死亡フラグを追いかけて

「死ぬ気か!」

後藤寿庵さんの本題は「死亡フラグ」という言葉がいつ頃から使われるようになったのかであって、「死亡フラグ」という表現がいつからあるかではないのですが、TwitterでのリプライやTogetterのコメント欄ではその点を見極められていない人がいます。

Togetterまとめでは結局よく分からないので調べてみました。

本題とはあまり関係ないのですが、Togetterのコメント欄で、2004年にサービスを開始したFCブログの 金田一少年によろしく:金田一少年の事件簿・推理ブログ|FC2モブログ| 魔犬の森の殺人 をして2001年には使われていたとする人がいて、リテラシーが問われるなと思いました(小並感)。

最初にザックリと結論を書くと、ネットだと2002年頃に「死亡フラグ」の用例を見つけることができます。広まったのは2003年頃で、2004年から2005年にはオタク間には十分に広まっていたようです。
「フラグ」という言葉がコンピューター業界以外に広まり始めたきっかけは、1990年代中期のアダルトゲームを中心とするフラグ管理型アドベンチャーゲームの登場を無視できないでしょう。
死亡フラグ」の初出があるとしたら、2000年前後の雑誌や書籍、パソコン通信、インターネットのサイトなどかと思われます。雑誌や書籍以外に初出があった場合、発見は困難を極めます。

始めに言葉ありき?

死亡フラグ」的な表現は、言葉ができる前からあったはずで、言葉は無いものの「お約束」とか「ありがちな展開」などと表現されていたのではないでしょうか。登場人物が「死亡フラグ」に気がつくなどメタ表現も古くからあったはずです。「虫のしらせ」は「死亡フラグ」とはやや意味合いは異なりますが古い言葉ですし、また死を悟る表現は古くから存在します。
英語では"Marked For Death"と表現されるそうで、「死神の標的」というニュアンスになるようです。「死の予兆」などと表現した方が日本語っぽいかなと。

一般的に「死亡フラグ」はストーリー上であんまり目立っていないキャラの死を際立たせるための技巧や演出です。「死亡フラグ」は物語類型とするほどには、ストーリー上で大きな展開ではありません。

死亡フラグ」なる概念は昔からありましたが、それを具体的に表現する的確な言葉がありませんでした。「死亡フラグ」という言葉が発明された結果、概念でしかなかった「死亡フラグ」は多くの人に認知され、また考察されやすくなります。そして「死亡フラグ」に、さらなる意味づけがなされ始めます。
死亡フラグ」という言葉が生まれたことで「死亡フラグ」をネタにしやすくなったとも言えます。

言葉が生まれることで、物語から「死亡フラグ」を解体し抽出しやすくなりました。例えば「この戦争が終わったら結婚する」、「ここは俺に任せて先に行け!」、「コナンくんが近くにいる」などの「死亡フラグ」が抽出されてきました。そして、これを逆手にとって「死亡フラグ」をへし折ったり、あるいは登場人物が自ら「死亡フラグ」を悟ったりと、メタを表現しやすくもなります。「死亡フラグ」という言葉が無くてもメタ表現は可能ですが、あった方が著者としては扱いやすく、読者としても認知しやすいです。

死亡フラグ」の創成、解体、発展という過程は「萌え」も同じで、「萌え」なる概念は言葉の誕生以前にありましたが、「萌え」という言葉の誕生により、「萌え」は属性に解体され、より具体的な意味づけがなされ発展していきました。ただ、「萌え」は元の概念から、かなり変質していますが。

ゲーマーが「フラグ」を意識するようになったのはいつから?

