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青色LEDにかこつけて、人類が利用してきた青色をまとめてみた

自然界に青色はたくさんあるけども、青い色素は少ない

青色LEDがすごい発明な理由はノーベル物理学賞関連で散々語られているでしょう。主に窒化ガリウムの結晶化と半導体として利用するのが困難だったためです。青色LEDの技術のお陰で、輝度の高い緑色LEDが作れるようになり、ディスプレイなどへ利用できるようになりました。

その他に、ツッコミどことはたくさんありますが・・・
例えば、青いバラがないのはバラという品種が青い色素を有しないからです。
フェルメールが青い顔料を発明したわけではありません。フェルメールが使っていた青はウルトラマリンブルーです。原料がラピスラズリで非常に高価だったため、西洋絵画ではたくさん使うことができなかっただけです。後に、プルシアンブルーが発明され、ウルトラマリンブルーに取って代わりました。
自然界に青色が無いわけではありません。なぜ青色発光ダイオードがすごい発明かと言うと青いバラがないように自然界に青色が存在しないからなんだよね に寄せられた色んな青まとめ!! - Togetterまとめ のようにたくさんの青色が存在します。
しかしながら、自然界において「色素」由来の青は非常に稀少です。そのため、他の色に比べると青は貴重な色でした。

本稿では自然における青色が稀少であることを説明します。色や色素に関しては キリヤ化学 が非常に丁寧かつしかも広い範囲を網羅しています。
動物の色に関しては、MARKの部屋記事一覧 を参考にさせて頂きました。

青の語彙は最後に生まれる

言語が違えば、世界も違って見えるわけ

言語が違えば、世界も違って見えるわけ

「言語が違えば、世界も違って見えるわけ」において、古代になるほど青色の語彙が少なくなる理由が書かれています。
現代でも、青色を語彙として持たない言語があります。
色を表現する語彙として、先ず赤色が生まれ、その次に黄色、緑色が続き、青色は最後になる傾向があるそうです。日本語の「青」は、この順番に反しているようですが、「青」はしばしば「緑」を意味します。色(色)のお話-2 にもあるように、古代の日本における「青」は「緑」を指す言葉だったと考えれば、先の順番に反することはありません。

青色という語彙の発生が後になる理由としては、他の色と比べ自然界に青色が少なく、また文化的にもあまり重要ではなかったからだと考えられています。実際、色素を化学合成ができるようになるまで、青い色素、染料、顔料は稀でした。青い色素を持つ動物は多くありません。脊椎動物は、色素では無く散乱や構造色由来の青色が殆どです。青い鳥が幸せの象徴なのは、その稀少性故でしょう。

青い色素を利用するには、植物や鉱物などから採取する必要がありました。ラピスラズリは古来から青い顔料として利用されましたが、非常に高価でした。
藍染などに用いられるインディゴは、水に溶けないため色素や染料として取り扱うには工夫が必要です。日本では菌による発酵を用いて、インディを水に溶ける物質に還元し染料として利用してきました。
ブルーベリーや紫キェベツに含まれるアントシアニン系の色素も用いられてきましたが、pHによって色が変わるため安定性に難があります。
アッキガイ科の巻貝の分泌液は化学反応させることで、貝紫色の染料として用いられてきました。紫は、古来より権力の象徴でしたが、染料として稀少だったことも、その要因の一つでしょう。

自然界に青い色素が少ない理由は明らかではありません。エネルギーの高い青色や紫外光を吸収する物質が多く、また空や海に青色がありふれているため、反射や散乱を利用した方が効率が良かったなどが考えられます。

合成顔料であるプルシアンブルーが登場するまで、絵画で深い青色をふんだん使うことは非常に贅沢なことでした。インディゴも現在では、合成物が殆どです。

フェルメールと青

古来から青い顔料は種類が少なく貴重でした。

特に、ラピスラズリを原料としたウルトラマリンは非常に高価でした。フェルメールは、パトロンのお陰でこの高価ななウルトラマリンを惜しげも無く使うことができました。そのためウルトラマリンは、時にフェルメール・ブルーとも呼ばれます。

ラピスラズリは主にアフガニスタンで採取されます。ラピスラズリは深い青で発色も良く、補色である金と合わせることで両者が非常に映えます。ツタンカーメン王のマスクの青もラピスラズリです。

ヨーロッパでは、ラピスラズリよりも安価なアズライトも青色顔料として使われていました。しかし、アズライトはベネチア経由で輸入されていたため、イタリアより北では青い顔料が殆ど入手できなかったようです。
その後1700年代に、ドイツでプルシアンブルーとして知られるヘキサシアニド鉄(II)酸鉄(III)が偶然にも発見されます。大量に合成できることから、プルシアンブルーはラピスラズリ由来のウルトラマリンにとって代わりました。
北斎の富岳三十六景に使われている鮮やかな青も、プルシアンブルーです。日本では、1760年代に伊藤若冲が最初に使ったとされています。

