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刑務所と城郭都市とショッピングモールの空間構成

0. はじめに

刑務所と城郭都市とショッピングモールはそれぞれ閉じられた空間である。閉じられた点では似ているため、一見するとよく似た空間構成に見える。しかし、そこにはそれぞれ異なる設計思想が隠されている。

本項は以下の章立てて、それぞれの空間構成について比較していく。ただし、見出しと必ずしも一致するわけではない。

  1. 刑務所とショッピングモールの空間構成の比較
  2. パノプティコンとは何か
  3. 城郭都市と理想都市
  4. ヨーロッパ以外の城郭都市
  5. 駅や空港の空間構成
  6. コンビニとスーパーの空間構成
  7. 百貨店の空間構成
  8. ショッピングモールにおける空間構成
    • 広場
    • 曲線
    • 分散
  9. 六本木ヒルズはなぜ迷うのか
  10. まとめにかえてディズニーランドと城郭都市

1. 刑務所とショッピングモールの空間構成が同じ!?

「ショッピングモール」の空間構成は「刑務所」と同じ - Togetter と語られているが、ショッピングモールと刑務所の空間構成は同じではない。、刑務所は少ない監視員が収容者を全貌監視できるように作られているが、ショッピングモールは客が全貌を把握できるようには作られていない。
まとめには、(「刑務所」と「ショッピングモール」の内観の写真を並べると、両者が似ていることがよく分かる(画像)。) と比較写真が載せられている。一見するとよく似ているが、よく比べると違いがある。
例に挙げられたショッピングモールは3つの階層からなる吹き抜け構造で、写真は一番上の3階層目から撮影されている。このショッピングモールは左方向へ緩やかに曲がっおり、奥へ行くほど見えない領域が生じている。見えない領域の先を知るためには、移動しなければならない。また、吹き抜け構造により他層の店舗も視認できるようになっているが、そこへ行くためにはやはり移動が必要だ。そして、移動するとこれまで見なかった店が見えるようになる。ショッピングモールは吹き抜け構造で視覚を広げつつ、また緩やかなカーブにより見えない領域を作り出している。客が見えない領域へ移動し、新たな視点を獲得する、つまり発見する空間構成になっている。
一方、刑務所は少ない監視員で収容者を監視できるようにするため、なるべく見えない領域=死角ができないように作られている。また、問題が生じた場所を瞬時に把握でき、かつ速やかに移動できる空間構成もなっている。よって、刑務所とショッピングモールは同じ空間構成ではない。
そもそも、ショッピングモールは客の回遊行動を誘導し制御することに主眼が置かれている。つまり、客を分散させる作りになっている。刑務所は、監視員が収容者を管理・監視しやすいように、つまり監視できる領域を一点に集中させている。両者の空間設計は間逆である。その証拠に、放射線状の刑務所はあるが、ショッピングモールはない。


まとめには、城郭なども刑務所と同じ空間構成になっていると語られているが、果たしてそうだろうか。本項では、刑務所、城郭、空港や駅、そしてショッピングモールの設計思想について掘り下げる。
先ずは、まとめ内で触れられているパノプティコンについて解説する。

2. 刑務所とパノプティコン

パノプティコン=全展望監視

パノプティコンとは全展望監視、一望監視施設と訳される。18世紀後半のイギリスの思想家であるジェレミ・ベンサムが提唱した集中型の刑務所やその施設に関する構想・思想を意味する。
ベンサムが提唱したパノプティコンは監房が円状に配置され、その中央に監視塔を立てた構造をしている。監視塔からは各監房をいつでも見られるが、監房からは監視塔内部を見ることができず、また互いの監房の様子を伺うことができない設計となっている。キューバの旧プレシディオ・モデーロは典型的なパノプティコン型の刑務所であるが、ベンサムがデザインしたパノプティコン型の刑務所は実際にはほとんど建築されなかった。ただし、ベンサムの提唱したパノプティコン的な全展望監視を取り入れた刑務所としては、フランスのマザス監獄やレンヌ中央監獄などがある。

パノプティコン=全展望監視という思想の核は、管理される者へ常に誰かに見られれていることを意識させ、自己監視、自己反省を促し、自らを自らで律するように習慣化し訓練することにある。パノプティコンと〈垂直的管理〉 で指摘されるように、パノプティコンにおいては監視員から収容者は見えるが、収容者は監視員を見ることができず、また収容者同士は監視できない。つまり、視線の非対称性と相互監視の抑止を形成することで、神の目を意識させる作りになっている。パノプティコンにおいては、神の見えざる目よる監視や統制を管理されるものに植え付けることが肝となる。

パノプティコン的な全貌監視

パノプティコンが一般に知られるようになったのは、フランスのポストモダン構造主義の思想家であるミシェル・フーコーが監獄の誕生 監視と処罰(1975年)において取り上げたからであるが、フーコーパノプティコンを少数の管理者が大多数の民衆を監視しているように感じさせ管理するシステムを表現する言葉として用いていた。つまり、多くの人間を一点から監視し管理するシステムという意味で用いている。現在はパノプティコンベンサムよりもフーコーが表現した意味で用いられることの方が多い。また、この意味から派生し、実際には監視者が存在しないのに、自ら心のなかにつくり上げることもパノプティコンと呼ぶことがある。

