新劇場版エヴァンゲリオンでの、3つのサクラと北上ミドリ

ヱヴァQの感想をネタバレ全開で書く - 最終防衛ライン3

「鈴原サクラ」で Twitter 検索すると「怪文書」とサジェストされるくらいには注目されているようです。Q の頃からかわいいと思っていた自分としては、シンを経てようやくサクラの話ができるのだなぁと嬉しい限りです。
私自身は Q も好きなんですけど、世間的にはサクラの話をするような雰囲気ではありませんでした。

平時には関西のイントネーションで標準語を話しつつ、感情が高ぶると関西弁になるのがツボです。また、トウジと同じ人差し指で鼻をこする癖があるあたり、お兄さんっ子であったことが伺えます。まぁトウジが妹にぞっこんでしたから、さもありなん。

Q での「サクラ」

Q で奪還されたシンジが最初に目にするのがサクラで、またヴンダーを去る際にもサクラが傍にいました。サクラはシンジの監視役のため、当然と言えば当然なのですが、Q では短いながらもシンジと関係の深いキャラクターとなっています。
サクラは、シンジの生存を喜びつつ、初号機へ絶対に搭乗させない意気込みが垣間見え、シンジに対して正と負の感情を抱いていることが伺えます。
リツコがシンジと初号機のシンクロ率が0.00%であるため、搭乗しても起動できないことを告げるとサクラは「うわぁ、そっか、よかったですね碇さん」と喜んでいます。この事からも、シンジのことを思いつつ、初号機やエヴァとの関係性を断ちたいと願っていることが分かります。

ここまでは Q でのサクラ。以下はシン・エヴァンゲリオンでの「サクラ」について語っていきます。

シンでの「サクラ」

シンにおいて、再びヴンダーに搭乗したシンジの無事を喜ぶと共に、戻ってきたことを怒っており、その様子をアスカからシンジの女房呼ばわりされていました。Q でもシンでも、サクラはシンジに対して二律背反の感情を有していることが表現されています。

さて、「サクラ」の名前は Q が初出で、TV版でも、序、破でも名前は明らかになっていませんでした。

「サクラ」の名前の由来は不明ですが、新幹線関連になっているのが面白いです。
ヒカリには姉の「コダマ」と妹に「ノゾミ」います。洞木三姉妹の名前は東海道新幹線由来なのはよく知られた設定です。トウジとヒカリの娘は「ツバメ」でしたが、これは九州新幹線由来でしょう。サクラは新幹線の名前ではありませんでしたが、2011年3月12日に九州新幹線が全線開業した際に、新幹線の名称となりました。Q の公開は、2012年11月17日で東日本大震災後であり、また庵野監督がその影響を受けたと言われています。「サクラ」が新幹線由来かは不明ですが、偶然でも面白い一致です。
これも偶々なのかもしれませんが、Qの主題歌は宇多田ヒカルによる「桜流し」です。つまり、Q とシンでは、三つの「サクラ」が関わっています。

二律背反の感情

サクラのシンジ対する相反する感情は、シンジへの発砲という形で結末を迎えます。放たれた弾丸はミサトが受けとめました。直前の北上ミドリの感情も合わせると、ミサトが彼女たちの思いを受け止めたとも解釈できるでしょう。
彼女たちは、セカンドインパクト以後の、ニアサーしか知らない世代です。もちろん、シンジ達の世代もセカンドインパクトを直接知っているわけではありません。しかし、シンジ達とはまた異なる世代として描かれており、その世代の感情もミサトが受け止めたように思えます。

シンジへの発砲には分解性の弾丸が使われました。またサクラが医療班です。このことから、シンジに発砲して自身で治療するつもりだったと推測されます。発砲前の感情の吐露も、シンジの苦労を理解しつつ、シンジへの恨みがない交ぜになっておりヤンデレ感がありました。
このない交ぜになった感情は、ニアサーを起こしたことへの恨みと、シンジへの許しでしょうか。後者は、サクラ本人というよりもトウジから言い聞かされたことのように思われます。トウジとケンスケの優しさは、序で実際にシンジの戦いを目の当たりにしたことが大きいでしょう。それがなければ、あそこまでシンジに優しくはできない気がします。
鈴原サクラとは (スズハラサクラとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

さて、サクラが使っていた拳銃は旧劇場版でリツコがゲンドウへ向けた銃と同じように見えます。ニコニコ百科の記述によると、ロシア製のR-92, R-92KS のようです。現行の警察用拳銃である S&W M360J SAKURA なら面白かったんですけどね。

相補のミドリ

シンジを発砲しようとして、先にサクラに発砲されてしまったミドリですが、作品内における彼女の役割はかなり大きいです。
ヴィレやヴンダー内で彼女だけが部外者のように描かれつつ、それ故にツッコミ役として立ってきます。プラグスーツはかっこ悪いし、巨大綾波は「なんか変」なのです。本来は部外者であった彼女だからこそ許された役回りです。