ちなみに、ラピスラズリはラジカルアニオンであるS3-によるものです。ラジカルは種々の色を示すことがあり、都市ガスが青く見えるのはCHラジカルによるものです。
アズライトが青色に見えるのは、銅の配位構造によるもので、硫酸銅水溶液が青色に見える理由と同じです。
プルシアンブルーはFe2+-Fe3+へ映る際の電子移動吸収が青色の由来です。サファイアが青くみえるのも電子移動吸収で、Fe2+ - Fe3+や Fe2+ - Ti4+の相互作用によるものです。

藍染めとインディゴ

インディゴも古くから使われた青い染料です。日本では「藍」と呼ばれます。
古くは、主にインドで主に生産されました。インディゴの名もインドに由来しています。日本では蓼藍が用いられました。

ヨーロッパではウォードと呼ばれる植物から、インディゴを採取していましたが、インディゴの含有量は多くありませんでした。そのため、インドからの輸入に頼っていました。その後、ヨーロッパは植民地のプランテーションでインディゴを大量に栽培するようになります。
1900年前後にドイツで合成インディゴの製法が確立した後は、天然インディゴは殆ど栽培されなくなりました。

インディゴは植物中では、無色のインディカンとして存在しています。これが、空気に触れ酸化すると青色のインディゴになります。インディカンは水に溶けますが、インディゴは水には溶けません。インディゴのままでも顔料として利用できますが、水に溶けないと用途が限られてしまいます。そこで、化学的に還元し、水に溶けるロイコインディゴにしてから、再び酸化しインディゴにする方法が用いられてきました。還元には腐った尿が用いられましたが、1800年頃から合成尿素に取って代わられました。

日本では、発酵を利用してインディゴの酸化還元を行っていました。藍染は門外不出の技術で、江戸時代には阿波藩が市場を独占していました。本稿でも参考資料としてお世話になっている キリヤ化学 も元をたどれば徳島の藍染めに関する事業からスタートしています。

植物由来の青い色素

青色の花も、他の色に比べると稀少です。食品に使用される天然由来の青い色素は植物から抽出されますが、他の色に比べると多くはありません。主に、ポルフィリン、イリドイド、アントシアニン系の3種類が使用されています。

ポルフィリンは環状の分子で、中心に色々な金属を取り込むことができます。マグネシウムならばクロロフィル(緑)となり、鉄ならばヘモグロビン(赤)となります。スピルリナ色素は、ポルフィリンが開いた構造をしています。ビリン系色素とも呼ばれます。
ポルフィリンの中心に銅が取り込まれると青色になります。節足動物や軟体動物が酸素輸送に用いるヘモシアニンが青色なのも、同様の理由からです。
ポルフィリンに類似したフタロシアニンも内部に銅を取り込むと青色になります。フタロシアニンは青色の合成顔料として使われています。

イリドイドはクチナシ系色素などが含まれます。クチナシの実からは、黄色色素であるクロシンも抽出できます。サフランの黄色もクロシン由来です。

アントシアニンは赤、青、紫を示し、ブルーベリーや紫キャベツなどに含まれています。phによって色が変化するため、安定な色素ではありません。日本ではアントシアニンを含むつゆくさが染料や顔料として用いられていました。

青色の動物

色素と散乱と構造色

青色の動物は少なくありませんが、多くは色素では無く散乱や構造色に由来しています。色素と散乱、構造色では、色の見えるメカニズムが異なります。
色素は特定の波長を吸収しないことで、特定の色が見えています。青色の色素ならば、光の三原色における残りの二つ、つまり赤色と緑色の色を吸収し、青色は吸収しないことで青色に見えています。

レイリー散乱とは、光の波長よりも小さな粒子により起こる散乱のことです粒子の大きさなどの条件により、特定の光の波長を散乱することで、特定の色が見えます。空が青く見えたり、夕焼けが紅く見えるのもレイリー散乱によります。瞳が青く見える理由も、レイリー散乱によるものです*1

構造色は、特定の色のみを反射することで特定の色が見えています。構造色を有する物質は、数百ナノメートル程度の規則正しい構造かを有しています。構造の大きさや長さによって反射する色が異なり、赤や緑、青色に見えます。オパールや、真珠などが色づいて見えるのも構造色に由来します。
構造色は角度によって、反射される光の波長が異なり、玉虫のように虹色に見えたり、青魚のようにテラテラと光って見えます。すりつぶすなどして、構造が壊されると色が見えなくなります。そのため、構造色を色素として利用することはできません。化粧品のラメのようには利用できます。