ショッピングモールはパノプティコン

現在の刑務所は、ベンサムの提唱したパノプティコンではないが、フーコーの表現した多くの人間を一点から監視するという意味ではパノプティコン的である。東京拘置所は放射状の建築物で、パノプティコン的である。一点から監視するという意味では、病院や学校に図書館もパノプティコン的な施設でとなり得る。監視カメラによる集中監視システムもパノプティコン的な管理といえるだろう。
それでは、ショッピングモールはパノプティコン的だろうか。ショッピングモールは一点から監視する施設ではない。ショッピングモールの客に監視されていることを意識させたら、恐らく客足は遠のくだろう。もちろん、店員も監視対象ではない。スーパーマーケットなどは客から商品が一望しやすい点で似ているが、その後客は売り場まで移動しなければならない。移動すると、すべてを見通すことはできなくなる。移動先でも一望できるならばそれはパノプティコン的とは言えない。なぜなら、視線の非対称性が崩れるからだ。万引きを最大限に防ぐためか、店員を監視することで売上を最大限伸ばす商業施設ならば、パノプティコン的な空間構成になるだろう。後者はある意味、ブラック企業そのものである。

以上より、刑務所とショッピングモールの空間構成は同じとは言えない。異なる思想により作られている。それでは、城郭都市はパノプティコンであろうか。そこで、先ず城郭都市の成り立ちから見ていこう。

3. 城郭都市と理想都市

原始的な城郭都市は、人間が農耕を始めると同時に誕生したと考えられる。農耕により富を蓄積できるようなり、外敵から集落の富を守るため、境界に堀や土塁、柵などを設置したのが城郭の始まりだろう。城郭は土木や建築技術の向上に伴い、石やレンガによる壁などより強固なものになっていった。

日本では、城壁により囲まれた城郭都市はほとんど発展しなかった。これは、山などの地形を利用すれば容易に外敵の侵入を防げたことと、地震が多いため大きな城郭を建築することが容易ではなかったことに起因するだろう。一方、中国やヨーロッパ、イスラームなど大陸における重要な都市はその多くが城壁を有する城郭都市であった。日本と比して自然の要塞に頼るのは限界があり、一方で地震が少なく大きな城郭を建築するのが容易であったからだろう。

「ショッピングモール」の空間構成は「刑務所」と同じ - Togetter では放射状の都市として パルマノヴァ が紹介されているが、放射状あるいは格子状の計画都市は、ルネサンスバロック以降に建造された比較的新しい城郭都市である。
中世までのヨーロッパにおける城郭都市は、自然発生的に成長した都市の境界に城壁が築かれたものがほとんどだ。都市が成長するにつれ、城郭が広がっていく場合もあっただろう。都市は一般に、交通と用水の確保のため川を有し、主観道路が走り、その道路に政治や宗教、経済の中心地を有している。教会や権力の中心地はある程度計画的に整備されている場合もあるが、住宅街や農地は、主観道路より網の目のように成長する。そのためこのような城郭内部の都市は放射状や格子状などの高い規則性=秩序を有してない。

要塞都市カルカソンヌ

城郭都市の中でも武装・要塞都市は、軍事的に重要な拠点として建造された。現存する要塞都市としては世界遺産である 歴史的城塞都市カルカソンヌ - Wikipedia が有名であろう。カルカッソンヌ における地図が示すように、街の周囲に二重の城壁が築かれている。カルカソンヌは戦略的に重要な拠点ではあるが、兵を速やかに移動させるために道路を放射状にするなどの工夫はなされていない。
カルカソンヌの歴史は古く、紀元前6世紀頃にガリア人がカルカソンヌ一帯に進出し、その後古代ローマ帝国の都市として発展していった。カルカソンヌピレネー山脈に近地中海と大西洋と結ぶ要所であり、古くから重要な拠点であった。ルイ9世の頃には、フランスとスペインの国境紛争の最前地帯であり、その頃に第二の城壁が築かれた。その後、フランとスペインの国境がピレネー山脈に定められると、軍事的な地位を喪失し、城壁も放棄された。現在の城壁はカルカソンヌの名士により歴史的価値が見直され1850年頃から修復されたものである。

ちなみに、実際のカルカソンヌをモデルにした カルカソンヌ (ゲーム) - Wikipedia というボードゲームがある。

ルネサンスの理想都市

カルカソンヌなど中世までの城郭都市は計画的に建設された都市ではない。大規模で計画的な城郭都市が建設されるようになったのは、先に述べたようにルネサンスバロック以降である。
ルネサンスでは、多くの古代ギリシアやローマの文化が見直されたが、建設についても例外ではない。特に、紀元前1世紀頃に活躍したローマの ウィトルウィウス - Wikipedia が著した「建築について」は多大な影響を与えた。その中で書かれた「理想都市」から、様々な計画都市が考案されていった。
ウィトルウィウスの提唱した理想都市は正八角形状の城郭を有し、その中心から8本の道路が放射状の延びている。ルネサンス期には、領主の城や教会などを支配階級の施設中心に据え、道路を格子状に走らせた理想都市も考案された。ルネサンス期の理想都市は、支配階級の権威と防衛が重視されている。城郭は多角形や星形などで、これには防衛上の理由がある。道路は、放射や格子が組み合わさった幾何学的なパターンを形成している。

多くの理想都市が考案されたが、そのほとんどは実現しなかった。計画都市を建設するには、権力と財力と技術力が必要で、どれかが欠けるると実現しがたいためだ。

ヴェネツィア共和国パルマノヴァ は実際に建造された数少ない理想都市の一つである。城壁は二つの9角形からなり、中心部に六角形の広場と放射状の道路が延びている。幾何学的で整然とした道路パターンは国家の有する力の象徴でもある。特徴的なのは、18の角を有する星形の城郭と堀である。ルネサンス期に設計された理想都市の多くは星形の城郭を有している。これは先述したように、防衛上の理由による。

