まどか「すべての記憶 すべての存在 すべての次元を消しそして 私も消えよう 永遠に!」

このエントリには、まどマギはモチロンのこと、FFシリーズ、ロマサガシリーズ、リング、らせん、ループ、藤崎竜封神演義、まおうゆう勇者魔王、GS美神ヴァルキリープロファイル、ハーモニー、From the Nothing, with LoveSelf-reference Engine攻殻機動隊のネタバレを多分に含みますからご注意ください。

まどマギのゲーム親和性

まどマギはゲームとの親和性が高い。ストーリー内のギミックにはゲームの文脈が盛り込まれている。
魔女にエンカウントしたり、あるいはグリーフシードのために狩ったり、グリーフシードを魔法少女同士で奪い合う仕組みになっていたりするのは、そのままゲームにできそうだ。ほむらが何度もループを繰り返すのは、ゲームのプレイヤがクリアできるまで繰り返すようでもある。ゲームにおいてゲームオーバーになりプレイヤがやり直す際の解釈は様々だが、「プリンス・オブ・ペルシャ 時の砂」やニコニコ動画で話題になった「エルシャダイ」では時を操ることでゲームオーバー前の時間に巻き戻している。
また、劇中での視聴者とキャラクターの視点の相違と、攻殻機動隊における義体のようにソウルジェムから肉体を遠隔操作する様もプレイヤとゲームの操作キャラの関係を想起させる。キャラクターが肉体を操作する様子は、ゲーム内でゲームを行う入れ子構造である。

まどマギと旧スクウェア

ゲームとの親和性の高いまどマギであるが、ストーリーは旧スクウェアゲームと共通すると点が多い。特に、まどかの願いは旧スクウェア作品におけるラスボスの行動原理によく似ている。
スクウェア、特にFFシリーズに一貫して描かれるのが、世界の仕組みと、その仕組みを利用する超越者との戦いである。FF1はループを断ち切る話であったし、FF13も世界の仕組みに関わる話であった。QBを創りだした知性体、FF12のオキューリアやFF13ファルシは神ではないが超越者である。また彼らは、人間の文明を導き、世界の仕組みに大きく関わる存在でもあった。

まどかとアルティミシア

まどマギと共通項が多いのは、魔女が登場し、時間航行とも関わりのあるFF8であろうか。まどかの願いはFF8のラスボスであるアルティミシアの目的と共通する。アルティミシアは時間系の魔法使いであるほむらと比較されがちだが、本来はまどかと比較するべきであろう。アルティミシアは時間航行の能力を持っているわけではない。それ故にエルオーネの能力を必要としていた。むしろ、ほむらは時間航行と似た能力を有し、それを使って過去を変えようとしたエルオーネの役割を担っていると言えよう。もちろん、エルオーネの願いはほむらのそれと重なる。
FF8のラスボスであるアルティミシアの目的は、時間圧縮により全ての時代に存在した魔女の力を継承し強大な力を得ること。それと同時に自分以外が存在できない世界を創成することであった。FF8における魔女は人間の世界を創造した大いなるハインが起源とされるが、アルティミシアは世界を創造し直すつもりだったのか、あるいはFFシリーズのラスボスの傾向からして世界そのものになることが目的だったのかもしれない。
まどかの願いは魔女の生まれない世界であった。この願いは魔法少女の願いと努力を消さずに魔法少女を救う選択である。魔法少女の存在しない世界は、まどかの願いそのものが矛盾を孕む。また、QB達インキュベーターの干渉がなければ人類は文明を持つに至らなかった点も合わせると、世界の仕組みそのものを変える必要があった。そのためには、まどか自身が世界の仕組みの一部にならなければならなかったのだろう。
アルティミシアも世界を変えることで過去の魔女たちを救おうとした。ただし、アルティミシアの願いは独善的で自身以外の存在を許さない願いだけれども。アルティミシアの行動原理は魔女として迫害されてきた恨みであり、時間圧縮は魔女を迫害してきた者たちへの呪いである。まどかの願いは魔法少女たちを救うための祝いである。まどかとアルティミシア表裏の関係にあるとも言えよう。あるいは、魔女化したまどかの結末をアルティミシアに見ることができるかもしれない。

