ミツバチには「方角」が見えているのかな

六角形の巣を作るミツバチに世界はどんな風に見えているのだろう - orangestarの雑記
ミツバチは世界をどのように見ているのか、彼らが文明を築いたらどのような数学や科学を持ち得るのかという素敵な考察。

異なる動物なら、異なる座標系=世界を見ていると想像するに固くないが、実は人間も実は同じ座標系を見ているわけではない。

眼で世界を見て脳で解釈する

ミツバチは複眼なので、そもそも物の見え方すら違うであろう。脳の構造も人間と異なるので、全く異なる座標系に生きていると考えられるが、それがどのようなものかを想像するのは難しい。ちなみに、収れん進化としてタコの眼は人間と似たような構造を有しているため見え方としては非常に近いのだろうと推測できるが、脳が異なるので、やっぱり座標系などは違ってくるのではないか。

眼は光を受容するセンサーとして発達したと考えられている。そのセンサーを多彩に進化させたのがシャコである。シャコの眼には多種多様な受容体が存在している。色だけでも12種類のも受容体がある。人間は3種類しかないため、さぞかし多彩な色を見分けることができるのだろうと考えられてきたが、最近の研究によると特定の色のみを見分けているらしい。つまり特定の色のみに反応するセンサーとして働く。シャコはその他にも、直線偏光や円偏光も見分けることができる。シャコは人間とは異なり、センサーの方を複雑にして脳での処理を単純化、もしくは高速化していると考えられている。

シャコの「驚異の色覚」は幻想だった? | Vol. 11 No. 4 | Nature ダイジェスト | Nature Research
「円偏光」を感知できる特殊生物、シャコ|WIRED.jp

処理系が異なれば違う世界が見えるだろう

それぞれの動物に異なる座標系があると考えられるが、実は人間も全く同じ座標系に生きているわけではない。先日、京都大学が日本人とカナダ人では視覚認知で差があることを発表していた。その理由はまだ明らかではないが、文化的、地形的な相違だと考察されている。
個人的には、地理、地形的の影響の方が大きいと考えている。
日本の人と北米の人ではものの探し方が違う — 京都大学


もし「右」や「左」がなかったら―言語人類学への招待 (ドルフィン・ブックス)

もし「右」や「左」がなかったら―言語人類学への招待 (ドルフィン・ブックス)

「左右」に関する、科学的、文化的背景を追っていたら巡り合わせた本で、何度もお世話になっている。この本によると、世界には「左右」という語彙のない言語があるという。
オーストラリアのある先住民は方向を表す際に「左右」を用いず、常に「東西南北」で表現するという。つまり、「左右」という相対座標ではなく、常に「方角」という絶対座標を使うのだ。その理由は定かではないが、彼らが平原に住み比較対象とするランドマークが多くないためと考えられている。
彼らは方向感覚に優れ、常に東西南北を意識しそれを記憶しているのだろう。イメージに常に東西南北の情報が付加されている感じだろうか。方向音痴とそうで無い人は異なる地図で生きていると考えると、方向音痴でない人は実感が湧きやすいのではなかろうか。

メキシコの住む部族も、通常とはやや異なる空間の切り分け方をする。彼らは南が高く北へ傾斜した土地に住むため、南の方を「上り側」、北の方を「下り側」と表現する。「横」を意味する語彙はあるが、「左右」に相当するものはない。彼らも、オーストラリアのある先住民と同様に方向感覚に優れている。
両部族に共通するのは地形で、一方はランドマークがないこと、他方は強烈な傾斜で生活している。地形によって方角を常に意識するようになったのだろう。

ミツバチは「方角」の語彙が多そう

オーストラリアのある先住民のような周囲に何もない平原ならば、東西南北以上に方角が細かに分かれても良さそうなものだが、どうやらそうでもないらしい。極座標に生きても良さそうなものだ。方角が豊富ならば、距離は「時間」で見積もればよい。やはりXY座標の方が便利なのだろうか。
その理由の一つは方角を決める術が太陽や月しかないからだろう。東から上り、南半球なので北天し、西へ沈む。90度づつに区切るしかない。方角を細かに決められる基準や感覚があれば、極座標になるだろうか?
そうとも言い切れない気がする。恐らく「飛翔」も関係してそうだ。人間は平面を移動するしかないが、ミツバチは「飛翔」できるため空間を移動する。すると「高さ」が加わるため、XYのみならずZ方向も必要となってくる。方角と距離のみから座標を表した方が簡素なのかもしれない。

渡り鳥は「眼」で方角を認識している説がある。青色の受容体と地球の磁場が干渉し、方角によって色合いが変わって見えるのではないかと考えられている。色合いによって方角を表現できるのならば「東西南北」よりも多くの方角を色合いで表現できるだろうから「渡り鳥」が言語を有するならば、人間よりも方角の語彙が遙かに多くなりそうだ。ショウジョウバエも磁場を検知するそうで、ミツバチも磁場を検知するだろうと考えられている。
渡り鳥は磁場が見える:青色光受容体と磁気の感知|WIRED.jp
「鳥は量子もつれで磁場を見る」:数学モデルで検証|WIRED.jp

ミツバチが文明を持てば、渡り鳥が言語を有すればどうなるか。SFっすなぁ。