シンジに対しても恨みをストレートに表現しています。シンにおいて、ミドリを除くクルー達がシンジの状況を理解しつつ赦す様に対して、彼女は明確に不満を述べます。再生水に喩えながら、穢れを祓えば許される状況への不満を”独りごち”ています。作中では描かれてはいませんが、ミドリやサクラのような感情をもったクルーは他にもいるでしょう。

シンは相補の物語ですが、サクラの相補はミドリでしょう。それは、ミドリとサクラが同じ部屋であることからも窺い知れます。サクラ色の補色は薄いミドリではありますが、これはちょとこじつけ感がありますね。

第三村

サクラが医療班なのは、やはり兄であるトウジの影響でしょうか。トウジも医者としての教育を受けては分けではなく、人助けをしている内に医者として働くようになったのでしょうけど。

第三村ができた経緯は不明ですが、第三新東京市の元住人が殆どでしょう。トウジやケンスケなどが助かったのも、ネルフ本部の近くだったからかもしれませんし、コア化の進行も一定ではなかったのでしょう。
第三村周辺の自然は結界によって人工的に保たれた不自然です。そもそも、序や破の時点でセカンドインパクトにより多くの生物が死滅したと語られています。ニアサーではさらにでしょう。ゲンドウの言葉から、セカンドで海の、ニアサーで陸の大量絶滅があったことがわかります。
生物の大量絶滅への危惧が加持が本来のヴィレを作らせた動機であり、破でスイカを作っていた理由でもあります。
ヴィレやクレーディトにそのような下地があるため、不自然ではありますが自給自足が可能な第三村などの集落を作れたのでははないでしょうか。クレーディトはニアサー以前に各種支援を行っていた機関かもしれません。

ヴンダーの乗組員も第三村など、他の集落の建設に関わっているのでしょう。アスカが「守るところ」と述べているのもそのような経緯があった考えられます。アスカがどのように復活したかは描かれていませんが、シンジのように第三村での生活が、特にケンスケの支えという名の微妙な放置があったのが救いになったのではないでしょうか。

それにしても、この第三村は結界のお陰もありオープンワールドとして丁度よいサイズです。クレヨンしんちゃんにより「ぼくのなつやすみ」が復活しますが、農業体験のできる「第三村」もプレイしてみたい。

インパクトのバーゲンセールとファイナルファンタジー

補完計画発動後に、エヴァ・インフィニティが世界を津波にように駆け巡ります。それは、第三村も襲いますが結界によって持ちこたえていました。希望のあるシーンだなと思いつつ、結果的に後で復活するのだから描かなくてもいいし、あるいはもっと悲劇的な結末もあり得たでしょう。それをしなかったのは、やはり東日本大震災への希望なのでしょうし、なにより60歳となった庵野監督の優しさなのかなと思いました。

エヴァンゲリオンキリスト教をモチーフとした作品で、シンではとうとうネオン・ジェネシスを回収していました。世界を作り替える、新たなる創世記といったところでしょうか。それでいて、仏教的観点もあります。ループっぽさは輪廻転生でしょう。また、Q ではカヲルが「縁」があればまた会えることを示唆します。
マイナス宇宙で、シンジが綾波の元に辿り着けたのも「縁」ゆえでしょう。綾波の髪が自由奔放に伸びているのがいいですね。髪をとかしてないのもありますが、綾波のように内はねの人が髪を伸ばしたらああなると思います。伸びた髪は、アスカと同様の事象なのでしょう。

さて、最後にシンジとマリがくっついたのに納得がいかないとの感想がありますが、そもそもファイナルファンタジーとして、何でも色恋沙汰に結びつけるのよくないですよ!

アスカとケンスケの関係性は、おそらく特別なものでしょうが、必ずしも恋愛関係でないように感じます。シンでのケンスケは加持っぽいのですが、新劇場版でのアスカと加持の関係性は旧版とは異なっています。破を見れば分かりますが、アスカは加持のことをよく知らないので、そもそも恋愛感情をいただきようがありません。

シンジとマリは、腐れ縁というか、シンジにしてみるとよく知ったお姉さんという感じに思えます。その腐れ縁に至った理由は、マリがシンジをマイナス宇宙から迎えに来たことで生じた「縁」でしょう。あの過程で、すべてのエヴァンゲリオンと、そのパイロットであるアスカ、カヲル、レイに退場してもらっていましたが、マリだけは送られる立場ではなく、迎えに行く立場でした。それ故に、ラストの駅のホームにエヴァパイロットたちがいるけど、シンジとマリだけは見知った関係となり得たのかなと。
マリがシンジを迎えにいく過程は、ファイナルファンタジー8のエンディングっぽいなと思いました。親子の戦いも、ファイナルファンタジー4の暗黒騎士とパラディンが戦うシーンっぽいし。やはり、ファイナルファンタジーだな!

それはともかく、シンジとマリは腐れ縁なので実はサクラと付き合ってる可能性もあるんですよ、碇さん!