黒本に嘘の情報を提供したスクウェアの罪と罰

嘘の資料を渡したスクウェア

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【FFT】黒本「小数点以下の確率で盗める」【20年目に驚愕の事実発覚?!抜粋コメ付き】

スクウェアの前廣和豊氏がニコ生中に、黒本として名高いファミ通、JK・VOICEが出版したファイナルファンタジータクティクスFFT)について言及し「小数点以下の確率で盗める」の真相が明らかになった。なんと、開発資料を検証もせずに、そのまま掲載する出版社にイラついていた伊藤裕之氏が、嘘の資料を渡していた。

黒本の中で、最も悪名が高いのが「小数点以下の確率で盗める」であり、この記述を信じて挑戦し無残にも諦めたプレイヤーも多いだろう。スクウェアから嘘の資料を渡されるファミ通の信頼性のなさも問題だし、黒本にはこれ以外にも相当数の誤植や誤情報があるため、ファミ通とJK・VOICEの責任は重い。その一方で、最終的に割を食うのはエンドユーザーであるプレイヤーのため、嘘の情報を故意に渡したスクウェアにも責任があるだろう。

スクウェアの攻略事情

誤情報が多すぎる黒本

書籍/【ファイナルファンタジータクティクス大全】 - ファイナルファンタジー用語辞典 Wiki*
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ファミ通とJK・VOICEによるFFTの攻略本は、エルムドア以外の記述に関しても誤植、誤字や誤情報が多い。どんなに校正を行っても誤植は生じえるが、それにしたって多い。出版社として最低限やるべき仕事を怠っているのは疑いようがない。

伊藤氏の発言を別角度から見てみると、当時からゲーム開発元とゲーム雑誌の関係が、あまり良好ではなかったことがうかがい知れる。昨年、ファミ通の水間氏が任天堂がグッズを内製し、それを告知するサイトも内製である点を愚痴っていた。ゲーム開発会社と雑誌社が、こんな関係性だからこそ、ゲハ系ブログの影響力が強くなったのかなぁと、暗い気持ちになった。

ゲーム開発会社とゲーム雑誌社の関係性

よくよく考えると、当時のスクウェアデジキューブを立ち上げ、スクウェア・オンラインなど、既存の販路やメディアに依存しない方向を目指していた。まぁ、映画とこれらの事業が上手くいかずに、結果的にエニックスと合併することになるのだけど。スクウェアエニックスと合併した理由の一つに、エニックスが出版を手がけていたからとも言われている。

また、スクウェアの攻略本と言えばNTT出版だったが、PSの頃からは、FF7やサガ・フロンティアの攻略本がファミ通系列の「解体真書」から出版されている。その関係もあり、FFTの攻略本もファミ通が携わることになったのだろう。FF8以降は「解体真書」を手がけた「スタジオベントスタッフ」がアルティマニアデジキューブおよび、デジキューブが倒産してからは、スクウェア・エニックス出版で刊行している。「スタジオベントスタッフ」は、サガ・フロンティアの裏解体真書など、実際にやり込みを行い攻略本を書いていたようなので、スクウェアとの関係も良好だったのだろう。

とは言うものの、解体真書アルティマニアにも誤植や誤情報があるんですけどね。サガフロンティアの1と2なので、どっちもサガですね。
裏解体真書の間違い
アルティマニアの間違い

ファミ通とJK・VOICEは検証しなかったのか?

ファミ通とJK・VOICEによるFFTの攻略本、いわゆる黒本には多くの誤植と誤情報があるため、同出版社がゲーム開発会社から提供された情報を検証もせずにそのまま掲載していた点は間違いない。実際、ファミ通の攻略本は、そのコピーである「大丈夫。ファミ通の攻略本だよ。」を文字って「大丈夫?ファミ痛の攻略本だよ?」とネットで揶揄されほどひどい内容のものがある。
ただし、エルムドアの源氏装備に関しては、ファミ通を擁護する声もある。数々のゲームのレアアイテムを集めるゆっくりレアハンターであるマラリア氏が、その一人だ。

マラリア氏は、2014年にアップロードした動画で、ファミ通とJK・VOICEによるFFTの攻略本における「小数点以下の確率で盗める」関連の記述が不自然であること、および北米版のFFTでは、エルムドアから源氏シリーズを盗めることから、本来は開発側が盗めるように意図していたものの、設定を誤りか変更のため盗めなくなり、結果として誤った情報を元に攻略本が書かれたのではないか?と推測していた*1FF5において、源氏シリーズはギルガメッシュから盗むこと、またエルムドアの見た目がセフィロスっぽいことも相まって、ロマンを追い求めたくなる。

