就活生がお祈りメールを送っても問題ないんじゃ?

労働契約の観点から、就活生が内定辞退の際にお祈りメールを送ってはいけない、という記事なのですが、法的問題と道義的問題がごっちゃになっているように思われます。また、元となった記事である まさに因果応報!? 内定辞退を「お祈りメール形式」で送った就活生に拍手喝采 | ニコニコニュース における内定辞退の定義とのぶれがあるように感じられます。話題の時期から、内々定からの内定辞退だと思われるため、その場合法的に問題があるとは言えないのではないでしょうか。

この問題の論点は以下の三つに分けられるでしょう。

  1. 内々定で内定の辞退
  2. 内定後に入社の辞退
  3. お祈りメールは不適切か

1. 内々定で内定の辞退

内々定で内定の辞退ができなければ、就職活動がままなりません。新卒者における採用などは、企業も内定を辞退することを見越して内々定を出しているでしょう。それ故に、内々定で内定を辞退しても道義的な問題もないでしょう。では、法的な問題はどうか。
先のブログにも、最終行に内々定の場合は労働契約が成立したと認めることは難しいと述べられています。

なお採用内々定(内定開始日までの間に発せられる口頭等での内定の通知)は採用内定とまた法的性質が異なるので別途検討が必要になる。採用内々定の場合は、この時点で労働契約が成立したと認めることは難しい。

内定辞退をお祈りメールで送ったネタ以下の伝聞ツイートが発端となっています。

例年、新卒者の内定式は10月1日に行われるため、時期的に内々定の段階で、内定を辞退したネタだと考えられます。内定辞退をメールで済ませるのは、失礼かも知れませんが、労働契約が成立していないため、法的な問題はないでしょう。

2. 内定後に入社の辞退

内定式後、つまり入社誓約書を提出した後に、入社を辞退することはできるのでしょうか。
できないと、困りますよね?就活生はお祈りメールを送ってはいけない-法的視点から - 法廷日記 においては、民法627条1項が引用されています。

採用内定により、労働契約の拘束下に入った場合、企業からの一方的な内定取消しは認められない。他方で、採用内定者側すなわち労働者には解約の自由が民法上認められており、最低2週間の予告期間をおく限りは内定辞退の方は適法にすることができる(民法627条1項)。

労働契約があるので、一方的に内定取り消しはできないが、2週間の予告期間があれば問題ないということでしょう。
色々な事情がありますし、辞退できなきゃ困りますよね。

他の弁護士の見解を見てみましょう。
入社誓約書を提出した後、辞退できるのか。 | 内定後から入社日までにしておきたい30のこと | HappyLifeStyle によると基本的には可能。ただし、損害賠償を問われる可能性があるかもしれないとの見解。

入社承諾書を提出した後の内定辞退は可能? / 【内定・退職・入社】の転職Q&A一覧 もほぼ上記と同様の見解です。

内定の受諾・辞退の方法と取り消し対応法 [大学生の就職活動] All About は就活生向けの記事で内定辞退の方法について詳しく書かれています。「入社日の2週間前だったら、法律的に全く問題がない」とあります。2週間の予告期間とは、言い換えれば入社の2週間前までなら法的には問題ないって事でしょう。ただし、この場合でも会社が備品や交通費、住まいの準備を行っていたら損害を請求される可能性があるとしています。

入社直前の「内定辞退」 学生は賠償金を払わないといけないか?|弁護士ドットコムニュース も内定辞退について詳しく書かれた記事ですが、2週間の予告期間を置けば会社に対する損害賠償の義務なしに内定を辞退できるとあります。また、仮に入社直前であったとしても入社直前の学生が入社を辞退したからといって、損害賠償義務が生じるのはレアケースでは無いかと判断しています。

先のブログも、All aboutも弁護士ドットコムも、2週間前に事前予告、あるいは入社2週間前であれば法律上問題なく、入社を辞退できる点は同じですが、損害賠償義務が発生するか否かで見解が異なります。

困ったときは原典に当たりましょう。といわけで、民法第六百二十七条は以下。

第六百二十七条  当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

退職届~労働契約の解除 によると、「上記の期間を無視して一方的に労働契約を解約した場合、相手方に何らかの損害が生じたときは、その損害を請求される可能性があるので、注意が必要です。」とあります。つまり、期間を無視せずに解約した場合は、損害賠償義務は発生しない可能性が高いです。

ただし、損害賠償義務は無くても道義的な問題はあるでしょう。入社を辞退しなければ、他の人が入社できていたかも知れず、また会社にも迷惑をかけることになります。

3. お祈りメールは不適切か

で、本題のお祈りメールは不適切かという話。
お祈りメール自体は特に失礼に当たる文面であるようには思えません。

文面が無いため、何とも言えない部分もありますが、内定辞退のお詫び状の書き方と例文【就職活動】私の「お祈りメール集」不採用通知集 2012卒版【就活】 を比べてると大差がありません。
内定辞退の詫び状とお祈りメールは以下のテンプレートからなります。

  1. 時候の挨拶
    • そして、お慶び申し上げる
  2. お礼を述べる
    • 不採用ならば面接に足を運んだことに対するお礼
    • 内定辞退ならば、内定へのお礼
  3. 丁寧に不採用、辞退の理由を述べる
    • 熟考した結果、不採用あるいは他の会社を選んだことを述る
  4. お詫び
  5. 結び
    • 健康か発展をお祈り申し上げる

両者ともに、「お断り」の手紙の書き方にならっているわけで、似たような形式になるのは当たり前です。そもそも、手紙の結びはご健勝を願ったり、発展を祈るものです。もちろん、より不採用通知に近い形式で書くことも可能で、その場合は非常に皮肉を込めた手紙になりますが、文面上は丁寧な言い回しによって構成されています。

意趣返しであるかもしれませんし、他の会社に入社した後に取引する可能性もあるので、褒められた行動ではありません。

まとめ

  1. 内々定で内定の辞退
    • 早ければ早いほどよいが、法的にも道義的にも問題は無い。
  2. 内定後に入社の辞退
    • 2週間の予告期間を置けば、辞退できる。
    • 損害賠償義務が発生するかも知れないが可能性は低い。
    • 道義的には問題がある。
  3. お祈りメールは不適切か
    • 文面が無いので判断できない。
    • テンプレートして、詫び状と不採用通知はほぼ同じのため、文面上でお祈りメールが失礼とは言えない。
    • 相手を怒らせることを目的としたものならば、道義的な問題はあるだろう。