ルネサンスの頃に、ヨーロッパでも火薬が使われるようになった。これにより、戦争で鉄砲や大砲が使われるようになった。特に大砲の登場により、ルネサンス以前の城郭の防御力は極端に低下した。大砲はこれまでの攻城兵器とは比べ物にならない破壊力を有していたのである。シヴィライゼーションでも、カノンの登場により都市防御が下がる点が再現されている。大砲への対策として考えられたのが、星形要塞 - Wikipedia である。円形では死角が生じるため、その死角を無くすように城郭が多角形になっている。道路が放射状なのも、死角を減らして敵に銃器を向けるためだ。また、城郭に傾斜をつけることで大砲に対する防御力を高めている。
函館の五稜郭が星形なのも、パルマノヴァの星と同じ理屈を取り入れたものだ。しかしながら、五稜郭が建造された頃のヨーロッパでは大砲の発達や機動力の増大により戦術が変化し、要塞の価値そのものが下がっていた。

以上のようにルネサンス期になると、理想都市を実現させるため城郭内に放射状や格子状など秩序だった区画を有する都市が計画され建設されてった。

バロック計画都市

バロック以降になると、さらにより大きな都市計画が構想されるようになる。パリ改造 - Wikipedia などがその代表例で、凱旋門から放射状に伸びる12本の大通りは現在でも見ることができる。バロックにおける都市計画の特徴は、広場や記念的な建築物など公共スペース同士が幅の広い道路で結ばれている点にある。ルネサンス期では、閉じた城郭都市での計画であったのが、バロック以降では開いた都市計画と対照的である。この違いは、都市人口の増大や、大砲や機動力の増大など軍事上の発展にも起因するであろう。特に、軍事の主力が騎兵から歩兵へと変化したことで、速やかに歩兵を移動できる幅の広い直線上の道路が重要視されるようになった点も大きいだろう。

ちなみに アムステルダムの運河 - Wikipedia も放射状である。パリ改造より以前の17世紀初頭に計画、建築されたもので、ヨーロッパにおける都市計画の先駆的なものである。

まとめると、ヨーロッパにおける城郭都市は以下のように発展していった。

  1. 都市が形成される
  2. 外敵から身を守るために城壁が形成される
  3. ルネサンスが起こり、理想都市=都市計画が考えられるようになる(無秩序から秩序へ)
  4. 同時に火薬が使われるようになる。星形城壁へ
  5. パルマノヴァなど理想都市が建設される
  6. バロック以降は、更に広大なレベルでの都市計画がなされるようになる(城壁はなくなる)

その後、アメリカではさらなる広大な土地で計画都市が建設されるのだが、それはまた別のお話。破綻した デトロイトの航空写真 をみると放射状と格子状が組み合わさった道路網はまさにシムシティである。

城郭都市は刑務所に似ているのか

理想都市は放射状の区画を有し、死角をなくすように作られている。死角をなくす点では刑務所に似ている。またルネサンス期の理想都市は、権力の象徴であり、数少ない管理者が、多くの人間を管理するためのシステムにも見えなくもない。しかしながら、理想都市においては、都市を計画し、区画を整然と整理すること自体が権力を示すのであって、市民に見えざる目により監視されていることを意識させるものではない。
また、城郭都市と刑務所を比べると、塀や堀が形成される理由が逆向きである。城郭都市は外敵から身を守るために城郭が発展し、刑務所は内部の収容者を逃さないために塀が作られている。よって、理想都市と刑務所は一見形は似ているが、空間構成が同じとはいえない。もちろん、ディストピアなどにおける管理社会や、アイランドのように移植のために作製したクローン人間を閉じ込めておくための擬似的な街ならば、刑務所のようなパノプティコン的都市になるだろうが。

4. ヨーロッパ以外の城郭都市

刑務所やショッピングモールの空間構成と比較するため、ヨーロッパ以外の城郭都市についても触れておく。

平安京江戸城

日本では、ヨーロッパのような城郭に囲まれた都市はほとんど見られない。城郭が形成されなかった理由は色々考えられる。起伏が激しい国土のため、自然の要塞を利用した方が簡便である。同時に、狭く地震が多いため城郭を築くにはより高度な土木技術が必要となる。また、島国であるため地続きで国境のある大陸とは外敵の種別が大きく異なっていたことなどがあるだろう。

日本における、計画都市と言えば平城京平安京であろう。現在の京都には、碁盤の目状の道路として平安京の名残が見られる。平城京平安京は、中国の長安な条坊制を模したものである。条坊制は土地を無駄なく長方形で活用でき、区画の管理が簡便で、死角がなくなるため治安が良くなるなどのメリットがある。一方で、斜め移動に時間がかかり、交差点が多くできるため交通上のデメリットも生じる。平城京平安京にあっては、中国の都に倣ったことや人工的な格子状により、文化的水準が高いことを強調する事の意味合いが大きかったであろう。

長安など中国の都市は城郭に囲まれていたが、それに倣った平安京の周囲には城郭はない。その理由の一つは、平安京建設当時の軍事的な拠点が東北にあったからであろう。その後、貴族から武士の時代へと変わっていくが平安京の防備は顧みられず、守りにくい都市のままであった。
武士の時代になると、都市の防衛に重きが置かれるようになっていく。鎌倉などは堅牢な自然の要塞である。日本においては、自然の要塞を利用することが多かったが、土木技術の発展に伴い堀や石垣を有する城が作らられ、その周りに城下町が形成されていった。ヨーロッパの城郭都市とは異なり、城の周囲にのみ堀や石垣があり、城下町は戦時下において防壁的な役割を果たした。