死亡フラグ」に限らず「フラグ」は物語上のお約束、パターンとしての意味を有するに至っています。

「フラグ」の意味は本来「旗」です。「旗」は目印の象徴であることから、コンピューターの処理における条件付けを指す言葉として使われるようになりました。条件が真(True)であれば「フラグが立っている」、偽(Fasle)であれば「フラグが落ちている」などと表現されます。

コンピューター用語としての「フラグ」が、業界内で日常会話として処理システム以外にも使われていた可能性はありますが、「フラグ」が物語へ使われるようになったのは、コンピュータゲーム、特にアドベンチャーロールプレイングゲーム(RPG)の影響が大きいでしょう。

アドベンチャーゲームでは、

  • ある行動を起こさないと先に進めない=フラグを立てないと先に進めない。
  • ある行動を事前にやっておかないとゲームオーバーになる=フラグを事前に立てておかないとゲームオーバーになる

逆に、フラグを立てておくとゲームオーバーになる場合もありますが、「フラグ」によってゲームの進行が管理されています。
RPGも同様で、特定の行動を事前に行っていないと王様に話しかけてもイベントが始まらないなど「フラグ」によって進行が管理されています。

一本道の場合、プレイヤーは「フラグ」をあまり意識する必要はありません。しかし、マルチシナリオでは「フラグ」を意識しないと望むルートへ進めなくなります。つまり攻略のためにはプレイヤーが「フラグ」を認識し管理する必要があります。恐らく攻略情報を紹介する雑誌などで使われていたのがゲーマーに浸透したのでしょう。

プレイヤーが攻略のため「フラグ」を意識する必要のあるゲームの登場はスーパーファミコンで発売された「弟切草(1992年)」や「かまいたちの夜(1994年)」の影響が大きいと考えられます。
これらのサウンドノベルゲームの登場により、1990年代中期から後期において、アダルトゲームを中心にフラグ管理型のアドベンチャーゲームが数多く出現しました。

フラグ管理型のアドベンチャーに影響を与えた「かまいたちの夜」ですが、実はフラグはほとんど使われていません。PS版以降をプレイするとフローチャートを見られるので、フラグ管理では無いことが分かりやすいかもしれません。
弟切草」は不明ですが、既読か否かはフラグにより管理されているものの、複雑なフラグ管理はなされていないと思われます。

ゲームを作る方からしてみると「フラグ」で管理するのが当たり前なわけですが、それをプレイする方にも意識させた点で90年代中期頃のアダルトゲームの存在は無視できないでしょう。

「フラグ立て」から「死亡フラグ」へ

ゲーマーが「フラグ」を意識し始めたのは、1990年代中頃から後半だと考えられます。ゲーム制作者にとって「フラグ」は設置するものですが、ゲーマーにとっては「フラグは立てる」ものです。
そこで、Googleにて「フラグ立て」で期間指定して検索してみました。すると、90年代後半にはアダルトゲームを中心とするゲーマー間では当たり前に使われる言葉になっていることがうかがい知れます。

LOVE SLG INSTITUTE HOME PAGE は1997年1月22日に書かれた「同級生2(1995年)」に関する論考で、「フラグ立て」が言及されています。
1998年3月5日に書かれた Article:AVGを作るにあたって では「フラグ立て」が当たり前のように使われています。

この「フラグ」が日常会話などにおいてネタとして使われるようになったのはいつ頃なのでしょうか。個人的な考えとして、「フラグ」は恋愛絡みのネタとして使われた方が先だったのではと。現在では「恋愛フラグ」と呼びますが、使われ始めた頃は単純に「フラグ」と呼ばれていたように思います。

ネットにおいては、2002年1月31日に書かれた 過去日誌 では「恋愛フラグ」と書かれていますが、その他の部分における「フラグ」のニュアンスとしては、恋愛フラグに近い使われ方をしています。

死亡フラグ」は先の過去日誌よりも古い、2001年8月3日に書かれたがしそふと開発室日誌 でも見ることができますが、ここではゲームにおいて死亡する「フラグ」を意味しています。この日誌ではスクウェアから発売されたキングスナイトのプログラムを解析しており、ゲーム内に多数の死亡する「フラグ」が存在することを明らかにしています。日誌を書いた人は、プログラミングをススパゲッティであると酷評していますが、多分このプログラム書いた坂口博信さんじゃないのかなぁ。

