iPod はゲーム機市場を席巻できるか。

読売新聞に iPod、3割値下げでゲーム市場本格参戦 という記事が掲載された。読売新聞の記事は、iPod touchにカメラがないのは「ゲーム機だから」(ジョブズ談) というジョブズの発言を受けてのものだろう。個人的にはカメラがあった方が面白いゲームを開発できそうな気がしますが、カメラをつけて価格を上げるのを避けるため&iPhone との大きな差別化を図る意味もあるのだろう。
価格が約2万円〜と値下げされた iPod touch は携帯ゲーム機であるPSPやDSとほぼ同じ価格帯。本体価格は同じだが、PSPやDSのゲームソフトの価格は平均5000円だが、iPod touchiPhone 用のゲームソフトは殆どが数百円、中には無料のものもあり数も圧倒的に多い。ゲームソフト自体の開発費の安さ、流通コストの削減など開発者側にもメリットがあり、十分にゲーム市場に参入できる力がある。しかし、既存のゲーム市場の脅威になるほどかというと疑問も残る。ソニーはネット配信に力を入れるためと思われるPSP goを発売する予定だし、任天堂DSi向けに価格帯の安いゲームをネット配信している。また日本では、簡単で、短時間でプレイでき、価格の安いライトゲームといえば携帯電話向けゲームが一定の市場を獲得している。むしろ、iPod touchiPhone におけるライトゲーム市場の流れは、ガラパゴスと揶揄される日本の携帯電話の歴史を繰り返しているだけともいえる。
日本の市場は特殊だというけれども、携帯電話向けのゲームのすごい所は課金システムである。多くはクレジットカードやウェブマネーなどのわずらわしい手続きをすることなく、携帯電話のキャリアの料金に上乗せされるだけである。携帯電話の課金形態は Apple も見習うべきところだと思う。

リッチゲームとライトゲーム

日本には1億台の携帯電話がある。その数は携帯型ゲーム機の台数をしのぐ。携帯電話用のゲーム市場は、携帯電話ゲーム市場の変遷 (2005〜2007) によると、500億円規模、あるいは CESA、2007年の携帯電話向け有料ゲーム市場は162億円と推計 とも言われるが凡そ200億円程度の規模であろう。一方、2008年国内ゲーム市場規模は約5826億1000万円 である。据え置き型を含めた市場であるし、本体価格を含むため一概には比較できないが、携帯型ゲーム機のソフトの価格帯が5000円前後で、携帯電話向けが数百円と考えるとユーザーの数は同程度だと考えられる。今後の市場の発展を考えると、成長するのびしろがあるのは携帯電話向けゲームの方だろう。そのように考えると、iPod touch は既存の携帯型ゲーム機市場ではなく、携帯電話向けのゲーム市場に参入したと言え、今すぐにPSPやDSを脅かす存在になるかというとやや疑問ではある。
PSPやDSは、長く、奥が深く、それ故に価格の高いリッチなゲームである。高くても買うのは、ゲーム好きだから。むしろ、今後は差別化を図るためによりリッチな、つまり高価なゲームを作っていった方が良いのではないかとすら思える。一方、携帯電話やiPod touch向けは、簡単で短時間でプレイでき、価格も安く入手しやすいライトゲームである。さて、このライトゲームだが携帯電話向け以前では、PCでFLASHなどで楽しまれていたし、今の楽しまれている。それ以前だと、ポケットサイズの電子ゲームとしても楽しまれていた。ライトゲームは単純が故にメディアを選ばない。メディアを選ばないので、最も普及しているメディア向けに多く開発される。iPod touch が普及しているからiPod用に開発されるだけで、新しいメディアが登場すれば取って代わられる可能性が高い。既存の携帯電話市場と異なるのは、iPod touch が同じプラットフォームを有する、つまり既存の携帯ゲーム機に近いという点だ。ライトゲームはライト故にプラットフォームをそろえなくても普及する。同じプラットフォームを有する利点は、リッチなゲームを販売するときにこそある。iPod touchPSPやDSの脅威になるのは、iPod touch がリッチゲームをプレイするためのゲーム機だと認識された時ではないだろうか。