Apple Payはイノベーションかも、という話。ただしアメリカ国内に限る

iPhone6が発表されたけど、新しい驚きがないよね

iPhone6の発表を見て、正統進化で悪くないんだけど、驚きは薄く保守的だよなと感じます。
大きな画面サイズやiOS8はAndroidの後追いだと感じられ、特にサード-ティー製のIMEはようやく対応するのか、と言った感想です。
フィットネス対応の拡充も、これまでサードパーティー製のアプリやハードウェアをAppleiOSに取り込んだ、という形で新規性は感じられません。

iPhoneにようやく搭載されたNFCおサイフケータイSuicaなどには非対応のようで、日本市場では殆ど意味がなさそうです。NFCを利用したApple Payは完全にアメリカ国内市場のための機能だと考えられます。Apple Payはアメリカ国内に限っては、電子決済システムのイノベーションになる可能性があるかもしれません。

アメリカのクレジットカード事情を知らないと、Apple Payがイノベーションかも知れない理由が実感できないと思います。

アメリカのクレジットカード事情

アメリカで生活していると高額の現金を持ち歩くことがありません。殆どのお店でクレジットカードが利用でき、多くの人がクレジットカード、あるいはデビットカードで決済しています。クレジットカード対応の自動販売機やパーキングメーターもあります。現金払いなのは、マーケットや市場(いちば)くらいでしょうか。一方、大きな額になると、銀行振り込みでは無く小切手を使うことが多いようです。

紙幣の信用が低いからか、クレジットや小切手の方が信用できるからか、どちらが先かは分かりませんが、市場に流通している紙幣はは20ドルまでです。銀行のATMからも20ドル札が出て来ることが殆どです。50ドルや100ドル札は発行されていますが、見る機会は稀です。恐らく、成田などで両替した時くらいしかお目にかかれないのでは。高額紙幣が流通していないのは偽造が多いからだそうで、20ドル紙幣ですら偽札か否かをチェックするペンで確認されるくらいです。

クレジットカード社会なアメリカですが、不正利用による被害も深刻です。昨年末に、大手スーパーマーケットであるターゲット*1からカード情報が流出し大騒ぎになりました。今年に入ってからも、米ホームセンター大手The Home Depot、決済システムへの不正侵入を確認 - CNET Japan なるニュースが報じられています。


私も、アメリカで作ったクレジットカードを不正利用されたことがあります。恐らくスキミングされたのですが、周囲に聞いてみるとアメリカで不正利用された経験がある人は結構います。例えば、The Glad Game > クレジットカードの不正使用 の方は8ヶ月で3回も不正利用されています。先のブログには、Credit cards: Skimming off the top | The Economist も紹介されていますが、アメリカ人の42%が過去5年間で何らかのカード被害にあっているそうです。

不正利用が多い理由として、アメリカのクレジットカードにはICチップカードが埋め込まれていないことが挙げられます。つまり簡単に偽造できるのです。ターゲットのカード情報流出が問題になった際も、ICチップの導入が叫ばれましたが対策は進んでいません。対策が進まない理由として、クレジットカード会社は出回っているクレジットカードを再発行しなければならず、小売店にとってはICチップ対応のカードリーダーに交換する必要があるため負担が大きいなどの理由があるのでしょう。
ICチップ付きカードの再発行はお金がかかると言うよりも手間がかかるというのが大きな理由でしょう。お店毎に特典が付くので、お店毎にカードを使い分ける場合もあり、一人で数枚のカードを所有しています。そのため、アメリカ国内で13億枚のクレジット、デビット、プリペイドカードが出回っているそうです。

ちなみに、同じ北米に分類されるカナダではICチップ付きのクレジットカードが普及し不正利用による被害が減ってるようです。

アメリカの決済市場を買えるかも知れないApple Pay

Apple Payは対応端末にかざすだけでクレジットカード決済が可能です。iPhone6でも利用できますが、Apple Watchならより簡単に決済ができるでしょう。
iPhone6ならばtouch IDが利用できるので、セキュリティ面で安心です。Apple Watchは腕から外すと決済ができなくなり、再度身に着けた場合は暗証番号を入力しなければ決済ができない仕組みになっているそうです。ただし、どちらにせよiPhoneApple Watchはますます失ってはいけない端末になってしまいますが・・・。

Apple Payの利点はクレジットカードを再発行する必要がないことです。クレジットカード会社は再発行する必要がありませんし、利用者は現在のカードをそのまま利用できます。
その代わり、小売店へとしわ寄せが来ます。恐らく、ICチップ対応のカードリーダーに交換するよりは安いでしょうし、不正利用による被害も減少するでしょうが、高い出費であることに変わりはありません。現に、【アップルペイ】、ウォルマートとベストバイが対応しません!普及は遅くなる可能性も? との報道もあります。ウォルマートはアメリカ最大手のスーパーマーケットで、ベストバイは家電量販店です。日本のヨドバシカメラに近いでしょうか。デジタルガジェット好きなら通い詰める店舗です。どちらも、iPhoneApple製品を取り扱っています。
ウォルマートなどがApple Payに対応しない理由は、【モバイル決済】、ウォルマートなどMCX加入11万店で使える決済アプリのカレンシー!:激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ で紹介されるQRコード式の決済システムを導入するためです。自社で構築したシステムを優先したいのはどこの国も同じですね。QRコードを利用するので、iPhoneでもAndroidでも決済できるのが利点です。一方、決済の簡単さではかざすだけのApple Payに軍配が上がりそうです。

Apple Payは利用者も少なく、利用できる店も多くないのが現状ですが、アメリカの決済市場ではイノベーションになる可能性があります。貧困の新しい姿 「米国では貧困層でもiPhoneを持っているが、医療と高等教育への道は閉ざされている」ニューヨーク・タイムズ - Market Hack とも言われるくらいに、iPhoneが普及しています。貧困層が即座にiPhone6を購入できるわけではありませんが、それでもAppleは大きな市場を有しています。Appleならば、アメリカの電子決済市場に殴り込みが可能かもしれません。

Appleがアメリカの電子決済市場にイノベーションをもたらすかも

Apple Payは完全にアメリカ国内の電子決済市場を睨んだものです。それ故に、アメリカ国外からみるとiPhone6は今一つ驚きにかけます。ただし、Appleはずっとアメリカ市場を中心に据えきたわけで、方向性が変わったわけではないでしょう。アメリカ市場を中心に据えていたが、それがそのまま世界でも求められるモノだっただけのことでしょう。

iPhone6やApple Watchのフィットネス対応も、アメリカ市場を見越したものです。アメリカは医療費が高いので、自分で健康を管理しようという風土があります。アメリカは、割と何でもDIY(Do It Yourself)の精神を感じますが。

最近、iPhoneに接続可能な赤外線カメラで暗証番号が盗めるニュースが話題になりましたが、この件も電子決済に拍車をかけているように思えます。

*1:日本のイトーヨーカードーみたいな立ち位置