江戸城は戦国時代の終わり、江戸時代のはじめに築城され、江戸そのものが優れた城郭都市としてデザインされている。江戸城は「の」の字の堀を有する。現在も残る内堀と外堀からなる二重の強固な堀となっている。徳川家康江戸城を建築するまで、だだっ広い江戸に城は非常に脆弱であったらしい。徳川家康の権力と技術力がなければ、江戸のような堅牢な都市を作ることは難しいだろう。
「の」の字の堀は堅牢であるとともに、渦巻状のため拡張性も高い。平和な時代になると「の」の字の堀は、水路としての役割が大きくなっていく。江戸が発展するに連れ、外堀の外側にも人が住むようになり、外堀を起点として、水路が作られ江戸の交通の要となっていった。現在でも、水路の跡は外観道路や高速道路などに利用されている。

イスラームの都市はカオスか

「ショッピングモール」の空間構成は「刑務所」と同じ - Togetter において、イスラームの都市はカオスと表現されているが本当だろうか。
確かに、モロッコの迷宮都市(イ) に代表されるようにイスラーム都市は有機的で無秩序に見える。さながら迷路である。
一般に、都市が迷路状になるのは防衛状の理由とされる。日本の城下町に袋小路があるのは防衛上の理由だ。「四番町スクエア」滋賀県彦根市 などで紹介されるように、その名残を各地の城下町で見ることができる。これは、歴史学エッセイ(19) - matsui michiakiのブログ - Yahoo!ブログ で述べられるようにヨーロッパも変わらない。ヨーロッパの都市が秩序だったのは、ルネサンスバロック以降である。秩序が形成された理由は、ルネサンスバロックなどの文化的背景もあるが、戦術上の変化つまり火薬の登場の方が大きいだろう。

イスラームの都市が迷路状になったのは防衛上の理由によるのだろうか?イスラームは規律ある社会である。イスラーム都市の魅力 でも語られるように無秩序に見えるのは、我々がイスラームの秩序を見いだせないからではなかろうか。そもそも、ルネサンス以前ではヨーロッパよりもイスラームの方が文化水準が高かった。ギリシア文化や錬金術やなどのルネサンスの元となった文化や技術の多くはイスラームからもたらされたものである。
イスラームの都市はなぜ迷路状なのか。そのヒントは イスラーム世界の都市空間 で語られるように、イスラームにおいてはプライバシーが重視されるからである。各家庭のプラバシーにより住宅が区切られるが、家庭内でも男性、女性、接客、家族の区域が存在する。プライバシーを重視すれば、自ずと個を重視する考えに行き着く。つまり、イスラームの都市は個を起点として作られている。一人の人間を起点とし、家族、氏族と徐々に、集団が大きくなっていく。これは、ルネサンス以降の都市全体に秩序を持たせる考え方とは大きく異る。

イスラームとしても、多種多様であるが、ここでは一旦ギリシアやローマに支配された経緯を持つダマスカスを例にしてみよう。
ダマスカスは古い街である。古代オリエント遊牧民であるアラム人が建設したとされる。その後ギリシア、ローマに支配され、ローマ帝国が滅亡すると、イスラームの街として発展していった。ローマ帝国は格子状だった道路であったが、イスラームの街となってからは寸断され迷路のようになっていった。迷路のような道路は、外の人間から見ると、よそ者を拒む構造に見えるが、中に住む人々にとっては個を守る構造そのものである。

一人の人間を起点とし、それが集まって形成されたイスラーム都市は無秩序というよりも、モロッコの迷宮都市(イ) で説明されるようにフラクタルであると考えたほうが良いのかもしれない。個によって作られるため、全体としては一見無秩序に見える。個の集まりである家族が、家族の集まりである氏族が、とスケールは異なるが似た構成の集団が徐々に大きくなり、複雑に発展していく様子はフラクタル的である。このように考えると、イスラームの都市は無秩序とは言えないだろう。そこには、ヨーロッパ的な秩序とは異なる秩序が存在している。

5. 駅と空港の空間構成

ショッピングモールや駅、空港などは、客をどのように誘導するか、つまり導線が重要である。ショッピングモールよりも、駅や空港など公共交通機関の乗降場の方が、客の目的がはっきりとしているため単純化しやすい。そこで、ショッピングモールの空間構成を考察する前に、駅や空港の導線を例に考える。ただし、現在の駅や空港は、商業施設でもあり、公共交通機関を利用する客だけが利用する施設ではない。そのため客の動きも単純ではないが、本節では公共交通機関を利用する客の行動を中心に考える。

鉄道や飛行機乗る客は、何らかの交通機関で駅や空港にやってきてチケットを購入し、改札などのゲートを通り、待合室兼乗り場へ行き、目的地へ向かう交通機関に乗る。目的地に到着し、鉄道や飛行機から降りた客は、次の目的地に近い出口へと向かう。空港の場合は、荷物の受取などがあり駅に比べてやや煩雑となる。どの過程においても、速やかに移動できるのが理想で、停滞しないことが望ましい。しかしながら、駅や空港には様々な停滞要因が存在する。

