第4回 旧スクウェアゲーム音楽を語る 「バラバラの世界をつなげる ライブ・ア・ライブ」

例のごとくネタバレ全開でお送りいたします。語りだすと全曲紹介になってしまうので程ほどに。「MEGAROMANIA」とか「ARMAGEDDON」も語りたいんですけどね!

はじめに

ゲームソフトは1994年9月2日発売で、9900円。ギリギリ税抜価格で一万円未満。1994年は4月にFF6が発売された年でもあります。
コロコロでおぼっちゃまくんを連載していた小林よりのりが原始編のイメージイラストを発表し、それを元にしたゲームを作る会社を募集したところ、スクウェアが名乗りを上げた。そこから「ライブ・ア・ライブ」の企画がスタートし、小学館の漫画家である、石渡治(西部編)、島本和彦(近未来編)、皆川亮二(現代編)、田村由美(SF編)、藤原芳秀功夫編)、小林よしのり(原始編)、青山剛昌(幕末編)という豪華メンバーによる7人の主人公のイメージイラストを元にしたオムニバス形式のRPGとして作り上げられた。各シナリオごとに戦闘曲が用意されているので、戦闘曲の数が他のRPGに比べて多いのが特徴。
7人それぞれ世界観が異なり、それぞれがRPGで表現できることに挑戦したシナリオとシステムになっています。非常に実験的かつ斬新。そして、7人の主人公がクリアした後にプレイ可能になる「中世編」こそがこのゲームの核心。7人の主人公のパートが異色RPGで、中世編は一見するとスタンダートな剣と魔法RPGっぽいだけに、その裏切られ具合は衝撃的でした。ゲームならではの演出。ゲームだから得られる感動。ライブ・ア・ライブのシナリオに関しては、旧スクウェアのライブ・ア・ライブという野心的かつ奇跡的な名作 で一度語ったことがあるのでこの辺で。

ライブ・ア・ライブ

ライブ・ア・ライブ

作曲は下村陽子。元カプコンの社員で、ストリートファイター2の作曲などを担当していました。RPGの音楽を全編作曲するのは本作が初めてで、ライナー・ノーツにもその苦労がにじみ出ています。
スト2といえば、キャラクターの声の多くが当時のスタッフが担当しているという裏話があります。ライブ・ア・ライブのボイスSEも当時のスクウェアのスタッフが担当しています。この件に関して直接下村さんが関係しているのか分かりませんが、興味深い共通点です。例えば、ディレクターの時田貴司や下村さんと同時入社くらいの光田康典、原始編の「ウホッ」は松村靖*1が声を当てています。また、幕末編のとらわれの男の土佐弁は野村哲也が監修しているそうです。イメージイラストからして乗りが同人的ですね。
サントラの発売は1994年8月25日。発売元はNTT出版とお馴染みですが、販売元はポリスターです。現在は廃盤でありえないプレミア価格がついてますが、曲だけなら iTunes で入手することができます*2 。サントラが再販されていない理由は良くわりませんが、キャラクターの版権が小学館にあるのと関係しているのかもしれません。また、一部ファンからリメイクや移植が望まれているが、やはり版権の関係で難しいのかも。Wiiバーチャルコンソールに期待しているのですが・・・。

「LIVE・A・LIVE」ではじまる物語

電源を入れ、「スクウェアソフト!」というボイス後に無音のまま各シナリオのハイライトが流れ、LIVE・A・LIVE というタイトルと共にオープニング曲でゲームタイトルと同名な「LIVE・A・LIVE」が鳴り響く。タイトル文字は左は「LIVE」だが、右は「LIVE」の鏡文字で「EVIL」を連想させる。その後、LIVE・A・LIVE という文字越しに各シナリオの予告編的なオープニング流れる。「LIVE・A・LIVE」は物語の始まりを感じさせる曲で、これから始まるゲームにワクワク感を盛り上げてくれる。同じフレーズが何度も繰り返される曲の入りも好きだが、ループする際の鐘の音も終わりと始まりを感じさせる。
ゲームをスタートさせると各シナリオの選択画面になるが、その際に流れるのは「SELECT・A・LIVE」でオープニング曲の編曲となっている。オープニング曲に比べると落ち着いたアレンジなっているが、それが逆に大きな物語の始まりを思わせる。
ライブ・ア・ライブにおいて、曲名に「LIVE」がつく曲はオープニング曲である「LIVE・A・LIVE」のアレンジとなっている。例えば、陽気なあるいは楽しいときに流れる「WARM・A・LIVE」や、哀しい時に流れる「CRY・A・LIVE」など。
特に「CRY・A・LIVE」の挿入のタイミングは毎回神がかっており、グッと涙をこらえることが多い。FF4で無音の重要性を説いたが、ライブ・ア・ライブにも似たような演出が多々使われている。無音状態のままキャラクターが自身の過去について語りだし、感情が高ぶった際に「CRY・A・LIVE」が流れ出す。プレイヤーはエピソードと「CRY・A・LIVE」により心を動かされれる。例えば、近未来編で最終戦前に無法松が主人公に自身の過去を明かす場面、功夫編で伝承者以外の弟子が殺されたのを発見するシーンやSF編でラスボスを倒した後など。特に、SF編は全編ほとんどが環境音のだった中、伍長が自身の過去を語りだす時に流れるので特に印象深い。

