Xbox が日本で売れないのは年齢層が違うから

Xbox シリーズが日本で売れなかった理由は色々とあるだろうが、市場を構築できなかったのは間違いない。なぜそれができなかったのか。Xbox の本体が大きすぎたり、ディスクに傷が付いたりと初動の悪さが販売に響いたのも一因だろう。しかし、結局は市場がマッチしていなかったと考える。市場がマッチしていなければ、売り場も作られないし、買う人もいないからだ。

市場がマッチしなかった理由は、日本とグローバル市場でゲーマーの年齢層が異なるからだ。本稿ではその違いを示しつつ、その後に Xbox のセールス情況を年代に沿って追いながら、今後の家庭用ゲーム機市場について語りたい。

2018年のゲームソフト売り上げランキング

家庭用ゲーム機の売れ行きはDVD再生機としても売れたPS2のような特殊な事例を除けば、基本的にはソフトのラインナップに依存する。日本とグローバル市場でゲームソフトの売れ行きを比較しすると、ラインナップが大きく異なっている。2018年のゲームソフト売り上げ数を10位までピックアップした。日本はゲーム機毎に集計され、グローバルではマルチタイトルは合算されているが、日本の上位はほぼ Nintendo Switch (以下 Switch)であり、マルチタイトルでも Xbox One (ランキングでは XOne と表記)が売れていないのであまり関係が無い*1

日本 グローバル
1 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL (Switch) レッド・デッド・リデンプション2 (PS4 / XOne)
2 モンスターハンター:ワールド (PS4) Call of Duty: Black Ops IIII (PS4 / XOne)
3 ポケットモンスター Let's Go! (Switch) FIFA 19 (PS4 / XOne)
4 スプラトゥーン2 (Switch) 大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL (Switch)
5 マリオカート8 デラックス (Switch) スパイダーマン (PS4)
6 スーパー マリオパーティ (Switch) ポケットモンスター Let's Go! (Switch)
7 星のカービィ スターアライズ (Switch) マリオカート8 デラックス (Switch)
8 スーパーマリオ オデッセイ (Switch) ゴッド・オブ・ウォー (PS4)
9 Minecraft (Switch) ファークライ5 (PS4 / XOne)
10 ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド (Switch) モンスターハンター:ワールド (PS4 / XOne)

日本ではほぼ Switch のゲームが席巻している。グローバルでも Switch のゲームはあるが、傾向として日本よりも対象年齢が高いゲームがランクインしている。
日本では、11位でようやく Call of Duty: Black Ops IIII が登場する。グローバル市場で最も売れたレッド・デッド・リデンプションII は日本では20位だ。そもそも、この二作品は日本のレイティングでは CERO Z に該当し、18歳未満は購入できない。その他に、レイティングの対象年齢の高いゲームとして、グローバル市場で8位のゴッド・オブ・ウォーや、9位のファークライ5などがある。これらのゲームはグローバル市場のレイティングでも対象年齢が高く、北米では ESRB の M(17歳以上)に該当する。ただし、CERO Z 程は厳しくなく17歳未満でも親の同意があれば購入可能である。

レイティングの区分で判断せずとも日本とグローバルを比較した場合、日本は子ども向け、グローバルでは大人向けのゲームが売れている。統計を見ると、日本とグローバル市場ではゲーマーの年齢層が異なることが分かる。

ゲーマーの年齢

日米、およびグローバル市場において、家庭用ゲーム機でゲームをプレイする人の年齢構成を比較するために色々な統計結果を参考にした。

日本は 男女比,平均年齢,掛け持ち――ログデータから明かされるゲームアプリの姿。JOGA「オンラインゲーム・マーケティングセミナー」をレポート - 4Gamer.net を参考にした。米国は • U.S. average age of video gamers 2019 | Statista2017 ESA Essential Facts About the Computer and Video Game Industry | The Sociology of Videogames を参考にしたが、PCユーザーも含んでいる。
11 Intriguing Video Game Industry Statistics - BrandonGaille.com は恐らくグローバル市場であり、基本的にはゲーム機のみであると思われる。 ゲーム機とPCを含む。セールスとしては、ゲーム機の方が圧倒的に多い*2

f:id:lastline:20191108165036p:plain
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20180702011/ より作成

f:id:lastline:20191108165112p:plain
https://www.statista.com/statistics/189582/age-of-us-video-game-players-since-2010/ より作成

