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レンコンの穴の話

はてなブックマーク - レンコンって機械で穴あけてるって知ってた? で得られたレンコンの穴に関する知見を互いに整合性を持たせつつまとめてみた。皆さんのレンコンの穴に対する知識の一助となれば幸いである。

レンコンの穴とレンコンハサミムシ

蓮はインドもしくは中国が原産とされる。インドでは主に観賞用、中国ではその地下茎であるレンコンが食用として栽培されてきた。天然のレンコンの穴はレンコンに生息するレンコンハサミムシによるものだが*1、現在では原産地であるインドにしか生息しておらず、したがって天然に穴の開いたレンコンはインドでしか収穫できない。インドから中国へ伝来する際の環境の変化と、食用として品種改良されたことにより、食用のレンコンにレンコンハサミムシは生息できなくなってしまった経緯がある。レンコンハサミムシでは穴の大きさがまちまちであり、また可食部が少なくなるなどの問題があったため、品種改良の過程で淘汰されたためである。

泥から収穫されたレンコンは空気に触れることで、酵素バクテリアによる分解が促進される。この過程を経ることでレンコンは人間が食べられるようになる。穴があると空気の触れる面積が増え分解が促進され、また適度に乾燥することで日持ちもよくなる。そのため、レンコンハサミムシの代わりに人為的に穴を開けるようになっていった。
小規模で栽培する場合は、棒を予めドロの中に埋めレンコンの穴になるように栽培する方法もある*2

レンコン職人と八穴流

穴のあけ方により、分解の過程が変わるため、味や風味、触感が大きく違ってくる。現在でも、機械により大量生産されたレンコンよりも職人により穴を開けられたレンコンの方が美味とされ高価である*3

日本では奈良時代に仏教の伝来とともに蓮が伝わったが、主に観賞用であった。日本でレンコンが食されるようになったのは、空海が唐より穴を開ける技術を持ち帰ったのが始まりとされる*4。ただし、許多の弘法大師伝説の一つである可能性もある。少なくとも、日本では平安時代頃から食べられるようになったと考えられている。

江戸時代には、多くの穴開け職人が存在した。その中でも、水戸光圀が推進した八穴流は現在でも主たる流派である*5。本来、八穴のレンコンは本来はおせち料理などめでたいハレの場で重宝され*6、祭日ではないケでは避けられたが、光圀公の影響により日常でも用いられるようになったとされる。
ちなみに、インドではミミズを穴を開けると信じられていた*7。インドではレンコンが食用とされなかったため、穴の主因に注意が向けられなかったのであろう。

「御坊」と「牛蒡」*8

室町時代までは、くり抜かれた部分は切片として主に農家や職人によって消費されていた。安土桃山時代から江戸時代初期にかけ、農耕技術によりレンコンの生産性があがり、また旋盤による穴開けが開発され、くり抜かれた部分を棒状に保つことができるようになった。その結果、棒状のくり抜かれた部分が大量に余るようになる。そこに目をつけた大阪の商人が弘法大師にちなんで「御坊」として売り出した所、ありがたい食べ物として大変な人気が出た。あまりにも売れたため、「御坊」と形状のよく似たキタキスの根(現在の牛蒡)が、まがいものとして主に関東で販売されるほどであった。レンコンをくり抜いた「御坊」の影響により、中国などでは薬草としか用いられなかった「牛蒡」が、日本ではその根も食用として栽培されるようになった。

レンコンの工業製品化

江戸時代末期から明治初期にかけ、工業化が促進されレンコンの穴もドリルであけられるようになる。「御坊」のような形状は保てなくなったが、その頃には「牛蒡」が流通しており「御坊」の需要も下がっていた。明治頃よりくりぬかれた穴はデンプンなどで固められ再成形された加工レンコンに利用されるようになっていった*9
大正になってからは、レンコンの穴のくりぬきと粉砕および加工を同時に行える機械が日立製作所により開発、販売された。このレンコン穴開け機は創業時の日立製作所における主力商品であった*10

レンコンは泥の中で成長するため収穫後に穴を開ける際に汚染が懸念される。古くは開けた穴に薬草や辛子などをつめて消毒した。詰め物されたレンコンは辛子レンコンとして残っている。
現在では、食中毒などの懸念があるためJISやISOの認定を受けた工場でしか加工することができない。ちなみに、JISとISOでは穴の大きさも規定されており、それぞれ微妙に異なるサイズであるが*11、加工後はレンコン自体の収縮や膨張により穴の大きや形が変わるため、穴の大きさだけではどちらの規格か判断することは難しい。
輸出用にはMIL規格*12、HACCPも規定されているが、認定のハードルが高く*13、また中国や日本以外では消費されないため形骸化している。

レンコンのこれから

戦後は、さらなる工業化の促進により形成加工品としては 射出成形が主流となっている。形が揃っているため外食産業で重宝さてている。一般にも水煮として販売されている*14

レンコンの穴はさらなる模索が続けられている。近年、遺伝子組み換え技術によりフキ類の遺伝子を蓮に注入することで、収穫時に自然と穴の開いたレンコンが開発されている*15。遺伝子組み換え食品に対する懸念から、流通するには至っていない。
工業化により穴開け職人が激減し、少子化により跡継ぎも問題となっている。そのため職人の技術をデジタル化し再現する方法として、新たに3Dプリンタによるレンコンの形成研究も進んでいる*16。 形成加工品でありながら職人が開けたレンコンの味の再現が期待されている。