空港ターミナルにおける旅客の利便性等に関する基礎研究 では空港に関する様々な評価軸がまとめられている。ここでは、停滞要因を排除する空間的な工夫を中心に考える。チケットの取得、ゲート、乗り場への移動などが停滞要因となる。
かつては、チケット売り場や改札口は主な停滞要因であったが、鉄道はSuicaなど非接触式ICカードにより、空港はチケットレスサービスにより改善されている。
すみやかに移動させる方法で最も単純な解決策は移動距離を減らすことである。シャルル・ド・ゴール国際空港 - Wikipedia は客の移動距離を均等化させる事を目的とした空間設計をを有する。シャルル・ド・ゴール空港では、移動性を高めるためにランドサイドから搭乗口へのアクセスを均等にした放射状となっている。また、フィラデルフィア国際空港 - Wikipedia は放射状に伸びた建物から、エプロンが枝のように生えている。
一方、鉄道の駅では、ターミナル駅出ない限り放射状の空間構成にすることは難しい。駅では、線路対して垂直に各ホームへ移動する通路が設置されているのが一般的だ。デトロイト・メトロポリタン・ウェイン・カウンティ空港 - Wikipedia は鉄道の駅と似た構造である。放射状に比べ拡張性は高いが、端からもう一端まで移動する場合は、距離が長くなってしまう。立体的にする手もあるが、その場合目的とするホームがどこにあるのかを把握するのが難しくなる。上下と横の移動が加わるため、必ずしも移動性が高くなるわけでもない。

駅や空港においては、移動性も重要だが目的とする乗り場、あるいは出口を容易に把握できることも大切だ。通常は、案内標識により客を誘導する。空港は乗車口が一定ではないが、鉄道の駅は固定できる。東京などでは、路線を色によって分け区別している。平行に並んだホームが色分けされていると、慣れると利便性が高い。一般に、色とイニシャルにより路線を、番号により駅を把握できる作りになっている。
降車後の誘導は、ランドマークによる案内が一般的だろう。ランドマークを大きく示し、ランドマーク周辺なる施設を小さな文字で記して案内する。
鉄道同士、あるいは他の交通機関への乗り換えのしやすさも重要である。交通機関の形態を示し、終着地点だけでなく、向かう方面を記して案内することが多いだろう。
乗降において、空港の場合は乗る経路と降りる経路を分離できる。大きな空港は発着口と到着口が分けられている。これにより、客の流れを一方向に固定できるため、スムーズな導線を実現しやすくなる。鉄道の駅の場合は、乗降を分けるのは難しい。ターミナル駅に限っては、一方のドアから客を降ろし、もう一方から客を乗せることが可能である。。

駅ダンジョンはなぜ生まれるか

以上のように、公共交通機関の乗降場においては、やってきた客をスムーズに交通機関へと案内し、降りた客を目的地へと迷わないように案内すること重要なファクターである。しかしながら、知られざる「駅ダンジョン」の世界:カフェオレ・ライター で語られるように東京の駅は完全にダンジョン化しており、客がスムーズに移動できるように構成されているとはいえない。特に、新宿駅は日々進化しているため 迷宮『新宿駅』ダンジョン攻略サイト のようなサイトまである。

東京の駅がダンジョン化する最大の理由は、路線の多さだろう。鉄道会社ごとに乗降口が必要なため、入り口も増え案内板も増加する。また、同じ鉄道会社であっても、方向が違うためホームを平行にすることができない場合もある。例えば、秋葉原の総武線と山手線は垂直に交わっている。総武線から山手線への乗り換え経路は決して良いとは言えない。新宿駅は、JRのホームの多さに加えて、西側へ向かう私鉄が非常に多い。地下鉄駅もある。移動性を高めるために工事をやっているが、そのせいで駅の構造そのものが変わってしまい、攻略を難しくしている。出入り口の多さも、複雑さに輪をかけている。

ちなみに、梅田の地下も迷いやすいとされる。梅田の地下が迷いやすい理由は、自分の位置を把握できないためだろう。「梅田の地下は迷いやすいので、地上に出た方がわかりやすい」→まちがい - デスクトップ2ch で述べられるように、斜めの道が多く、そのため五差路や二又三又が存在する。さながらイスラーム都市である。これも、東京の駅と同じく様々な路線が入り乱れた結果だろう。

6. 商業施設における空間構成

駅や空港と同じように、商業施設でも客の導線は重要である。小さなコンビニからスーパーマーケット、百貨店、そしてショッピングモールに至るまで客の導線を元に空間が構成されている。

スーパーマーケットとコンビニエンスストアの導線

スーパーマーケットは壁際を周遊する導線になっている。入り口から、野菜や果物が置かれ、次に肉や魚類が並べられ、そして最後にお惣菜コーナーがあり、コの字型をなしている。コの字の開いている側にレジと出入り口が設けられている。壁とは反対側にある冷蔵棚には飲料や乳製品やパン、豆腐などが置かれている。また、コの字の中に位置する中島には平行に並んだ棚があり、調味料やお菓子などが売られている。店によって配置は異なるが、大体 スーパーマーケットの客動線 と似たような空間構成になっているだろう。
主力商品を壁際に配置することで、客を壁に沿ったメインストリートを形成している。メインストリートに沿って中島の棚を平行に並べることで、商品を探しやすくしている。異なる中島へ移動する場合は、メインストリートである壁際に戻ったほうが商品を探しやすい。
スーパーはなぜ左回りか?: さいころニュース 日本最大規模のビジネス向け心理学ニュースサイト で述べられるように、スーパーマーケットは左回り=反時計回りに周遊するような構成になっている場合が多い。アメリカのウォルマートなども左回りに客が移動するようになっている。これは右利きの人間が商品を手に取りやすいようにするためだと考えられる。とは言うものの、道路などの都合で必ずしも左回りとなるわけではない。ローカルな話で申し訳ないが、つくばの竹園と桜にあるカスミは右回り、センターに有るイオンも左回りだ。デイズタウンにある西友や桜の丸茂は左回りとなっている。

コンビニエンスストアコンビニの秘密を間取りに活かす [住宅設計・間取り] All About で紹介されるコの字の構成である。主力商品である弁当や惣菜と飲料が壁際の冷蔵スペースに置かれている。雑誌類も壁際にあるが、多くは窓側にある。これは、客の呼び込みと防犯を兼ねている。スーパーマーケット同様に、コの字の開いている側にレジが置かれる。またコの字の内側にある中島に日用品やお菓子などが売られている点もスーパーマーケットと同様だ。

