手品の種が明かされても魅せ方しだいでは十分不思議で楽しい

硬貨を加工して手品用のギミックコインを販売していた手品店経営者らが貨幣損傷等取締法違反容疑で逮捕されたことを伝えた報道番組で種を明かしたことに対する損害賠償を求めた訴訟が棄却されたました。
手品のタネの保護に関しては、栗原潔のテクノロジー時評Ver2 > 手品のタネは法律で保護されるか? : ITmedia オルタナティブ・ブログ が詳しいですが、特許や著作権は不適切ですし、その他の方法も有用ではありません。唯一、民法不法行為による損害賠償が適用できるのではという考察でしたが、今回の棄却によりそれも難しいようです。手品の種の特質から法律による保護は難しいようです。特に今回は「報道」だった点がネックになっているのではないかと思います。

マジックの種明かしについての是非は、今回の裁判の事例とは異なりますが、「マジック種明かし番組」問題特集 が大変詳しいです。サイト主の主張である 「マジック種明かし番組」問題:私の意見 にはうなずけるものがあります。一般の販売店で手に入る手品グッズや手品の本に書かれている手品の種ならば明かしても問題ないでしょう。マギー一門は「東急ハンズで買ってきたんですよ」というネタをやるくらいですし。ただ、種の明かし方が問題でただ暴露するというあり方はマジックを考えた人を尊重していないように感じます。種を明かすことでさらに高度な手品を行う、あるいは種を明かす際にマジシャンの技術や演出を際立たせる方法ならばエンターテイメントとしてよいのではないかなと思います。
先のギミックコインによる手品にしても、通常はお客さんから硬貨を受け取り、それを客に気づかれないようにギミックコインにすり替え手品を行い、さらに元の硬貨に戻すのが一連の流れではないでしょうか。この時、ギミックコインは手品の種ではありますが、客に気づかれないですりかえるのが手品師の腕であり、そしてギミックコインの使い方、つまり演出でびっくりするような手品になるか否かが決まるように感じます。
たとえば、カードマジックで指を鳴らすと指定したカードがトランプの山の一番上から出てくるという手品も理屈は分かりますが、かなり練習しないとできないことです。種は単純ではありますが「技術」そして、指を鳴らしてめくるという「演出」がすばらしい手品です。実際テレビなどに出てくるマジシャンは見せ方が上手い人が多いと感じます。
手品は種という不思議もさることながら、その不思議さを実行する技術と、不思議さの魅せ方である演出も必要な芸でしょう。自分の考えた種が同意を得ずに暴露されたならば損害賠償も可能でしょうが、買った種を暴露されたから損害賠償を訴えるのは難しいのではないかなと。種がわかっている手品でも魅せ方しだいでは十分に不思議で楽しめるわけですし、買った種ならば魅せ方で勝負するしかないわけですしね。