破壊と創造

世界の仕組みを変えるためには世界を破壊し、創造し直さなければならない。
まどかの願いは、魔法少女が魔女へ相転移しない世界である。この相転移は、ある種の物理法則にしたがって行われるはずだ。我々の宇宙でも、数々の相転移が起こっている。その中で注目されているのがヒッグス粒子相転移である。ヒッグス粒子は仮説の段階だが、我々の世界に質量が存在する理由の一つであると考えられている。さて、我々の世界で何かしらの相転移が起こらなくなったことを想像してみよう。たとえどんな些細な相転移が起こらなくなったとしても、我々の宇宙とは全く異なる宇宙になるだろう。つまり、希望から絶望への相転移が起こらない世界は全く異なった宇宙のはずだ。宇宙の法則は様々な要因が絡み合っているから、一つの法則のみをなかった事にすることはできない。だから、まどかは宇宙を一度破壊して一から造り直さなければならなかった。

一度世界を破壊した後に、世界の法則を変えて再生したのはロマサガ3である。ロマサガ3では300年に一度死食が起こり、その年に生まれた生命はすべて死に絶える。しかし、運命の子だけは生き残る。死食を超越し強大な力を持つ運命の子は、世界を恐怖に陥れる魔王にも、世界を救う聖王にもなることができる。ロマサガ3は二人の運命の子の物語であり、二人の力によって死食の起こらない世界へ改変された。この際も、世界は一旦破壊された後に再生している。世界の法則を変えるには、完全に作り替える必要があるのだろう。ロマサガ3の運命の子も世界を創造する際に、まどかのように自分好みの状態に調整したと考えることもできよう。

リングにおける世界改変

魔法少女の魔法は事象を操作する力だ。しかし、それの及ぼす範囲は狭く、世界を変えるほどの影響力はない。SFにおいて、超能力は確率を変動する力、あるいは物理法則を無視する、あるいは操る力として描かれることがある。魔法もそのひとつであろう。だからQBは少「エントロピーを凌駕した」と言って少女の願いを聞き届ける。

世界を大きく改変した登場人物といえば、リング、らせん、ループにおける山村貞子もそうであろう。貞子は超能力を持っていたことが示唆されている。つまり、事象を改変する能力である。貞子は見た者が一週間後に死ぬビデオを作り出した。貞子は世界に新たなルールを付け加えたわけだ。
リングの続編であるらせんでは、ある一定の条件を満たした女性が呪いのビデオを見ると、その女性から貞子のコピーが生まれることが明らかになる。貞子は自ら世界に付与したルールによって、ウィルスのように増殖していく。世界中が貞子だらけになり、多様性は無くなり熱的に硬直していく。これは、QBの説明した宇宙がエントロピー的に死滅することと同じだ。その危機を救うのが、リングで呪いのビデオを見て死んだはず高山竜司である。彼は復活を果たし、貞子の増殖を止めようとするのがらせんのラストとなる。
ループにおいて、リングとらせんの世界が生命の進化を検証するためのシミュレータ、つまり仮想現実だったことが明かされる。我々の世界も高度な存在による仮想現実である可能性だってある。しかし、それを確かめる術はない。高山竜司は貞子が世界に関与できたことから、自身のいる世界が仮想現実であることに気がついた。そして、彼はリングの世界からのループの世界へ行きたいと管理者に懇願した。上位世界の知性体は下位世界を仮想現実として体験することができる。一方、下位世界の生命体は上位世界を体験することは不可能に近い。異なる世界への移動には大きな飛躍が必要となる。我々は2次元世界を楽しむことができるが、2次元世界のキャラクターが我々の世界に出てくることができないのと同じだ。
ループにおいて高山竜司はリングの世界におけるDNAをコピーされループの世界に生まれ直すことで、上位世界へ跳躍した。ループにおける文明はは高山竜司としての記憶を保持できる技術には至っていなかったようだ。仮に、記憶を転写できてもそれはコピーであってオリジナルではないのだが。そして、上位世界にコピーされた高山竜司は仮想世界を救うために、貞子のいる世界で復活を果たす。

