沈命の法

水滸伝を読み解くために史記を読む

水滸伝を読んだのだが、登場人物たちの行動原理がさっぱり分からなかった。そこで、古代中国の思想を抑えるために適当な本はないかなと探していたら、徳間文庫からの史記の解説本を見つけた。読み終えて、何となく水滸伝の行動原理が分かった気がする。
史記紀伝体で書かれ、一つの出来事に対して様々ん視点から読み解くことができる反面、全体像が把握しづらい。徳間文庫のシリーズは全訳ではなく、史記を元にして古代中国を読み解くことに主眼を置き、編年体風に構成されているので私みたいな初心者には丁度良い本でした。本当の意味での史記を読みたい人には向かないかも。

史記〈5〉権力の構造 (徳間文庫)

史記〈5〉権力の構造 (徳間文庫)

さて、史記〈5〉権力の構造に興味深い話が載っていたので以下に抜粋する。
白文は、史記 : 列傳 : 酷吏列傳 - 中國哲學書電子化計劃 を、和訳は 漢武大帝▽治安混乱--第80集▽匈奴の逆襲 を参考にして欲しい。

酷吏列伝 王温舒

漢の武帝の頃に法令が強化された。
王温舒 - Wikipedia は若い頃に墓の盗掘などの悪事を重ねたが、犯罪を取り締まる役人となった。役人となってからは、ゴロツキ共を集め彼らの罪を見逃す代わりに賊の取り締まりを行わせた。有能な部下が悪事を行なってもそれを見逃し、逆らった部下は掴んでいた罪を元に一族を皆殺しにした。多くの賊を捕まえ、殺害したという。その結果、王温舒が取り締まる街の治安は良くなった。
王温舒の評判を聞き漢の武帝は彼を中尉(今で言うところの警察庁長官)に任命した。王温舒は権威があり力を保っている家柄の悪事は見逃したが、力の無くなった名家は少しの悪事でも徹底的に叩いた。違法行為により役職を罷免されたり、返り咲いたりを繰り返した。その度に、弱きをくじき強きに媚びた。しかし最期には、密告により多くの罪が暴かれ、その罪は族滅にあたることから王温舒は自決し、一族も皆殺しにされた。

地方の役人たちは王温舒のやり方を真似た。その結果、不正が横行し盗賊がはびこるようになる。事態を重く見た朝廷は、兵を発し盗賊の頭目を次々に捕らえた。しかし、逃げ延びた盗賊たちが徒党を組んで各地に立てこもったため、対処できなくなってしまう。一計を案じた朝廷は「盗賊がはびこっているのに摘発しない、あるいは逮捕率が一定に達しない場合、責任者全てを死罪にする」という「沈命の法」を制定した。その結果、地方の小役人たちは死罪を恐れて、盗賊たちを摘発しなくなった。そのため盗賊はますますはびこった。役所の役員達も盗賊を見て見ぬふりをして、事実を隠蔽し報告書も取り繕った。