集計される年齢幅が異なるのだが、日本とグローバル市場の違いとして、グローバル市場においては全年齢的にゲーマーがいるが、日本は20歳未満のゲーマーが多く、50歳以上となると極端に少ないことが挙げられる。
日本では、20歳未満、20歳から35歳の年齢層がそれぞれ30%を占めるが、北米では18歳から35歳が40%にも昇り最も多い。興味深いのは、北米やグローバル市場においては50歳以上でもゲーム機で遊ぶ人がいる一方で、日本では極端に少ないと考えられる点だ。*3
先のゲーム売り上げランキングをみても日本のゲーム市場は子ども向けで、グローバル市場は大人向けが売れる傾向がある。

家庭用ゲーム機とPC

日本とグローバル市場の違いは、家庭用ゲーム機とPCにも現れている。モバイルゲームの売上が初めて全体の50%超え、日本のモバイルゲーマーの支出額はアメリカの1.5倍など2018年のゲーム市場の動きまとめ - GIGAZINE において、2018年のゲームマーケットが分析されている。近年では、mobile(スマートフォンなど)の市場が伸びてきている。ゲーム機とPCに目を向けると、2012年では家庭用ゲーム機の割合が多かったが、2018年にはほぼ拮抗している。
日本に目を向けると、家庭用ゲーム機でゲームを遊ぶ人はPCの3倍にもなる。つまり、ゲーム機とPCでのゲームプレイヤーの比率も日本とグローバル市場で異なることが分かる。

Xbox シリーズが日本で苦戦した要因はグローバル市場と市場の形態が異なるためだろう。その違いとは年齢層の違いであろう。日本は子ども向けであり、グローバル市場は大人向けである。子ども向けのゲームとなると、グローバルにおいても任天堂が強い。つまり Xbox には勝ち目はなかったのである。

存在感をアピールしたXbox

Xbox シリーズの販売動向を見ていこう。各家庭用ゲーム機の販売台数は Platform Totals - VGChartz がまとまっている。北米、欧州、日本、その他と地域毎の販売台数を参照できるのだが、合計が書かれていないのが解せない。

Xbox は北米では2001年の11月、日本では2002年の2月に発売された。いわゆる第6世代の家庭用ゲーム機である。2001年の1月にSEGAドリームキャスト(DC)を含む、家庭用ゲーム機からの撤退を表明しており、SEGAと入れ替わりでマイクロソフトが家庭用ゲーム機市場に参入した構図となる。当時の主な家庭用ゲーム機としては、2000年3月に発売されたPS2、2001年9月に発売されたゲームキューブGC)などがある。当時は、PS2のほぼ一強だった。PS2は2019年現在において、1億5千万台と世界で最も売れたゲーム機である。DVD再生機能や、PSの互換性がヒットの理由だろう。ちなみに、PSも1億2千万台ほど売れている。
Xbox は2400万台とGCの2000万台よりも売れており、新規参入としては存在感を十分に示せたと言えるだろう。ちなみに、PS vita も大体2000万台ほど売れている。

スタートダッシュをきめた Xbox 360

新規参入に成功した Xbox は、次世代機としてPS3に先んずる2005年11月に Xbox 360 を発売する。先行発売したこと、また発売当初のPS3に種々の問題があったことから 当初は PS3 よりも人気であった。最終的な販売台数は、PS3 に抜かれてしまったが、北米では常に PS3 の1.5倍ほど売れ続けた。第7世代としては、後発ながら Wii の異常な販売台数の伸びを見せている。この世代は、ソニーマイクロソフト任天堂の販売台数がそれぞれ拮抗していたと言えるだろう。

