜2005年 シングル年間ランキング1位と100位より

*単位は携帯電話が10万台。シングルCDの生産額が億円
恣意的な年表

  • 1997年 国内オーディオレコードの総生産実績は、4億8070万枚に達し、この年がピーク
    • シングルCDの生産額は1040億円
    • シングルCDのミリオンが16作品
  • 1999年 マキシシングルの時代
    • 携帯電話からのインターネット接続サービス「iモード」、「EZweb」、「J-スカイ」開始
  • 2000年 ミレニアムとY2K問題
    • J-PHONEから携帯電話では初のカメラ付き携帯電話が発売される。
  • 2001年 mp3プレイヤの足音
    • WinMXが最も多く使われるファイル共有ソフトに。ただし11月に逮捕者が出る。
    • iPodが発売。
    • シングルCDのミリオン数が14作品から4作品と激減。
  • 2002年 日韓W杯
    • Winnyが開発される。
    • 各社がCCCDを導入。
    • auで着うた開始。
    • シングルCDの生産額が前年比から25%(803億円→605億円)も落ち込む。
  • 2003年 音楽ネット配信の夜明け
  • 2004年 シングルCDのミリオンセラーが皆無
  • 2005年 iPodの台頭
  • 2006年 「続きはwebで」CMの増加
    • auより音楽配信サービスLISMO開始。
    • docomoより着うたフル開始
    • ネット配信の売上がシングルCDの生産額を上回る。

転換期は2001年〜2003年か?

ネット音楽配信は携帯電話が席巻するのだろうか

シングル曲自体の市場は結局10年前と変わっていないのですが、今後シングルCDの生産額が減りネット配信の方が増えることは間違いないでしょう。そして、ネット配信の携帯電話に占める割合の方が依然大きいままではないだろうか。それは、各社が音楽ケータイなどを売り出していることからも予想できる。また、レコード会社としては中抜きの出来るネット配信に力を入れた方が利鞘が大きい。しかし、ネット配信には著作権保護の問題が付きまとう。そこで、レコード会社は著作権保護のし易い携帯電話での音楽配信の方により一層力を入れるのではないか。つまり、今後ネットによる音楽配信は携帯電話が席巻するんじゃないか。

あらゆるコンテンツが携帯電話に集まるかも

音楽配信が携帯電話に集中するだけでなく、あらゆるコンテンツが携帯電話に集中するとも予想できる。これは、ワンセグは月に4時間利用と、携帯電話サービスにおけるワンセグの割合が非常に高いこと及びパソコン見放す20代「下流」携帯族で危惧されるようにケータイ族の登場により十分に考えられる。何せ、携帯電話は国民が一台持つくらいに普及している。台数としても十分に確保できている。例えば、ゲームにしても既存の最も売れているゲーム機向けにゲームを作るよりも、携帯電話向けにゲームを開発した方が母数が断然多い。特に、ネットゲームに関して言えば携帯電話のほうがネット接続率は断然高いだろう。(参考:-ゲーム業界人の感覚で、勝手に補足しときますと。
今後、ケータイ族とパソコン族とで全く異なる世界が形成され、コンテンツがケータイに集中することでケータイの方がコンテンツ的には「上流」になる可能性もあるかもしれない?
ただ、「まん延する“違法着うた”の実態」のように、ケータイはかつてパソコンによるインターネットと同じ道を辿っていることを考えると、結局はケータイがパソコンを追い越す時代は未だ先のようですが。また、ケータイとパソコンが融合した未来もありえますしね。僕はできれば融合した世界を望む人間ですが。