FF4で培った「無音」の演出はライブ・ア・ライブでも用いられているのだが、ライブ・ア・ライブには「環境音のみ」という演出も見られる。幕末編なら天井裏や、未来編ならちびっこハウスの火事の場面など。「環境音のみ」を最も効果的に使っているのは先にも述べたがSF編だろう。SF編はテーマ曲である「Unseen Syndrome」以外曲らしい曲はない。ゲーム内ゲームであるキャプテンスクウェア用の曲もあるんだけど。SF編は宇宙船という密室を舞台にしたエイリアン的ホラー。あまりの怖さにトラウマになっている人もいるのではないでしょうか。その怖さを増長させているのが、ブーンという宇宙船内の環境音。淡々とした環境音は無機質さを感じさせる演出だが、それが人間の心模様を浮き立たせている。不穏な場面では、テーマ曲である「Unseen Syndrome」が流れたりするが、曲が流れていない方が突然何かが起こるかも知れず逆に怖い。また、不吉な展開の時は「Unseen Syndrome」の伴奏だけや、哀しい場面は「CRY・A・LIVE」のメロディ部分のみというデータで作られたゲーム音楽ならではの曲の使い方も見られる。

それぞれの世界。それぞれのBGM。

ライブ・ア・ライブはそれぞれのシナリオがそれぞれ別ゲームと言ってよいほどのゲーム性が異なり、世界観も異なります。当然曲もそれぞれのシナリオに沿った音楽になっている。
幕末編は三味線に笛の音、琴に和太鼓など和楽器風の音色を使った「和」のテイストですが、功夫編は曲調も題名も中国風。幕末編の戦闘音楽である「殺陣!」は津軽三味線風の疾走感あふれる曲で忍者の戦いにふさわしい曲です。西部編は西部劇をモチーフとし、荒れた大地に口笛が似合う曲群。酒場で流れるメシキシカンな「Sancho・de・Los・Panchoz」も好きです。
原始編はギャグ調なのでポップな曲と、セリフが無いためか本能に訴える曲が多い。現代編は格闘ゲームを意識したシナリオで、下村さんは元々スト2を担当していただけに流石のお手並みです。すべての曲群がそのまま格闘ゲームとして使えるような曲調。「Versus !」は対戦相手を選択したときに流れる短い曲ですが、戦うぞ!という気にさせる曲です。SF編は先にも述べましたが、曲らしい曲はテーマである「Unseen Syndrome」のみ。暗く広大な宇宙を寂しく航行する宇宙船にあった曲で、「ドーン」という音が定期的になるのが怖さや心細さ、不安を沸き立たせます。
近未来編はライブ・ア・ライブの曲を語る上で欠かせない主題歌「GO ! GO ! ブリキ大王 !!」ですね。歌詞までついていると気合の入れよう。しかも、ファミ通の企画で2番を募集したら、近未来編のキャラクターデザインをした島本和彦本人が一般応募して歌詞として採用された、という熱い裏話があります。「GO ! GO ! ブリキ大王 !!」はスーパーロボット、特にゲッターロボを意識した曲のようで、確かに負けず劣らず熱い曲です。リメイクがかなうなら、ささきいさお水木一郎に歌ってほしいですね。

