リラックマが作者の意図に反してパチスロ化されたらしいけど問題ないの?

はてなブックマークのコメントを元に「職務上の発明・著作は誰に帰属する?」を追記(2/21)

リッラクマがパチスロ化ですってよ奥さん

パチスロ新機種「ハネスロリラックマ」 が発表されたのですが、サンエックスリラックマの原案から商品全般を担当していた、コンドウアキさんが自信のブログで リラックマファンの皆様へご報告申し上げます。 と報告しているように、全く知らされていなかったようです。コンドウアキは既にサンエックスを退社しており、キャラクターの版権もサンエックスが有していますが、作者、つまり著作者に知らせないのは問題ないのでしょうか。
コンドウアキさんとサンエックスとどのような契約を結んでいるかは分かりませんが、著作者の意図に反するキャラクター利用は、ひこにゃんにまつわる問題を想起させます。「ひこにゃん調停」に見る著作権問題、みんながハッピーになるためには などにまとめられていますが、著作者人格権が問題とされました。さてさて、著作者人格権とはなんぞや。

著作権の歴史と著作者人格権

古来より、書籍の著者が誰かが問題になることは度々ありましたが、書籍に関する権利が意識されるようになったのは、活版印刷が登場した15世紀頃。貴重な書籍を大量に生産できるよになり、印刷業者は自分達の出版物に対する権利を求め、出版権を得ました。具体的には、ギルトが印刷技術を独占し、ギルドの許可を得ない業者を投獄できるなど数々の特権を有していたようです。印刷技術を独占したギルドは、文筆家の書いたものを売れるために勝手に脚色したり、売れっ子の名前で出版したりとやりたい放題。ギルド怖いですね。そこで、文筆家を保護しようと、著作権が登場しました。その際に著作権は譲渡できるが、「著作者人格権」は譲渡できないとされました。つまり、出版社が著作者の意向を無視した出版をさせないようにしたわけ。

著作者人格権は以下の三つに分けられる。特に、「同一性保持権 」が重要となろう。

  1. 公表権
    • 創作物を公表されない権利。公表する際に、その方法や形式、時期などを選択できる権利。
  2. 氏名表示権
    • 著作物に氏名を表示するかどうか、表示する場合は本名あるいは変名で表示することができる権利。
  3. 同一性保持権
    • 著作物の改変を認めない権利。
    • 著作者の改変でなくても、著作物は作者の意思が表現されたものであるため、著作者の意図とは異なる利用も認められない←重要

ひこにゃんはこの中の、同一性保持権で争われていました。リラックマのキャラクター使用権は版元であるサンエックスにあります。企業にてデザインされた著作物の著作者人格権が誰に発生するか詳しくはありませんが、原案者であるコンドウアキさんも有しているはずです。著作者の一人であるコンドウアキさんがパチスロへの利用はキャラクターの意図と異なる、と言う権利はあるんじゃないでしょうか。まぁ裁判にまで持ち込むと泥沼化しそうで、さらにキャラクターのイメージが損なわれるので流石にやらないでしょうが。(訂正:2/21)

職務上の発明・著作は誰に帰属する?(追記:2/21)

リラックマコンドウアキさんがサンエックスに務めている際に職務として作成したキャラクターです。このような場合、著作権著作者人格権の扱いはどうなるのでしょうか。
職務上の発明・著作は誰のものか? によりますと、会社の意思に基づき作成された場合は会社が著作権著作者人格権を取得します。つまり、リラックマ著作権著作者人格権サンエックスが所有しているはずです。ただし、契約次第では従業者に帰属することもあります。ということは、コンドウアキさんが実質の作者ではあるのの、同一性保持権を元に「パチスロへの利用はキャラクターの意図と異なる」と主張を元には厳しそうです。作者なのに、コンドウアキさんにできることは、ブログでなさっているように遺憾の意を表明するくらいなんですかねぇ。

ちなみに、業務上の発明は著作とは異なり、発明が業務の範囲に属し、それに至った経緯が業務上のものであっても、「職務発明規程等により企業が相当の対価(補償金)を発明者に支払う場合」に限り企業がその発明を継承できます。つまり、従業者に正当な対価を払わないと発明に関する権利は企業に帰属できません。
発明に対する正当な対価として争われ注目されたのが、日亜化学中村修二氏との間で起こった青色LED訴訟。中村修二氏の職務発明訴訟に高額判決出る! 青色LED訴訟、200億円の判決 となりました。青色LED訴訟以外にも、フラッシュメモリ発明対価訴訟、8700万円で和解 など企業は発明の対価を支払ったものの、実際にはかなり低い金額であることが多く問題となるケースがあるようです。

おまけ インターネットと著作者人格権不行使特約

著作人格権における、同一性保持権は2ちゃんねるやブログの規約で問題になることがあります。「著作者人格権不行使特約」に関する問題で、2008年には mixi規約改定問題 「ユーザーが著作者の時代」にまた繰り返す大騒動 (1/2) で話題になりました。mixiがユーザーに断りもなく書籍を出版するのでは等と騒ぎになりましたが、規約改定におけるmixiの意図は、釈明を読む限り現行の著作権法の解釈次第では日記などのデータのを取り扱う際に「著作者人格権」に抵触する可能性があると考えたからではないでしょうか。ただし、サーバー上におけるデータの取り扱いやサイトのレイアウトなどは 著作権法著作権法20条2項4号にある同一性保持権の規定である「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」と認められる可能性が高いのですけども。

一方で、PCやインターネットと著作権法の関係に関しては、チグハグな部分が多く、データを取り扱う際にどのように法解釈するかが難しい。例えば、今回の著作権法改正(ダウンロード違法化)についてちょっとまとめてみた のように、法律上はダウンロードとストリーミングを別物として扱ってますが、仕組み上はストリーミングもデータをダウンロードしています。立法者とそれを取り締まる者がインターネットの仕組みの理解が浅さが危惧されます。また、1対1通信のロケフリは「自動公衆送信装置」になりうるか 「まねきTV」最高裁判決の内容 では、送信可能化による公衆送信に関する法的な解釈が話題となりました。Togetter - 「地裁、知財高裁判断が最高裁で逆転、まねきTVに違法と判断」でで語られるように、「まねきTV」最高裁判決も、ダウンロード違法化と同様に裁判官がどこまでインターネットの仕組みをきちんと理解しているのか大いに疑問です。
PCやインターネットにおける著作権の法的解釈が不透明であるため、多くの著作物を取り扱うmixiなどのSNSやブログの運営側は気が気でならないのでしょう。データを取り扱う際に「著作者人格権不行使特約」をユーザーに認めてもらえれば安心ではあります。そのためには、データを取り扱う際に「著作者人格権」の制約があるために著作物の改変などを行う可能性もありますので〜〜などとくどくど説明しなければならないのですが、ユーザー全てがそれを理解できるとも限らず、まぁ面倒ですよね。

結局のところ、著作者を保護するために著作権法は必要だけども、インターネットやPCの登場により著作物の取り扱いがややこしくなりつつある。そのために、何らかの処置が必要ですよね、という当たり障りの無い結論。リラックマに関しては、パチスロかすることで誰得なのかってのも気になりますね。きちんとキャラクターを育てる気があるのかと。
というわけで、次項になぜパチンコ業界はキャラクターを利用するのかを考察してみた。