以下に攻略本のエルムドアの正宗および源氏シリーズの記述を引用する。

  • 村正はChapter4でエルムドアが装備している。ただし、盗むのは至難の業。(P125)
  • 超レアアイテムの正宗は、ランベリー城場内に登場するエルムドアが装備している。
  • 源氏シリーズの防具も、ここでしか見れない。

いずれも盗める確率は0パーセントと表示されるが、このゲームでは小数点以下を切り捨てているため、実際は小数点以下の確率で盗める。
気が遠くなるほど低い確率だがゼロではない。
十分にレベルを上げ、即死や、吸血を防ぐアイテム類を完璧に揃え、何度も何度も挑戦すれば盗むことが可能。
盾を壊す事ができれば回避率が下がる為、盗める確率が多少上がる。
スロウも効かないわけではない。ただし成功率は果てしなく低い。(P200)

  • 盗める確率はほとんどの場合において0パーセント。まず盗めない(初版P214)
  • 正宗と源氏シリーズを装備するがいずれもエルムドア専用装備であるため、絶対に盗めない。(第二版P214)

スクウェアがどのような資料を提供したか不明である。「小数点以下の確率で盗める」 がスクウェアファミ通のどちらか来たかはわからない。
仮に上記の通りの資料を渡していたならば、ファミ通の責任はかなり重い。ただし、最終的に不利益を被るのはユーザーなので、スクウェアも無責任である。

伊藤氏は検証すればすぐに分かることとするが、本当に検証可能であろうか。

エルムドアから源氏シリーズを盗めるようにしていた?

エルムドアにはメリットアビリテとして「メンテナンス」が付いているため、バグでもない限りは装備品を破壊することも盗むことも100%不可能だ。

ただし、この特性はゲーム内で明記されているわけではない。また、FFTのアークナイトはNPC専用で公開情報のみから、その特性を判断するのは困難である。アークナイトとして、エルムドアの他に、ディリータやザルバッグが登場するが、彼らはメンテナンスを所有していない*2。また、同じアークナイトであっても異なるアクションビリティを有しており、さらにザルバッグは騎士剣、エルムドアは刀と装備まで違う。エルムドアはサポートアビリティとして格闘を所有している点も解せない。


FFT エルムドアから源氏シリーズを盗む Steal the Genji from Elmdor

北米版のエルムドアには「メンテナンス」が付いていないものの、レベルを上げ、さらにステータスを十分に低下させないと盗むのは困難である。

以上の点から、本来は正宗と源氏シリーズをエルムドアから盗めるようにしていたとの推測も成り立つだろう。ただし、この点がPSP版で修正されていない点が不可解である。北米版の方が設定ミスである可能性もある。

「小数点以下の確率で盗める」は検証可能か?

伊藤氏はすぐに検証できる発言しているため、エルムドアが「メンテナンス」を持っている点をファミ通へ資料提供していたのだろう。その一方で、エルムドアから盗めるとも書いていたのだろう。

再度エルムドアの源氏シリーズに関する記述を読むと、マラリア氏が指摘するように、必死さが感じられる。この件に関しては、実際に試したが、無理だったため必死さのにじみ出る文言なのかもしれない。
「小数点以下の確率で盗める」ならば、仮にそれが0.9%ならば、100回やっても盗める確率は60%で250回でようやく90%ととなる。また0.1%の場合、1000回やっても37%の確率で盗めないことがある。
エルムドアに「メンテナンス」が設定されているとの資料を信じるか、それとも源氏シリーズを盗めるとの情報を信じるか。プレイアブルなキャラクターとNPCでは、同じ能力名であっても違うことがある。特に、アークナイトであるエルムドアに付与されている「メンテナンス」は非公開情報な上、他のアークナイトと比較しても不可解な点も多い。恐らく、最終的に疑いながらも盗める方に賭けたのであろう。

盗めないならスクウェアに正誤を問いあわせるべきではある。しかし、当時のスクウェアファミ通の関係性からは無理そうである。また、松野氏が擁護するように締め切りもある。ただし、そうであっても誤植の多さは大いに問題である。全体としては、ファミ通を擁護しきれないが、困るのはユーザーであるため、意図的に嘘の情報を提供するのは悪質だ。特に、手に入らないレアアイテムの情報は。