リングとループの次元跳躍

高山竜司のリングからループ、ループからリングへの跳躍を考察してみよう。次元の跳躍を考察する場合、ゼノギアスが参考になるだろうか。ゼノギアスは作品内において現実世界に落とし込まれた高次元体、仮想世界に再現された元人間と入れ子構造が存在している点は興味深い。
ゼノギアスは現世に縛り付けられた高次元体が元の次元に帰る物語である。主人公たちの宿敵であるカレルレンは高次元体共に上位世界へ旅立つことで物語は幕を閉じる。次元跳躍の際にカレルレンの背中に神に従う天使のような羽が生えるシーンが描かれている。カレルレンの上位世界への跳躍を表現しているのであろう。また、カレルレンは死んでしまった元老院達を仮想現実で再現していた。つまり上位世界から下位世界へのシフトだ。データ上に再現された元老院がオリジナルと同じか否かは、仮想世界へ帰った高山竜司は何者か、という問の答えに近いだろう。これは、我々が2次元の世界に入る込むことを考えれば良い。データとして自らを2次元世界に転写可能だが、2次元世界に転写されたデータは自分自身とは言えないだろう。つまり、上位から下位、あるいはその逆であっても次元跳躍には転写が必要となる。
貞子がルールを付け加えたことでリングの世界は大きく変質した。貞子の増殖は、世界が貞子化することを意味する。そしてリングの世界の変質は現実のループの世界をも蝕んだ。貞子によってシミュレーションは停止し、時間が進まなくなった。つまりリングの世界は時が凍結してしまった。FF3におけるザンテが死にたくないから時を止めてしまった状態に似ている。実際、リングの世界はこのまま貞子が増殖し続ければ、熱的に死ぬので貞子がリングの世界で生き続けるにはシミュレーションを停止するしか無いのだが。
リングの世界は止まってしまったが、貞子の呪いはループの世界にも伝搬した。高山竜司がリングにおいて貞子の呪いに蝕まれていたため、ループの世界へ転写された際に貞子の呪いもウィルスとしてコピーされてしまった。貞子の呪いは、高山竜司と共に次元の跳躍を果たしたのだ。高山竜司がリングの世界へ戻ったのは、貞子の呪いを解き、ループの世界を救うためであった。貞子の呪いは自身の世界だけではなく、上位世界へも影響を与えるとは、まどかをも凌駕する力と言えるかもしれない。

