「ユア・ストーリー」でネタバレ祭になったのは、問題のラストシーンしか語るべきことがないからでは

私はネタバレされてもあまり気にしない。気にしない理由の一つは、叙述トリックものが好きだからってのはあるだろう。叙述トリックものはジャンルそのものがネタバレである。しかし、予め知って読むと構造を理解しやすい側面もある。東野圭吾作品なら、まぁ叙述トリックものだろうなと思って読むだろう。
もう一つは、子どもの頃にゲーム進度の速い人からネタバレされまくった経験があるからだ。耐性がついたというよりも、ネタバレで知った結末と、実際に過程を追って経験した結末とは、感じ方が全く違うことを知れたのが大きい。同じ物語でも、他人と自分の経験は異なる。ネタバレであっても異なるフィルターを通ることになる。
もちろんネタバレを知ると、初見の驚きは減る。その一方で驚きによって作品を冷静に読解できない場合もある。驚きがあっても、繰り返し体験すれば作品を咀嚼できる。しかし、繰り返すかは驚きよりも、繰り返し体験できる程の作品であるかの方が重要だ。つまり、何度でも楽しめるだろう、という期待感の方が大きな比重を占める。

もちろん、ネタバレを嫌う人がいるのを知っているので率先してネタバレすることはしない。ブログで感想を語るときもネタバレありきだが、それを明記するようにしている。というわけで、本稿は「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」について語っていく。その他の作品もネタバレを含むが、特に明記はしない。

ネタバレに耐性があろうがなかろうが、ネタバレをしないという暗黙の了解はあると思う。ただし、よく知られた作品はネタバレをしてもいいというコンセンサスもある。この、よく知られた作品は個々の判断に委ねられている。
ネタバレの是非に拘わらず、昨今はネタバレをシャットダウンするのは難しい。ネタバレを避けるなら、公開日に体験する他にない。話題作なら尚更だ。「君の名は。」や「カメラを止めるな!」の公開時に率先してネタバレを流す人はいなかったけども、Twitterを眺めていると大体分かってしまった。けれども、それを知っても私は十分に楽しめた。

さて、ユア・ストーリーである。賛否のあるラストのネタバレが問題になっている。ただ、これも決定的なネタバレを踏まなくても、メタ構造あることは察しが付くように思う。私自身は元々見る気は無かったがネタバレを知って、それを確認するために見に行った。自分で体験した結果、問題とされるシーンでは無く、構造そのものがダメという感想。あの構造にするならば、原作であるゲームを頑なに準拠すべきであると思う。我々の世界とは異なる世界戦のドラゴンクエスト5であるという解釈はありえない。主人公がいつも「リュカ」でプレイするのは小説版が存在するからで、そうでなければ「エル・ケル・グランバニア」にはならないだろう。

そもそもドラゴンクエスト5そのもはネタバレされまくっている。パパスは死ぬし、結婚イベントがあるし、主人公ではなくその息子が主人公であることも広く知られているだろう。ドラゴンクエスト5に限らず、古典はしばしネタバレだけそ知っている人がいるのではなかろうか。スターウォーズのダースベイダーがルークの父親であることは、マーク・ミハルにも伏せされたそうだ。しかし、現在は誰もが知っているネタバレだ。ミステリーならば「オリエント急行」や「アクロイド殺し」などなど。どちらもアガサクリスティだが、「アクロイド殺し」を再現したのが「ポートピア殺人事件」の「犯人はヤス」なのだろう。
メタ構造自体は、特に珍しくも無い。スピネル | 邦キチ! 映子さん - 服部昇大 | 珠玉の女性向け作品を集めた無料漫画サイト を例に出すまでもなく、代紋2やゲームではスターオーシャンなどがある。夢をみる島もある種のメタ構造だが、「ポートピア殺人事件」のように堀井雄二もメタ構造が大好きだ。ドラゴンクエストのりゅうおうの問いはもちろん、ドラゴンクエスト6はメタ構造そのものである。それ故に、ユア・ストーリーのプロットはむしろ気に入っている可能性があると思う。

ユア・ストーリーは他の新作映画作品よりもネタバレありきで語られる傾向にあるのは確かである。件のシーンまでは、文句はあるもののCGとしては及第点である。その点は遜色ない。序盤の駆け足や妖精の国など細かなシーンで気になる構成はあるものの、尺の都合で仕方ない面もある。
逆に言うと、件のシーンまではそこそこ無難である。また、それが無ければここまで感想が語られることもなかったであろう。むしろ、語るべき所がそこしかない。それ故に、ネタバレありきで語られるのだろう。

先にも述べたように、個人的にはネタバレは気にしないが、気にする人がいるのでTwitterなどでは基本的に控えている。ただし、完全にネタバレにならないように語るのは無理だ。各々がネタバレにならないと考えたツイートも、塊でみてい見ていくとネタバレが朧気ながらに浮かんでくる。ネタバレを完全にシャットダウンしたいならば、真っ先に作品を体験すべきだろう。