同様にゲーム内の状態としての「死亡フラグ」は 孫策シナリオ分岐2 における「シナリオ分岐で孫策死亡フラグが斃れてしまう」などがあります。更新された日付はありませんが、Last Modified - Chrome Web Store によると、最終更新日が2002年5月7日で、三国無双2の発売が2001年9月なので、恐らく2002年に書かれた記事で間違いないと思われます。
以上二つの記事から、ゲームオーバーとしての「死亡フラグ」という言葉の方が先に使われていた可能性が示唆されます。

現在の意味に近い「死亡フラグ」としては、[三国志演義] 第一回~第十回 における「女に騙されて主君を裏切る呂布死亡フラグが立った。」が私が見つけた最古になります。日付通りならば、2002年1月8日に書かれた記事です。ここで注目すべきは、「死亡フラグ」が特に説明無く使われている点でしょう。恐らく、この頃には意味が確立され、広まっていたと考えられます。

2ちゃんねるで現在確認できる最も古いレスは、No Such Blog or Diary - 21 June 2013 で紹介される2002年12月21日となっています。機動戦士ガンダムSEEDのスレッドで、やはりここでも特に断りがありません。
このブログによると、2003年には複数のスレッドで「死亡フラグ」が見つかるようです。2ちゃんねる以外でも同様に2003年頃から「死亡フラグ」が使われるようになったことが分かります。例えば、仮面ライダー555 第27話 (2003年8月3日放送)、や、2003年6月21日に放送されたガンダムSeedの感想である setv37 などで「死亡フラグ」が使われています。

また先のブログでも言及されていますが、2003年頃と言えばベルセルクエルフェンリートGANTZガンダムSEEDなどキャラが多く死ぬアニメが思い起こされます。これらのアニメが「死亡フラグ」の波及に貢献したのでしょう。

ネタ化へ

死亡フラグ」は2003年前期頃から広まり始め、2003年後期にはネットではそれなりに浸透した言葉になっていたようです。初出は不明ですが、2000年以前には遡れる可能性もあります。この頃は、雑誌やパソコン通信のログを漁った方がよいでしょう。ただし、ゲームオーバーとしての「死亡フラグ」と、現在の意味での「死亡フラグ」の違いを見極める必要があります。

ネットに浸透した「死亡フラグ」は早速ネタになり、物語から多くの「死亡フラグ」が抽出されました。2004年には十分にネタとして広まっていたようで、死亡フラグとは - はてなキーワード は2004年7月7日に作られています。
また、死亡フラグ/ 同人用語の基礎知識 は同年の8月25日にアップされています。

自動アンケート作成+では、2004年10月12日に 死亡フラグコン が作られています。最近の自アン+で印象的だった項題 によると『恒例「死亡フラグコン」箱』とあるので、これ以前にも箱があったようです。
この時点で、名探偵コナンがネタになっています。1994年から少年サンデーに連載され、1996年よりアニメがスタートした名探偵コナンが「死亡フラグ」の発生と波及に大きく関わっている可能性もあります。

2ちゃんねるのコピペである「ありがちな死亡フラグの立ち方」は、今のところ日付が確認できたのは 仮面 - sayumanmanの日記 で引用されている2005年7月4日のレスとなります。この時点で「コピペ」として紹介されているので、初出はもう少し古そうです。

まとめ

「フラグ」とは旗を意味し、コンピューター処理における条件付けとして使われるようになりました。
コンピューター業界で「フラグ」が処理システム以外の日常会話でも使われた可能性はありますが、非常に狭い範囲に留まっていたでしょう。

その後、コンピューターゲームにより、「フラグ」を知る人が増えます。特にアドベンチャーロールプレイングゲームは「フラグ」で管理されています。
ただし、この時点ではゲームを作る側に回らなければ「フラグ」を「フラグ」として意識することはありません。一般なプレイヤーはゲームに「フラグ」があることは意識できますが、それを「フラグ」という言葉で認識する必要がありません。イベントであったり、アイテムであったり、より具体的なもので認識しているはずです。ゲームを作る側になって、「フラグ」で管理されていることが分かります。
ゲーマーに「フラグ」を「フラグ」として意識させたのは、1990年代中期のフラグ管理型のアドベンチャーゲームでしょう。これらのゲームは、プレイヤーが「フラグ」を意識して管理しなければ攻略が難しいです。恐らく、攻略雑誌などでも「フラグ」という言葉が使われていたでしょう[要検証]。
ちなみに、フラグ管理型アドベンチャーに影響を与えた「かまいたちの夜」はフラグ管理によるものでは無い点が非常に興味深いですね。

