伊右衛門 濃いめがカーボンナノチューブを溶かす というツイートに付け加え

カーボンナノチューブは、水や有機溶媒などどんな液体に入れても溶けてくれなくて科学者たちは難儀していたが、九州大学のグループが「伊右衛門 濃いめ」に溶けることを発見した。 #意外と知られてないこと

なるツイートが出回っているせいか、昔私の書いた 「伊右衛門 濃いめ」にカーボンナノチューブが溶ける - 最終防衛ライン2 が参照されているようです。

カーボンナノチューブが「伊右衛門 濃いめ」溶けるってのは本当で、Chemistry Letters という雑誌に論文として掲載されています。本文中でも "Iemon Koime" を使ったと書かれています。

Commercially available green tea solution (brand name:"Iemon Koime" from Suntory Limited was used as the material.

なぜ伊右衛門の濃い目に溶かしたのかについては、有機化学美術館・分館:ナノチューブを溶かす意外なもの - livedoor Blog(ブログ) のコメント欄に九州大学のグループからの伝聞が書かれています。大学1年生が研究室にてカーボンナノチューブは簡単には溶けないことを示す実験にて、身近な飲料にカーボンナノチューブを用いていたら、偶々手近にあった「伊右衛門 濃い目」に溶けることが分かったって、のが真相のようです。溶ける理由は緑茶に含まれるカテキンカーボンナノチューブと水を仲介し溶けやすくしているから。カテキンが水に油を溶かす界面活性剤みたいな役割を果たしているのでしょう。

さて、カーボンナノチューブ伊右衛門の濃いめに溶けるのも本当だし、多くの科学者がカーボンナノチューブを溶かす、というよりも正確には分散させるのに難儀してるってのは本当ですが、「水や有機溶媒などどんな液体に入れても溶けてくれなくて」ってのはちょっと違う。実際は界面活性剤や ピレン - Wikipedia などの皆さんご存知亀の甲羅状の化学式で書かれるベンゼンの仲間を用いてカーボンナノチューブを分散させる研究が行われていたのです。ただ、「伊右衛門の濃いめ」のおかげでカテキンを介せば水に溶かす事が出ることがわかったので、元ツイートの核である最先端研究も案外身近な物で発展することがあるってのは事実。#意外と知られてないこと、ではありますが、元ツイートはちょっと語弊があるかなと思ったので記事にしてみました。

同グループはDNAを使ってカーボンナノチューブを可溶化させることにも成功しています(参考: 溶媒可溶化カーボンナノチューブ )。異なるグループですが NIST、DNAらせんを使ってCNTの巻き具合(カイラリティ)を制御。高性能配線「量子ワイヤ」の実現に期待 なんて研究もあります。簡単言うと、DNAによって異なる種類のカーボンナノチューブを分離できたってことです。カーボンナノチューブにも太さや巻き方によって種類があって、それぞれ電気の流れ方が違います。回路を作る際には電気をよく流すカーボンナノチューブを使いたいのですが、それだけを単離するのはむずかしい。そこで、長さや巻き方を簡単にデザインできるDNAを使って、それに対応したカーボンナノチューブだけを取り出そうって研究ですね。カーボンナノチューブを溶かすことは、カーボンナノチューブを実際に利用する上で重要で、現在でもホットな研究です。


ちなみに、カーボンナノチューブ伊右衛門の濃い目に「溶ける」と言ってもトイレットペーパーを水に浸すとデロデロになるようなイメージで溶けるわけではありません。超音波でナノチューブ同士を無理やり引き離すと伊右衛門の濃い目に分散すると書いた方がより適切でしょう。つまり、軌道エレベーターカーボンナノチューブで作った際に、伊右衛門の濃い目をぶっかけて壊すってことはできないのでご安心を。