壁際に入れ替わりの激しい商品を並べ、島中にジャンルを区切って並べる方法はコミックマーケットのサークルスペースに似ている。人気が高く発行部数の多いサークルは壁に配置され、壁サークルとも呼ばれる。島中には机を並べた島があり、近いジャンルが集まっている。発行部数の多いサークルが壁に配置されるのは、行列に対応するためである。壁際であれば、会場の外へ行列を伸ばすことができる。コミケのサークルスペースとスーパーマーケットは似ているが、目的はやや異なっている。島中に関しても、机により島を簡単に作ることができ、また整然と並べることで管理していることがアピールできる。この点は、碁盤の目状にすることで文化水準の高さをアピールした平安京と似ているかもしれない。

7. 百貨店における回遊

回の字がたから回遊型へ

百貨店の空間構成は実際に見たほうが早い。
6F 婦人服 [フロアガイド] 【大丸東京店】フロアガイド | 日本橋タカシマヤ を見ればわかるが、百貨店はエスカレータを中心とした回のの字型が基本の構成である。エスカレーターが二箇所ある場合は回の字が二つつながった構造となる。通路が一直線で、直角に交差しているため、各売り場は碁盤の目状でとなる。スーパーマーケットのコの字を閉じ、エスカレーターを中心に巡る構成のため、回の字が基本となるのだろう。また、客を外に出さない点でも回の字は有効である。

百貨店では回や囲字を組み合わせて構成されている。ただし、それ以外の構成も存在する。例えば JR KYOTO ISETAN> は大階段があるため、上層階に行くほどコの字が横に長くなる構成である。コの時の上下は伊勢丹以外のスペースとして利用され、その結果上層ほど伊勢丹の売り場面積は狭くなる。実際に行ってみればわかるが、11階にあるレストラン街はコの字の上下が完全に分離しているため使い勝手は良くない。

さて、この伊勢丹の本店は新宿にある。新宿本店は3月にリニューアルオープンしたばかりだ。リニューアルを機に新宿本店の売り場のコンセプトは大幅に変更された。ガイアの夜明け(3/12)百貨店の常識をぶち壊せ!〜伊勢丹・郄島屋の新たな革命〜 - Togetter でまとめられるようにガイアの夜明けでも特集されていた。
基本的なコンセプトは フロアマップ : 新宿店 : 伊勢丹店舗情報 で示されるように、エスカレーターの周囲にパークと呼ばれる広場を設置しこのパークから各売り場を周遊できるようにした点。また、売り場も 100億円投入! 伊勢丹新宿店が目指す“ミュージアム型百貨店”とは? 日経トレンディネット の記事でまとめられるようにミュージアム型となっている。パークを中心に周遊し、街を歩くような感覚で、客に発見を体感させる空間構成となっている。
この空間構成は、広場を中心に回遊させる お台場 VenusFort ヴィーナスフォート (1998年開業) のコンセプトに近いだろう。客に回遊させ発見させる空間構成はショッピングモールでも多く見られる。

8. ショッピングモールの空間構成

広場と曲線

新宿伊勢丹やお台場のビーナスフォートのように、広場を中心に道を作り客を回遊させるのは、街そのものである。広場は公共スペースである。公共スペースとしての広場は城郭都市ができる以前、つまり農耕が始まる前にはあっただろう。狩猟により得た獲物を調理したり、別けたりするスペースとして活用されたはずだ。その後、政治的、宗教的そして経済的なスペースとして活用されていく。
政治的な広場としては、古代ギリシアのアゴラなどが挙げられる。中世ヨーロッパでは、教会や市場を中心に広場が作られた。先述したように、西洋では、ルネサンス、およびバロック以降では公共スペースである広場を中心とした都市が作られるようになっていく。

広場は街や都市には無くてはならない。街を歩くような感覚で客を買い物させるショッピングモールにも不可欠な存在だ。フロアガイド Sun Street Kameido サンストリート亀戸 は屋外にある広場を核としてショッピングモールが構成されている。フロアマップ 1F - 流山おおたかの森S・C のように広場が屋内に設けられることも多い。流山おおたかの森S・Cは広場の上部が吹き抜け構造となっている。これらの広場では、戦隊ショーや特売セールなどのイベントを催せるようになっている。まさに、公共スペースである。また、イベントが催されていない場合は、客が座ってゆっくりできるスペースでもある。イベントスペースではなくても 南砂町ショッピングセンターSUNAMO(スナモ)/フロアマップ(1F) のように、エントランスに広場を設けるている。ショッピングモールでは広場を中心にすることで、その周囲にある店を把握しやすくなっている。

広場と広場、広場と店をつなぐことでショッピングモールができあがる。ショッピングモール内の通路はどのように構成されるか。
刑務所との比較でも述べたが、ショッピングモールは視認性を広げつつ、視線の先に見えそうで見えない死角を作り、その先に行ってみると新たな発見がある空間構成になっている。視覚を作るにはどうしたらよいか。これは、ルネサンスの頃に作られたパルマノヴァなどの星形要塞と逆の発想をすれば良い。星形要塞では死角をなくすために曲線を排除し多角形を用いた。つまり、死角を作るためには曲線を用いれば良い。2006年に開業した ららぽーと豊洲 キッズナビ | フロアマップ を見ると、船のような形をした売り場が並んでいるのが分かる。つまり曲線が使われている。また、モール内へ入れた客を逃さないようにぐるっと巡回できるようにもなっている。
最近開業したショッピングモールは広場を中心とし曲線により各店舗へとアプローチした空間により構成されることが多いようだ。以下にその例を示す。

