#KuToo 石川優実氏と現代書館は言論を守る気が無い

大きく出たなという印象。
先ず、ツイートに著作権があるかどうかはケースバイケースです。著作物でも著作権法上の引用は無断で可能ですが、一般的に引用の要件を満たす必要があるとされます。また、翻案権や同一性保持権の観点から内容の同一性を保つ必要があります。この書籍に掲載されているいくつかのツイートは、同一性が保たれているとは言い難いです。
ただし、基本的には親告罪なため書籍にツイートを利用されたユーザーが訴えを起こす必要があります。事例が少なく、裁判を起こすのが手間なので割に合わないと思います。一方で、現代書館が同一性保持などの著作権に関する認識が甘い点は記憶に留め、記録を残すことも重要だと考えます。

本件の問題点はいくつかあるのですが、本エントリーでは

  1. ツイートの著作権
  2. 引用の慣例
  3. クソリプの定義
  4. ウェブ上のテキストを書籍に掲載する場合

について解説し、石川氏と現代書館は言論に対して不誠実であると述べます。

ツイートに著作権はあるか

私の見解は、2014年に書いた Twitter社はツイートを勝手にまとめて本にすることは認めてませんよ - 最終防衛ライン3 と大筋は同じです。
ツイートに著作権が認められるか否かはケースバイケースでしょう。例えば「おはよう」などありふれた言葉には認められないでしょう。一連の #KuToo 運動に関する言及として考えると著作権が認められる可能性はあるように思います。

Twitter サービス利用規約 も大きな変更はなさそうです。Twitter社はツイートの権利がユーザーにあると明記しています。また、Twitter社以外がツイートを利用する方法も定めています。ただし、基本的にウェブでの利用を想定しているため API などの利用方法は充実していますが、書籍化などはあまり言及がありません。

引用の慣例に則っているか

著作物であった場合も、著作権者に断り無く「引用」が可能ですが、前述の様に引用の慣例に則る必要があると考えられます。

#KuToo 石川優実氏が出版した著作をめぐり訴訟を検討される事態に。そして編集部の見解と法律家の見解【追記】掲載者リストのツイートを追加 - Togetter などに不適切な「引用」例がまとめられており、特に問題だと思ったのが以下のツイートです。
12月9日追記:コメントで指摘を頂きまして、この件は私の思い込みによる勘違いでしたので削除します。


毎日新聞のニュースの一部切り出しを、その記事へのURLを削除してるため、ichi氏の見解へ石川氏がリプライしているように見えます。ichi氏のツイートは毎日新聞の記事からの一部転載*1のため、書籍は毎日新聞の三次利用となります。出典元である毎日新聞のURLを掲載しないのは、引用の慣例に則ったとは言えません。書籍においては、ツイートを利用するのではなく、毎日新聞の記事から引用するべきです。
また、
現代書館の以下の説明と整合性が取れていません。

著作物の中〈投稿内〉にリンクを貼った記事の見出しなどが含まれている場合は引用をしておりません。

現代書館の説明は不十分ですし、引用の慣例に則っているとは言えないでしょう。

クソリプ

Togetter で挙げられているのは、#KuToo について述べたツイートに対して石川氏が引用URLで言及したもので、書籍では石川氏がリプライするかのような形式でまとめられています。「クソリプ」の定義問題で何が「クソ」かはユーザーの見解が分かれるかと思いますが「リプ」は「リプライ」であることは同意が得られるかと思います。
石川氏が引用RTで言及しているツイートは「リプライ」ではないため「クソリプ」ではありません。どちらかというと、石川氏の方がクソリプでは?
石川氏および現代書館は、#KuToo への苦言や反発などのネガティブな反応を「クソリプ」と考えているようですが、先述のようにこの定義はTwitterで使われている意味合いとは異なるように思います。

ウェブ上のテキストを書籍に掲載する方法として適切か

クソリプ」とも連動しますが、書籍にまとめられたツイートは、アイコンの上に線が引かれており、あたかもリプライが連続したかのような印象を与えています。しかし実際は、単独のツイートであり特定のツイートに対にするリプライではありません。

また、独自定義の「クソリプ」として書籍に掲載されたツイートはURLが提示されていますが、石川氏のツイートにはURLが表示されていません。石川氏に権利があるため、URLを表示しないことが著作権上などで問題になるわけではありませんが、言論を担保する上では不誠実だと考えます。
石川氏個人の考え方を述べるだけならURLを提示する必要はないと考えますが、Twitter上でのやり取りとして掲載している以上、それを担保するためにURLを掲載すべきでしょう。単純なリプライであれば、言及元のURLのみでも参照できますが、石川氏は引用RTで言及しているため、言及元のツイートから辿ることはできません。そもそも、言及先のツイートが削除される可能性も考えられますので、石川氏自身がTwitterで言及したツイートのURLを掲示した方が証拠になります。自身の言論の保全をしないことの方が不思議に思えます。

言論として不誠実

端的に言えば、石川氏や現代書館は言論に対して不誠実です。石川氏自身の言論を守る気すらないように感じます。
ツイートに著作権があるかはケースバイケースで、あったとしても著作権法上の「引用」はツイートしたユーザーに対して無断で行うことができます。ただし、「引用」を行う場合は公正な慣行に従う必要があり、同一性の保持も求められます。「引用の慣例」は見解が分かれるかと思いますが、現代書館は同一性の保持に関して、注意を払っているとは言い難いです。
現代書館著作権について言及するのは上手いやり方ではあります。書籍に掲載されたユーザーが訴えを起こす必要があるためで、時間的にも金銭的にも、正直割に合わないでしょう。

*1:この点も著作権状の争点になるが、今回は議論しない。