運命の特異点

シミュレーションは過去に起こったことを検証するため、あるいは天気予報のように未来予測のために行う。ループでは生命の成り立ちを知るためにシミュレーションが実行された。
シミュレータで過去に起こったことを検証、あるいは未来を予測する際に問題となるのは計算速度だ。綿密な計算をするほど時間がかる。現実的には近似値を得るしか無い。シミュレーションを行うよりも実際に事を起こして結果を見たほうが早いことがある。ループではシミュレータ内の世界が、実際の世界のレベルに近づくに連れ計算に莫大な時間がかかるようになってしまった。ループは生命の発生を検証するために、実際にリングの世界を作ってしまったと言えるだろう。
シミュレーションするよりも、実際に検証したほうが早い。それを元にしたのが、Self-reference Engine における超知性体である。超生命体は事象を改変することができる。Self-reference Engine では超生命体が乱立することで時空がバラバラになってしまった。宇宙の中に宇宙が存在し、それらが互いに侵略しあっている状態である。この宇宙では熱的死は起こらないが活性化しすぎて非常に不安定な状態にある。
Self-reference Engine では超生命体は特異点である。特異点とは世界を変える力を持ったものである。我々の世界で言うならば英雄であるが、ゲームなどの創作では選ばれた主人公である。運命力を持つものとも言えるだろうか。まおゆうにおける魔王と勇者も特異点だ。まおゆうは元がゲームの世界であるから、運命を変える力は勇者と魔王しか持てない。最終的に、まおゆうの世界には勇者や魔王以外にも運命力を持った者、つまり特異点が拡散することで世界は神話の時代を終えて、次のステップへと進んだ。まおゆうの世界は不安定になったが拡張できるようになった。
魔法少女事象改変が可能である。つまり、魔法少女も小さな特異点とも言える。ほむらがその特異点をまどかの因果に集約した。その結果、まどかは世界を終息させ、新たなる宇宙と生み出すほどのエネルギーを持つに到った。特異点をまどかに収束させることで、魔女化という不安定化を取り除くことができたと言える。不安定=活性な状態であるため、感情ンの相転移によるエネルギー取得を目的としたQB達にとっては非効率化なのだけど。
まおゆうの作者によるログ・ホライズンも世界を変える力を持つものはゲームとして参加していた冒険者達のはずだ。冒険者たちをゲーム内に導いた力は謎だが、物語開始時から特異点が偏在する点はまおゆうとは逆、まどマギと同じ構造となっている。ログホラには特異点が偏在するため、非常に不安定な状態となっている。まどマギを参考にするならば、魔法少女として偏在する特異点がまどかに集結させ、世界を改変させることで物語は収束を迎えた。ログホラも同様に、特異点が収束するのか。これからが楽しみな作品である。
ちなみに、改変前のまどマギの宇宙において、魔法少女−魔女転移が繰り返されると、ワルプルギスの夜がせめぎ合う世界もありえただろう。Self-reference Engine のように、彼女らは自身の都合のいい用に世界を改変し続ける。多様性は保たれるが不安定な宇宙となった可能性もある。QB達にとってはウハウハであるけれども。
また、まどかにより生じた魔女化しない世界でも、魔女化しないだけで運命力は凝縮可能である。つまり、何者かが効率化を狙って魔女化する世界に再改変する可能性もあるだろう。

概念化したまどかは何になったのか

大いなる特異点となり上位な存在と転移したまどかは何者になったのか。上位の存在になったということは、ある種の跳躍が必要であったはずだ。
ロマサガは破壊と再生の物語である。ロマサガ1は破壊神サルーインとの戦いであった、神話において破壊には再生が伴う。ヒンドゥー教におけるシヴァ神は破壊を司るが、破壊の後には次の再生が待っている。GS美神に登場したアシュタロスは世界の破壊を目論んだが、それと同時に次なる世界の創造の準備も怠らなかった。アシュタロスは善と悪のバランス調整の結果、勝つことも、死ぬことも許されない存在であることに絶望し、世界の破壊を目論んでいた。最終的には、善と悪のトップにより死を許された。アシュタロスの世界の破壊が成功していたら、彼は新たな創造神になっていたはずだ。この時、アシュタロスは魔族から創造神になるわけだが、概念上大きな超越を必要はしない。
ヴァルキリープロファイルでは、ロキにより破壊された世界を創造の力を得たレナスが再生を果たした。オーディンは神と人間の合いの子であることで成長の力を得た。レナスも神と人間の狭間の存在であり、人間の作り出した魂の器であるホムンクルスを介することで成長できるようになった。つまり、レナスは成長により創造神となったわけだ。アシュタロス同様に、創造神になる際に概念として飛躍を必要としない。これは、先に挙げたロマサガ3の運命の子たちもそうだろう。
藤崎竜よる封神演義の黒幕であった女媧は自分の望む世界を得るために破壊と想像を繰り返していた。まるでゲームのようだが、自分好みの文明世界を作る女媧を考察する場合、シヴィライゼーションと比較すると相性が良い。シヴィライゼーションでは文明の指導者を選択しプレイするが、プレイヤはその指導者というよりも指導者を導く存在に近い。つまり、プレイヤは神に等しい。世界を改変するには、神に位置づけられるような概念である必要がある。

FF5におけるエクスデスはその名の通り死を超越したものである。彼の目的は無の力を得ることであった。しかし最後には無の力に取り込まれ、ネオエクスデスと成り果て「すべての記憶 すべての存在 すべての次元を消しそして 私も消えよう 永遠に!」と言い遺し、すべてを無に帰する存在となってしまう。この時ネオエクスデスは無そのものになったと言え、概念として一段上の存在となっている。アルティミシアも目的を達成できれば、創造神に近しい力を得たと考えることができ、ネオエクスデス同様に概念の超越が必要となる。また、FFにはFF3の暗闇の雲FF9の永遠の闇のような概念そのものがラスボスとして登場する。暗闇の雲は世界の仕組みの一部である。