フロアガイド Sun Street Kameido サンストリート亀戸 は広場を中心に曲線で構成され、3F ファッション / 雑貨 / ソラマチ タベテラス|東京ソラマチ は広場を中心として横に広がっている。お台場 VenusFort ヴィーナスフォート は曲線により広場と広場がつながっている。

広場と曲線によるアプローチが、ショッピングモールの空間構成である。つまり、刑務所と同じ空間構成ではない。客を閉じた空間に閉じ込める点で、両者は似ているかもしれないが、ショッピングモールは円環により閉じ、刑務所は塀により閉じている点が異なる。

回の字から曲線へ

ショッピングモールも元々は曲線で構成されていたわけではない。その変遷を示す例としては、1981年に開業し大規模ショッピングモールの先駆けであるららぽーとTOKYO-BAYがふさわしい。

ららぽーとTOKYO-BAYは、北館が1981年にららぽーと1として建設され、1988年に南館の東側がららぽーと2として増床された。その後、2000年には南館の西側がララポート3として増床され、2008年にはららぽーと2がリニューアルされている。
つまり、ららぽーとTOKYO-BAYの北館は古いショッピングモールの空間構成で、南館は新しい空間構成となっている。つまり、一箇所で新旧二つの空間構成を見ることができる。

ららぽーとTOKYO-BAYの北館は、広場を中心として直線で他の広場や各店舗にアプローチしている。曲線はないが、袋小路などがあり、街を歩かせる感覚を意識していることが分かる。新しい南館では曲線が用いられている、1階の広場は円形で、2階の東側にもカーブが用いられている。特に、西側の南館と北館をつなぐ大きかカーブは印象的である。
西館は現在リニューアル中であるが、三井ショッピングパーク ららぽーとTOKYO-BAY 西館建替え工事着工(2012年10月1日) によると、やはり大きなカーブを用いた構成になるようだ。特に、西館が完成するとららぽーとTOKYO-BAY全体が大きなループとなり、客を周回させる構造となる。

客を分散させる

スーパーマーケットでは、客の導線はほぼ一方向であるため管理しやすい。一方、ショッピングモールの客はそれぞれの店舗やコーナーに分散している。各エリアに適度に分散するのが望ましく、一箇所に集中するのは混雑を生むのでよろしくない。客を分散させるには周回構造にすることが望ましいが、立地の関係によりどうしても端が生じる。ショッピングモールでは、客が多く集まる店舗や施設をそれぞれ両端に配置するなどの工夫がなされている。例えば、 ららぽーと豊洲 キッズナビ | フロアマップ では、客が多く集まる映画館とキッザニア東京が両端に置かれている。また、四国最大のイオンモールである イオンモール綾川 ではイオンのスーパーマーケット部分とは逆サイドに映画館や家電量販店を設けている。客が集まる施設をショッピングモールの両端に置くことで、客を分散させ、しかもショッピングモールの端から端まで行き渡らせることもできる。

ショッピングモールは、広場を設置し、広場同士を曲線で接続し、客を分散させるため周回構造を形成し、核となる店舗を両サイドに設置した空間構成になっているのは ショッピングセンターの通路に“カーブ”が多いワケ - ITmedia eBook USER にも触れられている。直線から曲線の空間構成となった理由の一つに、客を集客するだけではダメで、客を上手に誘導する必要があるからだろう。

9. 六本木ヒルズはなぜ迷いやすいか

ショッピングモールでは

  1. 広場
  2. 曲線
  3. 分散

が空間構成の鍵である。
広場は公共スペースで、イベントスペースでもあり、客が休みための場所でもある。待ち合わせの場所としても有効だ。
広場とその他の広場、あるいは店舗を曲線によりつなげることで、死角を作る。視覚を作ることで、客にそこまで行ってみたい動機を与える。客が自分の意志で移動したかのように誘導するわけだ。
また、客が一箇所に留まるのも良くない。そこで、循環構造を作るなり、核となる施設をショッピングモールの両端に置くなどの工夫がなされている。飲食店街とフードコートを別の階に設置することでも客を分散させることができるだろう。また、飲食店街をショッピングモールの中央に置くことで、客を核となる施設へと分散させる際の起点とすることもできる。

この全てを突き詰めるとどうなるか。その答えの一つが六本木ヒルズである。2003年に開業した六本木ヒルズはとかく迷いやすい。多くの曲線により構成され、自分の位置を容易に把握できない。森美術館の入り口はわかりにくい。また、異なるエリア間の階層が一致せず、雰囲気もがらっと変わる。広場から店が見えるが、行けそうで行けない。
六本木ヒルズはなぜ迷いやすいのか。六本木ヒルズでは、迷って当たり前 で迷うように設計されているからだ。六本木ヒルズの商業エリアは、Jon Jerde (ジョン・ジャーディ)による。建築家とデザイン - 六本木ヒルズについて | 六本木ヒルズ - Roppongi Hills にコンセプトが書かれていので以下に引用する。

建物と建物の間をつなぐ空間(商業施設の空間)をデザインしたのはJPI。
来街者が、街全体を回遊して何度でも楽しんでもらえるように、歩くたびに景色が変わり、決して単調にならない連続した空間には、JPIのコンセプト「人は直線的に歩くのではなく、うねうねとし歩く」の考え方が生かされています。
わざと見通しを悪くしたり、床や天井のパターンを変えたり、周遊させる場所を設けたり、雄大な自然の景観を取り入れたカーブする動線デザインなど、来街者が楽しめる「間」がデザインされています。