魚類の青

脊椎動物、特に魚類、両生類、は虫類の体色は色素胞によります。黒、白、赤、黄の色素胞があります。青色や緑色は虹色素胞によるもので、これは構造色に由来します。カツオや、ネオンテトラなどが青色に見えるのも、虹色素胞に由来します。つまり、色素では無く構造色によるものです。
ニシキテグリ - Wikipedia などの一部の魚は青い色素を有すると考えられています。しかし、どのような化学式の色素かは分かっていないようです。

青い鳥

脊椎動物では、鳥類が極めて鮮やかな色彩を有していますが、色素由来の青い鳥は殆どいません。多くは、レイリー散乱によるものです。羽に含まれる気泡やケラチンが青色を散乱することで、青色に見えています。一方、クジャクの羽は構造色に由来します。そのため、クジャクの羽は見る角度によって色が変わります。レイリー散乱の場合、角度によらず青色に見えます。

鳥類では、ベニガシラヒメアオバト - Wikipedia の頭部の青い色素由来だとされます。

ちなみに、鳥類に青と言えば 渡り鳥は磁場が見える:青色光受容体と磁気の感知 « WIRED.jp という話があります。

青いエビ

節足動物の一部は青い色素を有しています。もちろん、構造色やレイリー散乱による場合もあります。
モルフォチョウの青い羽は構造色に由来します。一部のトンボの羽も構造色由来で青く見えるそうです。トンボの体色については明らかになっていないことが多く、赤や黄色がそもそもどのような色素に由来するのかは分かっていないそうです。水色はレイリー散乱に由来するようです。

植物性のバッタや蝶などの幼虫は、ビリン系の青い色素を有している場合があります。植物の色素の項でも説明しましたが、ビリン系はポルフィリン環が開いた構造です。ヘモシアニンやクロロフィルの代謝により作られるのでしょう。

エビなどの殻には、カロチンとタンパク質が結合した青い色素であるカロチノプロテインが含まれています。青いザリガニがいるのは、カロチノプロテインによるものです。ザリガニは、カロチン由来の赤い色素のアスタキサンチンも有しています。カロチンを与えないでおくと先にアスタキサンチンが消失し、青くなります。その後もカロチンを与えないと無色になります。また、カロチノプロテインは熱すると赤くなります。つまり、エビの赤色は餌に由来します。

フラミンゴが赤いのも餌に由来します。フラミンゴの赤はカンタキサンチンによるものです。餌である藻のカロチノイド色素やエビに含まれるアスタキサンチンからカンタキサンチンが作れます。これらの色素を含む餌を与えないと、色が抜けていきます。

青い色素を有している節足動物はいますが、色素として利用するには非常に多くの昆虫を採集しなければならいため、色素として利用されることはありません。虫由来の色素と言えば、エンジムシより抽出されるコチニール色素が有名で、赤い顔料として利用されてきました。

節足動物や軟体動物の体液に含まれるヘモシアニンは青色です。The Blood Harvest - The Atlantic で紹介されるように、カブトガニの体液は鮮やかな青色をしています。

ちなみに、人間の静脈が青く見えるのは血液が青いからではありません。最近、「人の静脈は灰色! 青は錯視だった」 ことが明らかになりました。

まとめ

自然界に青色はたくさんありますが、青い色素は稀少で、合成できるようになるまで貴重でした。
ラピスラズリは金と同じくらいの価値がありました。インディゴも合成できるようになるまでは貴重でした。また、染料として利用する技術は長らく独占されていました。
青い花は色素由来ですが、他の色と比べるとやはり多くは無いです。動物も、多くは散乱や構造色による青が殆どで、青い色素をもつものが多くありません。

その他に、人類が利用してきた青色としては、炎色反応やステンドグラスがあります。花火は炎色反応です。セシウムガリウムが青色になります。
ステンドグラスは金属の配位構造に由来します。青色は主にコバルトや銅に由来します。陶器の染め付けによる青もコバルトに由来します。青磁は青緑色ですが、その色は酸化第一鉄あるいは酸化クロムによるものです。青釉はの青は銅に由来します。
ちなみに、金はステンドグラスを赤く着色しますが、それは配位構造よるものではありません。マイクロメートル未満の金の粒子は、その大きさによって赤色から青色を示します。

ナノメートルサイズの粒子としては量子ドットがありますが、こちらは粒子径により種々の蛍光を示します。ディスプレイに応用することもでき、Kindle Fire HDX 7は量子ドットディスプレイを用いています。

*1:より正確には、レイリー散乱では赤よりも青の方が多く散乱されます。空は青が多く散乱された結果青く見えます。夕方になると、大気の層が厚くなり、青が散乱されすぎて、結果として散乱されにくい赤色に見目ます。