まどかは魔女の生まれない世界を望んだ。そのためには世界を再構築するほどの改変が必要であった。そして、それを望んだまどか自身にも人間、そして魔法少女から大きな跳躍が必要であった。まどかは魔女の生まれない世界を望んだことで、円環の理という概念になったのであろう。
さて、QBを派遣した知性体は感情をエネルギーにする理論を発見した。劇中に特に説明はないが、魔法少女から魔女への相転移は数式化できるのであろう。でなければ、規定のエネルギー量を測定できない。つまり、魔法少女-魔女の相転移には何かしらの定数があるはずだ。まどかの改変した後の世界では、改変前には円環の理Φという定数が見つかるだろう。つまり、まどかは宇宙の法則を決める定数の一つになったのだ。円環の理Φとは魔法少女-魔女相転移を阻害する定数だ。それは、アインシュタインが定常宇宙を導くために導入した宇宙項のように。QBを派遣した文明は、はたして円環の理Φを見つけ出し、魔女化する宇宙を構築できるだろうか。

感情のない知性体と器としての肉体

QBを派遣した知性体とはどのような存在なのだろうか。個人的には人間に対する扱いを見る限り、庄司創(id:sugio)により描かれた辺獄にてにおける知性体に近いのかなぁと感じる。
QBを派遣した知性体は宇宙の熱的死を避けるため感情の相転移に目をつけた。しかし、彼らには感情がなかった。感情をもつ者は精神疾患と扱われる。そのため感情を有する人類に目をつけた。
感情のない知的生命体の営みについては想像するしかないが、考察する上でヒントとなる作品として伊藤計劃によるハーモニー、あるいは伊藤計劃記録に収録されている From the Nothing, with Love が挙げられる。
ハーモニーにおいて人類は最終的に感情を捨て合理的に生きることを選択する。その背景には、意識のない民族が発見されたことや、過去に大きな厄災を繰り返したくない恐れなどがある。このハーモニーにおいて誕生した意識がなく合理的に行動する人類が進化すればQBを派遣した知性体に近い存在になるのではあるまいか。
From the Nothing, with Loveでは意識のなくなった主人公がさらにグロテクスに描かれている。主人公は優秀なスパイの記憶をコピーされている。何度もコピーが繰り返される度に脳に行動パターンが刷り込まれ、無意識の内に様々な行動を起こすという話だ。人間は気づかぬ内に、色々なことをしているものだ。素晴らしいプレイをしたスポーツ選手などにインタビューした際に、体が先に動いてよく覚えていないと返答することがある。これは、何度も練習をした努力の結果であろう。我々も、普段の生活の中で無意識の内に何かをやっていることがある。例えば帰宅して、定位置に鍵や財布を置いたり。行動を反復すると体に染み付き、無意識に行動できるのだろう。つまり、我々が無意識に行動している状態がQBを派遣した知性体に近いのかもしれない。

From the Nothing, with Loveではオリジナルが存在する限り、コピーされる肉体は適合すれば何でも良い。QBも肉体など器にすぎないと言っている。QBの体にはスペアがあるし、魔法少女は魂を堅牢なソウルジェムで守ることで、肉体を操っている。さて、このソウルジェムから肉体を操るとは、どのような状態であろうか。ソウルジェムにて肉体を操作する感覚は、攻殻機動隊においてサイボーグ化された肉体を動かす感覚に近いのではなかろうか。劇中で、素子たちは身体性について議論している。精神はどこに宿るかは、攻殻機動隊のテーマの一つである。魔法少女の精神はソウルジェムに宿るのか、肉体とソウルジェムの関係に宿るのか。

