日本の奨学金制度は狂ってはいないが、素晴らしい制度でもない

僕個人としては、奨学金とは"scholarship"であり給付型を指し、貸与型は教育ローンと呼ぶべきかなと感じる方だ。「奨学金」で問題になるのは、その殆どが日本学生支援機構の貸与型奨学金であろう。

しかしながら、名称を変更したところで、返済方法などの仕組みはきちんと説明すべきだし、必要な人は貸与型の奨学金を利用するしかない。また、一定の割合でよく考えずに利用する人は存在するし、大学を卒業しても就職できない人も一定数存在する。

狂っているのは日本の奨学金制度ではなくて、生活費が掛かり過ぎる点だろう。

ちなみに、月々12万円の奨学金を5年間借りる謎の大学生活を送るTさんの返済額は 奨学金貸与・返還シミュレーション-JASSO から推測するに20年間の240回払で1月当たり4万円程度となる。

大学生の一ヶ月あたりの生活費は、新生活準備早わかり|全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連) における「大学生活にかかるお金は?」によると12万円弱。大学生の生活費平均は? | 大学生の生情報 の場合は9万円強。
Tさんは都内の大学に通うため、月の生活費が9万円強は少々大変かなという気もする。生活費を抑えることで、授業料に回すこともできるから12万円は妥当だろう。

一方で、日本の奨学金制度は素晴らしいかと問われれば、疑問もある。給付型の奨学金がもっとあっても良いし、家庭の経済状況によって貸与型の奨学金を受けなければ大学に進学できない現状は不公平だろう。

奨学金の滞納については、「奨学金」という名の学生ローン 1,000万円超す借金抱える若者も など最近問題になっているが、問題の本質は何だろうか。

2000年と2010年の比較

独立行政法人日本学生支援機構 は日本育英会を前身とし2004年に独法化された。
制度としては2000年に導入された「きぼう21プラン」が大きな変化である。きぼう21プランは有利子の第二種奨学金が導入され、これにより貸与を受けられる学生が増加した。つまり、2000年と現在を比較してみると、奨学金滞納の問題が浮き彫りになるであろう。ただし、資料が無いので2010年と比較する。

奨学金が返せない - NHK 特集まるごと におけける 奨学金の貸与金額 を参考にすると、有利子の奨学金受給者が増えている。また、貸与金額の総額が2000年には2000億円程度だったのが、2010年には1兆円となっている。貸与額は10年で2.5倍程度に増加している。

2chのつぶやき: 【話題】 奨学金が返せない新卒女子大生 - livedoor Blog(ブログ) における 奨学金貸与総額と人数の推移 を参考にすると2001年には約18万人だった滞納者数が2011年には約31万人程度に増加している。滞納額は2001年には1800億円だったのが、2011年には4700億円と3倍に増加している。

大学生の奨学金受給者率推移をグラフ化してみる:ガベージニュース によると大学生の奨学金受給率が2000年は28.7%であったのが、2010年には50.7%に増加している。エフピースクエア-日本学生支援機構・奨学金 によると、有利子の奨学金受給者は10年で倍増していると考えられ、無利子も含めると奨学金受給者は1.5倍に増加していると考えられる。

まとめると、2000年から2010年で、貸与金額は2.5倍、滞納額は3倍、受給者は1.5倍、滞納者は1.8倍に増加している。
滞納者や滞納額は確かに増加しているが、同時に受給者と貸与額が増加している点を考えると、滞納者の割合が顕著に増加しているとは言えない。奨学金を返せない点よりも、奨学金を借りなければならない人が増えた点に着目すべきであろう。

結局は不況が悪い

先日、2010年に放映されたゲームセンターCXかまいたちの夜の会を見ていたら、有野課長が香山社長の不況云々というセリフからかまいたちの夜の発売年(1994年)をチェックし「16年も不況なのかー」と嘆いていましが、現在に換算すると日本は20年余りも不況なのですね。なにそれこわい。

奨学金を借りざる得ない人が増えた理由は、両親の収入が減ったからであろう。

大学生への仕送り額もここ10年は減少傾向にある。奨学金を借りなければ大学へ進学できない人が増加するのも当たり前であろう。

一方、奨学金を返済しなければならない卒業生の進路をはどうなっているのか。
直近は67.3%に…大卒就職率動向をグラフ化してみる(不破雷蔵) - 個人 - Yahoo!ニュース によると大学生の就職率2000年よりも10年の方が高い。ただし、図録▽正規雇用者と非正規雇用者の推移 を加味すると非正規雇用者が増えているようだ。これと呼応するように 20代・20歳代平均年収-年収ラボ によると20代の平均年収は下がり続けている。
つまり、奨学金を返済できない人が今後増えていくであろうと予想される。

奨学金だけの問題ではない

今後も、奨学金を受給しなければ大学へ進学できない人は増加するだろう。また、返済できない人も増加。少子化に伴い、大学へ神我する学生は減るとは言え、日本学生支援機構が現状の貸与型奨学金を続けていけるかと問われれば、年金同様に厳しいだろう。
給付型の奨学金を増やしたり、返済免除の条件を緩和、あるいは変更する方法もあるが、優秀な学生ならば卒業後に返済が困難になる可能性は低い。

スタンフォードなどアメリカの有名私学は寄付金で賄われている。将来儲けられそうな優秀な人材を入学させるシステムだからできる運営方法で、寄付に対する考え方や税制上の違いもあるため、日本で同じようなシステムを有する大学を運営するのは簡単ではない。しかし、見方を変えれば日本育英会のシステムも、国からの援助があるとはいえ奨学金を利用した卒業生から現役学生への強制的な寄付と捉えることもできる。
どのような経済状況の家庭に生まれるかを選ぶことはできない以上、経済状況によって大学に進学できないのは不公平である。そのように考えれば、いっその事大学生へ給付金として生活費を配るのも一つの手ではあろう。ただし、この場合は奨学金を借りて現在返済している人にしわ寄せが大きい。奨学金返済者は税制上優遇するなどの処置が必要かもしれない。

奨学金を受給しなければ大学へ進学できない現状と、返済できない人へ対処する必要である。もちろん、必ずしも大学へ進学しなければならないないわけでもない。結局のところ、奨学金だけの問題ではなく日本の高等教育をどのように舵を取るかという問題である以上、一筋縄ではいかないのである。