RPGの大戦略 「勝つ戦略」か「負けない戦略」か

ゲームというか、主にRPGの話。爽快なゲームは「勝つ戦略」なゲームであるが、名作と謳われ、やり込み可能なゲームは「負けない戦略」が多いと思う。

戦術と戦略の違いは各自辞書(ディクショナリー)を引きたまえ!(by 趙公明)

戦略を選択すれば自ずと戦術も決まってくるものである。RPGにおいて、自身がどのような戦略を敷いているかを端的に問いただした質問は 武器と防具どちらを先に買いますか? であろう。武器を買う=勝つ戦略、防具を買う=負けない戦略を選択したことになる。武器を買う派が若い人に多いのも、これが若さか。
武器を買う派は、勝つ戦略を敷き、戦術も勝つ戦術を展開する。例えば先手必勝、攻撃こそ最大の防御、あるいはごり押しで乗り切るだろう。逆に防具を買う派は、「敵の攻撃を無力化できれば、最低限の戦力で必ず勝てる」というイージス理論に基づいている。
武器・防具に限らずスキルや魔法の取得なども、それぞれに即した選択をするだろう。「勝つ戦略」を敷く人はダメージ重視のスキルや攻撃魔法を中心に取得するが、「負けない戦略」の場合は回復や、補助を中心に取得するであろう。ただ、これはゲームによって様々。たとえば死ねば終りなゲームの場合は「勝つ戦略」よりも「負けない戦略」を敷いた方が安全だ。

死んだら終わりな 俺の屍を越えてゆけ

昔は知らないけど、最近といっても8年前だが、僕にとって死んだらおしまいなRPGといえば、俺の屍を越えてゆけ俺屍) である。俺屍は主人公一族が短命の呪いを受け、寿命が長くても2年くらいなうえ、人間と交わることができないので神と交わることで子をなし、一族を存続させる。交わる神の強さと相性により、生まれてくる子供の能力が変化し、代を重ねることで一族の「血」を強くし、ラスボスを倒すことが目的だ。それゆえ俺屍は人間ダビスタとも言われる。
俺屍において、戦闘での死は、本当の死=キャラの消失につながるので毎回の戦いが緊張感溢れるシビアなものとなる。プレイし始めは要領も良く分からないので、投げ出したくなる。まぁ慣れてきても、ある種の苦行的ゲームではあるが。
俺屍も各人の性格が出て、無謀に突っ込むもの、計画を立てて子作りするものなど色々。僕はどちらかというと計画的に行くタイプ。ただ、俺屍は死んだら終わりなので、プレイが効率化されていない初回プレイでは「負けない戦略」を選ばないとクリアは厳しい。幸いにも、補助系の術が充実してるので負けない戦術を容易に展開できる。全端的に攻めるよりも守りを覚えないときついため、「負けない戦略」が支配的なゲームであろう。

「勝つ戦略」と「負けない戦略」のバランス

プレイヤーが「勝つ戦略」と「負けない戦略」のどちらを選ぶかは自由である。大概のゲームはどちらかの戦略でクリアできるようになっている。ただ、バランスの問題でどちらの戦略が有利なのかは製作側のさじ加減であるが。この「勝つ戦略」と「負けない戦略」のバランスがおかしいとクソゲーと呼ばれる羽目になる。
ゲームのバランスの取り方:ゲームの作り方の話 が最も単純な例で、プレイヤーはゲーム内での行動コストが最も効率的な手順を感覚的に掴み取っていくが、製作側は綿密に計算してたりする。プレイヤーは何度かゲームを繰り返すことで効率的なプレイを学んでいくわけだ。だから、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目のプレイのほうが早くクリアできるわけである。
RPGのボス戦を考えると、(プレイヤーのHPが0になるまで)に(与えるダメージ)>ボスのHP なら勝利である。「勝つ戦術」を念頭に置けば、(与えるダメージ)の量を増やせば自身が死ぬ前にボスに勝てるだろう。(与えるダメージ)を増やせない場合、ボスのHPは減らないのだから(プレイヤーのHPが0になるまで)の時間を延ばせば良い。方法としては、被ダメージ量<回復量を維持する。この時、回復量を増大させるか、被ダメージ量を減らせば良い。これが「負けない戦略」である。
ただ、RPGのボスに「負けない戦略」で挑むのは得てしてプレイヤー側に不利である。RPGのボスのHPやMPはプレイヤーのそれとは比べ物にならない。場合によってはMPがほぼ無限と言う場合もある。プレイヤー側はボスと異なりアイテムを有するがそれも有限である。有限のプレイヤーと無限のボスとが物量作戦を展開すれば、無限のボスの方が勝つに決まっている。良くて千日手だが、それも負けないだけで勝ったことにはならなず、事実上プレイヤーの負けである。
しかし、世の中にはMPが有限のボスなRPGもいます。例えばそれは、先に挙げた「俺の屍を越えてゆけ」。ボスのMPが無くなるので、攻撃力の強い術を使われても耐え切れば勝ちというボス戦がある。また、前述したように補助系の術が多いので、プレイヤー側が補助系の術で強化しまくれば被ダーメージがほとんど無しで勝てることもしばしばである。

