パスタを茹でるときに塩を入れる理由に関するエトセトラ

パスタ談義になると、茹でる際に塩を入れるべきか否かという話になるのですが、科学的にも調理的にも入れる必要はほとんどありません。
科学的根拠としては、沸点上昇、タンパク質の変性、浸透圧などが挙げられますが、どれもほとんど影響がありません。

沸点は0.2度しか上昇しない

水に塩などを加えた際に、どの程度沸点が上昇するかは、加えた塩の濃度で計算することができます。
スパゲッティを茹でる際の塩分濃度は約1%とされます。モル沸点上昇を計算するには、この濃度を質量モル濃度にする必要があります。
塩分濃度は約1% の茹で汁が1kgある場合、10gの塩が含まれます。10gの塩のモル数は 10/58.4 = 0.17mol です。塩はナトリウムイオンと塩化物イオンに電離するので、茹で汁の質量モル濃度は0.17を二倍して 0.34mol/kgとなります。
水のモル沸点上昇は1mol/kg あたり 0.515度なので、茹で汁の沸点は 0.34*0.515 = 0.18度だけ上昇します。つまり、沸点が100.2度になりますが、ほぼ誤差の範疇です。

変性が起こるほどの濃度と時間では無い

塩分によりパスタに含まれるタンパク質であるグルテンが変性しコシが出るとの説もありますが、1%の茹で汁では濃度が薄すぎますし、10分弱のゆで時間では短すぎます。

うどんなどは、製麺時に塩を加えてこねることでコシがでます。みんなの小麦粉研究室15回 によると、数%の塩を添加するそうです。
パスタの場合は、うどんを打つ時よりも少ない濃度のお湯で茹でるだけで、こねることはしません。この程度では、コシがでるほどタンパク質は変性しないでしょう。

茹で汁に塩を加える事で、タンパク質であるグルテンが溶け出すのを抑えている、との説もありますがやはり塩分濃度が薄すぎます。パスタを茹でれば分かりますが、ゆで汁は懸濁しています。でんぷんなどの成分が溶けだすから懸濁しているわけです。成分は必ずしも同じではないですが、そば湯と同じです。

浸透圧も関係ない

浸透圧が働くには、半透膜が必要です。半透膜とは溶媒のみを透過させる膜です。パスタの場合は、パスタの表面が水だけを透し、塩を透さない膜になっている必要があります。
バリラ・ジャパン訪問 によるとパスタのコシはグルテンネットによるものだそうです。電子顕微鏡で見えるくらいなので、半透膜ではないでしょう。
そもそも、スパゲッティの内部と外部が半透膜で仕切られているならば、茹でる際に塩分がスパゲッティ内部に入らないはずです。

パスタが半透膜で仕切られていたと仮定しても、パスタソースがべちゃべちゃになるのを防ぐにはパスタ内部の塩分濃度がソース以上である必要があります。味噌汁の塩分濃度が0.8%前後なので、パスタソースもその程度でしょう。 オーマイ パスタソース | 日本製粉株式会社 からレトルトの一人前から計算するとミートソースなどは1%〜2%程度となっています。

100gのスパゲッティを茹でると、大体240gになります。つまり、塩分濃度1%で茹でると、スパゲッティ全体の塩分濃度は1%よりも低下します。仮に1%で計算しても、スパゲッティよりもソースの方が塩分濃度が高いので、浸透圧が働くならば、スパゲッティから水が出ることになります。

パスタから水を出るのを防ぐなら、パスタの塩分濃度が2%程度必要ですが、そんなパスタはしょっぱすぎるでしょう。
ちなみに、うどんの塩分ってどれくらい? によると、うどんは重量にして4%前後の塩を含んでいますが、そのほとんどがゆで汁に溶け出すそうです。
このことからも、パスタから水分が出るのを防ぐため云々はおかしいことが分かります。

茹でる際に塩を入れるべきか否か

ゆで汁に塩を入れないでパスタを茹でるとどうなるか では実際に塩を入れないでスパゲッティを茹でていますが、結論として塩を入れたほうがスパゲッティに塩の下味がつきおいしい。ただし、塩を入れないほうがコシが少々長持ちするようです。

下味に関しては、ソースをからめてから塩を調節しても良いので、お好みでといった感じですね。