開発元が提供した資料に誤りがあったと推測される事例

開発元が出版社に提供した資料に誤りがあり、それを検証せずに掲載するのはファミ通に限らない。もちろん、通常は故意に誤ったデータを渡すわけではない。結果的に誤った情報を渡してしまったケースの方が多いだろう。

FF5の「ちぬられたたて」

NTT出版FF5攻略本である「基礎知識編」では、「ちぬられたたて」がピラミッドで入手できるとされている。しかし、実際にはアイテム変化のバグを起こさない限りは入手できない。データとしては存在しているが、手に入れられないのだ。FC版DQ2のあぶない水着のように没にしたのかも知れないし、あるいはピラミッドに設置し忘れたのかも知れない。

魔界塔士サガにおける共通する誤情報

魔界塔士サガの攻略本にも誤植があったのを思い出したので調べてみたら、面白いことが分かった。魔界塔士サガの攻略本は、徳間書店、ゲイブンシャ、辰巳出版から刊行されているが、三社とも本来5000ギルである「ドア」の値段を500ギルと間違っている。また、徳間書店辰巳出版は共に、「きんのはり」、「じゅうじか」、「めぐすり」、「いきかえりのくすり」の値段を同じように間違っている。刊行の遅い辰巳出版徳間書店の情報をパクった可能性もあるが、スクウェアから提供された資料に誤りがあった可能性が高い。これらの間違いは検証すれば分かることではあるが、どの出版社も締め切りとしてはギリギリだったと考えられる。魔界塔士サガは1989年12月15日の発売だが、徳間書店版はガイドブックという位置づけのため、1月に発売されている。辰巳出版は3月、そしてゲイブンシャは4月発売である。徳間書店は検証する時間はほぼなかったであろう。

魔界塔士SaGa攻略本の正誤表

サガの嘘情報はひどい

スクウェアのゲームの中でもっともひどいのはサガシリーズだ。
ロマサガ2は特にひどく、メニュー上の値と戦闘で参照される値が異なる事例が多々ある。例えば、オートクレールはゲーム上最強の攻撃力である50と表記されているが、実際は35しかない。防具も、メニュー上の表記と実際の値が異なる事例が多い。ほぼ詐欺である。これに加えて隠しステータスがあるため、プレイヤーは何を信じて良いのかさっぱりである。

ロマサガ3においては、仕様の変更により最上位のモンスターが登場しなくなったことを河津氏が明らかにしていた。

先の、解体真書アルティマニアもサガ・フロンティアに誤植や誤情報があった。サガシリーズは納期を絶対に守らせる河津氏の作品だからこそ、仕様と実装の違いが生じやすいのであろう。

「小数点以下の確率で盗める」はスクウェアにも責任あるよね

上記で示したように、開発元から出版社へ提供される仕様に基づいた情報が、100%正確であるとは限らない。ロマサガ3の最上位モンスターのように、意図した仕様と異なってしまうこともあるからだ。
それを検証するのが、攻略本を作製する編集者や出版社の仕事ではある。だがしかし、開発元が意図していない、あるいは認知していない誤情報を、出版社が検証するのは容易ではない。時間も予算も人も限られている。情報があるだけ、余計なバイアスもかかってしまう。出版社はデバッカーではないわけで、出版社だけが責められるべきではないだろう。

もちろん、出版社としての責務を怠り、開発元からの情報を何ら検証せず、また誤植や誤情報だらけの攻略本は責められるべきである。その点で、ファミ通、JK・VOICEにおるファイナルファンタジータクティクスの攻略本、通称黒本は許されるべきではない。しかしながら、この本の誤情報は開発元が故意に提供したものである。ファミ通やJK・VOICEがきちんと検証したかは定かではない。「小数点以下の確率で盗める」に関しては、検証した可能性はありそうだ。「小数点以下の確率で盗める」に関しては、誤情報を故意に提供したスクウェアにも責任があるだろう。最終的に困るのは、ユーザーであるからだ。

*1:ただし、マラリア氏は動画の中程でPSP版ではエルムドアから盗めるようになった説明しているが、最後のお詫びに事実では無い点を謝罪している

*2:ザルバッグはサポートアビリティにセットされることがある