なぜ、Xbox Oneは売れなかったのか。歴代Xboxの歴史をなぞって考える。|ゲームキャスト|note においても述べられるように、Xbox 360 は日本市場も意識してマーケティングを行っていた。その代表例が、ブルードラゴンである。キャラクターデザインに鳥山明、監督にファイナルファンタジー(FF)等で知られる坂口博信を起用しており、日本市場への意気込みが見て取れる。まぁ、既にクロノ・トリガーで通った道のため、そこまで新鮮味はなかったのだが。
ブルードラゴン小畑健が作画担当として、少年ジャンプでも連載していたが、残念ながら人気は出なかったようである。少年ジャンプは、ドラゴンクエストやFFを特集するなど、ゲーム業界に多大な影響を持つ雑誌であり、そこを抑えたことはマイクロソフトが日本市場を研究していたからであろう。日本市場が、グローバル市場に比べ対象年齢が低いことも理解していたのではなかろうか。

歴代Xbox360ソフト売上ランキングTop20【PRiVATE LiFE】歴代ランキング で見られるように、ブルードラゴンの他にもRPGが20万ほど売れたが、360 は日本の市場を取ることはできなかった。スターオーシャン4テイルズ オブ ヴェスペリアは、Xbox 360 の独占タイトルとして販売されたが、後に PS3 でも販売されている。プレイするために Xbox 360 本体を購入した人もいるだろうが、それでも日本では 200 万台に留まった。
ちなみにDLCが最も売れたと思われるアイドルマスターは思った以上に売れていない。

先の note でも考察されるように、Xbox 360 が日本で売れなかった最大の要因は Wii であろう。Wii は子ども向けに留まらず、それまでゲームをしなかった層をも取り込んでいる。また、PS3のスタートダッシュが失敗したとは言え、日本ではPS3の期待が大きかったのもあるだろう。この点は、Xbox で市場を形成できなかったことが後を引いているだろう。

強い PS4 と追い上げる Switch

Xbox OnePS4 は第八世代のゲーム機として2013年11月に発売された。PS3の失敗から、PS4は売れないと予想されていたが、蓋を開けてみると PS4 は大いに売れた。2019年現在で1億台を売り上げている。

Xbox One は グローバル市場でも先代の 360 よりも振るっていない。北米では PS4 と拮抗しているが、グローバル市場では大きく水をあけられている。また、2017年に発売された Switch に追随されている。共に4000万台ほど売れているが、Switch が抜くであろう。

PS4が売れた理由の一つは、本体格の安さであろう。Xbox One が $499 なのに対して、$399である。グローバル市場は年齢層が高くPCでプレイするユーザーも多い。その点を考えると、PCはお金をかければゲームをリッチに体験できるが、そこそこの価格でそれなりの体験ができる点で PS4 が売れたのだろう。これは、恐らく Xbox 360 が売れた理由にも通じるのではないだろうか。

混迷を極めるであろう第九世代

次世代機としてMicrosoftはスカーレット、ソニーにはPS5が控えている。しかし、次世代の家庭用ゲーム機は混迷を極めるであろう。AppleApple Arcade を Google は STADIA を打ち出している。まぁ、STADIA は話題になった割にはソフトのラインナップが残念な感じではあるが。
また、ゲーム市場全体に目を向けると昨今伸びできているのはスマートフォンなどの mobile 分野である。すでに、家庭用ゲーム機とPCを合わせた市場よりも大きくなっている。家庭用ゲーム機とPCの市場規模も増加はしているが、mobile 分野の成長率には及ばない。

1980年代から90年代におけるファミコンスーパーファミコンは子ども向けであったからこそ日本が強かったのであろう。その後、1990年代後半のPS頃からから徐々に大人向けになっていく。グローバル市場では大人がPCゲームをプレイしていたが、それが徐々に家庭用ゲーム機に流れていき、それが2000年以降のPS2の大ヒットと、Xbox 360 の成功につながったのだろう。2010年以降も PS4 がその流れを引き継いだが、同時期に mobile 分野が急激に伸び始めた。mobile 分野は、日本においてもこれまでゲームをやらなかった層すら取り込んでいる。特に、高年齢層すらもプレイしているのが今までにない傾向である。
2020年以降も mobile 分野がゲーム市場を占めるとなると、ゲーム機やPCゲーム市場はこれまでにない変革が起こるのではなかろうか。

*1:日本では Xbox One 向けに発売されないケースすらある

*2:ゲーム市場としてみるとゲーム機の方がやや優性である。PCはオンラインが多く含まれると思われる。

*3:JOGAの統計では60歳以上は集計されていないが、50歳以上で極端に少なくなることから、60歳以上も少ないと推測される