人間は脳みそだけで体を動かしているわけではない。末端の神経を含めて脳の命令系統だし、実際の体を伴ってこそ人間として存在している。脳だけに精神があるわけではない。SFにしばし登場する脳みそだけ培養液に使っている黒幕は、肉体を持たないため元は人間であっても、既に人間とは異なる精神構造を有しているだろう。QBが人間を理解できないのも、そもそもの器である肉体の構造が全く違うからだろう。
さて、ソウルジェムを考察する上でジェイムスン型サイボーグが参考になるかもしれない。ジェイムスン型サイボーグは箱型の筐体に入ったサイボーグだ。ジェイムスン型サイボーグは肉体の信号をエミュレートできなければ動作できないと考えられている。ソウルジェム内に、攻殻機動隊における電脳のように脳を含む神経回路をコピーし、肉体の信号をフィードバックすることで肉体を遠隔操作していると推測できる。
あるいは、より霊的に高度な処理が施されているのかもしれない。この場合、道教における魂魄や、古代エジプトにおけるバー(Ba)、カー(Ka)などの概念が参考になるだろう。魂は精神を司り、魄は肉体を支える気である。バーが人間の精神で、カーが肉体とバーをつなぎ止めるものである。ソウルジェムは魂魄でいう所の魂(コン)、バーとカーにおけるバーを肉体から抜き出し守っているのだろう。本来、魂(コン)やカーをとり出された人間は死ぬ。ソウルジェムは魂を留め、魄(ハク)あるいはカーが注入された肉体を生きた人間のように操ることが出来るのだろう。魄(ハク)のみが宿ったキョンシーとされる。さやかが魔法少女化した自らの状態を霊魂の抜けた動く死体であるゾンビと称したのは、的を射ていると言えるだろう。
ソウルジェムが魂魄を守ることで、魔力を伴う限り魔法少女はQBのように復活できるのだろう。回復能力の高いさやかは極めて戦闘向きの魔法少女向きであったと言えるだろう。また、さやかは肉体を遠隔操作する術を率先して利用したため、人間とは大きく異なる精神構造を有しやすかったとも考えられる。マミが記号的な魔法少女に近かったのも、ソウルジェムにまつわる魔法少女と魔女の仕組みを知らなかったからだろう。実際、10話にて事実を知ったマミは精神崩壊している。

肉体も精神も完全に散逸したまどかは、攻殻機動隊において人形遣いと融合した素子が肉体を必要としない存在に近い。人形遣いと融合することで素子は新たな世界であるネットに遍く存在へとシフトした。ネットは我々が作った下位世界ではあるけども、現実世界とリンクした世界だ。特に攻殻機動隊においては、現在以上になくてはならない世界である。攻殻機動隊のその後の世界では、全ての電脳が素子化する可能性がある点は、リングの貞子を思わせる。また、世界に遍く存在する点はまどかの状態に近い。自らが特異点となり、魔法少女の行く末を見守り、彼女たちの願いを祝う存在で在り続けるまどかと、世界を呪い続け自らのコピーを増やし続ける貞子は表裏の関係と言えるだろうか。

まとめマギカ

まどマギに関してはメタ魔法少女の物語である。契約し悪と戦う魔法少女という文脈を知らなければ作品を十分に楽しむことができない。その記号的、そして模範的魔法少女であるマミさんが三話でマミられたのはまどマギという作品の象徴的シーンであろう。また、マミさんを踏襲したさやかが魔女化するのも物語上絶対に必要である。
10話においてまどかはマミさん同様に象徴的な魔法少女であった。ほむらもそこに憧れたのだろう。魔法少女の象徴たるマミさんが死に、それに憧れたさやかが魔女化するのは、まどマギが記号的な魔法少女を下地にした絶望の物語であることを示している。しかし、ほむらがまどかに因果を集め特異点とすることでまどかは魔女化しない世界を生み出すに到った。これにより、魔法少女はかつての象徴的な魔法少女として活躍できる世界になった。それはとっても嬉しいなって。
まどかはただの少女であった。魔法少女にはなったが、世界を変えるような存在ではない。世界を変えるためには、世界を変えるだけの存在に跳躍しなければならない。つまり、上位の存在にならなければならない。ただの少女であったまどかは世界を変える望みを叶えるために、円環の理という概念にならざるを得なかったのだ。