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赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器は「ミハルス」か「カスタネット」か

ミハルス - Wikipedia(2012年8月2日閲覧) を元に、お前らがカスタネットだと思ってる赤と青のあれは ミハルスだったんだよ」とか、衝撃的事実!『カスタネット』はカスタネットではなく「ミハルス」だった なるネタが話題になっている。

しかしこのネタには、赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器=ミハルスは間違い?Wikipediaを鵜呑みするべきかというお話 - NAVER まとめ など疑問を呈する部分が大きい。私も、カスタネットとミハルスとハンドカスタネット にて検証し、赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器をわざわざ「ミハルス」と呼称するのは適当ではなく、カスタネットあるいはハンドカスタネットと呼ぶのが相応しいと結論づけた。


先の記事が追記により、煩雑になったため再度、赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器はミハルスか否かをまとめ直した。本記事では学校教育で扱われ、日本では赤と青に塗り分けられた二枚の板をゴム紐でつなげた打楽器を「ハンドカスタネット」と記す。

カスタネットミハルスとハンドカスタネット

カスタネット(Castanets)


カスタネットはスペインのフラメンコなどで用いられる、二枚の貝状の板を紐で繋ぎあわせた打楽器。紐を親指に通しぶら下げ、中指と薬指で叩く。カスタネット入門 に持ち方と扱い方が解説されている。
語源はスペイン語で栗を意味する castaña である。栗の形に似ているから、栗の木が使われたからなど定かではない。スペインに限らず、古くから使われた打楽器でそのルーツはギリシアともエジプトとも言われる。カスタネットといえば現在はフラメンコで使われることで有名であるが、フラメンコも当初は手拍子のみで踊っていたようだ。

コンサート用に演奏しやすく改良されたカスネットもあり、三角帽子 (ファリャ) - Wikipedia などでは柄付きのカスタネットが用いられる。色々なカスタネットの紹介 で柄付きのカスタネットの写真を見ることができる。

四つ竹

二枚の竹片を片手で持ち、カスタネットのように打ち合わせる打楽器。片手で2枚、両手で4枚持つので四つ竹というのだろう。親指で一枚、その他の指でもう一枚持ち、パクパクと合わせることで打ち鳴らす。

ミハルス

ミハルスについては、東京家政大学の細田淳子による紀要が詳しい。

ミハルスとは小学校の音楽の教師であり、舞踊家でもあった千葉躬治(みはる)が昭和8年頃に、リズム訓練、あるいは身体を動かしながら扱うことを念頭において考案した打楽器である。スペインのカスタネットや、先に挙げた沖縄舞踊に用いられる四つ竹をヒントに作ら、より扱いやすくするため、二枚の板を蝶番でつなげ、上下の板の外側にゴム紐をつけ指が入れられるようになっている。そのゴム紐に親指と中指を差し込み、ワニの口のようにパクパクさせることで音がなる。また、音がよく響くように板の先に、太鼓鋲がつけられていたようだ。
戦前には広く学校の音楽教育で扱われたようで、昭和18年に出版された 国民学校教師の為の簡易楽器指導の実際 にもミハルスを扱った教育方法が記されている。

昭和22年の文部省における 学習指導要領 音楽編 の試案においてもミハルスに関する記述が見られる。

5.児童の身体的発育状態を考慮し,楽器を使用する場合には小型のものを選択することが望ましい。例えば,拍子木・ミハルス・トライアングル・鈴・カスタネット・タンブリンその他児童の製作した簡単な打楽器を主体とする。

学習指導要領の思案と同じく、昭和22年に書かれた 小学校・中学校教師のための学習指導必携. 各科篇 にもミハルスに関する記述があるが、音楽教育において金物やコップを代用楽器として扱うのが良いと書かれている。

ミハルスでリズムを打ち鳴らすことから入ることもできます。それにしても、現在はリズム楽器さえも、なかなか手に入り難い時ですから、

細田淳子の紀要によると、戦火のため多くのミハルスが失われた。また、小学校・中学校教師のための学習指導必携. 各科篇から、戦後は物資不足のためミハルスを容易出来る学校はなかったことが伺える。そのためミハルスは学校教育から姿を消してしまった。