先を見えないようにし、次に何があるのかを意識させるために曲線を用いて見通しを悪くしている。そして、床や天井のパターンもわざわざ変えている。全ては、歩くたびに景色を変え単調にならないようにするためであるが、その結果六本木ヒルズを歩く人は迷わざる得ない。六本木通り | 六本木ヒルズ - Roppongi Hills の地図を見ても空間構成が瞬時に頭に入ってこないのではないだろうか。斜め通路が多いため梅田の地下街のように、頭で再現しにくい空間構成になっている。脳内で地図を構築できない以上、人は六本木ヒルズで迷わざる得ない。
六本木ヒルズをデザインした、ジョン・ジャーディは福岡にあるキャナルシティ(1996年開業)もデザインしている。キャナルシティ六本木ヒルズと同じコンセプトでデザインされている。2F|フロアマップ|キャナルシティ博多 を見れば分かるように、各エリアが曲線で接続されている。各エリア間は死角になり一望することはできない。六本木ヒルズよりは分かりやすいが、やはり迷いやすい構成だ。
迷いやすい空間構成は賛否の分かれるところだろう。何度来ても迷うのは、何度来ても新鮮であることの裏返しでもある。集客力のある店舗があるならば、長い目で見れば迷いやすい構成のほうが客が飽きにくいとも言える。

同じヒルズであるが、六本木ヒルズと異なり表参道ヒルズは特殊なショッピングモールである。らせん状のスロープになっている。コの字を延々とつなげた構成である。らせんを伸ばせばすべてが一直線上につながっているとも言える。らせん状にすることで、他のエリアが見やすくもなっている。ただし、一望できるわけではなく、新しいエリアに行けば新しい視界が広がっている。表参道ヒルズは曲線により構成されていないが、客にショッピングモールを歩かせ発見させる空間構成になっている。

10. まとめにかえてディズニーランドと城郭都市

監視のための刑務所

刑務所には秩序が求められる。そして、少ない監視員で、多くの収容者を監視しなければならない。パノプティコン的な管理システムが理想的である。それには直線的で格子、あるいは放射状の空間構成が望ましい。また、収容者を逃さない堀や城壁も必要だ。結果、一見してヨーロッパの理想都市的な形状となる。

外敵から守るための城郭都市から、発展する都市へ

城郭都市は、都市の財産を守るために構築された。都市の発生要件は様々であるが、発展するに従って無秩序になっていく。その結果、城郭内の都市は無秩序である。ただし、一般に政治的、宗教的、経済的な建築物や広場にそって主観道路が走っている。
ルネサンスになると、理想都市として都市計画が考えられるようになる。同時に、火薬の登場により都市の城壁が脆くなり、城郭都市、特に要塞都市の形態は大きく変わる。具体的にはパルマノヴァのような、星形城塞の中に放射状、あるいは格子状に区画がきちんと区切られた都市がいくつか建設された。
秩序には、都市の権力の強さを見せつける役割もある。秩序により治める点は刑務所と似ていなくもないが、都市は外敵から身を守るため、刑務所は内部の人間を管理し逃さないために設計されている点が大きく異る。都市は内部の人間を監視することが、第一の目的ではない。
バロック以降になると、より大きな規模の都市計画がなされるようになる。人口の増大、都市から国家への変遷、そして軍事的発展により城郭が意味をなさなくなったのも理由の一つだろう。パリなどがその例であるが、広場などの公共的な施設を幅広な道路で接続している点がルネサンスの都市計画とは大きく異る。

誘導する商業施設

スーパーマーケットや空港などにおいては、客をスムーズに導くことが重要である。共に、一つの目的を持った客が一方向へ移動する空間構成になっている。道順や案内による分かりやすさも重要である。スーパーマーケットではコの字型を基本的な導線とし、コの字の中に島状の陳列棚を設けている。空港は、発着と到着とを分けることで利用客の導線を確保しやすい。一方、鉄道の駅などでは案内板での誘導が一層重要となる。

街歩きを意識させるショッピングモール

ショッピングモールは客を分散させ回遊させることを目的とした空間構成になっている。曲線を作り視界を遮ることで、先を見たくなる動機を与える。客をショッピングモール内に留めておくため、行き止まりのない構成が理想である。ただし、必ずしも実現できないため核となる施設をショッピングモールの両端に配置するなどの工夫がなされている。広場と広場を接続し周遊させることで、街を歩いているような感覚を客に与える。

街を意識しているのは間違いない。その点で、城郭都市に似ているのは当たり前だ。本当は、より現代的な商業街似にているのだがその点は割愛する。内部に入れた客を外に出さない点では刑務所に似ていなくはない。ただし、刑務所は収容者が周遊できる施設ではなく、決まったスペースに固定されている。よって刑務所は視覚のできる曲線よりも、できない直線で構成する方おが望ましい。六本木ヒルズの例を見るに、ミーノータウロスが閉じ込められたラビュリントスの方が的確であろうか。

ディズニーランドと城郭都市

最後に、東京ディズニーランド の空間構成を見て終わりにしたい。

ディズニーランドではシンデレラ城を中心として各エリアに接続しており、さらに各エリアが自然とゾーニングされている。都市は、貴族や職人、商人などがすむまちであるが、それぞれ活動するエリアがゾーニングされている。また、ディズニーランド内からは外が見えないように配慮されている。視界を遮るための城壁があるとも言えるだろう。東京ディズニーシー は中央のエリアと外側のエリアが水で仕切られているが、それ以外はやはりディズニーランドと似た構成だ。
ディズニーランドも街を歩かせることを意識した作りであるため、構成が街に似るのは当たり前だが、外界と遮断することで、さながら城郭都市のようになっている点は興味深い。