1990年代後期に「フラグ」はゲーマーへと広まっていったのでしょう。恐らく、当初は「恋愛フラグ」に近い意味でゲーム以外にも使われるようになったと推測されます。
また「フラグ」はコンピューター処理だけでなく、物語上の伏線や予兆などにも使われるようになって行きます。
その代表例が「死亡フラグ」で、少なくとも2002年頃には特に断りが必要の無く意味の通じる言葉であることが見受けられます。この「死亡フラグ」は、元々はゲームにおいてゲームオーバーのフラグという意味で「死亡フラグ」が使われていた可能性もあります。
この「死亡フラグ」がインターネットに広まっていったのは2003年前後で、恐らくガンダムSeedやガンツ、ベルセルク名探偵コナンなどのアニメが拡散に一役買っていると思われます。
2004年には「死亡フラグ」はネタとして広まり、十分に認知された言葉になったと考えられます。
死亡フラグ」の初出は2000年以前の雑誌や書籍、パソコン通信あるいは現在は削除されたインターネットのログにある可能性があります。ログであった場は、発見は困難を極めるでしょう。

5月28日追記 やはり2002年前後が怪しい

2ちゃんねるのログを漁るのが当たり前と書かれてますが、それ以前の言葉もあるし、2ちゃんねるに流入してきた言葉も多いです。2ちゃんねるスラングの拡散過程を見るのには適しているのですが、発生過程を追う場合、あまり当てにならないのです。

ただ、ここで紹介されている バカの一つ覚えな展開・過去ログ倉庫 を調べてみると面白いことが分かりました。

物語上のお約束な展開をネタにするスレッドで、Part 1は2000年に立てられています。
ログを「フラグ」で検索してみると、最古の用例としては バカの一つ覚えな展開・その5 の2002年2月3日のレス番号668が見つかりました。その後、馬鹿のひとつ覚えな展開・Ⅵ~追わずにいられない~ では「フラグ」がそれなりに使われ始め、2002年4月14日のレス番号584で「特に女性が死亡するフラグが立ちますので」と死亡と関連づけられています。翌日の15日のレス番号635で「死亡フラグ」の用例もありますが、この段階ではカギ括弧付きで使われていることから、定着した言葉ではなさそうです。

また、バカの一つ覚えな展開・その8 では恋愛にからめた「フラグ」が多く書かれています。
ただ、この頃はスレッド内で「フラグ」=物語上のお約束としてはあまり定着していないようで、使用頻度も高くありません。
1年くらい「フラグ」の使用頻度が低い時期が続きます。バカの一つ覚えな展開・その17 の2003年3月3日レス番号662で「死にフラグ」を発見できます。また、バカの一つ覚えな展開・その18 において、同日のレス番号354で「死亡フラグ」が再度登場します。
以降は「死亡フラグ」以外にも、「フラグ」という言葉の頻度も上がり、物語としてのお約束=「フラグ」という意味が定着していったようです。

以上から「バカの一つ覚えな展開」では、2002年2月頃から「フラグ」が物語と関連づけられ始め、2003年にはスレッド内で定着していると考えられます。死亡フラグも同時期に関連づけられ、2003年初頭には「死亡フラグ」が浸透しています。

どうも2002年前後に「フラグ」が物語のお約束に結びつけられるようになった気配があります。その時期に「フラグ」と物語を結びつけたきっかけがあったのかもしれません。

追記 5月30日 「フラグ」を物語へ転用した用例 2001年

古い用例がないかと 変人窟 を漁っていたら、2001年10月6日に立てられた 兄妹の萌語り~お兄ちゃんフラグ立ててる?~Part6 を見つけました。
死亡フラグ」ではないですが、アドベンチャーゲームにおける「フラグ立て」が恋愛フラグに近い意味で使われています。ただ、妹との関係にですが・・・。