ハンドカスタネット


ハンドカスタネットは2枚の板をゴム紐でつなぎ蝶番状にした打楽器。一般に赤と青の二枚の板を組み合わせたものが用いられる。口が開いたままの構造のため、手を閉じたら音がなり、手を開くと自動的に元に戻る。また、音が響くように突起がつけられている。通常は赤色の板に突起がつけられており、そちらを下に持って鳴らす。カスタネット に持ち方が写真付きで掲載されている。ゴム紐を人差し指が中指に通し、突起のついた板を手のひらに置き、人差し指か中指で叩いて鳴らす。もちろん、手に平において叩くことで鳴らすこともでき、安価で取り扱いやすい点が広く学教で用いられる所以であろう。

ミハルスとは一体なんなのか - ネタ袋 におけるコメント欄や 僕らがカスタネットだと思っていたアレはカスタネットじゃなかった? →「カスタネットで合ってます!」 - ねとらぼ によると、このよく知られる赤と青に塗り分けられた二枚の板をゴム紐でつなげた打楽器は、戦後に白桜社がミハルスを元に「カスタネット」あるいは「ハンドカスタネット」の名称で製造・販売し、その後学校の教育現場へと広まっていった。簡単に開閉できたり、突起がつけられたりしている点などミハルスの影響が見られる。


白桜社はハンドカスタネットの輸出を行なっていたようで、海外でも同形のハンドカスタネットFinger CastanetAutomatic Hand Castanets の名称で製造・販売されている。

赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器をわざわざ「ミハルス」と呼ぶのは適当か

1. フラメンコで用いられるカスタネットや沖縄舞踊の四つ竹を元に千葉躬治(みはる)がミハルスが考案された
2. ミハルスは昭和10年代頃に広く学校の音楽教育に用いられた
3. 戦火により多くのハミルスが失われ、戦後の物資不足によりミハルスは姿を消した。
4. 白桜社がミハルスを元に2枚の板をゴム紐で括った木製打楽器を「ハンドカスタネット」として販売した。
5. ハンドカスタネットが学校教育で広く使われるようになった。


管弦楽用カスタネット (2000年の記事)やWikipediaの出典元とされる ミハルス - 語源由来辞典 が赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器をミハルスであるとしているが、先に示したようにミハルスとハンドカスタネットは別物である。また、共に出典元が明らかではない。恐らく、ミハルスの実物を知らない、あるいは忘れた人物が、「ミハルスは昭和10年代頃に広く学校の音楽教育に用いられた」点と「ハンドカスタネットが学校教育で広く使われるようになった」点を元に赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器であるハンドカスタネットミハルスと呼称すると勘違いしたのだろう。


ミハルスからハンドカスタネットへ移行する時期に混同が起きた可能性もあるが、昭和22年 保育要領(試案) における 六 幼児の保育内容 には「カスタネット」、 また 昭和26年 小学校学習指導要領 音楽科編 (試案) における 第?章 各学年の指導目標と指導内容 では「カスタネット属」の記述を確認できるが、「ミハルス」という語は見つからない。白桜社がハンドカスタネットあるいはカスタネットの名称で販売していた点からも、ハンドカスタネットミハルスの混同が広く行われいたとは考えにくい。

木のおもちゃ.jp では 教育用カスタネット (ミハルス) と併記されて販売されているのだが、説明文である「日本の舞踊家・千葉みはるが舞踏用カスタネットを鳴らしやすくするため考案した楽器」の部分はミハルス - Wikipedia (2011年9月24日 (土) 11:52) に全く同じ文言がある。どちらが参照したかわからないが、ミハルスの形状を知っている人物の記述とは考えられない。そももそも、全音楽譜出版社楽器カタログ 打楽器(ラテン・パーカッション)他 にはカスタネットのみしか書かれていない。木のおもちゃ.jp が独自にミハルスを併記したのだろう。


1. 白桜社のハンドカスタネットミハルスを元にしているが、ミハルスとは形状が異なる。
2. 白桜社は「カスタネット」あるいは「ハンドカスタネット」として販売している。
3. ミハルスとハンドカスタネットが広く混同された事実を確認できない。
4. 各サイトで混同が見られるが、出典元が明らかでなく、ミハルスを詳しく知らない人物による言説である可能性が非常に高い。
5. ミハルスカスタネットを元にした楽器であるので、ミハルスを元に作られた赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器もカスタネットである。


よって、赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器をわざわざ「ミハルス」と呼称する必要がない。赤青の板をゴム紐で括った木製打楽器の写真を指して「ミハルス」とするのは間違いである。