ファイファンドラクエ

二大RPGといえば、FFとDQであろう。この二つは、ストーリーやシステムなど両極端にあるゲームであるが、「戦略」においてもそれぞれ異なるように思う。
FFとDQの戦闘における顕著な違いは メラのダメージはなぜ10なのか?応用編 にも述べられるようにFFのHPは4桁表示で、DQは3桁表示な点だろう。DQのHP桁数が少ないが故に最低ダメージである1ダメージが意味のあるものとなる。つまり、最低ダメージが1だからメタルスライムを倒せるわけだ。
また メラのダメージはなぜ10なのか? という疑問も、全ては数字に意味がこめられているからだ。メラにより、序盤では叩き出せない2桁のダメージを与えることができ、それにより攻撃呪文の重要性がプレイヤーに伝わるわけだ。
一方4桁表示のFFでは、低レベルにおいても2桁のダメージを叩き出す。ただし、DQのメラと同様に、アビリティや魔法でのダメージは3桁と意味が込められているのだろう。DQと異なるのはダメージを与えられない時は"0"とはっきり表示される点。DQの場合は"0"か"1"である。この最低ダメージが"0"のみと、"0"か"1"には大きな違いがある。最低ダメージが"0"のみのFFでは、こちらの攻撃力が弱いと、防御力が十分にありボスの攻撃に耐え切れてもボスには勝てない。一方、最低ダメージが"0"か"1"のDQの場合、こちらの防御力さえ十分にあれば理論上勝つことができる。つまり、最低ダメージが"0"なFFでは、プレイヤーの攻撃力を上げないとボスに勝てず、DQでは最低ダメージが"0"か"1"なので攻撃力を上げなくても勝てるわけだ。つまり、FFは「勝つ戦略」、逆にDQは「負けない戦略」の割合が多い。
(プレイヤーのHPが0になるまで)に(与えるダメージ)>ボスのHP なので率先して被ダメージ量が減らせる場合は「負けない戦略」、与えるダメージ量を増やせる場合は「勝つ戦略」が支配的なゲームといえる。両者の「属性」や「戦闘のスキル」などの「戦闘システム」を比べれば、FFは与えるダメージが青天井式で「勝つ戦略」、逆にDQは防御系の呪文が多彩なので「負けない戦略」よりであることが分かるだろう。

  • 最低ダメージ
    • DQ:0か1(回避で無効)
    • FF:0
  • 最大HP
    • DQ:3桁の999
    • FF:4桁の9999
  • 属性
    • DQ:耐性(耐性があるとダメージ減)
    • FF:倍増、半減、回復、無効と多彩
  • スキル
    • DQ:インフレ攻撃は少ない
    • FF:インフレ攻撃スキルが多彩(みだれうち等)
  • 魔法
    • DQ:補助魔法は全体(重ねがけ可)
    • FF:補助魔法は単体(FF1〜4、11は重ねがけ可)

ただ、どちらにもいえることですがシリーズ全体を通してみると、ナンバーが増えるにしたがって「負けない戦略」から「勝つ戦略」へシフトしている。FFは7以降からインフレが顕著になり、DQ8などはダメージのインフレが激しすぎ。基本的に、「勝つ戦略」の方が戦闘時間が延びないし、簡単に勝つ快感が味わえる。しかし、「負けない戦略」により勝利した時の快感は格別なものがあるが、難しいし戦闘に時間がかかるのが問題。

勝つのは簡単で負けないことは難しい

簡単なRPGほど「勝つ戦略」、難しいRPGほど「負けない戦略」が支配しているのではないか。RPGが支持される理由は誰にでもクリアできる点。誰にでもクリアできる理由はレベルさえ上げてしまえばボスに勝てるから。総合的な能力アップだから、ダメージ量が増え、被ダメージ量が減るため「勝つ戦略」あるいは「負けない戦略」とも言えるのだが、守ることをしなくて良いのはどちらかというと「勝つ戦略」ではないだろうか。力押しや、ゴリ押しができるゲームのほうが簡単で、それは「勝つ戦略」である。