各シナリオのテーマ曲はオープニングとエンディングの両方で使われます。同じ曲を使うことで、回想シーン的な使い方もできますし、日常への回帰、あるいは終わりの始まりのような再帰を連想させることもできます。また、同じ曲であっても全く別の印象を持ったり。功夫編のテーマ曲である「鳥児在天空飛翔 魚児在河里游泳」は師匠の修行する山々を背景に遊休の時の流れと中国の大自然の広大さを思わせる曲です。エンディングでは師匠の意思を受け継いだ師範代が一人黙々と修行を続ける場面で流れますが、修行を積むことで師匠に徐々に近づいているんだなと感じさせます。オープニングを再帰させることで、エンディングも終わりの始まりっぽくて、自然とシナリオ選択画面に戻って行けます。

物語は「LIVE・A・LIVE」で収束する

オープニング曲である「LIVE・A・LIVE」はバラバラのシナリオをつなげる存在です。一方、「魔王オディオ」も各シナリオのボス戦の前に流れ、各シナリオを一つの線でつなぐ裏のテーマ曲です。鐘が鳴り響き、主旋律はパイプオルガンでどことなく宗教色を匂わせ、絶対的な存在と対峙したイメージを抱かせます。パイプオルガンによる宗教的な曲は、FF6の影響も受けているのではないかなと思われます。ここでも「無音」が使われ、オディオが現れる前に「無音」を作ることで淡々と物語を進行させ、「魔王オディオ」で恐れ、憎しみ、不安などを煽る構成になっていることが多い。
さて、各シナリオでボスとして登場するオディオをまとめ上げるのは中世編と最終編。中世編の曲の使い方は本当にずるい。シナリオを選択すると、「LIVE・A・LIVE」から始まり、プレイヤに中世編こそが真のシナリオだと思わせる作り。見た目は如何にも王道RPGで進む予感である。中世編のフィールド音楽は「届かぬ翼」で、「LIVE・A・LIVE」の一部を元にした曲です。落ち着いた静かな曲でフィールドである森の中を歩いているようです。この曲はあるエンディングでも流れるのですが、この時はフィールドで聞いたときとは打って変わって非常に物悲しさを感じさせます。全く同じ曲なのにシーンによって印象が変わるのはゲーム音楽の魅力かなと。
中世編のラストバトル直前の「魔王オディオ」の使い方もすばらしく、こいつが魔王だったのか!と思わせておいて、バトル終了後に今一度鳴り響くときの絶望と衝撃は忘れられません。また、環境音であるゴゴゴという火山を思わせる地響きの音も対峙する二人を浮き立たせます。
魔王山での「魔王山を往く」は音程が上がることで上昇感が生まれ山を登っているようです。上るだけ登らせて途中で音階を落とすことで、不安になりますが、この不安がこれから待ち受ける魔王との対峙と重なるようです。この「魔王山を往く」と「LIVE・A・LIVE」を合わせたのが最終編のフィールド音楽である「絶望の都」。誰もいない王国にマッチしたやや寂しげな曲ですが、「LIVE・A・LIVE」の旋律により希望が垣間見えます。その後再度「魔王山を往く」へとループしていくのですが、ループする際の曲の盛り上がりにより、ほのかに見えた希望が勇気に変わるような気がします。しかし、曲は最初に戻るのでまた不安になる。この先どうなるのかというプレイヤの心理を操っているような気がします。
ラスボスの音楽は「PURE ODIO」。鐘の共にイヤホンで聞くと音が渦巻いているように聞こえ、何かが降臨してきそうです。スピーディーさがドキドキを煽ります。終盤の「魔王オディオ」の旋律がまた良いですね。サントラにはラスボス撃破のSEで締めですが、ゲーム音楽で終わりがあるのって結構珍しいですね。
ラスボス後の演出もすばらしいですが、それについては語らずエンディングへ。「Live for Live」はテーマ曲の集大成。「LIVE・A・LIVE」を基調とし、各シナリオのテーマ曲がメドレーで繋がって行く。朝日と共に始まる曲の出だしは再生をイメージさせます。それぞれの主人公と、それぞれの世界観にあった朝日の絵、そしてテーマ曲。曲間のつながりも自然です。主人公のテーマ曲をメドレーでつなげる手法はFF6でも見られましたが、これについてはまたの機会に。

本当に名作ですが、中古でもほとんど手に入らないのが現状。是非とお勧めしたいですが、簡単にプレイできないのが本当に残念な一本だと思います。

さて気になる次回は、先ごろDSに移植された、光田康典の「クロノ・トリガー」です。