「 Vault boy が Thumb Up してるのはキノコ雲からの距離を測っているから」というデマを検証した


Fallout シリーズのマスコットである Vault boy が Thumb Up してるのはポジティブな意味ではなくキノコ雲からの距離を測っているから」というデマが出回っているので調べました。
このデマを検証する上でややこしいのは、フェーズがいくつかあることです。

1. 制作チームがそのような意図を込めてデザインしたか否か
2. キノコ雲が親指に隠れるか否かで放射線汚染地域を推定できるか
3. 「キノコ雲が親指に隠れるか否かで放射線汚染地域を推定できる」という都市伝説はあるのか

おおよそ3つに分け、それぞれを検証したのですが、ゲームデザイナーである Cliff Bleszinski が Vault boy のデザイナーに直接真偽を聞いた結果、嘘であると答えていたそうです。


まぁ折角なので、僕の無駄になってしまった検証を読んでやって下さい(泣きながら)。デマが生まれた背景の類推や、真偽を確かめられない場合のデマの検証方法として参考になるかもしれませんし(強気で)。

1. 制作チーム がそのような意図を込めてデザインしたか否か

恐らくデマの元は www.reddit.com/r/AskReddit/comments/1or72r/what_is_one_thing_if_you_see_you_should/ccurii6/ *1だと考えられます。

Falloutはメッセージを明示せず示唆するゲームではあるものの、 上記のReddit には 制作チーム がそのように意図してデザインしたことを示す出典らしい出典はありません。キノコ雲からの距離を測っているのは嘘であると主張している www.reddit.com/r/Fallout/comments/40x4b2/article_debunking_the_vault_boy_is_comparing_his においても、公式が意図したという出典は提示されていません。

Falloutは明示しないゲームですが、示唆は大好きなゲームなため、もうちょっと分かりやすい示唆をするのではないかなと。仮にキノコ雲からの距離を測っているなら、瞳にキノコ雲が映った Vault boy を隠しておくなり、ゲーム中にそのようなログや日記を残すのではないでしょうか。

2. キノコ雲が親指に隠れるか否かで放射線汚染地域を推定できるか

Vault Boy's 'Rule of Thumb' Can't Save You From Nuclear Fallout | Inverse にそのものずばりで、守ってはくれないよと書かれています。

原爆による人的被害は熱線と放射線放射性物質に大別されますが、キノコ雲と親指の大きさを悠長に比較できるのは熱線の影響を受けない距離でしょう。広島の原爆では500メートル以内であれば即死か即日死、1km以内では少し生存確率が増えますが半年以内に90%が死亡しています。つまり広島原爆の場合、親指で距離を測れる地域は爆心地から数km以上離れていると考えられます。広島原爆における爆発時の放射線による影響はおよそ5kmまでが顕著です。それ以上の距離になると降下した放射性物質の影響が考えられますが、気象条件などによって異なってきます。この場合、悠長に親指とキノコ雲を眺めてないで、さっさとシェルターなどに身を隠し放射性物質が落ち着くのをまって避難した方が良いでしょう。

さて、キノコ雲が親指に隠れた場合には、どれくらいの距離離れているのでしょうか。簡単な相似の問題ですが、親指に隠した物体の長さの大体30倍くらいが距離に相当します。親指の太さや腕の長さで微妙に変わってきますが、私の場合は親指の幅が2cmくらいで、サムアップした際の目から親指の距離が60から65cmくらいなので大雑把に計算すると、親指で物体が隠れる距離はその物体の30倍くらいになります。このように、親指を用いた距離の推定を "Rule of Thumb"と呼びます。

広島原爆のキノコ雲の大きさが正確には分からなかったのですが、きのこ雲の下でおきたこと原子爆弾から生き残る為のガイドライン(米エネルギー省国立研究所) : カラパイア 等から推定するに、高さ、直径共に4, 5kmくらいだったようです。つまり、広島原爆の場合は "Rule of Thumb" によると100km以上離れれば安全だと。何もない平地なら見えるかもしれないレベルですね。ちなみにビキニ水爆は高さ40km、直径100kmにおよぶキノコ雲ができたそうで、この場合はなんと3000km以上になり、地球は球面のためそれだけ離れたら、そもそもキノコ雲が見えないでしょう。

これだけ離れると安全ではあるでしょうが、離れすぎですし、見えない可能性もあります。キノコ雲が親指に隠れる否かで放射線の影響内にいるのかを判断しても意味が無さそうです。

3. 「キノコ雲が親指に隠れるか否かで放射線汚染地域を推定できる」という都市伝説はあるのか

親指でキノコ雲との距離を測ってもあまり意味はなさそうです。
制作チームが明示していないとはいえ、Fallout の制作チームが「キノコ雲が親指で隠れたら安全」なる都市伝説をモチーフにしたジョークとして仕込んだ可能性は拭いきれません。

親指で隠れるか否かで安全な距離を推定する方法として "Rule of Thumb" が提唱されているようです。例えば、 Hazardous Materials | Topic | emSurviving a Hazmat: The Rule of Thumb and the 3 U’s では危険物や火災などの事故から距離を取る方法として紹介されています。
事象の規模によりますが、その大きさの約30倍くらいの距離を取れば安全である、という指針です。例えば、車は4mくらいですから、それが燃えていたら120mくらいの距離を取れば安全だという判断になります。

この "Rule of Thumb"がどこまでよく知られているのかはよく分かりません。"Rule of Thumb" は距離の推定以外にも「経験則」という慣用句にもなっているため、その辺を調べるのがややこしいのです。ただ、わざわざ記事にして紹介するということは、みんなが知っている分けでは無いでしょう。もしかしたら日本の避難訓練における「おかし」や「おはし」や防犯用標語「いかのおすし」くらいにはメジャーなのかもしれませんが。USにしてもUKにしても、そこまで画一的な避難訓練や危険物教育をするとも思えません。

また、先の原爆との距離のように、 "Rule of Thumb" は 対象のスケールが異なるとあまり意味をなしません。対象が大きいと距離が離れすぎます。安全ではありますが、 "Rule of Thumb" で推定する意味がありません。小さすぎる場合も同様で、例えば親指と同じ大きさの物体はゼロ距離でも隠れます。危険でしょうがないですね。

ほぼほぼデマ→冒頭にも書いたけどデマ

Fallout シリーズのマスコットである Vault boy が Thumb Up してるのはポジティブな意味ではなくキノコ雲からの距離を測っているから」はデマと判断して問題無いでしょう

デザイナーが違うと発言しています。制作チームがそのような意図でデザインした明示も示唆もありそうにありませんし、キノコ雲が親指で隠れる距離は100km以上離れているため、 "Rule of Thumb" を用いる意味がありません。原爆に対する対処としても、熱線で甚大な被害を受けなかったのなら、さっさとシェルターなどに避難すべきです。
また、危険物や事故からの安全な距離を取るために、 "Rule of Thumb"が提唱されていますが、広く一般に知られる経験則でもなさそうです。ジョークにするにはマイナーでしょう。

Fallout は現在ベゼスタから発売されていますが、同じベゼスタつながりで Skyrim における「膝に矢を受けてしまってな……」はノルドの言葉で結婚したことを意味する隠語というデマを思い出しました。

*1:Redditのリンクを張るとなぜかはてなブログに投稿できなかったのでURLを表示します