「負けない戦略」が支配的なゲームは、プレイヤーが守ることを知らなければ、理不尽なゲームと取られる場合もある。例えば、FF3のラスボスの「はどうほう」はプレイヤーを悩ます凶悪な攻撃だが、プロテスを使えば被ダメージ量を一気に減らせる。問題は気付くか否かだが、「勝つ戦略」を強いてきたプレイヤーは、プロテスに気付かず、「はどうほう」は理不尽な攻撃だと感じる。ただ、これは逆も言えることで、「負けない戦略」側は簡単に葬り去ることができる方法に気付き難い。 面白いゲームの作り方:萎えさせない為の操作説明 で説明されるように、ゲームは自分で気付いてこそ楽しい。製作側がプレイヤーに理不尽だと思われないためには、ラスボスまでに攻めと守りの両方の使い方に気付かせることができれば良いのだけど、そんな曲芸的バランス感覚を持つのは難しい。
RPGに限らず、一般的にクソゲーと呼ばれるゲームはこの攻めと守りなどのバランスが大きく崩れたゲームが多い。例えば、スペランカーは余りにも簡単に死にすぎるのでクソゲー扱いだけど、死なない操作ができるようになれば面白いゲームへと変貌する。RPGでいうと、アンリミテッドサガもクセのありすぎるゲームらしい。
以下、様々なRPGを例にとり、「勝つ戦略」と「負けない戦略」のどちらが支配的かを論じてみる。

勝つことが楽しいヴァルキリープロファイル

戦闘が楽しいRPGといえばヴァルキリープロファイル(VP)だろう。VPの戦闘では、4人のキャラクターにPSの4つのボタン(○△□×)が割り振られており、それをタイミングよく押すとキャラクター間の攻撃がつながりコンビネーションとなり、その結果ダメージ量が増える。非常にアクション的な戦闘で、その戦闘が楽しいが故に何度もプレイしたゲームだ。VPは戦闘重視で与えるダメージは青天井。一撃で与えられる最大ダメージが150万RPG史上最大ダメージとの呼び声が高い。

VPではコンボ数により与えるダメージが増加するなど「勝つ戦略」のためにあるような戦闘システムであり、そのため戦闘自体が非常に楽しい。やりこむの場合も、多くは攻撃こそ最大の防御と先手必勝の電撃作戦でいけてしまう。それほど「勝つ戦略」に特化したRPGも珍しいのではないかと思うのだが、「負けない戦略」も重要なのだ。たとえば、オートアイテムといった自動回復のスキルや、一定確率で戦闘不能から回復するガッツなど。決して「負けない戦略」が用意されていないわけではない。ただ、それは戦闘を楽しくするエッセンス的な意味合いの方が多い。オートアイテムは回復を楽に、ガッツは戦闘時にぎりぎりで行く残るなどのドラマを演出するためで、全体的には徹底的にダメージを与えることができる戦闘システムなので「勝つ戦略」が支配している。
そういえば、キャラの最大HPが5桁で90,000なのも「勝つ戦略」よりだからかもしれない。

ラスボスだけが「負けない戦略」を要求されるロマサガシリーズ

ロマサガシリーズが時として糞と言われるのは、「勝つ戦略」と「負けない戦略」のバランスがラスボス以前と以後で変るからだ。ロマサガシリーズはラスボス以前までは、「技」の力押しで何とかなる。つまり、ほぼ「勝つ戦略」だけで行けてしまう。特に、ロマサガ2,3はボス戦中に「技」を閃き乗り切れるドラマが発生したりする。しかし、ラスボスに限っては「技」だけの力押しではまず倒せない。守ること=負けない戦術を知らなければラスボスには勝てないのだ。
しかし、今まで勝つ戦術を選択し、守ることをほとんどしなかったプレイヤーにそれは難しい。何故なら戦略として勝つほうを選んできたので、「負けない戦術」が蓄積されていない。ロマサガシリーズで「負けない戦術」とは「術」を覚えることだ。しかし、ロマサガシリーズでは術を買えばそれで終わりというわけには行かない。術を覚えて熟練度を上げなければまともな戦力にならない。特に2では、術を開発する必要がある。つまり、「負けない戦略」を敷かないと「負けない戦術」を蓄積できなくなる。このため、ロマサガシリーズでは、ラスボス直前で「勝つ戦略」から「負けない戦略」への転向を余儀なくされ「詰む」プレイヤーが続発する。結果「糞」呼ばわりされるのだろう。
実際僕は、1では試練の選択ミスで、2では最終皇帝になってテンプテーションを見切り忘れたのでやり直したり、3ではラストダンジョン入りして詰みなんてことがあった。
最大HPで見ると、3桁の999なのも「負けない戦略」ゆえか。

