3. 紋章に歴史あり イギリス国王であるエリザベス女王の紋章解説

イギリス国王、現在はエリザベス女王が受け継いだ紋章は、そのままイギリスの国章となっています。ヨーロッパの国章は紋章を元にしたものが多いです。

アクセサリ

紋章を上から順に見ると、クレストである冠を被った金獅子はイングランド王室の象徴です。クラウンとメットは王を示すもので金色。また、イングランドでは7本格子のメットは王しか使用できません。マントは表が金色で裏地は毛皮模様であるアーミン(白テン)。金色のマントは王室しか使用できません。また騎士以下は原色のみで毛皮模様のマントを使用できません。盾を支えるサポーターはクレストにも使用されているイングランドの象徴である金獅子と、スコットランドの象徴であるユニコーン。盾の周りにはフランス語で "Honi soit qui mal y pense"(思い邪なる者に災いあれ)と書かれています。下部に配されたモットーもやはりフランス語で"Dieu et mon droit"(英:God and my right、和:神と我が権利)と記されています。
盾には、左上と右下に3頭のライオンが、右上には立ったライオン、左下には竪琴が描かれています。それぞれ意味があるので個別に解説していきましょう。

イングランドの紋章

位が最も高い位置となる左上と右下には赤地に3頭の金獅子であるスリーラライオンが描かれています。これはイングランドの紋章。白地に3頭の青獅子はイングランドサッカー代表のエンブレムとして利用されていますね。このスリーライオンは十字軍遠征の際に獅子心王リチャード一世も使用していたようです。十字軍遠征のエルサレムを描いたゲームであるアサシンクリードでもリチャード一世はスリーライオンを使用しています。一説によると、このスリーライオンは元々2匹だったとか。また本来は Lion ではなく Leopard つまり豹だったとも言われています。

スコットランドの紋章

二番目に位の高い位置にである右上にあるのがスコットランドの紋章で、金地に赤色の立ったライオンとアザミの花とフラダリ。立ったライオンは lion rampant と呼ばれ紋章において非常にポピュラーな具象図形です。スコットランドウィリアム1世が制定し、そのためウィリアム1世は獅子王と呼ばれます。紋章に描かれる具象図形については後に詳しく述べます。アザミの花は、1263年のスコットランドノルウェーの間で戦われたラーグズの戦いに由来します。スコットランドに夜襲をかけるべくスコットランド西部のラーグズに乗り込んだノルウェー軍でしたが、素足で花の下部にトゲトゲのあるアザミを踏んでしまい叫び声をあげたことからスコットランド軍が夜襲を察知し、逆にノルウェー軍に先制攻撃をしかけたという逸話によるのだとか。
ちなみに、エリザベス女王スコットランドで用いる紋章は File:Scottish royal coat of arms.svg に示されるようにイギリスで用いるものとは異なります。クレストはスコットランドの象徴である赤獅子となり、サポーターの位置がスコットランド上位となりそれぞれの国旗を有します。また、マーシャリングの位置も左上にスコットランド、右上にイングランドスコットランド上位となっています。

アイルランドの紋章

三番目に位の高い位置である左下にあるのは、アイルランドの紋章で、青地に黄色のアイリッシュ・ハープです。ギネスビールにも同じハープが描かれています。その他アイルランドの企業では、航空会社であるライアンエアーも使用しています。アイルランドアイリッシュハープだらけ で、アイルランドのユーロ硬貨 にも描かれいます。
アイリッシュ・ハープはケルト音楽にも使われます。ハープは強い魔力を持つと信じられたため、アイリッシュ・ハープ奏者は宮廷音楽家として高い地位をもっていたそうです。このアイリッシュ・ハープは小型で一人で持ち運びが出来ます。所謂吟遊詩人が持っている竪琴がアイリッシュ・ハープです。

なんでウェールズはないの?

連合王国(イギリス)と言えば、イングランドスコットランド、北部アイルランドウェールズから成りますが、イギリスの国章にはウェールズの紋章が入っていません。これは、イギリスの国旗であるユニオンジャックも同様。イギリスの国旗 にもあるように、白地に赤十字(セント・ジョージ・クロス)のイングランドの国旗に、青地に白×字(セント・アンドリュー・クロス)のスコットランドの国旗に、白地に緑×字(セント・パトリック・クロス)を組み合わせたものがユニオンジャックでやはりウェールズがありません。そのため、ウェールズの意匠を取り込むべきだという主張から、英テレグラフが新しい国旗案をためしに募集してみたところ、イギリスだけでなく国外からも投稿される珍事となり、痛いニュース(ノ∀`):【英国】 新・英国旗デザイン案、ネット投票…1位は「グレン団」、2位は「ルイズ」(2ちゃんねらー考案) にも取り上げられました。一位もひどいですが、二位はもっとないですね(笑)。
国章にも国旗にもウェールズの意匠が無いのは、ウェールズが13世紀という紋章が成立するかしないか微妙な時期にイングランドに服属したためで、ここから歴史の痕跡を辿ることが出来るわけです。

その他あれこれ

イギリスの新硬貨は奇抜で面白ユカイなデザイン:Garbagenews.com に示されるように2008年に発行されたイギリスの新硬貨は組み合わせるとイギリスの国章になるという面白いデザインになっています。コイン一枚に紋章を描くことはありますが、組み合わせというのは中々無いのではないでしょうか。
wind852 ヨーロッパの紋章(3) にチャールズ王太子や故・ダイアナ妃などの紋章が紹介されています。それぞれ、家長であり国家元首であるイギリス国王、つまりエリザベス女王の紋章が元になっています。たとえば、チャールズ王太子王太子であることを示すくし型のレイブル、またウェールズ公でもあるので、ウェールズの公の冠と紋章が紋章内部に描かれています(インエスカッシャンと呼ぶ)。チャールズ王太子と結婚していた故・ダイアナ妃はスペンサー伯の娘なのでスペンサー伯の紋章と、チャールズ王太子の紋章をマーシャリングしたものになっています。また、二人の子であるウィリアム王子は3本串のレイブルの真ん中に、ダイアナ妃の紋章に由来するホタテ貝が、一方次男であるヘンリー王子は5本串のレイブルとなっています。このレイブル (紋章学) は同家系における個人、あるいは分家に利用されことが多い図形です。分家をレイブルなどを用いて正確に記述するようなルールがある地方もありましたが、世代が進みにつれ複雑になっていくため直ぐに破綻してしまったようです。紋章で描ける世代はせいぜい3世代程度でこれ以上は複雑すぎて視認性に欠けてしまうようです。

4. 紋章の図柄