極限やり込みの多いFF5

FF5好きなので語る。FF5は今尚やり込みがなされているゲームだ。FF5のやり込みがなされる理由はアビリティの多彩さであろう。アビリティが多彩なので、やり込み初心者でも低レベルクリアし易い。
FF5はアビリティが多彩なので「勝つ戦略」も「負けない戦略」も敷くことができるのが魅力的である。オメガ戦レポート(オールバーサーカー編) のようにオメガですら「負けない戦術」で撃破することも可能。
また、FF5動画:ギルガメッシュに「じばく」をするためのMPがなかったら に紹介されるようにボスのMPが切れることでも有名。ただし、最大値は約6万ととんでもないですが(敵にエーテルを使うことでMP9999にする裏技もある)。エクスデスですらそのMPを0にすることが可能。
ただ、実際にやりこむ場合は「負けない戦術」を組みながら「勝つ戦術」を組まないといけない。そのバランスが絶妙なので面白いのではないか。

パラディン死んだよ 世界樹の迷宮

Wizardryは真面目にやったこと無いので言及できない。ただ、折角育て上げたキャラをロストし永遠に失う可能性があるので、どちらかというと「負けない戦略」が支配的なのではと思う。
最近のWizardry的ゲームといえば、世界樹の迷宮。キャラがロストすることは無いが、世界樹の迷宮も「負けない戦略」が支配しているかなと。
世界樹の迷宮では全編通じて、守りの要であるパラディンがいないと色々と厳しいことに。攻撃力や与えるダメージも頭打ちなため、プレイヤー側が守ること知らないと苦戦する。逆に、守ることを知れば守り関係のスキル、さらには、バードによる永続HP&TP回復があるので、プレイヤー側が敵の物量に負けることが他のRPGに比べて少ない。ただ、ボスが回復魔法を持ってると千日手になる可能性もありますが(ゴーレムとか)。
また、キャラのレベルの上限も70なので、レベルを上げて力押しという戦術にも限界がある。レベル70でも装備が心許ないと、最下層の雑魚に全滅させられるし。
特にクリア後の裏ボス達は守らないと勝てませんね。三竜にしても、パラディンの属性防御無いときついし。しかし、最終的には、メディックのブースト+医療防御Iが最強の防御力を誇るのでパラディンいらない子になりますが。
与えるダメージの上限、レベルの上限から言っても世界樹の迷宮は「負けない戦略」が支配している。

「勝つ戦略」と「負けない戦略」のバランスが秀逸なサキュバスクエスト(R18)

僕がプレイした中で、「勝つ戦略」と「負けない戦略」のバランスと最も取れているなと思うのはサキュバスクエスト。旧版しかやったことないが、中々シビアできついゲームだった。サキュバスクエストほど、攻めと守りのバランスが優れたゲームも無かった。何せ、プレイヤーがイッたらゲームオーバー。でも、相手をイカせるには肉と肉とのぶつかり合いで挿入する必要があり、一方的に攻めることはできない。雑魚戦からして、毎回のように肉を切らせて骨を立つ状態。ボスにいたっては弱点を突かないと先ず勝てないので、初回はゲームオーバー覚悟じゃないと攻略不能。Hを戦闘に組み込み、それを元にしたシステムだからこそのバランスかもしれない。

まとめ

「勝つ戦略」は戦闘が早く終るし、「負けない戦略」は時間がかかる。これは、攻めには速効性が要求されるから。逆に、もたもたしてると負ける。戦略シミュレーションなどでもいえる事。まさに先手必勝。また、一旦守りに徹すると、時間がかかるのは仕方が無い。篭城も守りですが、最終的にはどちらかの陣営の物資が尽きるかと言う我慢比べ。
「負けない戦略」が支配的なゲームで低レベルクリアなどのやり込みが多いのは、「敵の攻撃を無力化できれば、最低限の戦力で必ず勝てる」から。ただ、「負けない戦略」が支配的なゲームはストイックなゲームが多い。逆に「勝つ戦略」が支配的なゲームは、与えるダメージが青天井なため爽快なゲームが多い。